ランサーとバゼットのルーン魔術講座   作:kanpan

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ざぶーんもいつの間にか営業開始。


太陽《sowelu》

戦闘(せんとう)にいこうぜ」

 

 ランサーが館の外からバゼットを呼んでいる。

 

「はい、ランサー!」

 

 その声を聞いたバゼットは速攻で準備を整えた。ネクタイを締め直し、フラガラックのケースを担ぐ。

 40秒で支度、いやそれでも余るくらいだ。

 そもそもバゼット自身が40秒辛抱できない性格なのだ。自分でも待てない時間をランサーに待たせたりはできない。

 

 バゼットは急いで館の玄関を飛び出した。ランサーは表で待っていた。だがバゼットはそのランサーの姿を見て戸惑う。

 

「え?」

 

 なぜならランサーは戦装束を身につけておらず、まるで休日のようなアロハシャツ姿だったのだから。

 

「あの……ランサー、なぜあなたは武装しないのですか?」

 

 しかも、ランサーはその手になぜか槍ではなく折りたたみパラソルを持っているのだ。

 困惑するバゼットにランサーは二ッと白い歯を見せて笑う。

 

「だからさ、銭湯(せんとう)にいこうぜ。バゼット」

 

 どういうことですか? と訴えるバゼットの声を聞き流して、ランサーは彼女の腕を掴む。そのまま愉快そうに笑い声を響かせてずんずんと街に向かっていく。バゼットはわけがわからないままランサーに引きずられていった。

 

 

 

 それは昨日のこと。

 

「よう、アーチャー」

 

 深山町を移動中だったアーチャーは突然背中越しに呼び止められた。背筋に緊張が走る。サーヴァントであるアーチャーにすら気づかせないまま密かに近づいてくる奴とは……。

 

「何者だ」

 

 アーチャーがバッ、と後ろを振り返ると、そこには陽気なアロハ姿の男が笑いながら立っていたのだった。大方気配を消していたのだろう。

 

「なんだランサー、貴様か。また聖杯戦争もしないで街をほっつきあるいているのか。私に何の用だ。つまらない用事なら付き合わんぞ」

 

 アーチャーは鬱陶しそうにランサーを睨むが、ランサーはそれにまったく構わずスタスタとアーチャーに近寄ってくる。

 

「オマエにいいものをやろうと思ってよ」

 

 ランサーはアーチャーの目の前にピラリとなにかのチケットらしきものを取り出した。その表面には

 

 ★★★★★★★★★★★★★★

 

 おふろでざぶーん

 スペシャルな水着で温泉デー

 あったかお風呂で心も体も解放されよう!

 

 ★★★★★★★★★★★★★★

 

 という文字がどでかく、ど派手にプリントしてある。

 

「ランサー、何だこれは?」

 

 チケットの文字に呆れつつアーチャーはランサーに怪訝な眼を向ける。ランサーはへへん、と自慢気に胸をはって言った。

 

「俺は今『わくわくざぶーん』でバイトしてんだよ。こんどプール全体が温泉になるイベントがあってな。水着で入れるんだぜ」

 

 「わくわくざぶーん」とは最近新都にオープンした、全天候型屋内ウォーターレジャーランドである。

 ウォータースライダーから波のプールまで屋内ドームに収納し、いつでも常夏気分。ヨーロッパの本格リゾート地を思わせる、ゆったりした空間が魅力的。水温は体温に近い33℃から34℃に保たれ、一年を通して楽しめるプールリゾートだ。

 

 その「わくわくざぶーん」が、なんと特別企画により一日限定スーパー温泉レジャーランド「おふろでざぶーん」になるのだ。

 

「どうだアーチャー、こいつは枚数限定の特別チケットだ。ちなみにもう売り切れで手に入らねえぜ」

 

「う……ぬ……」

 

 確かに気になる。とても気にはなるのだが、しかしアーチャーは一応平静を装っている。

 

「なるほど。それで私になにをしろというのだ?」

 

