IS×PM   作:本棚の一冊

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ヴァルプルギスは200連の天井で全員確保できました


34話 水着と尾行

夏休みを目前に控えた休日。

俺は来たる臨海学校に向けて、新しい水着を調達するために大型ショッピングモールへと足を運んでいた。

 

シーズン真っ只中ということもあり、特設された水着売り場は男女問わず広大なスペースが設けられている。

 

「うーん……夏らしく派手すぎず、かといって地味すぎないデザイン……難しい塩梅だな」

 

大量のトランクスやサーフパンツが並ぶラックを前に、俺は腕を組んで唸っていた。

デザインもさることながら、俺にはもう一つ考慮しなければならない問題がある。

 

(アルガリアとの過酷な近接戦闘訓練のせいで、体中に結構な数の傷跡ができちゃってるんだよな……。このまま脱いだら、確実に女子生徒たちに驚かれるか、引かれる)

 

幸い、最近は日焼け対策などで男女問わずラッシュガードを着るのが一般的になっている。海で着ていても全く不自然ではない。

俺は無難かつ引き締まって見える「黒色のラッシュガード」と、同じく黒を基調としたトランクスタイプの水着を手に取った。

 

「よし、これなら傷も隠せるし、悪目立ちもしないだろう」

 

無事に自分の買い物を終え、ふと女性用の水着売り場の方へ目を向けると、見慣れたIS学園の生徒たちの姿がチラホラと見えた。

その中でも一際騒がしい一角がある。

 

「やはり一夏さんには、わたくしのこのエレガントなフリルでアピールを……!」

「ば、馬鹿者! 海といえば清楚な白のビキニに決まっているだろうが!」

「動きやすさも大事でしょ!? スポーティーなのも一夏は好きなはずよ!」

「ふふん、お前たち甘いな。嫁には私が直々に選んだ水着を着せて、この私自ら魅了してやるのだ!」

 

箒、セシリア、鈴音、ラウラの4人が、色とりどりの水着を手にやいのやいのと激しい議論(?)を交わしていた。

その少し横で、シャルロットが苦笑いしながら水着を胸に当てて鏡を見ている。

 

「もう、みんな声が大きいよ……。でも、このデザインなら一夏も〇〇も、似合うって言ってくれるかな?」

 

平和だ。

L社での命がけの業務や、得体の知れない陰謀が渦巻く日常から離れた、ごく普通の学生らしい光景。

俺はその光景に思わずクスッと笑みをこぼし、邪魔をしないようにそっとモールを後にした。

 

だが、その「平和な日常」は、帰り道で唐突に破られた。

 

「……ん?」

 

ショッピングモールを出て、学園への帰路についた直後。

背後の人混みの中から、ジリッとした妙な気配を感じた。殺気ではない。だが、確実に「俺を観察している」粘り着くような視線だ。

 

俺は歩調を変えずに、わざと人混みの多いアーケード街へと入り込んだ。

人波に紛れて撒こうとするが、気配は一向に消えない。それどころか、こちらがペースを上げれば、相手も的確に距離を詰めてくる。

 

「チッ……なら!」

 

俺は一気に駆け出し、複雑に入り組んだ路地裏へと身を翻した。

薄暗い路地に飛び込み、壁を蹴って死角に身を潜め、息を殺して追っ手を待つ。

しかし――。

 

「……消えた?」

 

さっきまで背後に張り付いていた気配が、路地に入った瞬間に煙のようにプツリと途絶えていた。

ただ見失ったのではない。追跡のプロが『わざと気配を消して追跡を中断した』ような、そんな不気味な引き際だった。

 

「……わざと気配を消したな。単なる偵察か、それとも……」

 

俺は周囲を厳重に警戒しながら、足早に学園のゲートへと向かった。

 

その頃。

〇〇が駆け込んだ路地裏を見下ろすビルの屋上には、三つの影が立っていた。

先日、L社に「投降」し、見事に採用を勝ち取った元・亡国企業の幹部、スコール、オータム、マドカの三人である。

 

「見失ったフリをしてあげるのも、案外タイミングが難しいわね」

スコールがふう、と息を吐きながら双眼鏡を下ろした。

 

「でも、中々筋が良いんじゃない? 素人にしては気配に敏感だし、人混みの使い方も悪くなかったわ」

マドカが感心したように頷く。

 

「ああ、鍛え甲斐がありそうだ。ミシェルチーフの言う通りだな」

オータムもニヤリと笑って同意した。

 

彼女たちがここにいる理由は一つ。L社の教育部門チーフであるミシェルから、『〇〇君が敵から尾行された際、それを察知して撒く技術を実戦形式で鍛えさせてあげてください』という業務命令を受けたためだ。

 

「まさか入社早々、彼を拉致するんじゃなくて『尾行を撒く特訓相手』を任されることになるとは思わなかったわ」

スコールは苦笑しながら、支給されたL社の端末を操作する。

 

「それにしても、ウチの会社(L社)、前の組織よりお給料も福利厚生も段違いに良いわよねぇ。食堂のご飯も美味しいし、残業代もきっちり出るし!」

マドカがすっかりL社の社畜……もとい、優良社員の顔になって明るく言うと、オータムが肩をすくめた。

 

「全くだ。……皮肉なもんだよな。かつての上司の無茶振りで何度もL社を襲撃して、その度にボコボコにされた『トラウマ』のおかげで、俺たち全員に『E.G.O適正』が芽生えるなんてな」

 

そう。彼女たちはL社の理不尽な暴力に何度も晒された結果、精神が適応(摩耗)し、幻想体の武器を扱うための適正を完璧に満たしてしまっていたのだ。その甲斐あって、今や三人揃って優秀なエージェントとしてL社に馴染み始めている。

