アリーナでの鎮圧劇は、控えめに言っても想像を絶する地獄絵図へと変貌していった。
「なんだこいつら……さっきから倒しても倒してもキリがないぞ!」
一夏が『雪片弐型』で【強くなったよ!マジで?】の胴体を真っ二つに両断しながら叫ぶ。しかし、その足元では、切断された上半身と下半身が蠢き、おぞましい光景が繰り広げられていた。
連中は前回の旧格納庫での敗北を「学習」していたのだ。あろうことか、それぞれが背中に背負ったズタ袋から自己修理のための『予備の部品』を取り出し、ガムテープとボルトで強引に自身の身体を繋ぎ合わせ始めたのである。
ギリギリギリッ……!
頭部のねじ巻きがけたたましい音を立てて回転し、再起動を果たした個体から、限界を超えた速度で一夏へと躍りかかる。
「一夏、鈴音! 足を止めるな! 常に三次元的に動き回って奴らの意識を散らせ!」
俺はフリフリのスカートを翻しながら戦場を駆け抜け、二人に的確な指示を飛ばす。
「わ、わかってるわよ! っ……しつこい連中ね!」
鈴音も『甲龍』のスラスターを吹かし、接近してくる敵を二振りの大刀『双天牙』で薙ぎ払いながら距離を取る。
その時、一体の【強くなったよ!マジで?】が、死角から俺の懐へと潜り込んできた。錆びた鉄パイプが、俺の頭部めがけてフルスイングされる。
射撃では間に合わない。俺は咄嗟に、手にした【レティシア】のファンシーなライフルの『銃口』を両手で固く握りしめた。
「こいつっ……!」
そして、愛らしいリボンが巻かれた銃床をバットのように大きく振り被り、迫り来る幻想体の頭部へ渾身の力で叩き込んだ。
メシャァッ!!
プラスチックと金属がひしゃげる凄まじい音が響き、敵の首が不自然な方向へ折れ曲がる。だが、俺の攻撃は止まらない。
「壊れろ、壊れろ、壊れろッ!!」
完全に機能が停止し、予備の部品を繋ぐ隙すら与えないよう、俺は何度も何度も、執拗にライフルのストックで敵の残骸を叩き潰した。もはや魔法少女の装備が持つファンシーさなど微塵もない、徹底的な暴力と破壊の蹂躙である。原型を留めないただのプラスチックのゴミと化したのを確認し、俺は荒い息を吐きながら顔を上げた。
「……よし。次はこれだ」
俺はライフルのグリップを握り直し、E.G.Oの精神感応出力を限界まで引き上げた。俺の意思に呼応し、空間に奇妙なノイズが走る。
虚空からポロポロとこぼれ落ちるように出現したのは、赤と白のストライプ柄の包装紙に包まれ、巨大なリボンがかけられた『大きなプレゼント箱』の山だった。
「ほら、お前たちの大好きなプレゼントだ! 受け取れ!」
俺が叫びながら大量のプレゼント箱を戦場のあちこちへばらまくと、知能の低いおもちゃの幻想体たちは、一夏たちへの攻撃をピタリとやめ、フラフラと吸い寄せられるように箱を拾い上げ始めた。
「……な、何やってるのよあんた。いくらなんでも戦場でお遊戯会!?」
「いや、見ろ鈴音! アレ……!」
呆気にとられる二人の目の前で、箱を抱きしめた幻想体たちの頭上に、不吉な赤いタイマーが浮かび上がった。
――ピピピピピピ、ピーッ!
