IS×PM   作:本棚の一冊

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黒の便利屋は許さないよ


30話 鎮圧作戦

『〇〇、よく聞け! あのラウラの機体に発現した現象、おそらく「VTシステム」だ!』

 

通信越しに響く織斑先生の声は、かつてなく緊迫していた。

 

「VTシステム……!? それは一体、どんな機能なんですか!」

『機体のブラックボックスに隠されていた機能だ。過去のISの戦闘データから、最強と呼ばれた操縦者の動き、反射神経、さらには思考パターンに至るまでを機体と操縦者に強制的にトレースさせる……。そのトレース元は――かつての私自身だ!』

 

「なっ……!?」

『嘘だろ、千冬姉の動きをそのままコピーしてるっていうのかよ!?』

 

俺と一夏、そしてシャルロットは通信越しに言葉を失った。

ただでさえ圧倒的な戦闘力を持つ織斑千冬の技術。それを、自我を失った暴走状態のラウラが振るい、あろうことか『何もない』の因子を持つ幻想体と融合してしまっているのだ。冗談抜きで最悪の事態だった。

 

「チッ……! シャルル、制限解除だ! お前の判断でE.G.O装備『レティシア』を展開して応戦してくれ! 今のラウラはもうただのISじゃない、幻想体の異常性が混じってる!」

『了解したよ、〇〇!』

「一夏! お前は絶対にラウラを下に降ろすな! あいつが地上に降りてゴーレムの群れと合流して破壊活動を始めたら、避難中の生徒たちが巻き込まれる! 空中で徹底的に嫌がらせをして足止めしろ!」

『嫌がらせって……相手は千冬姉の動きをするんだぞ!? どうやって足止めしろって言うんだよ!』

「俺との特訓を思い出せ! なるべく接近して、攻撃を捨てて『防御』と『回避』だけに全神経を集中しろ! ただの鬱陶しい羽虫になれ!」

『あ……! ああ、あの地獄の回避特訓か! 分かった、やってやる!』

 

空中の二人にラウラを任せ、俺は無人機の雨が降り注ぐアリーナの地上へと着地した。

視線の先には、システムダウンして動けない箒の『打鉄』がある。

 

「箒! 動けるか!」

「〇、〇〇……! 私は大丈夫だが、機体が……!」

 

俺が箒を回収しようと駆け寄ったその時、行く手を遮るように『ピノキオ』のような木彫りの幻想体が立ちはだかった。

ギチギチと関節を鳴らしながら、そいつは俺をジロリと見つめる。次の瞬間、木彫りの輪郭がグニャリと歪み、俺と全く同じ構え、全く同じ動きを取り始めた。

 

「……なるほど、俺を模倣しやがったか。厄介な……!」

 

俺が右へステップを踏めば、奴も同じ速度で左へステップを踏む。大鎌を構えれば、奴も腕の木材を大鎌の形に変形させた。

まともに殴り合えば、相打ちか泥沼の長期戦になるのは目に見えている。

 

周囲からは、大量のゴーレムたちが赤いセンサーをこちらに向け、一斉に射撃を開始してきた。

 

「くそっ!」

俺はゴーレムの弾幕を回避しながら、腰にマウントしていた対幻想体用の『鎮圧用ライフル』を構えた。すると、ピノキオも同じように木で出来た見掛け倒しのライフルを取り出す。

 

「撃ち合いなら、こっちの弾の方が上だ!」

 

俺が引き金を引くと、銃口から放たれた『クリフォト抑制弾』がピノキオの胸板に命中した。命中した瞬間、幻想体の因子が抑え込まれ、ピノキオの俊敏だった動きが明らかに鈍り始める。

 

「ギィ、ガガ……」

動きが悪くなったピノキオは、今度はライフルを捨て、ラウラのISが装備していた『プラズマカノン』を模した巨大な大砲を腕に形成し、こちらへ向けてきた。

 

「マズい……!」と身構えたが、砲口から放たれたのは、プスンという情けない音と共に飛んできた、本物には遠く及ばないお粗末なエネルギー弾だった。

 

「……なんだ、見掛け倒しの模倣か!」

 

