東方災愛録   作:乾き塩

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原作を読み返すと言ってから一ヶ月以上
読んでる途中でネタを思いついては書いては消してを繰り返しているおかげで、未だにトラブルクエストの話すら届いてない始末。
ただ、ダークネス終盤で書きたいネタがいくつかあるので、間隔は空いてもエタる事はありません。



ひゃいひょひゅひゃんひゃあぁぁぁあああ!

 

 西連寺春菜はとある悩みを抱えている。中学の頃から抱えていたその悩みは、高校入学を機に更に大きなものへと膨らんでいた。

 最初にその光景を見たのは、入学式直後のホームルーム前だった。他のクラスメイトより少し遅れて教室に戻ってきたリトの隣には、有栖が並んで歩いていた。

 入学式前の有栖は、机に体を預けながら顔を横に向けて眠っていた。疲れている様子で、教室に入るなり、一言も発さずに眠っているのをクラス中が目撃していた。

 春菜から見ても美少女としか言いようのない容姿に目が向いていたのと、机の下にあったというのもあって制服にまで気が回らなかった。おかげで有栖を同性だと思い込んでいた春菜は、彼の自己紹介が終わるまで悶々とした気持ちを抱えていた。

 ただ、彼女の苦悩はそこで終わらなかった。有栖の幼馴染であり、クラスメイトの霊夢、魔理沙、早苗、鈴仙。そしてB組にもいるという幼馴染と彼女を通じて知り合ったB組のクラス委員。

 突然増え始めた女子の比率に春菜が焦り始めたところで、昨晩の光景を目にした。

 奇抜な服装をした少女の手を引いて民家の屋根の上を駆けていくリトの姿。何がどうなっているのかは分からなかったが、リトの真剣な面持ちは忘れられそうになかった。

 

「あ…………」

 

 そんな不思議な体験から一夜明けた朝の登校時間。いつものように通学路を歩いていた春菜は、T字路の交差点でリトの姿を見かけた。

 大きな欠伸をして眠そうにしているのは、昨日の光景が真実だと示しているようだった。

 少しだけ、積極的に。リトが置かれた環境に焦っていた春菜は、そう考えるようになっていた。今までは踏ん切りが付かずにクラスメイトとしての関わりしかなかったが、この想いを諦めるわけではないのなら一歩踏み込む必要があった。

 

「…………おはよ、結城くん」

 

「へ? あ、お、おはよう」

 

 眠気もあって気を抜いていたリトは、春菜からの挨拶に反応が遅れてしまった。

 中学が同じだったのもあって、こういった挨拶は何度か交わしてはいる。しかし異性慣れしていないリトにとって、関わりが少ないクラスメイトとの会話であっても少しばかり緊張してしまう。

 少し表情を固くしながらも、足を止めてこちらを見てくる春菜の様子が気になってリトが問いかける。

 

「西連寺、どうかしたのか?」

 

「…………私、昨日の夜、結城くんを見かけたの」

 

 風呂場に現れたララとの遭遇に始まり、夜の街を駆け回って有栖たちに助けられ、居酒屋で軽食をとりながら、有栖たちの素性について聞き、宇宙人や妖怪という存在が実在すると知った。そして最後に妹に事情を説明したところでなんとか家に入れてもらい、一緒に来てもらった有栖と別れる。今までの人生で、最も濃い夜なのは間違いなかった。

 その一部をクラスメイトに見られた。有栖の案内で商店街に向かっていた最中ならともかく、その前は色々と見られるとまずい部分も多い。特にレミリアの弾幕は公園が荒れた原因でもある。早朝から警察が駆けつけていたので、問い詰められるのはまずかった。

 

「えっと、その時のオレ、何してた?」

 

「女の子と一緒に、屋根の上を走ってたけど…………」

 

「ああ、うん。そこか…………」

 

 レミリアの弾幕に比べればマシだが、クラスメイトに見られていい状況ではなかった。

 ララも見られているので、まだ言い訳の余地はある。それでも事実を伝える以外に上手い言い訳が思いつかず、宇宙人という部分を除いて説明する必要がありそうだった。

 どんな顔をされるだろうか。そう考えながら、恐る恐る春菜に説明しようと視線を合わせる。

 

「実はさ」

 

「リトーーー!!」

 

「きのう…………?」

 

 話し始めた矢先、聞き覚えのある声が背後から聞こえた。自分を呼ぶ声にリトが振り返り、春菜も続いて振り向く。

 

「ララ!?」

 

