IS×PM   作:本棚の一冊

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ここのL社の特徴として社長がアンジェラで図書館終了後のセフィラの仲で会社を運営しております


22話 事後処理のほうが大変だ

校門に到着した織斑千冬と山田真耶は、一夏に抱えられたシャルロットの姿を見るなり、一瞬で状況を理解した。千冬は無言のまま脱いでいた自身のコートを羽織らせ、震える身体を優しく包み込む。

 

「……二人とも、よくやった。一夏、〇〇、お前たちの判断と連携には救われた」

 

千冬の声は珍しく穏やかだった。彼女は一夏からシャルロットを受け取ると、冷厳な瞳でこちらを見据える。

 

「この件は他言無用だ。……シャルロット・デュノアの件と、今夜起きた異常事態については、明日、生徒会室で詳しく話を聞かせてもらう」

 

そう言い残し、千冬はシャルロットを車へと運んでいった。

山田先生も、張り詰めた糸が切れたような顔で俺たちに駆け寄る。

 

「本当に……よく頑張りましたね。二人とも、体は大丈夫ですか?」

「ええ、少し疲れましたが、何とか。……シャルルのことが心配です」

「二人とも、お疲れ様でした。さあ、学園の処置は先生方に任せて、寮まで送りますから乗りなさい」

 

その夜、寮の静寂はいつも以上に重く感じられた。一夏を先に降ろし、俺と山田先生を乗せた車が夜のキャンパスを走る。

寮に戻ると、俺は共同部屋で端末に向かおうとした。山田先生が「手伝いましょうか?」と言ってくれたが、俺は首を振る。

 

「いいえ、報告書は僕の役割ですので。……先生は先に休んでいてください」

【事案報告書:更識楯無および学生(シャルロット・デュノア)の精神的変調に関する事後調査】

 

件名: 幻想体共鳴による学生の暴走とその鎮圧について

対象者: シャルロット・デュノア(IS操縦者候補生)

概要:

本件、対象学生が自身の出自に関する重大な秘密が露見したことに起因する激しい罪悪感および自己嫌悪を抱き、学園内に残留していた幻想体エネルギーと共鳴、暴走を確認。

 

分析:

対象学生は幻想体「恥ずかしがり屋の今日の顔」および「シャーデンフロイデ」の特性を同時に発現させていた。

当該2体のシナジーは極めて高く、ランダムな弾幕と複雑な感情変化による予測不能な攻撃を実現させている。

鎮圧には「視線を外した状態で笑顔(隙)の瞬間を狙う」、あるいは「シャーデンフロイデの特性を逆手に取り、真っ向から圧倒する」戦術が必要不可欠であると判断。

 

結果:

当職(〇〇)がE.G.O「白雪姫の林檎」をオーバークロック状態で稼働させ、茨による物理的拘束を実施。協力者(織斑一夏)による追撃によって鎮圧に成功した。

今般の事象は複数の幻想体が融合した初のケースであり、極めて異例である。

 

特記事項:

後日、対象学生に対しL社基準に基づくE.G.O適正検査を実施すべきである。適性があると判断された場合、将来的な雇用手段の検討を推奨する。

 

報告書を送信し終え、ふう、と息を吐いて椅子から立ち上がった時、ベッドの端で小さな寝息が聞こえた。

椅子に座ったまま、力尽きてうつらうつらと眠る山田先生の姿があった。

 

「先生……?」

肩を叩くと、彼女ははっと目を覚ました。

 

「あ……ごめんなさい。〇〇君がまだ報告書を書いていたから……一人だけ先に寝るわけにはいかないと思って」

 

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。仕事に対する誇りや強さも尊敬しているが、こうして誰かのために自分の休息を犠牲にできる彼女の優しさが、今の俺には何よりも沁みた。

 

「もう大丈夫ですよ。……行きましょう」

 

二人で一つのベッドに潜り込む。狭い空間で互いの体温が伝わる。

灯りを消した後、山田先生が小さな声で呟いた。

 

「……独り言だと思って聞いてくださいね。〇〇君、以前『抱きしめたい』って仰ってましたよね。あの時、もし本当に抱きしめられていたら……きっと、すごく嬉しかったと思います」

 

