東方災愛録   作:乾き塩

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今回の話を書いていて、ララって血とか見たらめちゃくちゃ慌てそうだなって友人が言っていたのを思い出しました。その時は何言ってんだコイツって感じだったんですが、書いてみると違和感がなかったです。
ララの前で出血してる描写とかありましたっけ?ヤミと決闘した時も、互いにズタボロにはなっても出血まではしてなかったんですが………


獄符『千本の針の山』

 

 夜、人気のなくなった公園。ベンチやゴミ箱が設置されている歩道の中央に、大型トラックが投げ込まれた。

 投げ込まれた拍子に横転したトラックが歩道を塞ぐ。その光景を電信柱の上から眺めていたレミリアは、口の端を吊り上げた。

 

「さて、舞台は整ったみたいね」

 

「随分とユニークな舞台だな。俺にはトラックに見えるぞ」

 

「足場は関係ないわ。月が出ていないのが残念だけど、そうも言ってられないわね」

 

「なんにせよ、行くならさっさとした方がいいぞ。確かこの後、ララの発明品で爆発オチだったはずだろ」

 

「そうね。行きましょうか」

 

 電信柱の上から飛び上がり、トラックの荷台に向かってゆっくりと高度を下げていく。トラックの死角となって見えづらいが、見知った顔の男女がトラックの向こうにいるようだった。

 こちらに背を向けている男女、リトとララ・サタリン・デビルークはレミリアたちの存在に気付いていない。しかしリトたちと対峙している黒服の男たちは二人の存在に気付き、警戒心をあらわにしていた。

 

「ララ様、こちらへ!!」

 

「地球人! ララ様を連れてこっちに来い! 早くしろ!!」

 

「え…………?」

 

「な、なんだよ急に…………」

 

 雰囲気が変わった二人の男の様子に、先ほどまで逃げていたリトたちが困惑の表情を見せる。携帯端末を持っていたララもその手を止めており、急な変化に戸惑っていた。

 しかし今まで追われていたのもあって、二人の言葉に素直に応じられない。男たちが強引にララを連れて行こうと一歩踏み出すと、足元に高密度のエネルギーによって形作られた真紅の槍が突き刺さった。

 

「淑女に向かって、随分な言いようじゃない。レディへの態度がなっていないわね」

 

 くつくつと笑ったレミリアが男二人を非難する。不意打ちでスピア・ザ・グングニルを投擲するのは、レミリアにとって淑女の所作の一つのようだった。

 地面に刺さった槍は未だにその形を保っている。そこに込められた莫大なエネルギーを間近で感じ取った男は、臨戦態勢をとってレミリアを睨みつける。

 

「何者だ…………?」

 

「地球人ではなさそうだが…………」

 

 地球人の生態は把握している。特殊な能力はなく、身体能力も高いわけでもない。貧弱な種族、それが地球人に対する銀河全体の認識だった。

 その認識を覆す存在を目の前にしながらも、男たちはなんとかこちらに意識を向けようとしていた。力づくで排除にかかれば、トラックの近くにいるララが巻き込まれてしまう。親衛隊として、それだけは避けなければならなかった。

 一方ララたちは、突然現れたレミリアに驚いていた。助かったと思う反面、また厄介ごとに巻き込まれたと考えるリトに横から声がかけられる。

 

「よっす、結城。生きてるか?」

 

「時兎!? って、なんだその服?」

 

「バイト中だ。それより、ここを離れるぞ」

 

「離れるって、どこに」

 

 獄符『千本の針の山』

 

「あいつ…………!」

 

 有栖がリトに避難を促すが、その最中にスペルカードが宣言された。宣言されたのはレミリアのスペルカード。しかもルナティック仕様らしく、既にレミリアを中心に全方位に向けての小さな弾幕が放たれていた。

 リトの疑問に答える時間もない。先に駆け出した有栖は、振り返ってリトについてくるように指示を出す。何が起きているかは分からないリトだが、この場にいる唯一の知り合いを信じてララの手を掴んだ。

 レミリアの弾幕に目を奪われていたララだったが、リトが走り出すのを察するとその後についていく。

 

「待てっ! くっ!?」

 

「くそっ!」

 

 男たちの動体視力を持ってすれば、弾幕を躱わすのは容易だった。しかし凄まじい密度の弾幕は避けるのを許しても、レミリアへの接近は許さない。

 強引に突破するには、相応のダメージは覚悟しなければならない。しかし弾幕の元凶であるレミリアを相手にする必要があると考えると、迂闊に突っ込むのは悪手でしかなかった。

 しかし手をこまねいている時間もない。既にララはトラックの向こうに消えており、急いで追う必要がある。危険は承知の上、このまま逃げられるのをよしとしない男たちは決死の覚悟で弾幕に飛び込んだ。

 

「時間切れね」

 

 弾幕を形成するエネルギー弾を全身に浴び、負傷しながらもレミリアに接近する。後少し。一歩踏み込めば捕まえられるところまで距離を詰めて手を伸ばすが、その手は思いとは裏腹に空を切った。

 

「速いっ!?」

 