 振り返った先にはララがいた。スカートの丈が長い彩南高校の制服を着たララは、楽しそうに手を振ってリトに笑いかけていた。

 ララの登場に驚き、彼女が着ている彩南高校の制服を見て更なる衝撃を受ける。どうしてここに? 喉まで出かかった疑問は、遅れてやってきた二人の姿を見て解消された。

 

「おはようございます。珍しいですね、お二人が一緒なんて」

 

「あー。もしかして、邪魔だったか? なんなら、今からでも引っ込むけど」

 

 高校への入学以来、初めて見る組み合わせ。早苗は思ったままの感想を口にし、有栖は二人を連れてこの場を離れようかと提案する。

 しかし一度壊れてしまった雰囲気は元に戻らない。ララも離れようとしていないので無駄な提案なのは理解していた。

 春菜に悪いとは思いながらも、女子と二人きりにならないで済むと安堵するリト。春菜としては三人の登場に思うところはある。それでもどこか焦っていたのを自覚して、落ち着きを取り戻していた。

 

「結城くん、この子って…………」

 

「え? ああ、うん。こいつは」

 

「私ララ! 昨日、リトに助けてもらったデb「家出中のじゃじゃ馬娘だ。追ってきたSPから逃げる為に、他人の家に逃げ込むくらいには、世間知らずでもある」

 

 自己紹介をするララが不要な情報を織り交ぜようとしたところで、有栖が横から口を挟む。その説明にララが憤るも、有栖はてきとうに聞き流すだけだった。

 ララを早苗に押し付けた有栖が、リトたちに合流する。有栖の説明を元に、リトが宇宙人という部分を伏せてララの紹介をしているところだった。

 

「それじゃあ、昨日は東風谷さんの知り合いの家に泊まったの?」

 

「そのはず、なんだけど。時兎、なんでお前たちがララと一緒にいるんだよ」

 

「アリス。…………ややこしいな。ララが泊まった先の家主から頼まれたんだよ。学校を案内してやってくれって」

 

 今朝、アリスからのメールを受け取った早苗は有栖にも声をかけていた。

 最近はよほど急いでいない限り、商店街の神隠しを利用して登校している。その関係で、毎朝、第二彩南商店街を通るので、登校の際にアリスの店に立ち寄ってララと合流していた。 

 第二彩南商店街の各店は、それぞれの家とも中で繋がっている。おかげで朝から頼み事をされる事も珍しくはなかった。

 そんな頼み事の一つとして、二人はララを連れてきていた。今日は予定もなく、一日引きこもるから。というのが、アリスが頼んだ理由だった。

 

「それでうちの制服を…………」

 

「けど、そんな事できるのか? いくら制服を着てても、生徒じゃないってバレたら追い出されるだろ」

 

「許可取ればいけるだろ。ララの留学先の候補として、校内の見学をしたいってな。アポなしにはなるが、あの校長なら許可するだろ」

 

 有栖の脳裏には、見学どころか入学の許可まで出している校長の姿が思い浮かんでいた。あり得ない話でもない。むしろ手間が省けるので、そうなって欲しいくらいだった。

 ララを落ち着かせた早苗が合流する。昨日の一件でリトに懐いているようで、原作の告白事故が起こっていないにも関わらずリトに抱きついていた。

 

「リト、聞いて聞いて! アリスの家すごかったよ!! 人形がお茶を入れてくれたり、家の案内をしてくれたの!!」

 

「わ、分かった! 聞くから! 聞くから一旦離れてくれ!!」

 

 顔を真っ赤にしたリトがララを引き離す。ララは不満そうだったが、慌てるリトがおかしくてくすりと笑っていた。

 原作における爆発オチがなかったおかげで、リトからの好感度も悪いものにはなっていない。春菜へ想いを寄せていないのも大きな要因だった。

 ララとの接触という最初の山場を越えた早苗は、にこやかに二人を見守っている。しかし隣に立つ有栖は考え込んだ様子で春菜を見上げると、話題を切り出す。

 

「…………そういや、今日の日直は西連寺と結城だったよな。ララの面倒は俺たちで見とくから、こっちは気にしなくていいぞ」

 

「え…………?」

 

「おっと、そうですね。クラス委員の西連寺さんはいろいろと頼まれてしまいそうですし、そうなる前に私たちで案内を買って出ましょう。元々、私たちが頼まれた事ですから」

 

 思わぬ提案に春菜が目を丸くする。自分の当番でもない有栖たちが、今日の日直を把握しているとは思わなかった。

 驚く春菜を横目に、早苗もその提案に賛成する。案内役との同時進行は難しいと考え、春菜たちには日直の仕事に専念してもらうつもりだった。

 

「そんな、気を遣わなくても…………」

 

