IS×PM   作:本棚の一冊

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実はタッグ戦が終わるまでは書かせ終えてます


27話 タッグ戦開幕

いよいよ学年別タッグ・トーナメント戦の当日。

巨大なアリーナの観客席は、試合開始前から異様なほどの熱気に包まれていた。

 

「いい? 相手が近づいてきたら、私が牽制するからあなたが撃って!」

「分かってる! 絶対に勝つわよ!」

 

待機エリアでは、参加する生徒たちが真剣な顔つきでタッグパートナーと最終の打ち合わせを行っている。一方、観客席にいる非参加の生徒たちは、お気に入りの生徒の名前を書いた手作りの横断幕を掲げたり、似顔絵を描いたボードを振ったりと、思い思いのスタイルで声援を送る準備を整えていた。

 

そんな喧騒の中、俺はL社の学園警備担当として、何か異常が起きた際に『最速でアリーナに飛び降りられる』最前列の特別席に腰を下ろした。

 

「よし、視界良好。ここなら全域をカバーできるな」

 

そう呟いて機材のチェックをしていると、すぐ隣の席に二つの人影が座った。

 

「手抜かりはないようだな、〇〇」

「おはようございます、〇〇君! 今日は特等席での観戦ですね!」

 

威風堂々とした足取りで現れたのは、黒いスーツをビシッと着こなした織斑千冬先生と、実況用のマイクバインダーを抱えた山田真耶先生だった。

 

「織斑先生、山田先生。お疲れ様です」

 

俺が軽く会釈をすると、周囲の観客席の空気が一瞬にしてピリッと張り詰めた。IS学園の絶対的カリスマである千冬先生がすぐ近くに座ったことで、周囲の生徒たちが極度に緊張し始めたのだ。

 

「ひぃっ、お、織斑先生がこんな近くに……!」

「姿勢を正せ! 睨まれたら殺されるわよ!」

 

そんな怯えた声がヒソヒソと聞こえてくる中、やがて生徒たちの視線は、千冬先生を挟むようにして座っている俺と山田先生の方へと向き始めた。そして、あらぬ方向への妄想と噂話が、さざ波のように広がっていく。

 

「ね、ねえ……あの席に座ってる〇〇君と山田先生って、やっぱりそういう関係なのかな?」

「そういえば最近、一緒に帰るところとか、スーパーで買い物してるところ目撃されてるんでしょ!?」

「ええっ!? 教師と生徒で!? しかも同居してるって噂、本当だったの!?」

「やだ、〇〇君ったら年上キラー……! 山田先生を恋人にするなんて、隅に置けないわね!」

「でもお似合いじゃない? いつも一緒にいるし、なんだか夫婦みたいなオーラ出てるし……」

 

「――っ!?」

 

周囲から漏れ聞こえてくる赤裸々な妄想話に、山田先生はボンッ! と音が鳴りそうなほど顔を真っ赤にして、パタパタとバインダーで顔を扇ぎ始めた。

 

「わ、わわわ、私と〇〇君が恋人だなんて、みんな何を根拠に……! 〇〇君、ど、どうしましょう、変な噂が……!」

「落ち着いてください、山田先生。こういう時は下手に反応すると余計に面白がられますから、堂々としていればいいんです」

 

俺は努めて冷静な表情を保ちながらそう答えたが、内心では(スーパーで一緒に買い物してたの、しっかり見られてたのかよ……!)と冷や汗を流していた。

 

そんな俺たちのやり取りを横目で見ていた千冬先生が、呆れたように鼻で笑う。

 

「フン。お前たち、外野の戯言にいちいち動揺するな。警備担当と実況解説が浮ついてどうする。……もうすぐ始まるぞ」

 

千冬先生の鋭い一言で、俺と山田先生はビクッと背筋を伸ばした。

 

「は、はいっ! すみません、織斑先生! ――あ、あー、マイクテスト、マイクテスト。……皆様、大変長らくお待たせいたしました!」

 

山田先生がマイクを握り、アリーナ全体に響き渡る透き通った声でアナウンスを開始する。

 