 

「ふふっ、本当に人生何があるか分からないわね。……さあ、優秀な『先輩』社員として、可愛い後輩の特訓を続けるわよ。次はもう少し難易度を上げて、学園の敷地の手前まで追い詰めてみましょうか」

 

スコールの号令とともに、すっかりL社に染まった三人は、楽しげな足取りで〇〇の追跡を再開するのだった。

 

 

人混みを抜け、俺はあえて遠回りになる人目のつかない裏道を選んで歩き続けた。

神経を尖らせ、背後の気配を探りながら複雑なルートを辿り、やがてIS学園へと続く長い一本道へと出る。

 

「……流石に、この一本道まで来れば隠れようがない。追ってきているなら姿を晒すことになるはずだが……」

 

立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

夕暮れの風が吹き抜けるだけで、背後には誰の姿もなく、あの不気味な気配も完全に消え去っていた。

 

「撒き切った……のか? それとも、学園の敷地に入る前で諦めたか」

 

いずれにせよ、これ以上の追跡はないと判断した俺は、足早に自室へと帰還した。

 

部屋に戻り、鍵を二重に閉めると、俺はすぐにL社支給の端末を立ち上げた。

今日の出来事を日報としてまとめ、最高レベルの暗号化を施して本社のサーバーへと送信する。

 

『報告:本日〇〇時頃、ショッピングモールからの帰路にて何者かの尾行を感知。敵対勢力のスパイ、あるいは工作員の可能性あり。路地裏を利用して撒いたものの、学園外での活動には一層の警戒が必要と推測される』

 

送信ボタンを押して数分後。

ピコン、と軽快な通知音と共に、教育チームのチーフであるミシェルさんから、予想もしていなかった返信が届いた。

 

【教育部門チーフ・ミシェルより】

 

『日報の提出、ご苦労様です。

事後報告となってしまい申し訳ありませんが、本日あなたを尾行していたのは敵対勢力ではありません。

 

それは、あなたに「尾行を察知し、撒くための技術」を実戦で鍛えてもらうため、当部門が外部に放った【スペシャリスト】たちです。

今後、あなたが彼らを完全に撒き切って学園まで帰還するか、あるいは彼らの「人数と素性」を正確に特定できるまで、この実地訓練は継続されます。

 

追って、本日の対応に関する評価と改善点(ルート選択の甘さなど)をまとめたレポートを送付します。目を通しておくように。

なお、この訓練の存在および詳細は機密事項です。学園の生徒には決して口外しないこと』

 

「…………は?」

 

画面に映し出された文面を二度見、三度見して、俺は深い深いため息をついた。

 

「あの気配……敵じゃなくて、L社が差し向けた特訓相手だったのかよ……!」

 

事後報告の理不尽さに頭を抱えそうになったが、同時に、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

L社がわざわざこんな訓練を抜き打ちで仕掛けてくるということは、それだけ『俺が外部から狙われるリスクが高い』と判断している証拠だ。

 

「……そりゃそうか。世界で二人の『男性のIS操縦者』であり、その上、世界中の国家が血眼になって技術を欲しがっているL社の『実働社員』が、こうして外を歩き回ってるんだからな……」

 

俺を拉致できれば、ISのデータだけでなく、幻想体やE.G.Oといった常識を覆すL社の技術への「取っ掛かり」が得られるかもしれない。そう考える勢力や国家が存在しない方がおかしいのだ。

 

そこまで考えが至った瞬間、俺はハッとしてキーボードを叩き、ミシェルさんへ即座に返信メールを打った。

 

『了解しました。訓練の件、承知いたしました。

一つ確認ですが、外部職員として契約したシャルロット(およびデュノア社)に対しては、現在護衛を張っていただいているのでしょうか? 彼女も狙われる可能性が十分にあります』

 

送信して数十秒。恐るべきレスポンスの早さで返答が来た。

 

【教育部門チーフ・ミシェルより】

 

『ご安心ください。彼女およびデュノア社は弊社の重要な保護対象です。

対象者にすら悟られないよう、常に保安チームの精鋭による護衛チームが配備されています。万が一の事態には即座に物理的な排除が行われる手はずとなっております』

 

「……物理的な排除、ね。相変わらず過激というか、頼もしすぎるというか……」

 

俺はホッと胸を撫で下ろした。

L社のセキュリティや戦闘力は、控えめに言っても過剰なほど優秀だ。しかし、だからといって俺自身がそれに甘え、無防備でいていい理由にはならない。

 

(いくら保安チームが優秀でも……もし俺が隙を突かれて攫われたら、確保されるまでの間に薬白状させられたり、情報を抜き取られたりしたら意味がないんだ)

 

L社の機密を漏らせばどうなるか。想像するだけで背筋が凍る。

 

「……L社がこの訓練を課した意図は、単に『逃げ足』を速くすることじゃないな」

 

画面に送られてきた本日の「尾行回避・改善点レポート」を眺めながら、俺は冷静に分析した。

気を張って、追われていることに躍起になってから慌てて気配を消そうとするようでは、プロ相手には遅すぎる。普段の生活から、自分の存在感や気配の「オン」と「オフ」を自然に、呼吸するように切り替えられる技術。

 

それが、L社の社員として外の世界を生き抜くために必要な、最低限の自己防衛術なのだろう。

 

「……やってやろうじゃないか。次にアイツらが来たら、人数も素性も丸裸にしてやる」

 

俺は気合を入れ直し、送られてきた改善レポートの熟読を開始した。

これから始まる夏休み。海での臨海学校の裏側で、俺の「見えない敵(味方)」との過酷な鬼ごっこが幕を開けた瞬間だった。




臨海学校って現実で実際何をするのかは知らない
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