IS×PM   作:本棚の一冊

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18話 訓練と悪だくみ

放課後の第3アリーナには、甲高い駆動音と、弾け飛ぶ訓練用ペイント弾の破裂音が絶え間なく響き渡っていた。

 

「そこだ一夏! 右下角への射線が空いてるぞ!」

「くっ……おおおおっ!」

 

俺の指示が飛ぶと同時、一夏の駆る『白式』がスラスターを激しく吹かし、空中で強引に機体のベクトルを捻じ曲げた。直後、彼が先ほどまでいた空間を、シャルルの放った高密度の弾幕が通り抜けていく。

以前なら確実に被弾していたであろうタイミングと密度。だが、現在の一夏は機体の慣性を完全に殺すことなく、流れるような動作で射線の死角へと滑り込み、逆にシャルルの懐へと『雪羅弐型』の間合いを詰めてみせた。

 

「……うん、ストップ! 見事な回避だよ、一夏!」

シャルルが攻撃の手を止め、感嘆の声を上げながら地上へと降下する。一夏も荒い息を吐きながら白式を解除し、汗だくの顔に達成感に満ちた爽やかな笑みを浮かべた。

 

「はぁっ、はぁっ……どうだ、〇〇! 今の動き、言われた通りにできたろ!」

「ああ、完璧だ。射線の見極めも、機体制御の最適化も、日に日に精度が上がっている。この短期間でここまで回避機動を身体に叩き込めるのは、お前の才能とど根性の賜物だな」

 

俺が素直に称賛すると、一夏は照れくさそうに鼻の下を擦った。

事実、一夏の成長速度は異常だった。L社のような命を削る実戦環境ではなく、あくまで安全な訓練の範疇でありながら、彼はスポンジが水を吸うように俺とシャルルの理論を吸収し、自身の感覚に落とし込んでいる。教える側としても、これほどやり甲斐のある生徒はいない。

 

そんな三人の様子を、アリーナの観客席から見つめる女子生徒たちの熱気も凄まじいものになっていた。

 

「きゃああああっ! 今の一夏くん、すっごくカッコよかった!」

「シャルルくんの容赦ない攻撃も素敵! ……でも、〇〇君のあの的確な指示出し、なんだか頼もしくてドキドキしない?」

「ねえ、今の白式のスラスターの吹かし方見た? 私たちの機体でも、あのタイミングで逆噴射をかければ疑似的な空間跳躍機動ができるんじゃない?」

 

彼女たちは一夏やシャルルに黄色い歓声を上げる生粋のファンクラブであると同時に、各国の代表候補生として選抜されたエリートでもある。俺たちの訓練をただのショーとして消費するのではなく、自分たちの操縦技術に組み込もうと真剣な目で分析し、その場でシミュレーションを始める者も少なくなかった。

 

その観客席の最前列で、腕を組みながらじっとグラウンドを見下ろしているラウラ・ボーデヴィッヒの姿があった。

彼女の鋭い隻眼は、かつての一夏に向けられていたような侮蔑の色を完全に消し去っていた。

 

「……フン。急速に成長しているようだな。あれならば、少しは認めてやらんでもない」

誰に言うでもなく呟いたラウラは、ふと視線を一夏から俺へと移した。その瞬間、彼女の背筋が軍人らしくピンと伸びる。

 

(……なんだ? なんであんなにキラキラした目で見られてるんだ?)

彼女の視線に気づいた俺が首を傾げていると、ラウラはわざわざグラウンドに降りてきて、俺の目の前でバシッと非の打ち所のない敬礼をした。

 

「〇〇。お前の教導手腕、見事なものだ。あの足手まといをここまで引き上げるとはな」

「あ、ああ……一夏自身の努力の結果でもあるけどな」

「謙遜するな。私には分かっている。……お前が、どれほどの『覚悟』を背負って戦場に立っているかということを」

 

ラウラの声は、深い敬愛と共感に満ちていた。

「私の副官であるクラリッサから聞いた。極東の特殊戦術『ジョソウ』……それは、己の尊厳を捨て、極限の羞恥心に耐え抜くことで精神を究極のトランス状態へと導き、過酷な任務を遂行する捨て身の秘術であると! お前はあの恥ずかしいフリルの装甲を纏うことで、自らを極限状態に置き、戦い抜いているのだな!」

 

「は?」

俺の口から、間の抜けた声が漏れた。

 

「あのような辱めに耐え、なおかつこれほど完璧な訓練プランを構築し、味方を導く……。お前は真の軍人だ。以前の無礼、改めて詫びると共に、最大限の敬意を表する!」

 