次の瞬間、プレゼント箱が凄まじい爆発を引き起こした。
「ギィャアアアッ!?」というノイズ混じりの悲鳴と共に、周囲にいた幻想体たちがまとめて爆風に呑み込まれ、ガラクタの雨となってアリーナの床に墜落していく。
「……えげつないわね」
「L社の戦い方に、綺麗も汚いもあるか!」
地上で俺が爆殺の宴を繰り広げている間、上空では隊長格である【お前ぶたれたい?しこたま?】が、一夏と鈴音を標的にしてしつこく追い回していた。
ガムテープで補強されたプロペラや、火を噴く段ボール製のジェットパックで無理やり空を飛んでいる様は滑稽だが、その軌道は不規則で読みづらい。
だが、腐ってもここは最新鋭の兵器、ISの独壇場である。
「遅いんだよっ!」
「目障りよ、ポンコツ共!」
スペックの差は歴然だった。一夏と鈴音はバックパックのスラスターで軽やかに後ろへ下がりながら、真っ直ぐ突っ込んでくるだけの隊長格たちを冷静に迎撃していく。一夏が雪片弐型の斬撃でローターを切り飛ばし、鈴音が双天牙で胴体を叩き割る。空戦においては、完全にIS側のワンサイドゲームだった。
一方、地上では傷ついた仲間を修復しようとする「衛生兵」めいた動きをする個体が現れ始めていた。
「治療の真似事なんてさせるか!」
俺は片膝をついてライフルを構え、スコープ越しに修復を試みる個体のねじ巻きを正確に撃ち抜いていく。ダンッ!ダンッ!と軽快な発砲音が響くたび、敵の数は確実に減っていった。
だが、残るおもちゃの数が一桁にまで減ったその時、奴らの動きが唐突に変化した。
生き残った幻想体たちが、背中合わせに円陣を組み、一斉に手持ちの鉄パイプやスパナをカタカタと鳴らし始めたのだ。異様なエネルギーの収束を感じ取る。
「マズい……何か来る! 二人とも、警戒しろ!」
俺の警告に、上空から舞い降りた鈴音が不敵な笑みを浮かべて前に出た。
「固まってくれるなら、好都合よ!」
彼女は『甲龍』の両肩の装甲板を大きく展開させた。先ほど一夏を苦しめた空間圧縮砲の銃口が、身を寄せ合う幻想体たちの中心へと向けられる。
「これで……消し飛びなさい! 『龍咆』、最大出力!!」
ドォォォォォンッ!!
圧縮された空間の塊が、目に見えない巨大な鉄槌となって幻想体たちを上から押し潰した。
「ギギ……ガ……」
アリーナの床が大きくひび割れ、残っていた玩具たちはペラペラの紙くずのように圧縮され、ばたばたと倒れ伏した。
「今だ! トドメを刺せ!」
俺の合図と共に、三人は即座に散開した。
ピクピクと痙攣する個体の頭部を一夏が容赦なく踏み砕き、鈴音は薙ぎ払いで四肢を完全にバラバラにする。俺もライフルの銃床で残ったねじ巻きを完全に粉砕し、再生の余地を完全に断ち切った。
「……ふぅ。これで全部、ね」
鈴音が甲龍の武装を解除し、額の汗を拭う。
「助かったぜ、お前がいなかったらどうなってたか……」
一夏も安堵の息を吐きながら、白式を待機状態に戻した。
「……あぁ、怪我人が出なくてよかった」
俺は深く息を吐き出し、精神感応を解いて【レティシア】のE.G.Oを解除しようとした。
だが、その時だった。
『おおぉぉぉぉぉぉっ!!』
誰もいないはずの観客席の方から、地鳴りのような歓声と拍手が湧き上がった。
ハッとして顔を上げると、避難していたはずの1年生の生徒たちが、次々と観客席へと戻ってきているところだった。そして、アリーナの四方に設置された巨大なライブスクリーンには、つい先ほどまで戦っていた俺たちの姿が――より正確に言えば、赤と白のフリフリのブラウスとスカート、白いタイツに赤い靴を履き、小さな帽子を被ってファンシーなライフルを振り回す俺の姿が、高画質でバッチリと大写しになっていたのだ。
「キャーッ! なにアレ、可愛い!」
「魔法少女みたい! L社の人ってああいう趣味だったの!?」
「でも銃のストックでボコボコに殴ってたわよ……ギャップ萌え?」
飛び交う女子生徒たちの無遠慮な黄色い声援。
織斑先生は頭を抱え、山田先生は顔を真っ赤にして必死に笑いを堪えている。
「あ……」
思考が、停止した。
