IS×PM   作:本棚の一冊

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21話 共鳴鎮圧作戦

夜空を切り裂くような高出力のビームが、俺と一夏のすぐ横を掠めていった。

「いやあああああああっ!! 見ないで! ボクを見ないでよぉっ!!」

 

狂乱状態に陥ったシャルルの悲痛な叫びが、通信機越しではなく、直接空気を震わせて響いてくる。

彼女の顔は、さっきまで泣きじゃくっていたかと思えば、次の瞬間には怒りに満ちた表情になり正確な射撃を行いあなたと一夏を襲い回避に専念させられる、また次の瞬間には虚無の表情に変わり逃げ道を封じる射撃へと、まるでスロットマシンのようにコロコロと変わり続けていた。

 

俺は飛翔しながら弾幕を躱し、即座にガブリエルへの通信回線を開いた。

「ガブリエル! シャルルの様子がおかしい! 顔の表情が異常な速度で変化し続けていて、とにかく『見ないで』と連呼している! この症状に類似する、あるいは共鳴しそうな『幻想体』の心当たりはあるか!?」

 

通信の向こう側で、キーボードを高速で叩く音が響く。

『……現在の精神波形と、パターンから検索しました。あなたがおっしゃる特徴に合致する幻想体は、二例存在します』

ガブリエルの声は氷のように冷徹だった。

『一つ目は【恥ずかしがり屋の今日の顔】。対象は複数の顔(感情)を持ち、特定の表情の時に激しい攻撃性を示します。二つ目は【シャーデンフロイデ】。こちらは「見られている」間は狂暴化し、視線を外すことで動きを制限、あるいは性質を変化させる特性を持ちます。それぞれの鎮圧マニュアルのデータを、あなたのHUDに転送しました』

 

「了解した。……一夏! 聞こえるか!」

俺は白式で必死に回避行動を取っている一夏に通信を繋いだ。

「いいか、今すぐシャルルから視線を外せ! 機体のカメラもだ! 絶対にシャルルの顔を見るな!」

『えっ!? わ、分かった!』

 

一夏が素直に首を横に振り、白式のメインカメラの視点を逸らした。俺も同時に、視界の端からシャルルの姿を完全に消し去る。

「あはははははっ!! なんで見ないの!? 見てよ! 嘘つきのボクを、騙してたボクを見てよぉおおっ!!」

シャルルの笑い声と絶叫が夜空に木霊する。すると、それまで俺たちを正確に狙い撃ちにしてきた苛烈な弾幕が、突如として明後日の方向へと乱れ撃ちを行ったり何もしなかったりと、空間を制圧するような正確無比な射撃が、完全に明後日の方向を向いて打ち続ける『ただの暴れ撃ち』へと変化したのだ。

 

「……ガブリエル。最悪の事態だ」

『……何か分かりましたか、あなた』

「ああ。視線を外したことで攻撃が軟化したってことは『シャーデンフロイデ』の特性が発現してる。だが、表情の変化による攻撃の乱高下は『恥ずかしがり屋の今日の顔』そのものだ。今のシャルルは、両方の幻想体の特性が混ざり合って暴走している可能性が極めて高い!」

 

『それは……厄介ですね。見ることも、見ないこともリスクになる』

「だから、賭けに出る」

 

俺は大きく息を吸い込み、一夏に作戦を伝達した。

「一夏、よく聞け。今のシャルルは、俺たちが見ている間は正確に殺しにくる。見なければ何もしない。だから、お前は一切シャルルを見るな。視線を外したまま、白式を何時でも最大出力で駆けられるようにアイドリングしておけ」

 

『視線を外したまま? それじゃ攻撃が当てられないぞ!』

「俺がやる。俺がシャルルのヘイトを稼いで、隙を見てあいつを完全に拘束する。俺の合図が出たその瞬間にだけ目を開けて、お前の『零落白夜』をシャルルに叩き込め!」

 

通信越しに、一夏が息を呑む気配がした。

『待てよ! そんな無茶苦茶な……お前の命が危ないだろ! 本当に拘束なんてできるのか!?』

「やり方はある! だが、成功の可能性は7割だ。……残りの3割は、運次第の賭けに出ざるを得ない」

 