ラウラのその真っ直ぐすぎる瞳には、微塵の疑いもなかった。

「いや、待てラウラ。あれは『ジョソウ』とかいう戦術じゃなくて、L社の正規の装備で……」

俺は必死に誤解を解こうと口を開いたが、彼女の瞳に宿る『私はすべてを理解しているぞ』という狂信的な光を見た瞬間、言葉を飲み込むしかなかった。

(……ダメだ、これ。クラリッサとかいう副官の吹き込んだ謎知識が骨の髄まで浸透してて、何を言っても『照れ隠し』か『軍事機密の隠蔽』として自己完結されるパターンだ……)

俺は深い溜息をつき、「……ありがとう、その敬意だけは受け取っておくよ」と、力なく返すのが精一杯だった。

 

一方その頃、学園のカフェテリアの奥まったボックス席では、どんよりとしたどす黒いオーラを放つ三人の少女が額を集めていた。

篠ノ之箒、セシリア・オルコット、凰鈴音。IS学園が誇る、一夏を巡る三つ巴のヒロインたちである。

 

「……面白くない。実に面白くないわ」

セシリアが、全く手をつけていない冷めた紅茶のカップを睨みつけながらギリッと歯ぎしりをした。

「ええ、全くですわ。〇〇さんとシャルルさん……あの二人は『特訓』という大義名分を盾にして、放課後の貴重な一夏さんを連れ回して独占していますのよ!? これは明確なルール違反ですわ!」

 

「全くだ!」

箒がバンッとテーブルを叩き、柳眉を吊り上げる。

「一夏を鍛えるというのなら、幼馴染であり剣の道に通じるこの私が適任だ! あのような飛び道具ばかりの西洋かぶれの訓練など、一夏の精神を軟弱にするだけだ!」

「ちょっと箒、それは私にも喧嘩売ってんの!?」

鈴音が噛み付くが、すぐに「まぁいいわ、今はそこじゃない」と手を振った。

「とにかく、このままあいつらに一夏を任せっきりにしてたら、いつの間にか一夏があの二人のどっちかに取られちゃうかもしれないじゃない! 特にあのシャルルとかいう奴、男のくせにやたら一夏との距離が近いし!」

 

三人の意見は、かつてないほど強固に一致していた。

『自分たちの方が、一夏を立派に成長させられる』ということを証明し、彼を奪還する。

 

「ならば決まりですわね! 私たち三人で、あの二人を凌駕する『一夏さん専用・特別訓練プラン』を考えますわよ!」

セシリアの号令で、三人は白紙のノートを広げた。

 

「まずは基礎体力よ! 毎朝5時に起きて、二人きりで……じゃなかった、私が伴走して海辺をランニング! その後は私が作った栄養満点の朝ごはんを食べさせるの! 胃袋を掴むのは基本だからね!」

鈴音がペンを走らせながら、鼻息荒く提案する。

 

「なっ、鈴! 抜け駆けは許さんぞ! ならば午後の訓練は私だ! 木刀での打ち込みを千回させた後、汗を流すためにお互いの背中を流し……ごほんっ! 精神統一のために、静かな和室で二人きりの座禅を組む!」

箒が顔を真っ赤にしながら、ノートの右半分に力強く書き込む。

 

「あなたたち、発想が貧困すぎますわ! もっと優雅で洗練されたプランが必要です! 例えば……週末は市街地での『要人警護訓練』と称して、私をエスコートして遊園地やショッピングモールを巡回させますわ! もちろん、服装は私が見立てた完璧なデート……いえ、偽装服で! 観覧車という密室での極限状態のシミュレーションも欠かせませんわね!」

 

「それだーーっ!!」

「セシリア、お前、たまには良いことを言うじゃないか!」

 

当初掲げていた『一夏を成長させる特訓』という目的は、開始からわずか五分で完全に忘却の彼方へと消え去っていた。

ノートに書き込まれていくのは、ランニング後の手作り弁当、夕暮れの教室での二人きりの補習、週末の遊園地巡り、そして水族館での密着警護(デート)という、欲望にまみれた桃色のスケジュールばかり。

 

「ふふふ……完璧ですわ。この『特訓(デート)』を乗り越えた時、一夏さんは身も心も私のもの……いえ、立派なIS操縦者になっているはずですわ!」

「待てセシリア、週末の要人警護の対象は私だぞ! お前は先週一緒に帰っただろう!」

「私だって一夏に手作り酢豚を食べさせたいのに! 順番決めなさいよ!」

 

誰がどの『特訓』を担当するかで再び骨肉の争いを始める三人。

〇〇とシャルルが汗と泥に塗れて純粋な戦友としての絆を深めていることなど露知らず、少女たちの放課後は、見当違いの嫉妬と甘い妄想に塗り潰されていくのだった。




モーションとしては超絶猛虎殺撃乱斬より爆砕斬のほうが好きです
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