「そう言わないでください。結城さんに日直の仕事を押し付けるわけにもいきませんし。ここはどーんと任せてください!」

 

 距離を詰めた早苗が春菜の手を握る。少しばかり押しが強い早苗の言葉に、春菜は頷くしかなかった。

 ララを引き受けた早苗だが、内心ではホッと胸を撫で下ろしていた。早苗の計画はララをリトの本命にするという第一条件がある。しかしララの一人勝ちは望むところではない。

 他のヒロイン。春菜はもちろん、あと一人か二人のヒロインをリトには好きになってもらわなければならない。

 初手でリトのフラグをへし折った早苗は、未だにただのクラスメイトでしかない二人の関係性に焦っていた。リトが意識していない分、友達くらいには発展するだろうという早苗の甘い考えが裏目に出ていた。

 とりあえず、今日の日直をきっかけに友達から。と目論んだ早苗は、放課後だけはなんとしてでも二人きりにするつもりだった。

 三人が合流し、一気に賑やかになった五人が再び足を進める。彩南高校近くの通りは、いつものように登校中の生徒で賑わっている。

 

(…………妙だな)

 

 周りから向けられる視線に有栖は違和感を抱いていた。原作を考えれば、周りの男子がララに熱い視線を向けるのは当然と言える。問題は半分程度の男子しかララを見ておらず、残りの男子はいつものように有栖に熱い視線を向けていた。

 これには、視線に慣れた有栖も困惑せずにはいられなかった。

 

(なんで男の俺が、ラブコメのヒロインとタメ張ってるんですかねえ……?)

 

 勉強やスポーツならともかく、容姿で互角というのは有栖にとって納得がいかないところではある。他のToLOVEるのヒロインや前世持ちも似たようなレベルの容姿というのが有栖の見解だが、周りはそうはいかないようだった。

 そんな有栖の葛藤を知ってか知らずか、笑みを浮かべた早苗が抱きつく。

 

「いやぁ、モテモテですねえ有栖さん。でも私、BLは守備範囲外なのでよろしくお願いしますね」

 

「残念ながら俺もだ。ホモだったら、お前らを意識せずに済むのにな」

 

 有栖はそう言って愉快そうに笑う。早苗を揶揄うのが目的とした本音混じりの発言だったが、当の本人は真顔のまま固まってしまった。

 それでも足は止めず、有栖について行く。突然黙ってしまった早苗に、有栖だけでなくリトたちも静かに様子を見守る。

 

「…………有栖さん。今日のお昼、空いてますか? よろしければ、図書室に来ていただきたいのですが」

 

「断るに決まってんだろ。つーか、ララはどうするつもりだ」

 

「そんな、ララさんにも見てもらいたいだなんて。でも、何も知らない少女に見せつけるというのもひゃいひょひゅひゃんひゃあぁぁぁあああ(背徳感がぁぁぁあああ)!」

 

「学校着くまでそのままな」

 

 盛った早苗の頬を引っ張り、不穏な発言を有耶無耶なものにする。

 幸いな事に、早苗の意図はリトたちには伝わらなかったらしい。昼休憩中はララを図書室に案内すると勘違いしたリトたちに、有栖は気にするなと告げて誤魔化す。

 早苗自身がどこか楽しそうにしているので、リト達も止めるに止められそうになかった。

 

「…………二人って恋人なの?」

 

 奇妙な状況ではあるが、楽しそうに戯れあっている二人を見てララがそんな疑問を口にする。今のララは原作同様、婚約破棄の口実を作ろうと計画を練っている。

 リトか有栖。どちらかを計画の要として取り込もうとしていたララにとって、この事実確認は必要なものだった。

 ララの疑問に少しばかり考え込んだ有栖は、小さくため息を吐いた。

 

「今は違うが、時間の問題だろうな。俺が悪あがきしてるだけで、既に詰んでるのが実情だ」

 

「そんな将棋みたいに言わなくても」

 

「将棋の方がまだ簡単だろうぜ。よく言うだろ。恋は戦争だって。あれ、比喩でもなんでもないからな」

 

 奇襲、強襲、兵糧攻め、人海戦術。化学兵器に情報戦。ありとあらゆる手段で前世持ちからのアプローチ(攻撃)を受けている有栖の言葉。実体験を伴った言葉には相応の重みがあった。

 こころなしか疲れているようにも見える有栖の表情に、つい口を挟んでしまったリトが言葉を失う。一方、有栖の状況を知ったララは、顔は有栖に向けたまま視線だけをリトに向けていた。

 




化学兵器とかを禁止している実際の戦争よりも、魔法や薬などなんでもありな前世持ちのアプローチの方が危険だと思う。
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