「今夜はこれくらいにしておきましょう。このままだと、公園が更地になってしまうわ」

 

 瞬く間に空へと飛び上がったレミリアは、一方的に勝負の終わりを告げる。そもそも被弾しながら突っ込んでくるという、喰らいボムさながらの特攻をしてきた時点で弾幕ごっことしての戦いは終わっていた。

 そうでなくても、制限時間も切れてしまっている。目的であるリトたちの避難が完了した今、男たちを相手する必要はなくなっていた。

 悠々と立ち去ろうとするレミリアを止めようと、男の一人が横転しているトラックを投げつける。しかしレミリアの目の前にまで接近したトラックは、スピア・ザ・グングニルに貫かれて爆散してしまった。

 トラックの残骸が降り注ぎ、男たちが腕で顔を庇う。残骸が降り止んで視線を上に向けると、既にレミリアの姿は消えてしまっていた。

 

「…………うまくいったみたいだな」

 

 レミリアの気が公園から離れていくのを感じ取った有栖は、全身の気を活性化させる。気の扱いに関しては専門外のレミリアだが、力を察知する事はできる。有栖達が離れたタイミングで増幅した力を察知すれば、それを目印に様子を見にくるはずだった。

 合流の目処が立ったところで、助け出した二人に意識を向ける。

 目まぐるしく続いた状況の変化に加え、ここまで走り通しだったリトが息も絶え絶えといった様子で壁に手をついている。

 ララの方はまだまだ余裕があるようで、リトを気遣って声をかけていた。

 

「早苗にメールでも入れとくか」

 

 月の面々から既に連絡が入っているかもしれないが、ララと接触した事は連絡しておく事にした。爆速で駆けつけてくるかもしれないが、それはそれで都合がいい。

 メールで一から十まで報告してほしいといった頼みや、してほしい事リストを送りつけられるよりはずっとマシだった。返事を待つ事なく、携帯をしまう。あの二人を先になんとかするのが最優先だった。

 

「二人とも落ち着いたか? 色々と聞きたいんだが、話せそうか?」

 

「うん、私は大丈夫だよ。それと、助けてくれてありがとね」

 

「礼なら結城に言ってくれ。俺たちは、近くを通りかかっただけだからな。あいつが最後まで諦めなかったから、間に合ったんだよ」

 

 感謝の矛先をリトに向ける。

 まかり間違ってここでフラグなんて立てようものなら、後が怖くなる。無駄な心配だと分かっているつもりだが、予防線はいくつか張っておくつもりだった。

 ただその目論見は色んな意味で失敗だったらしく、ララは首を傾げていた。

 

「ユーキ? 私を助けてくれたのはリトだよ」

 

 ────…………苗字は、名乗ってなかったのか。

 

 リトとララの出会いの場面は大まかに覚えている有栖だが、細かい部分までは覚えていない。うっかり変な事を口走らないように、気をつける必要がありそうだった。

 リトを指差してララの疑問に答える。ちょうどリトも息を整え終えたようで、怪訝な表情でこちらに歩み寄っていた。

 

「おつかれさん。しばらくは走りたくないって顔だな」

 

「ああ。今までの人生の中で、一番の全力だったぜ。それより、さっきの人はなんだよ! 空飛んでたけど、あの人も宇宙人なのか!?」

 

「そんな大したもんじゃねえよ。ただの吸血鬼だ」

 

「きゅうけつ…………え?」

 

 目を丸くしてリトの思考が止まる。ただでさえ宇宙人や家出という情報で頭がパンクしそうなところに、予想外の情報が叩き込まれた。

 お世辞にも出来がいいとは言えないリトの脳は処理が追いつかず、少し待ってくれとばかりに伸ばした手を有栖に向けた。そんなリトをララは不思議そうに見つめている。

 

「リト、どうしたんだろう?」

 

「ちょっとパニクってるだけだ。すぐ戻る。と、挨拶がまだだったな。俺は時兎有栖。こいつのダチだ」

 

「私はララ。色々あって、リトに助けてもらったんだ」

 

「そいつは何より。結城、こいつがお前の言った宇宙人か?」

 

「あ、ああ…………」

 

 ララの正体を知っている有栖だが、気付け代わりの疑問としてリトに確認する。意識を引き戻したリトは、少し呆けながらも有栖の疑問を肯定した。

 しかし頭の中には吸血鬼という言葉に関する疑問が渦巻いており、新たな情報が詰め込まれれば再び思考停止に陥りかねなかった。

 とはいえ、少し落ち着いたのも事実だった。おかげで情報を整理して、自分が置かれた状況について把握する余裕が僅かばかりではあるが生まれた。

 

「痛っ! な、なんだ?」

 

「リト! 怪我したの!?」

 

「裸足で外を走り回ってたわけだしな。怪我ぐらいするわな」

 

