IS×PM   作:本棚の一冊

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やっぱり書かせ溜めはよくない
そしてヴァルプルギスはまだだろうか


26話 タッグ戦前

平日のIS学園は、いよいよ明日に迫った学年別タッグ戦の話題で完全に持ちきりだった。

 

「ねえ、一夏君とシャルル君のペア、すごく相性良さそうじゃない?」

「うんうん! 模擬戦でも息ピッタリだったし、優勝候補筆頭かも!」

「でも、ラウラさんが箒さんと組んだらしいよ! それにセシリアさんと鈴音ちゃんのコンビも、この前の雪辱を晴らすってすごい気迫だったし……波乱の予感がするわね」

 

教室のあちこちからそんな噂声が聞こえてくる。

俺は自分の席でその喧騒を聞きながら、ふと先日のクラス対抗戦での『暴走事件』を思い出し、小さくため息をついた。

(どうか今回は、幻想体も暴走も起きず、ただの平和なタッグ戦で終わってくれよ……)

 

ちなみに、シャルロットが「女の子」であるという事実は、先生方の判断により『タッグ戦が終わるまではシャルルのままで伏せておく』ということになっている。今、この学園の生徒でその秘密を共有しているのは、俺と一夏の二人だけだった。

 

――そして、午後のアリーナでの訓練時間。

 

「シャルル。お前のE.G.O装備、『レティシア』がL社から届いたぞ」

 

俺が一夏とシャルロット(表向きはシャルル)をロッカールームの裏手に呼び出し、小さなケースを手渡すと、シャルロットは不思議そうに瞬きをした。

 

「これ……指輪、ですか?」

「ああ。ISの展開スイッチに似せてある。ISを起動した状態で、特定の指をギュッと折り曲げる動作をすれば、即座にレティシアの銃が展開される仕組みだ。ちょっとやってみろ」

 

シャルロットが教えられた通りに指を曲げた瞬間、光の粒子が集束し、彼女の両手にあの黒いリボンが巻かれた一丁の銃が握られていた。

 

「すごい……! 展開までのタイムラグが全くない。これなら実戦でも隙を生まない作りなんだね、〇〇くん」

「そういうこと。ただし、L社の武器だからな。いくら負担が少ないとはいえ、これはあくまで『対・幻想体用』の切り札だ。……普通のタッグ戦で幻想体が出ない時は、絶対に使わないようにしてくれ。約束だぞ」

俺が念を押すと、シャルロットは真剣な表情でコクリと頷いた。

 

「分かった。……でも、一つ気になってたんだけど。〇〇くんのE.G.O装備と、ボクのこれって何が違うの?」

 

「俺のとの違いか」俺は腕を組んで説明を始めた。「俺のは防護服と武器がセットになってるのと俺のIS自体がE.G.O装備を前提とした機体だから防壁の貫通耐性とか全体のスペックはお前が使うよりも高くなる。ただ、その分精神的な負担は跳ね上がるんだ。あとは状況に応じて近接用のE.G.Oも用意しているし、高負荷の強力なE.G.Oも扱える。ただ、俺の身体が持たないから、あれにはリミッターと厳しい時間制限が掛けられてるんだよ」

 

横で聞いていた一夏が、思い出したように口を挟んできた。

 

「じゃあ、この前のクラス対抗戦の時に〇〇が着てた、あのフリフリの可愛い服……あれも実は凄い意味があったのか? 俺、てっきり趣味か罰ゲームかと……」

 

「ぶっ飛ばすぞ一夏。アレでも性能はバカ高いんだよ。装備の見た目や性能は、元になった『幻想体』の性質次第だから、俺の意思じゃどうにもならないんだ」

俺がジト目で睨みつけると、一夏とシャルロットは「へぇー……」と感心したように声を漏らした。

 

「そっか、あの可愛い服の裏には、そんな危険と凄い性能が隠されてたんだね……」

「お前ら、分かったら二度とあの服のことはいじるなよ。……さあ、無駄話は終わりだ。タッグ戦の動きを想定して、俺が的になってやる。二人とも、連携の練度を上げるぞ!」

 

「「おう(うん)!」」

 

アリーナに移動し、俺を仮想敵とした特訓が始まった。

シャルロットが多種多様な射撃武装で俺の死角を完璧にカバーし、一夏がその隙を突いて近接格闘で飛び込んでくる。二人の息は日増しに合ってきており、俺でも防戦一方になるほどの見事な連携だった。

 

「一夏くん、右から行くよ!」

「了解! そのまま抑えてくれ、シャルル!」

 

そんな俺たちの熱気あふれる特訓風景を、アリーナの端からギリリとハンカチを噛みちぎらんばかりの勢いで睨みつけている三人組がいた。箒、セシリア、鈴音だ。

 

「……くっ、一夏があんな男とイチャイチャと……!」

「わ、わたくしたちだって負けてませんわ! ねぇ、鈴音さん!」

「そ、そうよ! でも……ううっ、なんで私たちがこんな目に……」

 

本来なら彼女たちも一夏に突撃してくるところだが、今日は妙に大人しい。

理由は簡単だ。数日前、彼女たちは『一夏の特訓計画書』という名の、誰が見てもただの『デートプラン』を織斑先生に提出したのだ。その結果、織斑先生の逆鱗に触れ、さらに隣にいた山田先生から「ふふっ、皆さん。学生の本分を忘れてはいけませんよ?(目は一切笑っていない)」という恐怖の笑顔で詰め寄られ、散々な目に遭った。