まさか、1年生全員に……いや、下手をすれば実況カメラを通して学園中に、この姿を晒されていたというのか。死闘の最中で完全に意識から抜け落ちていたが、ここは全校生徒が注目するクラス代表戦の舞台だったのだ。
「ぷっ……あはははは! あんた、本当にその格好で戦ってたのね! まさかそんな趣味があったなんて!」
鈴音がお腹を抱えて爆笑し始める。
「お、お前……L社ってのは、随分と厳しいところなんだな……色々な意味で」
一夏がどこか同情するような、哀れむような目を向けてきた。
社会的な死。
俺のIS学園における威厳と尊厳は、今この瞬間、完全に音を立てて崩れ去った。
「……っ!!」
俺は真っ赤になった顔を両手で覆い隠し、フリフリのスカートを床に広げるようにして、その場に深く、深くうずくまることしかできなかった。アリーナに鳴り響く拍手喝采が、俺の心にはただの死の宣告にしか聞こえなかった。
アリーナの静寂は、ほんの数秒しか持たなかった。
割れんばかりの歓声と、どよめき、そして黄色い悲鳴が入り混じった異様な熱狂が、すり鉢状の闘技場を包み込む。スクリーンに大写しになった己の姿――フリフリのレースがあしらわれた赤いリボン、純白のブラウス、ふわりと広がる赤いスカートに白いタイツと赤い靴。そして、ちょこんと頭に乗った小さな帽子。
俺は頭を抱えながら、一つだけ自分の中で訂正をしていた。
(これは、魔法少女なんかじゃない。幻想体『レティシア』……お友達にプレゼントを配る、無邪気で残酷な『魔女』の姿だ……!)
だが、そんなL社の恐ろしい裏設定など、平和なIS学園の生徒たちに伝わるはずもない。彼女たちの目に映っているのは、ただ単に「可愛いフリフリの服を着て戦う男」という、前代未聞のギャップ映像でしかないのだ。
「えーっ、なにアレ! すっごい可愛いんだけど! 私もあの装備着てみたい!」
「普段はあんなに無愛想で近寄りがたい雰囲気なのに、あの格好で戦うとか……ギャップ萌えってやつ!?」
「でも、銃のストックで敵をボコボコに殴ってたよ……なんか大変そうだな……」
「ていうか、L社ってあんなヤバい怪物を退治する会社なんでしょ? なのに入社したらあんな服着せられるの!? どんなブラック企業なのよ!」
観客席から降り注ぐ、好奇と興奮、そして若干の同情が入り混じった声、声、声。
予想に反して、反応は比較的肯定的なものが多かった。だが、それが逆に俺の羞恥心を限界突破させていた。好意的に受け止められれば受け止められるほど、「似合っている」という事実が浮き彫りになり、俺の精神をゴリゴリと削っていくのだ。
「……ぷっ、あはははははっ! ひーっ、お腹痛いっ! あんた、本当にその格好で戦ってたのね! まさかそんな趣味があったなんて、アハハハ!」
すぐ隣では、先ほどまで死闘を繰り広げていた凰鈴音が、双天牙を放り出して腹を抱え、涙を流しながら大爆笑している。その甲高い笑い声が、俺の心を物理的に抉ってくる。
そして、その後ろでは。
「……お前、色々と苦労してんだな。俺、お前のこと少し誤解してたかもしれない。……がんばれよ」
織斑一夏が、これ以上ないほど生温かい、底知れぬ哀れみを含んだ瞳で俺の肩をポンと叩いた。怒られるよりも、罵られるよりも、この同情の視線が一番堪える。
俺は震える手で顔を覆いながら、チラリと教師席の方へ視線を向けた。
そこには、今日の朝にこの惨劇を予見していた山田真耶先生が、「ああ、ついに全校生徒の晒し者に……」とでも言いたげな顔で、俺に向かって何度も深く頭を下げていた。申し訳なさでいっぱいなのだろう。
だが、その後ろに立つ織斑千冬先生の様子は少し違った。彼女は普段の厳格な鉄仮面を崩してはいないものの、その鋭い視線は俺の纏うレティシアの衣装――特にフリルのあしらいや、ちょこんと乗った魔女の帽子――を、穴があくほど見つめている。
(……あの人、絶対にああいう可愛い服が好きだな。少し羨ましそうに見てるぞ……)
千冬先生の意外な一面を垣間見た気がしたが、今の俺にはそれをからかう余裕など微塵もない。