動揺して振り向くと、暗闇の中で彼女が柔らかく微笑んでいた。彼女はそっと俺の手を取り、自分の手に重ねる。

 

「……今は、これで我慢してください」

 

いたずらっぽく微笑むその表情は、普段の厳格な先生の顔ではなく、一人の女性の顔だった。俺が「……いつもありがとうございます。でも、本当に僕たちは先生方を頼りすぎですね」と返すと、彼女は少しだけ真剣な表情を作る。

 

「いいんですよ、頼っていただいて。……でも、〇〇君。今言ったのは、戦術や報告書のことじゃなくて、個人的な悩みとか……そういう、心のことです」

 

彼女は少し顔を赤くしながら、俺の胸元にそっと頭を寄せてきた。

「……今はもう寝ましょう。おやすみなさい、〇〇君」

 

彼女の穏やかな呼吸音を聞きながら、俺は心臓の鼓動が早まるのを感じていた。明日にはまた厳しい日常が待っているはずだが、今のこの瞬間だけは、世界が少しだけ優しく思えた。

 

翌朝、朝礼前の静まり返った学園の廊下を、俺と一夏、そして昨夜の暴走から一夜明けたシャルル――もとい、シャルロット・デュノアの三人は、織斑先生の背中を追って歩いていた。

 

シャルロットは支給された大きめの制服に身を包み、所在なさげに俯いている。その横顔には、まだ昨夜の出来事に対する恐怖と、正体が完全に露見してしまったことへの深い絶望が滲んでいた。一夏はそんな彼女を気遣うように、少しだけ距離を詰めて歩いている。

 

千冬先生が足を止めたのは、一般の生徒や教師が立ち入ることのない、厳重なセキュリティで守られた「特別室」の前だった。

カードキーが認証され、重厚な扉が開く。

 

「入れ」

 

千冬先生の短い促しに従って部屋に足を踏み入れると、そこは重厚な調度品で整えられた会議室のようになっていた。

部屋の奥、上座に腰掛けているのはIS学園の学園長。そしてその隣には、お馴染みの扇子をパタパタと動かしながら、こちらを見て不敵に微笑む更識楯無生徒会長の姿があった。

 

楯無先輩は俺と目が合うと、悪戯っぽく口元を緩め、空いた方の手をヒラヒラと軽快に振ってきた。

(相変わらず緊迫感のない先輩だな……)と思いつつも、俺は小さく会釈を返す。

 

学園長が厳かな口調で静寂を破った。

「さて……集まってもらった理由は、言うまでもないね。デュノア候補生」

 

その呼び名に、シャルロットの肩がビクッと跳ねる。

千冬先生が腕を組み、冷徹ながらもどこか促すような視線を彼女に向けた。

 

「シャルル・デュノア。お前がなぜ性別を偽り、名前を変えてまでこのIS学園に潜入したのか。……その理由を、ここで明確に述べよ。昨夜のような暴走を二度と起こさないためにも、すべてを、だ」

 

部屋の中の視線が、一斉にシャルロットへと集まる。

一夏が心配そうに「シャルル……」と呟きかけたが、彼女はそれを遮るように、小さく息を吸い込んで顔を上げた。その瞳には、もう嘘を重ねることを止めた、潔い覚悟の光が宿っていた。

 

「……はい。すべて、お話しします」

 

シャルロットは、ぽつり、ぽつりと、これまで胸の奥底に仕舞い込んできた過酷な真実を、包み隠さず紡ぎ始めた。

 

「ボクの本当の名前は、シャルロット・デュノア。フランスのIS製造企業、デュノア社の社長の娘です。……でも、正妻の子ではなく、愛人の子でした」

 

その告白に、一夏が息を呑む。

シャルロットは自嘲気味に微笑みながら、言葉を続けた。

 

「母が亡くなった後、ボクはデュノア家に引き取られました。でも、そこには温かい家庭なんてなくて……待っていたのは、冷遇と、政治的な道具としての価値だけ。当時、デュノア社は新型ISの開発で行き詰まっていて、経営状態も最悪でした。そんな時に、世界で唯一の男性操縦者である、織斑一夏くんがIS学園に入学したんです」

 

彼女は一夏を一瞬だけ見つめ、すぐに視線を学園長たちへと戻した。

 