 すかさずランサーはがしっとアーチャーの肩に手を回し、耳元で囁いた。

 

「アーチャー、オマエもあの嬢ちゃんの水着を見たいだろ?」

 

「ふざけるな。貴様のような破廉恥な奴がいるところに凛を連れて行けるか!」

 

 アーチャーは間髪入れず断る。

 ランサーはナンパ好きである。商店街の通りを半日も眺めていれば往来の女の子に声をかけているランサーを見つける事ができるだろう。だいたい「ざぶーん」でバイトしているのもナンパが目的ではないのか。

 そんなところに凛を連れて行ったら、この男はアーチャーが凛から眼を離した隙にちょっかいを出すに決まっている。

 

「ウチのマスターもいいくるめて連れてくるからさ。それであいこだろ。な?」

 

「貴様のマスター? あの堅物を?」

 

 アーチャーは横目でちらっとランサーを見た。ランサーはぽんぽんと調子よくアーチャーの肩を叩いた。

 

「まかせとけって」

 

 アーチャーはしばし沈黙して考え込んでいたが、結局ランサーからチケットをひったくるように受け取った。

 何事もなかったようなそぶりでその場からそそくさと立ちさっていくアーチャー。その後ろ姿をランサーはしてやったりと眺める。

 

「よし、これで遠坂の嬢ちゃんの水着姿ゲットだぜ」

 

 

 

 晩飯時の衛宮邸。

 テーブルを囲む面々はセイバー、桜、ライダー、イリヤスフィール、それにお供のセラとリズ、といつものように客人でいっぱいだ。それが今日はもう一名増えていた。

 

「士郎、なぜここにランサーがいるのですか?」

 

 セイバーの目の前ではランサーが晩飯をぱくぱくと口に放り込んでいた。セイバーはランサーの箸に食卓のおかずを奪われないよう警戒の視線を送りながら、士郎に問う。

 

「いやあ、買い物を手伝ってもらったお礼でさ」

「ごちそうになって悪いな。坊主」

 

 ランサーは買い物帰りの士郎を見つけて荷物を持ってやると言って衛宮家の晩御飯に入り込んでいたのだった。

 

「ランサー、多少は遠慮をしてください」

 

 ひょいひょいと大皿から容赦なくおかずをつまんでいくランサーをセイバーは牽制していた。各自の割り当て分以上の収奪は許さない。

 

「なあに、タダとはいわねえよ」

 

 セイバーの警戒を気にもせず、だが遠慮もせず、ランサーは割り当て分をきっちり平らげ終えた。そして胸ポケットからチケットの束を取り出してパラリと広げてみせた。

 士郎、セイバー、ライダー、桜がランサーの手元を覗き込む。

 

「ランサー、それ何さ?」

「『わくわくざぶーん』のチケット、のようですが」

「水着で温泉、って書いてありますね」

「『ざぶーん』が銭湯になるんですか?」

 

 が、いち早く。

 

「行くー! 私『ざぶーん』に行く。シロウと一緒に!」

 

 イリヤスフィールが士郎の首根っこに飛びついていた。うわわ、と士郎はずっこけて床に転がってしまう。

 

「混浴だねシロウー!」

 

 もみあって床に転げる士郎とイリヤの上に暗い影が落ちる。見上げるとセイバーとセラが二人の真横に壁のごとくずずーんと立ちはだかっていた。

 

「いけません、イリヤスフィール。男女で混浴など風紀の紊乱(びんらん)です!」

「ダメです、イリヤスフィール様。エミヤ様と一緒に温泉に入るなどありえません!」

 

 セイバーとセラの小言がイリヤと士郎の頭上から降り注ぐが、イリヤは今さら聞く耳持たず。

 

「シロウは紳士なんだから問題ないわ。それに『ざぶーん』なら水着を着るからいいじゃない」

「エミヤ様はともかく、サーヴァントであるランサーがいる場所にお嬢様だけ行かせるわけはまいりません。それならば私とリーゼリットも同席します」

「私も行きます。士郎の警護も必要ですから」

 