俺はその隙を見逃さず、一気に箒の元へ跳躍した。

「箒、立て! 避難経路まで運ぶ!」

「す、すまん、恩に着る……!」

俺は箒の腕を掴み、駆けつけた救護班の先生たちの方へ向けて彼女を安全なエリアへと投げ渡した。

 

しかし、その間にゴーレムの数はさらに増殖していた。

四方八方からの立体的な弾幕。完全に避け切ることはできず、宇宙の欠片のE.G.O装甲を何発もの銃弾が掠り、バチバチと火花を散らす。

 

「……このままじゃ埒が明かないな。一網打尽にしてやる!」

 

俺はE.G.O装備を変更するべく右手のサインを変え、瞬時にE.G.O装備を換装した。

『E.G.O展開変更――狐雨』

 

宇宙的な装甲が弾け飛び、代わりに俺の体を覆ったのは、くすんだ黄色の雨合羽のような防護服と、大きな『傘』だった。同時に、アリーナの天井付近に分厚い雨雲が発生し、シトシトと『憂鬱な雨』が降り注ぎ始める。

この雨は、触れた者の精神と動きを鈍らせる強力なデバフ効果を持っている。

 

「一夏! シャルル! これを受け取れ!」

 

俺はインベントリから『破れたビニール傘』を2本取り出し、空中の二人に向けて勢いよく展開する。

 

『うおっ、なんだこれ! 傘!?』

『〇〇、この雨は……!』

「その傘を展開させれば、俺の降らせている『憂鬱な雨』の悪影響を防げる! 破れているが雨は完全に防げるし動きには追従する!」

『分かったよ!』

 

地上では、憂鬱な雨を浴びたゴーレムたちの動きが目に見えて鈍っていた。

しかし、あのピノキオの幻想体だけは、ギチギチと奇妙な動きで俺へと再び迫ってくる。奴の右手は、なぜか一夏の『雪片弐型』を模倣した刀の形になっていた。

 

「俺の真似をしているくせに、武器は一夏のもの? ……なんだそりゃ、完全にハリボテの見掛け倒しじゃないか!」

 

俺は傘を深く構え、防御を固めて一気に突貫した。

ピノキオが不格好な素振りで刀を振り下ろしてくるが、俺はその軌道を傘の表面でツルリと受け流す。そして、傘の上にたっぷりと溜まっていた『憂鬱な雨の水』を、バシャリと思い切りピノキオの顔面へとぶっかけた。

 

「ギッ、ギャァァァッ!?」

 

特殊な雨水を浴びたピノキオは、完全にバランスを崩して大きくよろめいた。

 

「そこだッ!!」

 

俺は傘を閉じ、その鋭い『石突(先端の金属部分)』を槍のように構え、体勢を崩したピノキオのコアへ向けて何度も、何度も突き刺した。

 

「ギ、ギギギ……」

幾度もの刺突を受けたピノキオは、ついにその模倣を保てなくなり、ドロドロに溶け崩れると、やがて活動を完全に停止し、コロンとした『卵状の形態』へと戻った。

 

「よし、一体目は鎮圧完了だ……! 残るはあの大量のゴーレムと、ラウラか!」

 

俺はインカムを叩き、上空で死闘を繰り広げている二人に叫んだ。

 

「一夏! シャルル! 下にいるゴーレムの群れは俺がこの『狐雨』で完全に足止めしている! 織斑先生たちのや、特別チームが到着すれば完全に抑え込めるはずだ!」

『本当か!? 助かるぜ、〇〇!』

「だから……それまで、絶対に空で耐え抜いてくれ!!」

 

『了解!! ラウラは、ボクたちが絶対に落とさない!!』

シャルロットの力強い声が響く。

 

憂鬱な雨が降りしきる中、俺は狐雨の傘を固く握り直し、迫り来るゴーレムの群れを一人で食い止める防衛線へと身を投じた。

 

「一夏、シャルル! 空は任せたぞ! ラウラと、あの機体に取り憑いている赤い物体の様子が少しでも変わったら、すぐに俺に教えてくれ!」

 

降りしきる憂鬱な雨の中、俺はインカムに向かって叫んだ。

 

『分かった! 〇〇も地上で無理しないでね!』

『おう、任せとけ!』

 