「一夏くんが駆る『白式』……その特異な専用機の稼働データ、そして男性がISを動かせるメカニズムの解析データ。それらは、没落しかけていたデュノア社にとって、喉から手が出るほど欲しい『最高級の商品』でした。だから、お父様はボクに命じたんです。男装して学園に潜入し、一夏くんに近づいて、すべてのデータを盗み出せ、と」

 

「……それが、お前が『シャルル』としてここにいた理由か」

千冬先生の問いに、シャルロットは静かに頷いた。

 

「はい。もし任務に失敗すれば、ボクにはもう価値がなくなって、どこかへ売り払われるか、捨てられるだけでした。だから、必死だったんです。みんなを騙して、一夏くんの優しさを利用して、データを集めて……。でも、〇〇くんや一夏くんと一緒に過ごすうちに、自分がやっていることの罪悪感に耐えられなくなっていきました。そんな時に、一夏くんに着替えを見られてしまって……」

 

シャルロットは拳を強く握り締め、声を震わせた。

「あ、頭の中が真っ白になって……お父様の言葉や、みんなを裏切っていた事実が頭の中をぐるぐる回り始めて、気づいたら、あんな化け物みたいな霧に飲み込まれていました。……本当に、ごめんなさい。ボクは、この学園を、みんなを騙していたスパイです。どんな処分でも、受け入れます」

 

すべてを吐き出し、深く頭を下げたシャルロット。部屋には、彼女の荒い呼吸の音だけが響いていた。

 

シャルロットの悲痛な告白が終わり、特別室には重苦しい沈黙が降り立っていた。

 

その沈黙を破ったのは、隣にいた一夏だった。彼は一歩前に出ると、拳を強く握り締めながら学園長を真っ直ぐに見据えた。

 

「学園長! シャルル――いや、シャルロットは、自分の意思で俺たちを騙したわけじゃないんです! 父親に強制されて、そうするしかなかったんだ! だから……少なくとも、この学園にいる3年間だけでも、どうにか彼女を守ってやることはできないんですか!?」

 

一夏の必死の訴えに、シャルロットは驚いたように顔を上げ、潤んだ目で一夏を見つめた。

 

そんな一夏の熱い訴えを遮ることなく最後まで聞き届けた学園長は、怒る風でもなく、どこか慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべた。

 

「ふふ、織斑くん、君は本当に優しい子だね。……安心しなさい。このIS学園は国際機関の管轄であり、いかなる国家や企業の不当な介入からも生徒を守る特権を有している。だから、彼女が我が学園の『学生』である3年間は、身分や過去の経緯に関わらず、私たちが全力を以て彼女の身の安全を保護することをお約束しよう」

 

「本当ですか!?」

一夏の顔にパッと明るい希望が灯る。しかし、学園長は少しだけ表情を引き締め、現実的な課題を突きつけた。

 

「ただし、ね。それはあくまで『卒業するまで』の話だ。彼女が学園を去り、一人の大人として社会に出た後、デュノア社やフランス政府が彼女をどう扱うかまでを、当学園が永久に保証することはできないんだよ」

 

学園長の言葉を引き継ぐように、それまで静かに扇子を動かしていた楯無先輩が、真剣な眼差しをシャルロットに向けた。

 

「そうね。学生っていうモラトリアムの間に、彼女自身の価値を国際社会に認めさせるような『決定的な何か』を示せないと、卒業後に実家に連れ戻されて自由を奪われる……っていう最悪の未来を引っくり返すのは、正直に言って厳しいかもしれないわ」

 

「決定的な、何か……」

一夏が言葉を失い、シャルロットもまた、己の未来の厳しさに再び視線を落とした。

 

三人が在学中に圧倒的な実績を残すか、あるいは別の強力な後ろ盾を得るか。そうでなければ、3年という猶予期間はあっという間に過ぎ去ってしまう。

 

俺たちの視線が自然と交錯する中、学園長と織斑先生、そして楯無先輩は、この状況を打開するための「もう一つの選択肢」を、俺たち、とりわけ昨夜の報告書を提出した俺に向けて提示しようとしていた。

 