 士郎を囲み睨みあうイリヤ、セイバー、セラ。鋭い視線がぶつかり合い火花が飛び散る。このままでは平和な食卓が炎上してしまいそう。

 

「み、みんな。まあ落ち着いて」

 

 士郎がなんとか3人をなだめようとしたところで、

 

「あっ、あのう……」

 

 おずおずと桜が話に参加してきた。

 

「ああ、すまない桜。騒がしくしてしまって———」

 

 ありがたや助け舟。これで話の雰囲気を変えられるか、と士郎は微かに希望を抱いたが、

 

「イリヤさんとセイバーさんも行くならわたしも行きたいです。人数が多いほうが楽しいですよね」

「え、桜も」

 

 いつになく決然とした桜の声に、士郎は思わず桜の顔を見つめたが彼女の眼に迷いは見られない。

 

「桜が行くのでしたら、私も」

 

 さらに、桜の横にライダーがするりと進みでる。

 

「……って、結局みんな行くつもりなのかー!!」

 

 かくして今夜も衛宮家の食卓はいつもどおりに賑やかだった。

 

「ふっ、大漁大漁。しかも入れ食いだぜ」 

 

 ランサーは目的を達成して満足そうにを衛宮邸を後にした。

 そんなわけで昨日のうちにランサーの周到な根回しは成功していたのだ。

 

 

 

「えっ、今日ざぶーんに来る予定なかったから水着なんて持ってこなかったよう」

「だいじょうぶだよ。売店がここで買えばいいじゃないか。さあ」

 

 わくわくざぶーんの入り口には偶然を装って来場した男女がこのようなカップル漫才を好きなだけ披露できるように売店も併設されていた。商品ラインナップも豊富。

 売店の店先では店員がにっこりと笑いながら待ち構えている。

 

 バゼットは苦笑いをするしかない。隣ではランサーがおもいっきりニヤついている。

 

「いらっしゃいませ。外国人のお客様の体型に合わせた水着もありますよ」

「バゼット、なんならオレたちも店先でいちゃいちゃしていいんだぜ」

 

 はめられた、とバゼットは思ったがここまで来てしまった以上、もはや「おふろでざぶーん」に突撃するしか選択肢はなかった。

 

「……わかりました。水着を買ってきます」

 

 観念して水着を調達した。

 

 

 

 「おふろでざぶーん」とは本日限定でオープンした全天候型屋内銭湯テーマパークである。

 壁面添いには松の木や岩場が据え付けられ、天井には済んだ青空を模したペイントが施されており、屋内でありながら露天風呂気分。老舗旅館の大浴場さながらの、広々とした湯船が魅力的。湯の温度は程よい熱さの40℃から42℃に保たれ、老若男女が気軽に楽しめるスパリゾートだ。

 

 監視員用の見張り台には人影が3つ。

 

「うははは、どうだ、いい眺めだろ?」

 

 ランサー、士郎、アーチャーだ。監視員のアルバイトをしているランサーの手引きで見張り台に登っている。ここからはプール全体が眺められる。

 特別イベント開催中のざぶーんはいつもよりさらに多勢のお客で賑わっていた。

 

「うわあ、混んでるなあ。さて、みんなはどこにいるんだろう?」

 

 士郎とアーチャーは連れの女性陣の姿を探す。彼女たちもそろそろ着替え終わって館内に入ってきているはずだ。

 

「凛は……、む。あそこか。」

 眼の良いアーチャーがいち早く凛の姿を見つけた。

 

「プールサイドでセイバーたちと一緒に集まっているな」

「うん全員いるな。あれ? だけどまだ誰かを待ってるみたいだ」

 

 プールサイドには凛、セイバー、イリヤ、お供のセラとリーゼリット、桜、ライダーが揃っていた。彼女たちはなぜか女子更衣室の方からやってくる相手を見つめていたのだ。

 

 

 

