IS×PM   作:本棚の一冊

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気が付けば30話近くなっている不思議


28話 二日目開始

タッグ戦二日目の朝。澄み切った青空の下、登校時間で賑わうIS学園の正門付近で、俺は一般の業者を装って待機していたL社の職員と密かに接触した。

 

「おはようございます、特別3級。昨夜通達のあったE.G.O装備のデータパックです。すでにインストール準備は整っています」

「ご苦労様です。……よし、無事にISへの落とし込みが完了しました。これで『裸の巣』と『道を失った乗客』の武装がいつでも展開可能です」

 

専用端末を操作し、ISの起動キーである腕時計に新たな戦力を宿す。手首に走る微かな振動と冷たい感覚に身を引き締めながら、俺は足早にアリーナへと向かった。

 

会場に到着し、昨日と同じ最前列の警備用特別席に腰を下ろす。すでに両隣には、バインダーを抱えた山田先生と、腕を組んで鋭い視線をアリーナに向けている織斑先生が座っていた。

 

「おはようございます、山田先生、織斑先生」

「あ、〇〇君! おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「ええ、おかげさまで。……いよいよ二日目、残るは一日目を勝ち抜いた精鋭16組ですね」

 

俺の言葉に、山田先生は少し緊張した面持ちで頷いた。アリーナの待機エリアに目をやると、勝ち上がってきた生徒たちの顔には明らかな疲労の色が滲んでいるのが遠目からでも分かった。

 

「……一日目よりも、お互いの疲労が大変そうですね」

俺がぽつりと言うと、織斑先生が視線を動かさずに耳を傾けた。

「一日目で相手の動きや手札をある程度晒していますからね。当然、相手の動きや癖を見抜いて対策を立ててくる。そうなれば、容易には決着がつかず長期戦になりやすい。そして長期戦になれば……残弾やシールドエネルギーはともかく、パイロット自身の『身体の疲労による反応速度の低下』は絶対に馬鹿になりません」

「その通りだ。ISの操縦は肉体と精神の双方に莫大な負荷をかける。特に精神面での消耗は、第二世代以降の機体では顕著に出る」

織斑先生の低い声に同意しつつ、俺はさらに分析を続ける。

「かといって、疲労を避けるために無理に短期決戦に持ち込もうとすれば、それ専用の極端な作戦を組む必要があり、無茶な動きを強いられるリスクが跳ね上がる。……いくら専用機を持っている腕の良い生徒たちでも、人間である以上『疲れ』からは逃れられません。試合と試合の間のインターバルをどう過ごすか、そのマネジメントすらも勝敗を分けそうですね」

俺の言葉に、織斑先生は無言で深く頷いた。

 

午前中の試合は何事もなく、順調かつ熾烈に消化されていった。

L社の業務のような「命のやり取り」がないとはいえ、彼女たちの放つ熱気と執念は本物だ。そして午後、ついに残った4組のタッグによる準決勝と決勝の時間がやってきた。

 

第一試合の準決勝では、圧倒的なパワーと制圧力を見せつけたラウラと箒のタッグが先に勝ち上がり、決勝への切符を手にした。

 

そして、続く準決勝第二試合。

アリーナのスクリーンに、『織斑一夏・シャルル・デュノア』 対 『セシリア・オルコット・凰鈴音』 の名前が大きく映し出された。

 

俺は息を呑んだ。一夏とシャルロットの息の合った連携か、それともセシリアと鈴音の雪辱に燃える猛攻か。どちらが勝ってもおかしくはない、事実上の頂上決戦とも言えるカードだ。

 

「それでは、準決勝第二試合……試合開始!!」

山田先生の透き通るようなコールがアリーナに響き渡った瞬間、凄まじい爆発音が会場を揺らした。

 

【準決勝第二試合:織斑・デュノア VS オルコット・凰】

 

「一夏さん、シャルルさん! わたくしたちの誇りにかけて、ここは絶対に譲りませんわよ!!」

開始と同時、上空へ舞い上がったセシリアが叫ぶ。彼女の専用機『ブルー・ティアーズ』の背部から、四機の特殊兵装――遠隔操作型レーザー兵器『ビット』が分離し、四方八方へと散開した。

「一夏ぁ! 幼馴染の意地、ここで見せてあげるわよ! ペチャンコになりなさい!」

セシリアの牽制に合わせ、鈴音が操る『甲龍』が地を蹴り、恐るべき速度で一夏へと肉薄する。両肩に懸架された龍咆が青白い光を帯び、空間そのものを圧縮した見えない砲弾が連射された。

 