『これより、IS学園一年生による、学年別タッグ・トーナメント戦を開催いたします! 実況は私、山田真耶と――』

『解説は織斑千冬だ。……各員、日頃の訓練の成果を存分に見せろ。無様な戦いをした者は、後でグラウンド百周だ』

 

千冬先生の恐ろしすぎるゲキが飛ぶと、アリーナの生徒たちから「ひぃぃっ!」という悲鳴と、「おおおおっ!」という熱狂的な歓声が入り混じった轟音が巻き起こった。

 

『それでは、第一回戦、第一試合の選手、前へ! 試合開始(レディー・ゴー)!!』

 

山田先生の開会宣言と共に、アリーナの巨大スクリーンにトーナメント表が映し出され、待機エリアからISを展開した生徒たちが次々と空へ飛び出していく。

 

「よし……」

 

俺は歓声に包まれるアリーナを見下ろしながら、いつでも『レティシア』や高負荷のE.G.Oを展開できるよう、静かに意識を研ぎ澄ませた。

波乱含みのタッグトーナメント戦が、ついにその幕を開けたのだった。

 

 

 

一年生限定とはいえ、世界中から集められた代表候補生たちが参加するタッグ・トーナメント戦。その試合数は膨大であり、当然ながら一日で全ての日程が消化できるわけではなかった。

 

しかし、試合を重ねるごとに「強者」の存在は自ずと際立ってくる。

 

『――勝負あり! 勝者、織斑一夏・シャルロット・デュノア組!!』

 

山田先生の興奮した実況がアリーナに響き渡る。

白式とラファール・リヴァイヴのコンビネーションは息を呑むほど美しかった。一夏が前衛で注意を引きつけ、シャルロットが後方から的確な死角への援護射撃を行う。互いの欠点を補い合う、まさに理想的なタッグだ。

 

「フン……まあ、あの二人は普段から連携の訓練を積んでいるからな。だが、一夏はまだ前に出すぎる癖がある。後で絞ってやらんとな」

「織斑先生、あまり厳しくしすぎないであげてくださいね。一夏君、すごくいい動きをしてましたよ」

「甘いぞ、山田。あれしきの動きで満足されては困る」

 

隣に座る織斑先生は腕を組みながら厳しい評価を下しているが、その横顔はどこか教え子の成長を誇らしく思っているように見えた。

 

他にも、アリーナの空を席巻しているタッグがあった。

ラウラと箒のタッグは、連携というよりは個々の圧倒的な暴力と剣技で相手をねじ伏せるような、荒々しくも強力な戦い方を見せつけていた。そしてセシリアと鈴音のタッグも、ブルー・ティアーズの遠隔操作兵器(ビット)による空間制圧と、甲龍の衝撃砲による高機動のヒット&アウェイで、他を寄せ付けない強さを発揮している。

 

「あの3組が、現状では頭一つ抜けて目立っていますね」

「ええ、〇〇君の言う通りです。でも、他の生徒たちも負けていませんよ。ほら、あそこを見てください」

 

山田先生が指さした先の待機エリアでは、これから出番を控えている生徒たちが、タブレット端末を食い入るように見つめ、熱い議論を交わしていた。

 

「デュノアさんの射撃のタイミング、この映像からだと一夏君が踏み込んだコンマ数秒後よ。私たちが当たる時は、一夏君の踏み込みをフェイントにして……」

「オルコットさんと凰さんのタッグは遠距離が強すぎるわ。シールドのエネルギーを前方に集中させて、一気に距離を詰めるしかない!」

 

その光景を見て、俺は感心したように息を吐いた。

 

「すごいですね……。ただ見ているだけじゃなく、自分たちより強い相手の戦闘映像を即座に分析して、具体的な対策を立てている。やっぱりこの学園の生徒たちは、正真正銘のエリートなんですね」

「当然だ。ただ漫然と空を飛んでいるだけの奴など、この学園には一人もいない。勝つために頭を使い、あがき続けるのがIS操縦者の最低条件だ」

「ええ。とても……素晴らしい光景だと思います」

 

俺は織斑先生の言葉に頷きながら、彼女たちには聞こえないように小さく微笑んだ。

 