 

現在、彼女たちは自重を余儀なくされ、千冬先生による鬼のような基礎体力トレーニングのメニューを泣きながらこなしている最中だった。

 

「一夏! シャルル! 脇が甘いぞ! もっと互いの背中を意識しろ!」

「くそっ、〇〇の動きが速い……! シャルル、換装頼む!」

「任せて!」

 

俺は三人の視線に気づかないふりをしながら、明日のタッグ戦で一夏とシャルロットが確実に優勝できるよう、力の限り特訓相手を務めた。

ぶつかり合う武装の音と、飛び散る汗。

嵐のような波乱を予感させながら、IS学園のタッグ戦前日の夕暮れは、熱く更けていくのだった。

 

 

 

「ふぅ、これで今日の日報も終わり、と」

 

パソコンの画面を閉じ、キーボードから手を離して大きく伸びをする。

アリーナで一夏とシャルロットの相手をした後の書類仕事は体に堪えるが、これもL社職員としての重要な任務だ。時計を見れば、そろそろ夕食の準備を始める時間だった。

 

「さて、今夜のおかずは何にしようかな……。ここ数日、餃子とか肉料理が続いてたし……」

 

メニューを考えていると、ガチャリと玄関のドアが開く音が響いた。

 

「ただいま戻りました、〇〇君……。ふえぇ、今日の織斑先生の居残り指導の付き添い、本当に疲れました……」

 

入ってくるなり、山田先生がへなへなとリビングのソファに倒れ込んだ。どうやら箒たち三人の「デートプランお仕置き特訓」に最後まで付き合わされていたらしい。

 

「おかえりなさい、先生。今日も一日お疲れ様です。ちょうど今、晩ご飯のメニューを考えてたんですよ」

「本当ですか!? くんくん……あ、まだ作ってないんですね。ちなみに何になりそうですか?」

「ここのところ肉料理が続いてたので、今夜はさっぱりと魚料理にしましょうか。焼き魚と、出汁を利かせた煮物とか」

「わぁ、お魚! 大賛成です! 最近ちょっと胃が重かったので、そういう優しい和食が恋しかったんですよ〜」

 

山田先生は嬉しそうに立ち上がると、お気に入りのエプロンを引っ掴んでキッチンの俺の隣へと並んだ。

 

この同棲生活も始まってそれなりに日数が経ち、お互いの家事の分担やテンポにはすっかり慣れてきている。……けれど、やっぱりこうして二人きりで狭いキッチンに立ち、すぐ近くから彼女のシャンプーや体温の気配を感じるたびに、男としての心臓がドクンと跳ねてドキドキしてしまうのは、どうしても慣れそうにない。

 

「〇〇君、私はお野菜の準備をしますね。あ、そういえば明日はついにタッグトーナメントの本番ですね」

トントントン、と軽快な音を立てて大根を切りながら、山田先生が少し心配そうにこちらを見た。

 

「ええ。一夏とシャルロットの連携は仕上がってます。普通にやれば優勝を狙えるはずですよ」

「そうですね。……でも、前のクラス対抗戦のこともありますし、何事もなく、無事に大会が終わってくれるといいのですが……」

「そうですね。不穏な分子や幻想体の兆候は、俺が裏の警備で目を光らせておきます。先生は表の救護や進行をお願いしますね」

「はい! 頼りにしています、〇〇君」

 

そう言って向けられたひたむきな笑顔に、また胸が小さく高鳴る。

 

二人で手際よく仕上げた和食の夕食は、自分たちで言うのも何だが絶品だった。

「やっぱり〇〇君の味付けは落ち着きますね」「先生の切ってくれた大根も味が染みてて最高ですよ」なんて言い合いながら、美味しい時間を過ごす。

 

食後の食器洗いを二人でサッと終わらせ、お風呂を沸かした。

昨夜のようなお風呂上がりの妄想暴走を必死に抑え込みながら、厳格な『入浴中』ルールに従って別々に入浴を済ませる。

 

その後、リビングで明日のトーナメント表を見ながら少しお茶を飲み、寛いだ時間を過ごした後、私たちは寝室へと向かった。

 

部屋の明かりを消し、一台のダブルベッドへ潜り込む。

同棲生活が始まった最初の頃は、お互いにガチガチに緊張して、ベッドの端と端に寝返りも打てないほど距離を空けて縮こまっていたものだ。

 

けれど、今は違う。

 

「……〇〇君」

「はい、先生」

 

暗闇の中、布団の隙間からすっと伸びてきた温かい手が、俺の手のひらをそっと包み込んだ。自然と指が絡み合い、お互いの体温がじわじわと伝わってくる。今ではこうして、手を繋いで一緒に眠るのが二人の当たり前になっていた。

 

「明日、頑張りましょうね」

「ええ。俺たちがついているんですから、生徒たちの舞台は絶対に守り抜きますよ」

 

繋いだ手から伝わる、山田先生の優しくて、どこかホッとする温もり。

IS学園での戦いや、L社での命がけの任務でどれだけ心が擦り切れそうになっても、一日の終わりにこの温もりに触れるだけで、俺の魂は確かに救われるのだった。

 

心地よい安心感に包まれながら、俺たちは明日の決戦に向けて、静かに眠りへと落ちていった。




古いほうも残しているけど残したままでいいだろうか邪魔だろうかとかも思ってしまったり
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