上空から二人の頼もしい声が返ってくるのを確認し、俺はすかさず視線を目の前の無人機の群れへと戻した。

 

「ガブリエルチーフ! 空の一夏とシャルルの情報支援と、あのラウラの機体の解析、引き続き最優先でお願いします!」

 

『了解しています、〇〇さん。二人のISの出力管理と、暴走機体のエネルギー波形のモニタリングをこちらで行います。あなたは地上の抑えに集中を』

 

「助かります!」

 

ガブリエルとの通信を切ると同時に、俺は『狐雨』の傘を大きく一振りした。周囲に漂う憂鬱な空気と霧が、さらに濃さを増していく。

 

「おい、野郎ども! お前たちの相手は俺だ! こっちを向きやがれ!」

 

俺はあえて大声を出し、自身の存在を誇示するように動き回った。避難経路や上空の一夏たちに向かおうとしていたゴーレムたちの赤いセンサーが、一斉に俺へとロックオンされる。

 

ダダダダダダダダダッ!!!

 

無数のゴーレムから放たれた一斉射撃が、雨を切り裂いて俺へと殺到する。しかし、『狐雨』の降らせる憂鬱な雨の影響で、奴らの照準の補正速度や弾速は明らかに通常時より低下していた。

 

「これなら……躱せるッ!」

 

俺は傘の表面に溜まった特殊な雨水を、迫り来る弾幕に向けてバシャリとダイナミックにぶちまけた。質量を持った雨水が弾道を強引に捻じ曲げ、それでも漏れてきた銃弾は、手にした大鎌の刃で火花を散らしながら弾き返す。

 

「ふぅ……! お返しだ!」

 

大鎌を背中にマウントし、すぐさま『鎮圧用ライフル』を構えて引き金を引く。クリフォト抑制弾ではない通常弾を、ゴーレムたちの関節部やセンサーへ向けて正確に撃ち込んでいく。注意を引きつけ続けるためには、こちらからも有効なダメージを与え続けなければならない。

 

しかし、どれだけ倒しても、上空から降ってきたゴーレムの絶対数が多すぎた。

 

カチッ……カチッ……

 

「しまっ……ライフルが弾切れか!」

 

ついにライフルの通常弾が底を突いた。リロードしている余裕はない。俺はライフルを背中に格納し、再び狐雨の傘と大鎌を強く握り直した。

 

弾丸が尽きても、俺の仕事は変わらない。雨を降らせ続け、自身の身体そのものをデコイとしてゴーレムたちを誘引する。時には、迫り来る複数のゴーレムの文字通り「隙間」をすり抜けるような、一歩間違えれば五体満足ではいられない無茶な地上機動を敢行した。一夏たちのいる上空へ一機たりとも行かせない。その執念だけで、俺は足を動かし続けた。

 

(くそ、さすがに息が上がってきたな……! 装甲が薄い分、掠っただけでも地味に効く……!)

 

体力が削られ、視界がわずかに歪み始めたその時だった。

 

ズバババババァンッ!!!

ドガァァァァァンッッ!!!

 

突然、俺を取り囲んでいたゴーレムの群れが、一気に、それも凄まじい衝撃によって何十機も同時に消し飛ばされた。

 

「な、なんだ……!?」

 

驚いて俺が周囲を見回すと、もうもうと立ち込める煙を切り裂いて、二人の女性が着地するのが見えた。

 

「待たせたな、〇〇! よく一人でここまで持ち込た!」

「〇〇君! 無事ですか! 遅くなってすみません!」

 

「織斑先生! 山田先生!」

 

増援に駆けつけてくれたのは、ISを展開した千冬先生と真耶先生だった。二人の圧倒的な介入によって、俺を包囲していたゴーレムの第一波は一瞬で壊滅していた。

 

「ありがとうございます……! お二人が来てくれて、本当に助かりました」

俺は膝をつきそうになるのを堪え、荒い息を整えながら二人に感謝を伝えた。

 

「礼を言うのはこちらの方だ。お前が地上を完全に引き受けてくれたおかげで、生徒たちの避難はすべて完了した。これで心置きなく戦える」

織斑先生がISの武装を構えながら、鋭い視線を上空のラウラへと向けた。

 