俺は一夏と鈴音に歩み寄り、声を潜めて必死に訴えかけた。
「……笑うな。いいか、勘違いするなよ。これは俺の趣味じゃない。あいつら……幻想体と戦うためにL社から支給された、正式な『制服(E.G.O)』なんだ」
「いやいや、無理あるだろお前! どこの世界に、こんな魔法少女みたいなフリフリの服を正式な戦闘服にする会社があるんだよ!」
一夏が呆れたようにツッコミを入れ、鈴音も「そうよそうよ! 苦しい言い訳はやめなさい!」と笑い転げている。
くそっ、この平和ボケした学生どもめ。俺は舌打ちをすると、耳元のインカムを操作した。
「……情報チーム。ガブリエル、聞こえているか。こいつらに、これが正式な装備だと説明してやってくれ」
数秒のノイズの後、俺のインカムから漏れ出るほどの音量で、情報チームのオペレーターであるガブリエルの理知的な、しかしどこか冷淡な声が響いた。
『ええ、聞こえていますよ。そちらのIS操縦者2名、よく聞いてください。彼が現在着用しているのは、当ロボトミーコーポレーションが管理する幻想体から抽出された『E.G.O』と呼ばれる正式な対幻想体用兵装です。趣味や嗜好によるものでは一切なく、生存率を引き上げるための絶対的な機能美の結晶です。……彼がそれを着て滑稽に見えるのだとすれば、それは彼自身の素質のせいでしょうね』
最後の一言は余計だが、ガブリエルの淡々とした、そして有無を言わせぬプロフェッショナルの声色に、一夏と鈴音の笑い声がピタリと止まった。
「……マジ、なのか?」
「嘘でしょ……L社って、本当に頭のおかしい会社なのね……」
信じられないような、そして俺に対するさらなる深い同情の目を向けてくる二人。完全に納得してくれたようだが、L社の社会的な信用は確実に一つ下がった気がする。
俺は深くため息をつくと、精神感応をオフにし、レティシアのE.G.Oを解除した。
光の粒子と共にフリフリの魔女の衣装が消え去り、いつもの黒いスーツとIS学園の制服が混ざったような見慣れた姿に戻る。その瞬間、身体を包んでいた妙な高揚感と、心の奥底にへばりついていた魔女の無邪気な狂気がスッと消え去り、圧倒的な安心感が俺を包み込んだ。
「……やっぱり、こっちの服の方が圧倒的に馴染むな」
俺はネクタイを締め直しながら、一夏と鈴音に向き直り、深く、それこそ地面に額が擦れるほどの勢いで頭を下げた。
「二人とも、今日は共闘してくれて助かった。……そして、頼む。今日のこと……あの格好のことは、内緒にしておいてくれないか」
プライドも何もあったものではない。ただの土下座に等しい懇願だった。
一夏は困ったように頭を掻き、鈴音はまだ少し口元をヒクヒクさせながら答えた。
「まぁ、俺たちは別に言いふらしたりしねえよ。命の恩人だしな。……でも」
「そうね。私たちは黙っててあげるけど……他の子たちがどう思うかは、私たちにはどうしようもないわよ。スクリーンで大々的に流されちゃったし」
「……わかっている。それでも、身近なお前たちが黙っていてくれるだけで、俺の精神的負担はかなり減るんだ。感謝する」
俺は心底からの礼を言った。学園での社会的な地位はすでに終わってしまったかもしれないが、それでも足掻けるところは足掻きたい。
そして、ふと思い出したように俺は肩を落とした。
「あぁ……しかも、これで終わりじゃないんだ。俺はこれから、L社のシステムにアクセスして、今回の幻想体鎮圧の『報告書』を作成しなきゃならない。こんな大騒ぎの後で、残業確定だ……」
俺の疲れ切った声に、一夏と鈴音は顔を見合わせた。
「……社会人って、本当に大変なんだな」
「……ええ。なんだか、怒る気も失せちゃったわ」
二人の顔からは先ほどまでの殺伐とした私闘の気配は完全に消え去り、ただただ「過労死寸前のサラリーマンを見る目」へと変わっていた。
アリーナからの帰り道、俺の装備を見た他のクラスメイトたちの反応は、俺のライフをさらに容赦なく削り取っていった。
「お、お前! な、なんて破廉恥な格好をしていたのっ! 変態! 露出狂!」