(本当に、平和でいいな……)

 

生徒たちがやっている「打ち合わせ」は、あくまでトーナメントで勝つためのものだ。負けたとしても、悔しい思いをするだけで命を落とすことはない。

 

翻って、俺がいたL社での打ち合わせはどうだったか。

『木こりの攻撃範囲に入らないよう、常に距離を測れ』『廊下で花が咲いていたら絶対に寄るな』『この手順を一つでも間違えれば、お前たちは肉の塊になるか、精神を崩壊させて化け物に成り果てる』

 

失敗=死、あるいはそれ以上の絶望。

血と狂気にまみれた、命のやり取りしか存在しないブリーフィング室の冷たい空気を思い出し、俺は目の前で繰り広げられる「健全な競争」の眩しさに目を細めた。

 

「どうか、このまま何も起きず、無事に大会が終わってくれますように……」

 

ポツリと呟いた祈りの言葉は、歓声にかき消されて誰の耳にも届かなかった。

 

「……〇〇君? どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありませんよ、山田先生」

 

心配そうに覗き込んでくる山田先生に笑いかけながら、俺は自分の左手首に視線を落とした。

そこには、自身のISを起動するためのキーである、無骨な腕時計が巻かれている。

腕時計の冷たいガラス盤面を指の腹でそっと撫でながら、俺は心の奥底にほんの少しだけ湧き上がった「普通の学生への憧れ」を、そっと心の奥に仕舞い込んだ。

 

 

 

『――ふぅ、これで本日の活動日報は、あとは締めくくりの言葉だけだな』

 

タッグ戦の一日目が何事もなく無事に終了し、俺は山田先生との共同部屋にある自分の個室で、パソコンに向かってキーボードを叩いていた。何が起きるかと警戒していたが、幻想体の予兆も暴走もなく、平和なまま一日目を終えられたことに心から安堵していた。

 

その時、デスクの上に置いていたL社支給の特殊端末が、ピコンと重々しい通知音を鳴らした。

 

画面を開くと、本部からの暗号化メールだった。

 

【件名:新規E.G.O装備の支給および換装データの更新について】

【宛先:日本支部所属・特別3級職員 〇〇】

 

「本部からの支給連絡? 明日の朝、指定の場所で受け取れって……お、特徴の画像データも添付されてるな」

 

俺がデータをダウンロードして画面を見つめていると、トントン、と個室のドアが優しく叩かれた。

 

「〇〇君、夜遅くまでお疲れ様です。温かいハーブティーを淹れたので、少し休憩しませんか?」

 

「あ、山田先生。ありがとうございます、ちょうど一区切りついたところです」

 

ドアを開けて入ってきた山田先生は、お揃いのパジャマ姿で、湯気の立つマグカップを二つ持って微笑んでいた。彼女のその柔らかい笑顔を見るだけで、一日の疲れがスッと吹き飛んでいくような気がする。お互いに好意を抱いているのは何となく察しているけれど、教師と生徒という立場、そしてこの奇妙な同棲生活のバランスを壊したくなくて、あと一歩が踏み出せない。そんなもどかしい距離感が、今の俺たちの関係だった。

 

「お仕事、L社からの業務連絡ですか?」

 

山田先生がマグカップをデスクに置きながら、画面を覗き込んできた。

 

「ええ、特別3級職員としての新しい装備の支給連絡です。明日から使えるみたいですね。一つ目は……幻想体『裸の巣』のE.G.Oだそうです」

 

「裸の巣……ですか? どんな装備なんですか?」

 

俺は添付された画像と説明文を読み上げながら、思わず顔をしかめた。

 

「ええっと、防護服は『表面がヌメヌメして、常に着用していると肌触りが悪い』……って書いてありますね。色は枯れ木色のスーツか」

 

「うわぁ……ヌメヌメですか……。それは、着るのに少し勇気が要りますね」

 

山田先生が困ったように眉を下げて笑う。しかし、俺はガタッと椅子から立ち上がらんばかりの勢いで拳を握りしめた。

 