「先生方、避難が終わったなら、俺はこれから空へ上がって、一夏たちと一緒にラウラを止めに行きます」

俺は真剣な表情で二人に告げた。

 

「万が一……俺たち3人があの暴走体にやられるようなことがあれば、バックアップをお願いします。それと、L社にはすでに連絡してあります。最悪の場合に備えて、本社の『ランク5職員』だけで編成された特別チームが、この学園のゲート裏にすでに待機しています。俺たちの手につ負えなくなったら、彼らが即座にあの幻想体を『処分』しに来ます」

 

俺の言葉の重みに、山田先生が息を呑んだ。

「ランク5職員の特別チーム……あの、L社最高峰の鎮圧部隊ですね……。分かりました。でも、〇〇君、あなたたちがそうなる前に、私たちが絶対に支えますから!」

 

「ああ。後方のことは気にするな。お前は自分の成すべき任務を果たしてこい」

織斑先生が力強く頷き、俺の背中を押してくれた。

 

「了解です! ――行ってきます!」

 

俺は『狐雨』の出力をISのスラスターへとバイパスし、大気へ向けて力強く跳躍した。

織斑先生と山田先生という絶対的な安心感を背に受けながら、俺は赤い殻と無数の目を生やした最悪の暴走体――ラウラが待ち受ける上空の戦場へと、一気に加速するのだった。

 

上空へ向けて急上昇する最中、俺はE.G.Oのインターフェースを素早く操作した。

 

「狐雨の展開を解除……E.G.O換装、『道を失った乗客』!」

 

くすんだ雨合羽が光の粒子となって霧散し、代わりに水色のラインと『W』に一本線を足した特徴的なマークが施された、軽鎧を兼ねた実用的な作業着風の防護服が全身を覆う。両手足には空間を歪める力を秘めた重厚なガントレットとブーツが装着された。

 

視界の先では、一夏とシャルロットが千冬先生の動きをトレースするラウラを相手に、文字通り死に物狂いで応戦していた。シャルロットは『レティシア』の銃を連射して精密な援護射撃を行い、一夏は俺との特訓通りに攻撃を完全に捨て、全神経を集中させてラウラの猛攻をギリギリで躱し、あるいはシールドで受け流している。

 

「よく持ちこたえてくれた……! 後ろはガラ空きだぞ、化け物ッ!」

 

俺はラウラの背後へ回り込むと同時に、対幻想体用の『鎮圧用ライフル』を構え、引き金を引いた。

 

ドバババババババッ!!!

 

特殊なクリフォト抑制弾が、ラウラの機体にしがみついている赤い殻と無数の目玉へ次々と着弾する。

「ギィィィヤァァァッ!?」

幻想体が耳障りな悲鳴を上げ、その因子の活動を無理やり抑え込まれたことで、ラウラのIS自体の機動力がガクンと著しく低下した。

 

次の瞬間、寄生している赤い物体がギョロリとこちらを睨みつけ、俺のライフルの動きを『模倣』して不気味な触手を銃の形に変形させ、赤い光条を撃ち返してきた。

 

「おっと……! っとっと!」

 

俺は手足のガントレットの反動を利用して空中で身を翻し、その光条を回避する。だが、その弾道はひどくブレており、威力も大したことはなかった。

 

「……ガブリエルチーフ! 聞こえますか!?」

俺はすぐさまインカムを叩いた。

「今、あの赤い幻想体が俺のライフルの射撃を模倣してきました! ですが、支部にいた『何もない』の模倣に比べたら、精度も火力も下手くそすぎます!」

 

『ええ、こちらもデータを共有されました、〇〇さん』

ガブリエルの冷静で、どこか安心させるような声が耳に届く。

『一夏さんとシャルロットさんが持ちこたえていた時の戦闘ログも確認しましたが……あの個体、外見こそ「何もない」の変異体に似ていますが、模倣の精度も破壊力も本物より遥かに低いです。どうやら名前だけの、出来損ないの紛い物のようですね』

 

「本当ですか!? 読み違えなら命に関わる!」

 