篠ノ之箒は、顔を真っ赤に茹でダコのようにしながら、俺を見るなり竹刀を構えて怒鳴り散らしてきた。
「箒、露出狂は心外だ。あれはちゃんとスカートの下に白いタイツを履いていたから、肌は見えていなかったはずだ」
「そ、そういう問題じゃない! 男がスカートを履くなんて、破廉恥だと言っているんだ!」
そんな箒の後ろから、セシリア・オルコットが優雅に歩み寄ってくる。
「箒さん、落ち着きなさいな。スコットランドの民族衣装であるキルトのように、男性がスカート状の衣服を着用する文化は世界に存在しますわ。……ですが」
セシリアはそこで言葉を区切り、俺をジト目で睨みつけた。
「〇〇さんが着ていたアレは……どう見てもそういう伝統的なものではなく、ただの可愛らしい女児向けのドレスでしたわ。……ええ、絶対に違います。わたくしの美的感覚が、アレは違うと告げていますわ」
英国の誇り高き代表候補生に、真正面から「あれは変態だ」と論理的に詰められ、俺は返す言葉もなかった。
「○○君~」
そこへ、のんびりとした足取りで不仏本音が近づいてきた。彼女は俺の顔を見るなり、ぽわんとした笑顔を浮かべた。
「今日の服、とっても可愛かったよ~。私、好きだな~ああいうの」
「……ありがとう、本音。だが、次からは二度と着たくないんだ」
本音の純粋な褒め言葉が、今の俺には逆に一番の猛毒だった。
その日の放課後。
アリーナでの大規模な戦闘と制圧劇があったため、本日の俺のIS操縦訓練は免除されることになった。
だが、報告書を作成するために生徒会室の端末を借りに行くと、そこには地獄が待っていた。
「あははははっ! いやー、最高のショーだったわよ、あなた君! あの可愛いフリフリのスカートで、鈍器のようにライフルを振り回す姿! まさに狂気の沙汰ね!」
更識楯無会長が、腹を抱えてソファーを転げ回っている。
「ええ、とても……機能的で、素晴らしい戦闘でした」
不仏虚先輩も、普段のポーカーフェイスを僅かに崩し、口元をワナワナと震わせながら笑いを堪えていた。
「笑いたければ笑えばいいですよ……」
精神的に完全に参ってしまった俺は、死んだ魚のような目で生徒会室の隅の端末に向かい、カタカタとキーボードを叩き始めた。
「あら、拗ねないでよ。今後のE.G.O装備のお披露目も、生徒会一同、首を長ーくして期待してるわよ?」
「……本部に、二度とあんな装備は送るなと申請するつもりです」
背後からの容赦ないイジりをBGMに、俺はL社のフォーマットに従って、冷徹な報告書を作成していく。
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【幻想体鎮圧報告書】
作成者:特殊対策部門・現地協力員
■事案概要
IS学園アリーナにおいて、各クラス代表戦の最中、多数の幻想体が出現。
指定名称【お前ぶたれたい?しこたま?】(隊長格・浮遊型)約10体、及び【強くなったよ?マジで?】(一般個体・地上型)約20体。
織斑一夏(白式)、凰鈴音(甲龍)の2名と連携し、これを全個体制圧・機能停止させた。
■戦闘分析及び敵性能力の評価
前回(旧格納庫での交戦時)と比較し、両者ともにベースとなる武装(鉄パイプ、スパナ等)の材質・攻撃力に大きな変化は見られない。
しかし、特筆すべき点として「補助装備の追加」と「戦術の学習」が確認された。
1.自己修復機能の獲得
撃破された個体に対し、他の個体が「予備の部品」を用いて接合・修復を行う行動を確認。修復される度に稼働速度が異常に上昇する特性を持つ。これに対抗するためには、修復の余地を与えない完全な物理的破壊(粉砕)が必須である。
2.【お前ぶたれたい?しこたま?】の飛行能力獲得
隊長格とされる個体群は、背部に簡易的な推進器(プロペラ、ジェットパック等)を装備し、三次元的な浮遊・飛行能力を獲得していた。
これにより、地上からの近接攻撃のみでの制圧は極めて困難となり、遠距離攻撃手段(今回はE.G.O【レティシア】の射撃)、ないしはISによる空中戦が必須であることが判明した。