「いや、先生! ヌメヌメなんて些細な問題です! あの『レティシア』や『白雪姫の林檎』みたいな、フリフリの女の子の格好をさせられて社会的に死ぬリスクに比べたら、枯れ木色のスーツなんて男物だし一億倍マシですよ!!」

 

「あ、あはは……。〇〇君、本当にあの女装ドレスがトラウマになってるんですね……」

 

山田先生は苦笑しつつも、どこか楽しそうに俺を見つめている。そんな彼女の視線に気づいて、俺は少し赤面しながらゴホンと咳払いをして画面に目を戻した。

 

「武装は超長距離用のハンドキャノンで、変調仕様によってサブマシンガンにも変形できるみたいです。特徴としては、命中した標的に傷があれば、そこから因子が侵入して装甲を一定時間脆くするデバフ効果。ただ……『白雪姫の林檎』と同じ最高レベル一歩手前のWAWクラス装備なので、俺のISの出力だと、稼働時間に15分のリミッターが掛けられてます」

 

「15分……。本当に切り札として使う強力な武器なんですね。もう一つの装備は?」

 

「もう一つは、幻想体『道を失った乗客』のE.G.Oです。こっちは軽鎧の作業着といった感じの、実用的なデザインですね。帽子には線を一本足した『W』の意匠を施した水色のマークがあります。……あ、これ、格闘戦を重視した内容になってますね」

 

「格闘戦ですか? 〇〇君は大鎌が得意ですけど、格闘もいけるんですか?」

 

「一通りは叩き込まれましたからね。防護服と一体になったガントレットとブーツを使うみたいですが……『格闘の軌跡がそのまま次元の裂け目になる』って書いてあります。相変わらずL社の武器は物っ凄い物騒だな……」

 

俺の言葉に、山田先生も「次元の裂け目……」と驚いて目を丸くしている。

 

「あ、でもこれ、すごい特徴がありますよ。エネルギーを多く消費する代わりに、その次元の裂け目に侵入して『短距離跳躍(ワープ)』が可能って書いてあります。俺のISの特徴であるオーバークロック状態じゃなくても、この能力が標準化されて使えるのはデカい。戦闘中の不意打ちや、緊急回避にうまく使えそうです」

 

「凄い性能ですね。……でも、〇〇君」

 

山田先生がマグカップを両手で包み込みながら、真剣な、どこか切なげな瞳で俺をじっと見つめてきた。

 

「いくら高性能な装備が届いても、あまり無理な戦い方はしないでくださいね。特別3級職員としての任務も大切ですけど……私にとっては、〇〇君の体が何よりも一番大切なんですから。あなたが傷つくところは、もう見たくありません」

 

「先生……」

 

真っ直ぐに向けられた彼女の心配と、それ以上の深い情愛がこもった言葉に、胸の奥がドクンと激しく跳ねる。彼女も私のことを、ただの生徒以上のお守り対象として見てくれているのだろうか。そんな期待が頭をよぎり、お互いにじっと見つめ合ってしまう。

 

室内の温度が急に上がったような錯覚に囚われ、俺たちはどちらからともなく、赤くなった顔を隠すように同時に目をそらした。

 

「あ、あの! ハーブティー、冷めないうちに飲んでくださいね!」

 

「は、はい! いただきます!」

 

お互いにドギマギしながらお茶をすすり、少し落ち着いたところで、俺はパソコンの画面に向き直った。業務報告書の最後、日報の締めくくりの欄へとカーソルを合わせる。

 

「よし。明日の朝、指定の場所で装備を回収して、本戦の警備に備えます」

 

「はい。明日も織斑先生と一緒に、私も精一杯サポートしますね」

 

「お願いします。……これでよし、と」

 

俺は日報の最後の行に、『明日のタッグ戦の本戦も、何事もなく無事に終わることを祈る』と強い願いを込めて書き加え、送信ボタンを押した。

 

新装備のデータを頭に叩き込みながら、俺は隣で微笑む山田先生の温もりを背中に感じつつ、明日の決戦に向けて静かに闘志を燃やすのだった。




急いでまとめ終えなければ…
評価システム周りのこととかどうして赤いバーがついたのかわからないので
詳しい人感想などで教えていただければ幸いです
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