『本当ですよ。何しろ、かつて本物の「何もない」を数え切れないほど一人で解体し、鎮圧してきた我が社のレジェンド、保安チームのカーリーのお墨付きです。彼女が「あんなヌルい一撃、『何もない』に対する侮辱だ」と言っていましたから』

 

「ハハッ、そう言うなら100%間違いないですね! なら、やりようはある!」

 

俺はスラスターを一気に吹かし、一夏とシャルロットの陣形へと合流した。

 

「一夏! シャルル! 待たせた!」

「〇〇! 来てくれたんだね!」

シャルロットがレティシアの銃を構え直しながら、ホッとした表情を浮かべる。一夏も荒い息を吐きながら叫んだ。

「〇〇! 助かった、あいつの動きが急に鈍くなりやがったぞ!」

 

「ああ、俺の抑制弾が効いてる。二人とも、ギリギリの回避とレティシアでの完璧な援護、ありがとな。……ここから反撃に移る。あのラウラの機体に寄生している赤い幻想体を、俺が今から直接引き剥がす。二人は手を貸してくれ!」

 

「引き剥がすって……どうやってやるんだよ!?」

一夏が驚いて問いかけてくる。俺は『道を失った乗客』のガントレットを強く握り締め、二人に作戦を伝えた。

 

「俺のこの新しいE.G.O装備はな、エネルギーを大量に消費する代わりに、空間に次元の裂け目を作って『短距離跳躍』ができるんだ。……これを使ってラウラの背後に一瞬でワープし、ガントレットの格闘戦で、あの赤い化け物だけを強引に引き剥がす!」

 

俺はラウラの暴走体を睨みつけ、言葉を続けた。

 

「幻想体をラウラから完全に引き剥がした瞬間、一瞬だけラウラのISの動きが完全に止まるはずだ。その瞬間に、一夏とシャルル、お前たちの全ての火力をラウラの機体に集中させて、彼女を『機能停止』に追い込め!」

 

俺の提案を聞いた一夏が、少し不安そうに視線を泳がせた。

「わ、ワープって……お前、そんなこと本当に出来るのか……!?」

 

「一夏」

俺は一夏の目を真っ直ぐに見つめ、強く言い放った。

 

「出来るかどうかじゃない。前のシャルルの時と同じだ。俺たちの手でラウラを救うために……やるしかないんだよ!」

 

俺の言葉に、一夏は一瞬目を見開き、すぐに覚悟を決めたように力強く笑った。

「……そうだな。お前の言う通りだ! 迷ってる暇はねぇ、やってやる!」

 

「うん、ボクも準備はいつでもいいよ、〇〇! 一夏、ボクたちの全力を合わせよう!」

シャルロットも凛とした表情で頷き、レティシアの銃口をラウラへと固定した。

 

「よし……作戦開始だ!!」

 

俺は手足の防護服にエネルギーを充填し、次元を切り裂く格闘の起動に入る。

 

「一夏、俺に合わせろ! 交互に攻守を入れ替えて、奴のシステムをバグらせるぞ!」

「了解だ! お前が防ぐ時は俺が撃つ! 俺が避ける時はお前が斬るんだな!」

 

俺と一夏は、凄まじい推進力でラウラの『シュヴァルツェア・レーゲン』へと肉薄した。

ラウラ――いや、彼女を操るVTシステムが、千冬先生の恐るべき剣技を模倣してプラズマブレードを振り下ろしてくる。

 

「っ……重い! だが!」

俺が『道を失った乗客』のガントレットでその一撃をガッチリと受け止めた瞬間、死角に潜り込んでいた一夏が雪片弐型を振るう。

 

「そこだぁっ!」

「……迎撃。対象、織斑一夏」

システムが瞬時に反応し、一夏へ砲門を向ける。その瞬間、一夏は攻撃をキャンセルして即座にスラスターを吹かし、全力の回避行動に移った。

 

「一夏を狙うなら、こっちがガラ空きだぞ!」

すかさず俺が一夏と入れ替わるようにして懐に飛び込み、強烈な打撃を見舞う。そこに、シャルロットの正確無比な援護射撃が雨あられと降り注いだ。

 

『ボクもいるよ! 逃げ道なんて、絶対に作らせないからね!』

 