■考察(発生源に関する仮説)
今回の交戦において最も憂慮すべき事態は、制圧した全個体が、機能停止後に「卵」へと還元されなかった点である。
通常の幻想体であれば、鎮圧後は卵の状態に戻り、再収容が可能となる。しかし、今回の個体群はただのガラクタの残骸として物理的に残存した。
この事実から推測される結論は一つ。
これら「おもちゃ」の個体群は、それ自体が独立した幻想体ではない。これらは全て、どこかに存在する『巨大な製造工場(あるいは母体)』のような、別の強力な幻想体によって生み出された「端末」あるいは「産物」である可能性が極めて高い。
早急に学園内、及び周辺地域において、この「工場」に該当する特異点の捜索と破壊を行う必要があると具申する。
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「……よし、こんなもんか」
エンターキーを強く叩き、報告書を情報チームへと送信する。
一仕事終え、背もたれに深く寄りかかった俺は、インカムを通じて本部の担当者――ガブリエルに、一番気になっていることを問いかけた。
「報告書は送った。内容の確認と、捜索の許可を頼む。……それと、俺の『試作型IS』の開発進捗はどうなっている? もう限界だ。あんなフリフリの服を着て戦うのは、今日で最後にしたい」
通信の向こうで、キーボードを叩く乾いた音が数秒続いた後、ガブリエルが答えた。
『報告書、受理しました。「工場」の捜索については、セフィラ会議にて承認を取り付け次第、あなたに指示を出します。……そして、ご要望の試作型ISについてですが』
「ああ。頼む、明日には届くと言ってくれ」
『現在の組み込み作業の進捗を鑑みるに、完成し、実戦投入が可能になるのは【GW】となります。ハードウェアとL社の独自システムの同期に、予想以上の時間を要しています』
「GWか……」
俺は安堵の息を吐いた。
あとたったGWまで耐えれば、俺専用のISが届く。ISの立体機動と重火器があれば、あんなレティシアの姿を全校生徒に晒して戦う必要はなくなるのだ。遠距離攻撃も、空中戦も、ISの機能だけで完結する。俺の尊厳は、GWにようやく守られる。
「わかった。GWだな。それまでは、近接戦闘と回避に徹して……」
俺が希望に満ちた声でそう言いかけた時、ガブリエルは、氷のように冷たく、そして絶望的な指示を突きつけてきた。
『何を勘違いしているのですか? 現地協力員』
「……え?」
『今回の戦闘データと映像記録を解析した結果、あなたがE.G.O【レティシア】の精神感応度を上昇させて生成した「プレゼント箱(遅延起爆型爆弾)」による広範囲攻撃は、群れで行動する敵対存在に対し、極めて高い有用性と殲滅力を発揮することが証明されました。これは、現在開発中の試作型ISの武装を凌駕する制圧力です』
嫌な予感が、背筋を駆け上がる。
俺の額から、滝のような冷や汗が吹き出した。
「ま、待て。ガブリエル。まさか……」
『ええ。よって本部からの通達です。たとえ3日後に試作型ISが配備されたとしても、その殲滅力の高さを鑑み、あなたは引き続き、任務において【レティシア】のE.G.Oを装着し、活動することをだそうです。これは決定事項です』
「――っ!!!」
通信が切れる乾いた音が、俺の頭の中で何度も木霊した。
ISが来ても、あの服を着ろというのか。あの、フリフリのスカートを穿いて、魔女の帽子を被った姿で、最新鋭の兵器であるISに乗って空を飛べと?
想像してしまった。
メカニカルな装甲とスラスターの間に挟まる、赤いリボンとふんわりとしたスカート。それはもう、ギャップ萌えなどという生易しいものではない。ただの狂気だ。
「……う、あ……ああぁぁぁぁぁぁっ……!!」
部屋の片隅で、俺は机に突っ伏し、地の底から湧き上がるような絶望の呻き声を上げ、山田先生を驚かせてしまった。
俺の学園生活における社会的地位の回復は、未来永劫、絶たれてしまったのだった。
皆さんが着てみたいEGOってありますか?
感想とかくれると嬉しい