 今日のざぶーん館内では壁際にお湯がでる蛇口が備え付けられ、風呂桶と椅子が並べてあり、石鹸、タオル、シャンプーなども用意されている。洗い場があってもお客はみんな水着なのだから体を洗う事はないはずなのだが。

 洗い場付近の壁には近所のお店の広告プレート、そして奥の広い壁面には巨大な富士山の絵。

 日本の古き良き銭湯を忠実に再現。地元冬木市の人々に伝統と郷愁を感じさせるこのこだわりの演出は、異邦人の眼にはとてつもなく異様に映る。

 着替え終わってプールサイドに出てきたバゼットは館内を一望して面食らっていた。

 

「異文化、ですね……」

 

 私はこのような場所で何をすればよいのか。そもそもレジャー施設に全くなじみがなく、普通のプールですら戸惑うというのに銭湯とは。

 と、もやもやと頭の中で考える。

 

 だがその思考は瞬時に断ち切られた。バゼットは背後から強烈な殺気と魔力が迫るのを感じた。

 

「はっ!」

 

 敵襲をとっさによけつつ脇に置いてあったシャンプーをつかんで手に硬化のルーンを描く。続けざまに飛来するガンドの弾丸を硬化した拳で弾落(パリィ)した。

 

「くっ、はじかれたか」

 

 バゼットが声のしたほうを向くと、遠坂凛がびしりとガンド射撃のポーズを決めていた。凛は色鮮やかな赤いビキニ姿でバランスの良いスタイルを引き立たたせている。

 凛の隣にはセイバーがいる。こちらは白のビキニ姿で所々についているひらひらリボンがアクセント。無駄なく敏捷そうな体はいつでも相手に飛びかかれるように低く身構えていた。眼には見えないがセイバーは手もとには不可視の剣を構えているだろう。

 2人の後ろには他の衛宮家女性陣がずらりと並んでいる。

 

「遠坂凛、ガンドで背後から不意打ちとは。それにセイバー、なぜ剣を抜くのですか。ここはレジャーランドでは」

 

 バゼットはガンドをたたき落とした拳をさすりつつ、凛とセイバーに問う。いくらバゼットでも革手袋無しで素手では多少痛い。

 凛からは勇ましい宣戦布告が返ってきた。

 

「やかましい! プールサイドは戦場よ」

 

 ああ、ランサーの声が「戦闘に行こう」と聞こえたのは間違いではなかった。状況はよくわからないが現に戦闘が始まっているのだ。

 

「貴方達は日中から武装もしていない相手を襲撃するのですか!? 特にセイバー。騎士王である貴方がそれでいいのですか?」

「問答無用! 水着は女の戦闘服!」

 

 バゼットと威勢良く口喧嘩を繰り広げる凛の隣でセイバーは無言で構えていたが、静かに口を開いた。

 

「バゼット、貴方が武装していないと言う主張は信じられない」

「何を言いだすのですか、セイバー」

 

 セイバーは片手を上げ、ちゃきっと不可視の剣でバゼットの胸元を指す。

 

「その胸に宝具を隠し持っていますね」

「ち、違います」

 

 バゼットは思わず後ずさった。セイバーの眼に気迫を感じる。同時に何か別の意味での身の危険を感じる。

 

「その大きさはきっとフラガラックだ。行きますよライダー!」

 

 凛とセイバーの背後からスッとライダーが前に進み出た。

 

「なっ」

 

 バゼットが逃げるよりも素早く、セイバーがバゼットの脚にタックルを、ライダーが後ろに回り込みバゼットの腕を押さえ込む。逃れようにもさすがにサーヴァント2人掛かりでは太刀打ちできない。

 

「な、なにをするつもりですか……?」

 

 顔を上げたバゼットの視界に凛の勝ち誇った顔が映った。

 

「ふふふふふ」

 

 怪しい笑いと共に、凛の指がわきわきと蠢く。

 

 

 

「おおおお!」

 

 見張り台の上のランサーが歓声をあげている。双眼鏡でセイバーや凛たちが集まっている場所を見ているようなのだが。

 