俺はパタパタと扇子を動かしている楯無先輩にまっすぐ目線を合わせ、この重苦しい空気を切り裂くための現実的なカードをテーブルの上に提示した。

 

「更識会長。卒業後の後ろ盾、あるいは彼女の価値を示す『決定的な何か』という意味なら、一つ確実な方法があります。……昨夜の暴走を見て確信したんですが、シャルロットには『E.G.O(エゴ)』の適性が眠っている可能性が極めて高いです。もし、彼女にその素養があるなら……我がL社が『外部契約職員』として彼女を直接雇用する確率は、かなり高いと言えます」

 

その突拍子もない提案に、部屋の空気が一変した。

腕を組んでいた千冬先生の鋭い眉が跳ね上がり、楯無先輩も扇子の動きをピタリと止めて真剣な目を向けてくる。

 

「ほう……? 〇〇、何故そう言い切れる? 昨夜のあれは、ただの精神崩壊による暴走だろう」

「そうよ、〇〇くん。L社がわざわざ国際問題に片足を突っ込んでまで、IS学園の一生徒を雇うメリットなんてあるの?」

 

二人の当然の疑問に対し、俺は淡々と、しかし極めて実利的な理由を並べ立てた。

 

「理由は二つあります。まず一つ目。もしシャルロットにE.G.Oの適性があるなら、彼女は俺と同じように『空中からアプローチして幻想体を鎮圧できる機動要員』になれるということです。現在、この学園および世界におけるこのアプローチにおける対幻想体鎮圧要員は、実質的に俺一人のみ。ハッキリ言って、この広大な学園でいつどこに現れるか分からない化け物をワンオペで処理し続けるのには、肉体的にも精神的にも限界があります。単純に、俺の負担を減らすための『追加人員』が喉から手が出るほど欲しいんです」

 

俺が自分の肩をすくめて見せると、千冬先生は昨夜の俺のボロボロな姿を思い出したのか、黙って視線を泳がせた。

 

「そして二つ目。これはデュノア社側のメリット、ひいては彼女の父親を黙らせるための決定打になります。……もしシャルロットがL社に雇用されれば、L社とデュノア社が『IS開発および幻想体対策』の分野で共同戦線を張る口実ができる。デュノア社は『世界で唯一、L社と直接提携を結んでいるIS企業』という、他国や他企業が逆立ちしても手に入らない絶対的なブランド価値を手に入れることになります。没落しかけている会社にとって、その事実がどれだけの業績向上と株価跳ね上がりをもたらすか……お父様なら、計算できないはずがありません」

 

「なるほどね……。娘をただの政略結婚の道具にするより、L社との唯一のパイプラインとして手元に置いておく方が、遥かに価値が高いと父親に思わせるわけね」

楯無先輩が納得したようにフッと口元を緩めた。

 

「ええ。ただ、これに関しては、流石に俺一人の裁量では決められません。……『社長』の直接の判断が必要です。今からあの方に国際直通電話を入れてもよろしいでしょうか、織斑先生」

 

俺が千冬先生に許可を求めると、彼女は深くため息をつきながらも、静かに頷いた。

「分かった。会社のトップと話すなら、ここより機密性の高い部屋がいいだろう。付いてこい、別室に案内する」

 

千冬先生が立ち上がり、部屋の奥にある防音対策が施された通信室への扉を指し示す。

 

「〇〇……」

「〇〇くん……本当に、ボクのためにそこまで……」

 

一夏とシャルロットが、今にも泣き出しそうな、それでいて信じられないものを見るような目で俺を見つめていた。不安と希望が入り混じった、痛々しいほど純粋な視線。

 

俺は扉を開ける手前で、二人の不安をすべて吹き飛ばすように、いつもの調子でニカッと眩しい笑顔を作って振り返った。

 

「心配するな。俺のワンオペを解消するためでもあるんだ、ちょっと社長にワガママ言って、最強の後ろ盾(コネ)を引っ張ってくるよ。……ここで大人しく待ってろよ、一夏、シャルロット」

 

そう言い残し、俺は力強く別室へと足を踏み入れた。扉が閉まり、完全な静寂が訪れる。胸ポケットから取り出した端末の画面には、L社最高責任者――『A』の連絡先が表示されていた。




シャルロットに似合いそうなEGO武器は何だろう
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