 顔をしかめたリトが、何事かと地面に座り込んで痛む足の裏を確認する。驚いたララも続いてしゃがみ込むと、リトの足の裏にいくつもの小さな切り傷を見つけた。

 走っている最中に負った傷の中には、血が滲んでいるものもある。幸いガラス片のような鋭利なものは踏んでいないようで、大きな出血はないようだった。

 逃走劇によって分泌されていたアドレナリンが切れ、痛みを自覚する。歩けないとまではいかないが、家に帰ったら消毒は必要だと思えるくらいには痛んでいた。

 今すぐ処置しなければまずい傷ではない。しかし血が滲んでいる為に周りからはそうは見えず、間近で傷を見てしまったララは慌てた様子で携帯端末を取り出した。

 

「た、確か、治療の為の発明が…………!!」

 

「あっ、いや! オレは大丈夫だから! こんなの、すぐ治るから!!」

 

 血に驚いたララが取り乱し、リトも何でもないとアピールしようとその場で立ち上がる。実際には痛みが残っているが、暗い表情のララを見てそれどころではなかった。

 大丈夫というリトの言葉に、ララが携帯端末を触る手を止める。それでも怪我をさせてしまったという事実は消えず、ララの表情も暗いままだった。

 リトとララの間に気まずい空気が流れる。二人の間に割って入った有栖は、身を屈めてリトの足に手を添える。

 

「時兎、何してるんだ?」

 

「結城の言うとおりだ。これくらいの傷、すぐに治る」

 

「でも、地球人だと、小さな傷でも何日かは…………」

 

「普通なら、それくらいかかるな。とはいえ、何事にも例外は存在するんだよ」

 

 リトの疑問を流した有栖が、手の先から気を発する。外から気を送っての治療という、有栖にとってあまり経験のない行為。いつもよりも慎重に気を操作するが、ララと話す余裕はあった。

 足の裏が暖かくなり、痛みも引いていく感覚をリトが実感する。そして完全に痛みがなくなったところで足の裏を確認すると、付着した血は残っているものの、傷は完全に塞がっていた。

 その様子を見てリトが驚く中、ララは興奮した様子で有栖との距離を縮める。

 

「すごいすごい!! 地球人って、そんな事ができるんだ!! 私、知らなかった!!」

 

「使える人間なんざ、ほんの一握りだからな。宇宙人どころか、地球人の九割以上が知らないだろうぜ。で、どうだ結城。痛みはなくなったか?」

 

「えっと、おかげさまで? いや、本当に何したんだ?」

 

「あー、詳しい話はあとでな。ようやく戻ってきたみたいだ。余計なおまけ付きで」

 

 有栖のおかげで傷が治った。のは理解しているリトだが、何をされたのかは分かっていないのでその実感は薄かった。今度こそ詳しい説明を。そう思っていたのだが、今度は視線を上げた有栖に話を止められてしまった。

 今度は何が。そう思って有栖の視線を辿る。暗い上に遠くてよく見えないが、二つの人影が空を飛んでいるように見えた。

 

「…………二人とも、ちょっと塀際に行ってくれ」

 

「? 分かった」

 

 有栖の突然の頼み。意図が分からなかったたリトだったが、有栖の頼みに従ってララと共に道路の隅に移動する。

 それから程なくして、有栖がああやって頼んだ意味が分かった。

 

「あ〜〜〜〜り〜〜〜〜す〜〜〜〜さ〜〜〜〜ん!!!!」

 

「ぐっ!! こん、のおっ!!」

 

 高速で飛来した緑と白と青の配色をした何かが、有栖に直撃する。しっかりと踏ん張りそれを正面から受け止めた有栖は、両手を少しばかり振り上げて手にした何かを地面に叩きつけた。

 地面に叩きつけられた早苗は何事もなかったかのように起き上がり、目をしいたけのように輝かせていた。

 

「やるじゃないですか有栖さん!! まさか、このタイミングで連絡が来るとは思いませんでした!!」

 

「落ち着けっての。おい、レミリア。なんで早苗まで一緒なんだ?」

 

「たまたま出会ったただけよ。追跡を警戒しながらここに向かっていたら、公園に向かっている彼女を見つけたの。あの男たちに見つかっても面倒だから、私が声をかけたのよ」

 

 早苗を引き離して、降りてきたレミリアに問いかける。

 公園を離れたレミリアは、追跡されている可能性を危惧して有栖たちのいない方向に退避していた。それからしばらく身を隠したのち、大きく回り込んで有栖の気を目印にここに来ていた。

 早苗が来るのは予想の範疇ではある。しかし高速で突撃してくるのは予想外で、更に面倒ごとが増えている。少なくとも、リトに対する説明の場が必要そうだった。

 

「…………自宅はバレてるんだったけか。結城、事情を説明するから、場所を移していいか?」

 

「別にいいけど、どこに行くんだ?」

 

「知り合いの居酒屋」

 

 




三話を書きながらToLOVEるの単行本を読み直してるんですが、昔は細かいところを気にせずに読んでいたんだなと思います。
今回のところだと、ララと初めて会ったリトは名前だけを名乗っていたり、ララを助けて咄嗟に部屋を飛び出したせいで靴下すら履いてなかったりと、改めて読むと細かく描写されてるのに全く気付いていませんでした。
次の回は再びのオリジナル回になります。
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