「くそっ、開始早々フルスロットルかよ! シャルル、散開だ!」

「了解! ボクがセシリアさんのビットを落とす! 一夏は鈴音ちゃんを抑えて!」

 

一夏の『白式』がスラスターを吹かして衝撃砲の直撃を間一髪で回避する。その直後、シャルロットの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムII』が、展開したアサルトライフルから正確無比な三点バーストを放ち、セシリアのビットの一機を牽制した。

 

「ちぃっ、ちょこまかと……! ならばこれでどうですの!?」

セシリアが指先を振るうと、四機のビットが不規則な軌道を描きながら、全方位からのオールレンジ攻撃を開始する。赤いレーザーの雨がアリーナに降り注いだ。

 

「すごい数……でも、軌道は読める!」

シャルロットは冷静だった。彼女は戦況に応じて武装を瞬時に切り替える『マルチ・ウェポン』の特性を極限まで活かしていた。アサルトライフルをパージし、瞬時にスナイパーライフル『ヴェント』を展開。空中で激しい回避軌道を取りながら、レーザーの射線が交差するほんの僅かな隙間を縫って、精密な狙撃を放つ。

ガァンッ! という金属音と共に、セシリアのビットが一機、シールドエネルギーを大きく削られて弾き飛ばされた。

「なっ……わたくしのビットの動きを完全に読んでいるというのですか!?」

「今度はこっちから行くよ、セシリアさん! 展開!」

さらにシャルロットは、接近してこようとしたセシリアの動きを封じるため、両腕の装甲内に格納されていたブレードを抜き放ち、一気に距離を詰める。狙撃機と見せかけての急接近。セシリアは慌ててスターライト・mkIIIを構えて応戦を余儀なくされる。

 

一方、地上付近では、一夏と鈴音の激しいドッグファイトが繰り広げられていた。

 

「どうしたの一夏! 逃げてばっかりじゃない!」

鈴音の甲龍が、双天牙を振り回し、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。中国武術をベースにした滑らかかつ鋭い連撃。

「うるせぇ! このお転婆娘が!」

一夏は白式の近接ブレード『雪片弐型』でそれを必死に受け流す。鍔迫り合いのたびに激しい火花と衝撃波が散る。

 

警備席から見下ろす俺の目には、戦況が明確に見えていた。

「……一見すると互角に見えますが、疲労の差が出始めていますね」

俺が呟くと、実況の合間に山田先生がハッとしてマイクを塞いだ。

「えっ、どういうことですか、〇〇君?」

「鈴音の動きです。彼女は一日目からずっと、自身の機動力を活かしたインファイトを主軸にしてきました。その蓄積した疲労が、今、わずかに反応速度を遅らせている。一夏の防御が間に合っているのは、一夏が成長したというのもありますが、鈴音の踏み込みがコンマ数秒遅れているからです」

織斑先生も腕を組んだまま同意する。

「その通りだ。凰の機体は衝撃砲の反動をパイロットの肉体で殺す必要がある。対して一夏の白式は、シールド防御に特化している分、肉体的な疲労は凰よりも少ない」

 

アリーナでは、俺の予測通り、鈴音の息が少しずつ上がり始めていた。

「ハァッ……ハァッ……! まだ、まだよ! 衝撃砲、最大出力!」

鈴音は一気に勝負を決めるべく、白式の目の前で両肩の龍咆を限界までチャージした。直撃すれば、いかに白式といえどシールドエネルギーを根こそぎ持っていかれる。

 

「一夏さん、危ない!!」

上空でセシリアと交戦していたシャルロットが叫ぶ。しかし、彼女はセシリアの猛攻に釘付けにされており、カバーに入る隙がない。

 

「させるかよ……っ!! 『零落白夜』!!」

一夏は退かなかった。彼は残された白式のエネルギーを雪片弐型に集中させ、巨大な光の刃を形成する。そして、鈴音が衝撃砲を放つその瞬間、真っ向から大上段から光の刃を振り下ろした。

 

ドゴォォォォォォォォォンッ!!

