IS×PM   作:本棚の一冊

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番外編 L社広報部の活動

日々の業務報告書(日報)を専用端末に打ち込み終え、俺はふうっと大きく息を吐いた。

疲労した目で未読メールのボックスを開くと、L社(ロボトミーコーポレーション)の本国広報部から一通の通達が来ていることに気づく。

 

『一般向け広報サイト 更新のお知らせ』

 

L社はそのブラックボックスすぎる技術と閉鎖性から、世間一般からの印象がすこぶる悪い。それを少しでも改善し、ホワイト企業をアピールするために作られたのがこの公式サイトなのだが……更新された記事の内容を見て、俺は思わずお茶を吹き出しそうになった。

 

まずトップニュースを飾っていたのは、中国支部で開催された「第一回 餃子作り大会」のレポートだ。

写真には、エプロン姿で山盛りの餃子を包む職員たちの姿。見事優勝を果たしたのは、シャオ支部長とロウェル副支部長の夫婦ペアだった。普段は炎を纏って激戦を繰り広げている二人が、仲睦まじく餃子の焼き加減で微笑み合っている姿は、L社の殺伐とした日常からすれば幻覚かと思うほど平和だ。

 

次に目に飛び込んできたのは、イタリア支部のカポ・レイホンによる動画企画。

タイトルは『誰でも出来る超絶猛虎殺撃乱斬』。

 

「おおきに!今日は俺っちが直々に、とっておきの技を教えたるで!」

 

動画を再生すると、快活な関西弁で喋るレイホンが画面に現れた。彼の背の丈ほどもある巨大な朴刀の峰には、どう見ても物騒な『火薬による加速装置』が取り付けられている。ガンブレードの要領で火薬を爆発させ、その反動を利用して平然と大剣を振り回し、凄まじい斬撃の嵐を巻き起こすレイホン。

 

(……『誰でも出来る』わけないだろ。自重で腕が千切れるわ!)

俺は心の中で強烈なツッコミを入れた。広報部よ、これを一般人が見て「楽しそうな職場だな」と思うと本気で信じているのか?

 

他にも、サイトのコンテンツは異彩を放っていた。

「義理と恩の返し方」コーナーでは、『命を救われた恩義への報い方』から『家族の誕生日に贈るほんわかプレゼント』まで、温度差の激しいQ&Aが並んでいる。

さらに極めつけは「今月の指令占い」。誕生月ごとに『何をしたらラッキーなのか』が『指令』のような文体で書かれており、無駄に威圧感のある占いコーナーと化していた。

 

「はは……でも、世界中でみんな頑張ってるんだな」

 

狂気と紙一重とはいえ、懸命に日常を生きようとする各支部の様子に思いを馳せると、少しだけ心が温かくなった。

 

俺は端末を閉じ、立ち上がる。

「さて、山田先生が帰ってくる前に、夕食を作っておかないとな」

 

昨日の夜や今日の出来事を思い返す。ドジばかりと言いながらも、生徒のために、そしてL社の厄介な事情を抱える俺のために、彼女は一生懸命に動いてくれている。先生がどれだけ大変な思いをして働いているか、今の俺にはよく理解できた。

だからこそ、せめて防護室にいる間くらいは安心して休めるように、美味しいご飯を作って彼女を支えたい。俺はエプロンを締め、温かな気持ちで台所へと向かった。

 

偶然にも、ネットサーフィンをしていてL社の広報サイトに辿り着いたIS学園の面々は、それぞれの部屋で全く異なる反応を示していた。

 

■ 織斑一夏の場合

「なんだこのサイト、『今月の指令占い』……? えーっと、俺の誕生月は……」

一夏は自室のベッドでスマホを見つめ、首を傾げた。

『汝の女運は最悪なり。無自覚な行動が修羅場を呼ぶ。今月は鋼の意志で沈黙を保て』

「……おいおい、女運が悪いって、なんだよこれ。全然当てにならない占いだな!」

 

■ 篠ノ之箒の場合

「これが、異国の剣道(?)というものか……!?」

箒は正座をして、レイホンの『誰でも出来る超絶猛虎殺撃乱斬』の動画を食い入るように見つめていた。しかし、朴刀が火薬の爆発で加速した瞬間、彼女の眉が吊り上がる。

「ええい、剣に火薬の加速装置をつけるなど、剣の道に反する外道の所業! しかし、あの踏み込みの速度は……くっ、参考にするわけにはいかないというのに!」

 

■ セシリア・オルコットの場合

「信じられませんわ……!」

セシリアは優雅に紅茶を飲みながらも、タブレットを持つ手をワナワナと震わせていた。彼女が見ているのは『会社概要』のページだ。

「なぜ、L社のヨーロッパ本部が、この誇り高きイギリスではなくイタリアに置かれているんですの!? イギリス支部の規模が小さいなんて、我が国のプライドに関わりますわ!」

憤慨する彼女は、L社がイギリスにヨーロッパ本部を置くと輸送コストが高いという事実を知る由もなかった。

 

■ 凰鈴音の場合

「わぁ、この中国支部の餃子大会、すっごく美味しそう……!」

鈴音はシャオとロウェルが作った美しい羽根つき餃子の写真を見て、ゴクリと喉を鳴らした。

「……そうだ! 今度、一夏を誘って一緒に餃子を作ってみようかな。あいつ、私が作った料理なら絶対に喜んで食べるし!」

と、一人で勝手に計画を立てて頬を染めていた。

 

■ シャルル・デュノアの場合

シャルルは、暗い部屋の中で「義理と恩の返し方」のコーナーをじっと見つめていた。

『友人から受けた恩や、家のしがらみへの向き合い方』についてのQ&Aをなぞる彼の指先が、微かに震える。デュノア家という巨大な兵器産業の御曹司(令嬢)として、父親から捨て駒のように扱われ、男子と偽ってこの学園に送り込まれた自身の境遇。

「……義理と、恩、か。僕には、返すものなんて何もないのにな……」

スマホの灯りに照らされたその横顔は、年相応の少年(少女)とは思えないほど、複雑で物悲しい色を帯びていた。

 

■ ラウラ・ボーデヴィッヒの場合

「……ほう」

ラウラは暗視スコープの手入れの手を止め、レイホンの動画を軍人としての鋭い目で分析していた。

「凄まじい膂力と、火薬の反動を完璧に制御する体幹。ISも着装せずに、これほどの動きができる人間がいるとはな。ロボトミーコーポレーション……あの会社には、このレベルの戦闘員が多数在籍しているというのか?」

彼女は〇〇の存在と併せて、L社という組織の底知れぬ軍事的脅威を、冷徹な思考で再評価し始めていた。

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