『……足りない3割を引いたら、どうなる?』

「その時は……良くて俺とお前が揃って気絶。そのまま学園外にシャルルが出てしまえばL社の鎮圧チームが制圧するだろう。あいつらは、シャルルの命は考慮せず絶対に任務を遂行するのが使命だ。物理的に肉体を破壊してでも、確実に『鎮圧』を完遂するだろうな」

 

俺は言葉を切って、一夏に問うた。

「俺は、そんな結末は絶対に嫌だ。……お前だって、そうだろ?」

 

一夏からの返答は、コンマ一秒も遅れなかった。

『当たり前だろ……! シャルルは、俺たちのダチだ。……やろう。一発勝負だな!』

「ああ、お前はとにかく気を溜めて、位置につけ!」

白式がスラスターを吹かし、戦線の後方へと大きく下がっていく。

 

「ガブリエル、聞いての通りだ。これより俺は、E.G.Oを『白雪姫の林檎』に換装。更に、リミッターを解除して【オーバークロック】状態に移行する!」

『……正気ですか。あなたの肉体への負荷は計り知れません。適応時間が通常よりも大幅に短縮されると予想されおそらく持って8分が限界でしょう』

「分かった。今から8分だ。8分経ったら、アラートを鳴らして教えてくれ」

『……了解しました。あなたのご武運を』

 

俺は深く深呼吸をし、指輪のインターフェースを起動した。

「E.G.O『白雪姫の林檎』――オーバークロックに移行」

 

俺の身体を包んでいた『レティシア』の装甲が弾け飛び、新たな概念が俺の肉体を覆い尽くす。

現れたのは、林檎のように真っ赤なフリルのドレス。そして、そこへ這い寄るように絡みつく、不気味で緑色の茨の蔦。男子高校生が着るにはあまりにも狂気的で、屈辱的で、辱め以外の何物でもない衣装。だが、今の俺にはこの『力』が絶対に必要だった。

 

「シャルルッ!! こっちだ!! 止めさせてもらうぞ!!」

俺は視線をシャルルに合わせ、真正面から彼女を睨みつけた。

 

「〇〇……!? なんで……なんでそんな姿で……!」

シャルルの表情が、驚愕から一転して、憎悪に満ちた怒り顔へと歪む。

「騙してたボクを、笑いに来たの!? バカにしに来たの!? 許さない……許さない許さない許さないッ!!」

 

『シャーデンフロイデ』の特性が発動し、視線を合わせた俺に対して、シャルルのラファール・リヴァイヴが凄まじい火力を一極集中させてきた。

「うおおおおっ!!」

俺は回避しながら、右手に顕現した『白雪姫の林檎』の槍と、左手に持ったクリフォト抑制弾装填のライフルで応戦する。

 

「消えちゃえ! 消えちゃええええっ!!」

シャルルの顔が、今度は大粒の涙を流す『悲哀』の表情に変わる。

ズドドドドドンッ!!

空間を埋め尽くすようなミサイルの雨と、実弾の嵐。ISのエネルギーシールドと、E.G.Oの耐性がゴリゴリと削られていく。

 

「くそっ、手数が多すぎる……!」

俺は必死に距離を取り、回避と防御を繰り返しながら、少しずつ、少しずつシャルルの位置を誘導していく。

一夏が最短距離で、一切の障害物なく『零落白夜』を撃ち込めるベストポジション。そこへシャルルを引っ張り込むための、命がけの鬼ごっこ。

 

「痛いよ、苦しいよぉ! 〇〇、助けてよぉ……!」

泣き叫ぶシャルル。

「嘘つき! ボクの心に入り込まないで!」

激怒するシャルル。

「あはははは! もうどうでもいいや、全部燃えちゃえ!」

狂笑するシャルル。

 

一秒ごとに切り替わる彼女の感情の濁流を受け止めながら、俺は歯を食いしばって耐え続けた。

1分、2分、3分……。

『E.G.Oの浸食率が危険域に達しつつあります。エネルギーレベル、アラート状態。あと3分で精神が崩壊します』

ガブリエルの無機質な警告がHUDに表示される。被弾も嵩み、赤いドレスは所々破れ、俺自身の血で更に赤く染まっていた。

 

だが、5分が経過したその時。

誘導し続けていた空間座標のど真ん中に、シャルルが到達した。同時に、彼女の武装の弾幕が、玉切れを起こしたように一瞬だけ途切れる。

 