「……警告。敵対対象、複数。行動パターン予測……再計算。処理遅延、発生」

 

いかに千冬先生の戦闘データをベースにしたVTシステムといえど、自我のない機械だ。俺と一夏の変則的なスイッチングと、シャルロットの計算し尽くされた狙撃。完全に連携の取れた3対1の波状攻撃を前に、ついに処理能力が限界を迎え、ラウラの機体の動きに明らかなノイズが生じ始めた。

 

「よし、完全に動きが鈍った! 一夏、シャルル、今だ!」

『任せろ!』

『いっけぇぇっ、〇〇!』

 

二人の声を背に受けながら、俺は『道を失った乗客』の真骨頂たる空間跳躍のエネルギーを解放した。

 

「ハァァァァッ……!」

 

俺の目の前の空間が、まるでガラスが割れるようにパリンと音を立てて裂けた。次元の裂け目へと自ら飛び込むと、次の瞬間には、ラウラの背後――あの赤い幻想体がへばりついている真後ろの空間へとワープを果たしていた。

 

「これで……お別れだッ!」

 

俺の両腕のガントレットには、限界までエネルギーが充填されていた。放出された光は、巨大な『W』の字を模したエネルギーブレードとなって空間を切り裂く。

 

「剥がれろォォォッ!!」

 

ズガァァァァンッ!!

 

渾身の力を込めたW字のエネルギーブレードが一閃し、ラウラのISの装甲と幻想体の接着面を正確に切断した。

 

「ギィィィヤァァァァッ!?」

「今度はこっちだ、化け物!」

 

俺はラウラから剥がれ落ちた赤い肉塊を空中で強引に掴み取ると、自らの重さとスラスターの全推力を乗せて、アリーナの地面へと隕石のように真っ逆さまに叩きつけた。

 

ドゴォォォォォォンッ!!!

 

「ギ、ガ、アァァ……ッ」

「まだだ! 完全に沈めッ!」

 

クレーターにめり込んだ幻想体に対し、俺はW字のエネルギーブレードを何度も、何度も容赦なく振り下ろし、その体を徹底的に切り刻んだ。

断末魔の叫びと共に赤い殻と無数の目玉がドロドロに溶け崩れ、ついに完全に活動を停止。コロンとした無害な『卵状の形態』へと移行した。

 

「……よし! 幻想体、完全鎮圧! 一夏、シャルル、今だッ!!」

 

俺が地上から叫ぶと同時、上空でラウラの機体に決定的な隙が生まれていた。幻想体を強制的に剥がされたショックで、VTシステムが一瞬完全にフリーズしたのだ。

 

『もらったよ! これで、最後だぁぁっ!!』

 

シャルロットがラファール・リヴァイヴのありったけの重火器を一斉展開し、全弾をラウラの機体へと叩き込む。凄まじい爆発が起こり、シュヴァルツェア・レーゲンのシールドエネルギーが限界値まで削り取られた。

 

『ラウラ、お前はただの道具なんかじゃない! 目を覚ませぇぇぇッ!!』

 

爆煙を切り裂き、一夏の『白式』が白光の彗星となって突撃する。

その手に握られた雪片弐型から、白式の切り札である最大出力の斬撃――『零落白夜』が放たれた。

 

カァァァァァァンッッ!!!

 

アリーナ全体を白く染め上げるような一閃。

それがラウラの機体を完全に捉えた瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンの全システムが完全に停止した。

 

機体の武装がパージされる。安全確保のための最低限の機能のみを残し、ラウラのISはふらふらと、ゆっくりと地上へと降下していった。

 

「……終わったか」

 

地上に降り立った機体はそのまま膝をつき、静かに沈黙した。

装甲が開き、中から現れたラウラは、気を失い、まるで眠っているかのように穏やかな顔をしていた。

 

「ラウラ……!」

一夏とシャルロットがすぐに地上に降り立ち、慌てて彼女の元へと駆け寄る。俺も卵の回収を終え、大きく安堵の息を吐きながら二人の元へ歩み寄った。




模倣系統の機能は機械や無人機にやらせると強いと思うこの頃
ルチオがパレルモ向いてないのと同じ
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