 

極太の衝撃波と光の刃が正面から激突し、アリーナの中心で凄まじい大爆発が起きた。もうもうと立ち込める分厚い煙幕。会場全体が揺れ、観客から悲鳴のような歓声が上がる。

 

「一夏! あんたバカじゃないの!? 正面から打ち合うなんて……!」

煙の中で体勢を崩した鈴音。その衝撃砲は相殺されたものの、激しい反動で甲龍の機動力が一瞬完全に停止した。

 

「今だ、シャルル!!」

煙幕の向こうから、一夏の嗄れた、しかし力強い声が響いた。

一夏は最初から、自分を囮にしてこの「巨大な煙幕と隙」を作り出すことが目的だったのだ。

 

「――っ! もらいましたわ、シャルルさん! これで終わりです!」

上空のセシリアは、下方の爆発に気を取られた(ように見えた)シャルロットの背後を取り、四機のビットとメインライフルすべての銃口を彼女の背中に定めていた。絶対絶命のピンチ。

 

しかし、シャルロットの口元には、冷たくも美しい笑みが浮かんでいた。

「……ありがとう、一夏くん。最高のタイミングだよ。セシリアさん……ボクの機体が、どうして『ラファール・リヴァイヴ』なのか、教えてあげる!」

 

シャルロットは背後に迫るセシリアの銃口を一切見ることなく、手にしたブレードとライフルを空中に放り捨てた。

「なっ!? 武器を放棄しましたの!?」

驚愕するセシリア。次の瞬間、シャルロットの背部バインダーが展開し、無数の武装が一斉に空中に射出された。兵装転送システム『レイン・ガレージ』による、瞬間的な全武装パージ&再装備。

 

シャルロットが新たに掴み取ったのは、巨大な装甲貫通兵器――『パイルバンカー』だった。

「一夏の作った煙幕で、視界が遮られているのはお互い様だよね!」

シャルロットは強烈なスラスターの推進力に任せ、煙幕を突き破るように急反転。セシリアが放ったレーザーの雨をシールドのギリギリで耐え凌ぎながら、一瞬でセシリアの懐へと潜り込んだ。

 

「嘘……速――」

セシリアが防御シールドを最大展開しようとした、その瞬間。

 

ガギィィィィンッ!!!

 

シャルロットの放ったパイルバンカーの鉄杭が、ブルー・ティアーズの絶対防御シールドを物理的に粉砕し、機体のコアスレスレでピタリと停止した。

同時に、煙幕が晴れた地上では、一夏の雪片弐型が、体勢を崩した鈴音の首筋に突きつけられていた。

 

『シ、シールドエネルギー・ゼロ!! 勝負ありっ!!』

山田先生の裏返ったような実況の声が、マイクを通してアリーナ全体に響き渡った。

 

『勝者――織斑一夏・シャルル・デュノア組!!』

 

静まり返っていた観客席から、地鳴りのような大歓声が爆発する。

「やった……! やったぞ、シャルル!」

「うん、一夏のおかげだよ! 最高の作戦だった!」

アリーナの上空で、一夏とシャルロットが機体を近づけ、ガシリと強くハイタッチを交わした。その姿は、互いの疲労と痛みを分かち合い、極限の戦いを乗り越えた者だけが持つ眩しさに満ちていた。

 

敗れたセシリアと鈴音は悔しそうに顔を歪めていたが、やがて互いの健闘を称え合うように、一夏たちと言葉を交わしている。

 

「……見事な戦いでしたね。個々の火力ではセシリアと鈴音が上回っていましたが、コンビネーションと、疲労の限界を見極めた一瞬の勝負勘で、一夏とシャルロットが競り勝ちました」

俺が深く息を吐きながらそう総括すると、織斑先生も口元にわずかな笑みを浮かべた。

「ああ。互いの弱点を補い、最後まで味方を信じ切った泥臭い勝利だ。……さて、これで役者は揃ったな」

 

準決勝の熱波が残る中、アリーナでは決勝戦へ向けた短い休憩時間が宣言された。

残るは、無敗の絶対王者とも言える『ラウラ・箒』タッグと、今、死闘を制して勢いに乗る『一夏・シャルロット』タッグの最終決戦。

 

俺は己の腕時計――L社の『先鋒型IS』と新たなE.G.O装備の起動待機ランプが、静かに、異常なく緑色に点灯しているのを確認し、これからの決勝戦が「ただの学生の試合」として平和に終わることを、心の中で強く祈り直した。

 

 

 

決勝戦を控えたアリーナの舞台裏。短い休憩時間ということもあり、静まり返った待機エリアでは、それぞれのタッグが最終調整と作戦会議に追われていた。

 

学園最強の呼び声高いラウラを擁するタッグに挑む、一夏とシャルロットの控室。二人は戦闘用スーツの汗を拭いながら、真剣な面持ちでホログラムディスプレイを囲んでいた。

 

「……やっぱり、決勝の鍵は『2対1のシチュエーション』をどうやって作るかだよね、一夏」

 

シャルロットがスナイパーライフルのボルトを厳しくチェックしながら、声を低くして切り出した。

 