そして――彼女の顔が、ふわりと『笑顔』に変わった。

【恥ずかしがり屋の今日の顔】が最も隙を見せる、そして【シャーデンフロイデ】の怒りを買わないための、唯一のタイミングの為視線を外す。

 

「今だ……!!」

俺はシャルルから完全に視線を外し、目を逸らしたまま、全身の力を込めて『白雪姫の林檎』の槍を投擲した。

「いっけええええええっ!!」

 

オーバークロック状態によって限界まで引き出されたE.G.Oの能力が発動する。

投擲された槍は空中でドクンと脈打ち、先端が鋭い『銛』のように変質。そこから無数の強靭な『茨のロープ』が爆発的に伸び、シャルルのラファール・リヴァイヴに絡みついた。

 

「えっ……!? 動けな……きゃあああっ!?」

茨のロープが機体の関節部を完全に締め付け、シャルルを空中で十字架に磔にするように拘束する。

 

「一夏!! やれええええええっ!!」

俺は血を吐くような声で絶叫した。

 

『うおおおおおおおおっ!!』

俺の合図と共に、後方で待機していた一夏が目を見開いた。

一瞬だけ、拘束されたシャルルの姿を視界に収める。そして直後、一夏は固く両目を瞑り、完全に視界を遮断したまま、白式のスラスターを最大出力で点火させた。

 

「『零落白夜』――!!」

 

目を瞑ったままの突撃。しかし、俺が誘導した座標と、一瞬の目視による記憶の軌道は完璧だった。

光の奔流となった白式の刃が、拘束されて身動きの取れないシャルルの機体のど真ん中、そのISコアのエネルギーバリアを寸分違わず撃ち抜く。

 

パァァァァァンッ!!

という鼓膜を破るような破裂音と共に、ラファール・リヴァイヴの黒い霧が霧散し、機体の装甲が光の粒子となって分解されていく。

 

「あぁ…………っ」

シャルルが、憑き物が落ちたような、高く、どこか安堵したような叫び声を上げた。

幻想体との共鳴が強制解除され、彼女の身体を包んでいたISが完全に消滅する。

 

空中に投げ出されたのは、胸をつぶすインナーを着ていた、下着姿のまま気を失ったシャルロット・デュノアの華奢な身体だった。

フラフラと、糸の切れた操り人形のように落下していくシャルルを一夏が白式で優しく受け止め、ゆっくりと地上へと降り立つ。

 

ピピピッ、ピピピッ!

その瞬間、俺の脳内に8分経過を知らせるアラートが鳴り響いた。

「……ガブリエル、作戦終了だ。E.G.O換装」

 

俺は全身を襲う激痛と、精神がすり潰されるような疲労感に耐えながら、血に染まった赤いドレスを解除した。そして、負担の少ない『宇宙の欠片』の漆黒のスーツへと着替え、静かに地上へと降りる。

 

「一夏」

「〇〇……」

 

俺が歩み寄ると、一夏は腕の中で眠るシャルルを庇うように抱きしめながら、俺を見た。

俺は無言で右手を差し出す。一夏も、力強く右手を出した。

パァンッ! と、乾いたハイタッチの音が夜のグラウンドに響く。

 

「……作戦成功だ。よくやったな、一夏。お前の度胸と一撃のおかげだ」

「お前の誘導と拘束があったからだろ。……お前、ボロボロじゃないか」

「まあな。でも、こいつをL社に引き渡すよりはずっとマシだ」

 

俺は、一夏の腕の中で静かな寝息を立てているシャルルから、わざと視線を外した。一夏も、自分が上着を脱いで彼女の身体にかけながらも、その『女の子』としての素肌を直視しないように顔を背けている。

 

「先生たちがコートと毛布を持ってくるまで、ここで護衛するぞ。……シャルルが目を覚ました時に、これ以上恥ずかしい思いをさせないようにな」

「ああ。……そうだな」

 

どこからか、サイレンの音と、こちらに向かって急行してくる千冬先生や山田先生たちの足音が聞こえ始めていた。

夜空を見上げると、先程までの淀んだ雲は嘘のように晴れ渡り、澄んだ月明かりが、俺たち三人を静かに照らし出していた。




恥ずかしがり屋の今日の顔+シャーデンフロイデでした
シャーデンフロイデを見ながら顔ガチャをしなさい
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