「ああ。作戦の基本は、相手の連携を分断して各個撃破だ。けど、あっちのタッグは……」

 

一夏が苦い顔で腕を組む。ディスプレイに映し出されているのは、ラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』と、箒が駆る第2世代量産機『打鉄』のデータだ。

 

「問題はラウラだ。あいつをフリーにしたら、AICでこっちの動きを止められて、その隙に一網打尽にされる。だから……」

 

「うん、ボクも同意見だよ。作戦としては、ボクたちが2人でラウラさんを徹底的に抑え込む。ボクの連射と一夏くんの近接で彼女にプレッシャーを与え続けて、AICを使う余裕すら与えない。その猛攻の合間に、隙を見て箒さんの『打鉄』を巻き込んで崩していく……この方向で行こう」

 

「ラウラを2人がかりで縛り付けながら、全体の戦況をコントロールする、か。かなりタフな戦いになるな」

 

「大丈夫、ボクたちの連携なら絶対にできるよ。いこう、一夏!」

 

「おう!」

 

互いの目を見つめ合い、固い握手を交わす二人。彼らの作戦は、最強の敵であるラウラを「2人で抑え込む」という、非常に理にかなった、かつ組織的なものだった。

 

一方その頃、ラウラと箒の控室では、全く異なる空気が流れていた。

彼女たちの作戦方針もまた「2対1の状況を作る」ということでは一致していたのだが、その中身の方向性が、あまりにも違っていた。

 

「おい、篠ノ之。作戦を確認するぞ。……ターゲットは一夏だ」

 

ラウラが黒い眼帯の奥の瞳を鋭く光らせ、冷徹な声で告げた。

 

「な、何だと!? ラウラ、お前も一夏を狙うというのか!?」

 

箒が『打鉄』の実体刀を磨く手を止め、不満げに声を荒らげる。一夏に対して「自分の剣」で正々堂々と勝ちたいという意地が、人一倍強かったのだ。

 

「当然だ。私は一夏が気に入らん。あの男が私の教官の弟だなどと、未だに認めん。私の手で、完膚なきまでに叩きのめして分からせてやる」

 

「待て! 一夏は私が斬る! 幼馴染として、あの男の生半可な剣をここで正さねばならんのだ! お前はあのフランスの候補生を抑えていろ!」

 

「断る。なぜ私がそんな雑魚の相手をせねばならん。一夏を2人で袋叩きにして、速やかに戦闘不能に追い込む。それが最も確実で効率的な勝利への道だ」

 

「袋叩きだと!? そんな誇りのない戦い方ができるか! 私は一夏と一対一で――」

 

「黙れ。これはトーナメントの決勝だ。私とて、教官の目の前で無様な敗北を喫するわけにはいかない。お前の個人的な感傷など知ったことか。とにかく、合図と同時に一夏へ突撃しろ。いいな」

 

「くっ……! 相反するとはこのことか……!」

 

箒は悔しそうに歯噛みした。

一夏が気に入らないから叩き潰したいラウラ。一夏に自分の剣で勝ちたい箒。二人の動機は完全にバラバラで、激しく衝突していた。しかし、「最初に一夏を狙う」という一点においてのみ、奇妙な形で戦術が一致してしまっていたのだ。

 

「……なるほど。あっちの控室、かなり火花が散ってそうですね」

 

特別席から両陣営の待機エネルギーの波形をモニターしていた俺は、隣の山田先生に苦笑いを見せた。

 

「え、ええ……。ラウラさんのタッグは、なんだかすごい殺気を感じます……。一夏君、大丈夫でしょうか」

 

「作戦の緻密さなら一夏とシャルロットが上ですが、ラウラと箒の『一夏を絶対に潰す』っていう、理屈を超えた圧迫感は脅威ですね。……織斑先生はどう見ますか?」

 

俺が尋ねると、織斑先生はフンと鼻で笑い、冷たいお茶を口に含んだ。

 

「戦いは綺麗事ではない。個の力がどれほど歪んでいようと、それが噛み合った時の瞬発力は時に組織的な戦術を凌駕する。……だが、それをいなしてこそ本物だ。一夏たちがどう対応するか、見物だな」

 

『――全選手、アリーナへ入場してください! これより、学年別タッグ・トーナメント戦、最終決勝戦を行います!!』

 

山田先生のアナウンスが響き渡り、両陣営のゲートが開く。

空へと飛び出す、4機のIS。

 

お互いに「2対1」の状況を作ろうとしながらも、その思想が真っ向から対立する決勝戦。俺はアリーナの空を鋭く見つめた。




書かせ溜めしてしまったのもお前のせいだな!イシュメール!
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