「見てみろよ凄げーぜ!」

 

 両手をにぎにぎしながら誘ってくるランサー。

 ランサーに勧められて士郎とアーチャーも双眼鏡を覗き込んだ。

 

「なななな、何てことしてるんだみんな。なんで止めないんだセイバー」

「り、凛……。そんなに強くおもいっきり……」

 

 士郎とアーチャーは手をワナワナ震わせながらその光景を見守る。

 

 

 

「こ、これで納得したでしょう!」

 

 バゼットは赤面して胸をかばいつつ床にへたり込んでいた。

 

「意外に柔らかかったわね」

「ええ、揉みがいがありました」

「まあ大きければいいってものじゃないわ。上品さが大事よ」

 

 感想を述べ合う凛、桜、イリヤの脇で、セイバーは少し不満そうに呟いている。

 

「ううむ、確かにフラガラックではありませんでしたね」

「当たり前です! そんなところに入れてきません」

 

 まだ納得いかなそうなセイバーをよそに桜とライダーは安心した顔をしている。

 

「危険物が入っていたわけではなかったので、もう心配ないですね」

「ええ、我々もサイズで負けていません。それに若さなら貴方の勝ちです、サクラ」

 

 イリヤも余裕綽々という顔をしている。

 

「サイズならウチのリズの方が勝ちよね。幼女(ロリ)もスレンダーもグラマーも揃ってる我がアインツベルンに隙はないわ」

 

 一方、凛とセイバーはいまだに戦闘状態のままだ。指すような視線を送り続けてくる凛とセイバーにバゼットは困り果てる。

 

「もう疑いは晴れたのでしょう?」

 

 呆れ気味のバゼットに対して、凛はびしっと指を突きつける。

 

「ふん、いくら大きかろうとどうせ使っていないなら単なる贅肉よ!」

「余計なお世話です!」

 

 セイバーは不可視の剣を構えなおしている。

 

「フラガラックでないことが判明したとしても、それはそれで別の凶器です。まだ剣を収めるわけにはいきません。私のマスターには近づかせない」

「近寄りません!」

 

 

 

 ぴんぽんぱんぽーーーん♪ 

 館内放送のチャイムがざぶーんの中にこだました。

 

「ざぶーんのオーナーから、本日お越しの皆様にご挨拶です」

「ふははははははは! 楽しんでいるか下々の者たちよ!」

 

 アナウンスの声の後に続いて、妙に聞き覚えのある哄笑が館内に轟く。哄笑は天から振りそそぐ。温泉プールの中の人々が驚いて声の主を探す。

 

「どこだ?」「いたぞ、あそこだ!」「誰だあれは?」

 

 人々が仰ぎ見る先はざぶーんで一番高い飛び込み台の上だった。

 金髪の外人青年が腰に手をあて胸を張って立っており、プールの中の人々を見下ろしていた。

 上半身は裸、下半身には赤い腰布一枚がふわりと危ういバランスで巻き付いているだけの出で立ちで悠然と仁王立ちしている。

 不審人物の出現でざぶーん館内に「きゃ———!」と女の子たちの悲鳴がドームに反響する。

 

「ギルガメッシュ……!」

 

 セイバーが剣を構えてギルガメッシュの方に向きなおった。ギルガメッシュもセイバーの声でこちらに気づいたらしい。

 

「ほう、セイバー。それに有象無象の雑種ども。よいぞ、我は寛大ゆえ貴様らにもざぶーんでの遊興を許す」

「なぜ貴方がなぜここにいるのです?」

「先ほどの館内放送が聞こえなかったか? 我がこのざぶーんのオーナーだからだ」

「何ですって?」

 

 冬木市民待望の憩いの場がいつの間にギルガメッシュの手に落ちていたのか、それともはじめからコイツの企みでつくられた場所だったのだろうか。

 

 高みにいるギルガメッシュがいつ攻撃をしてくるかわからない。みな一斉に身構える。凛はいつでもガンドを撃てるよう射撃の準備をし、リーゼリットはイリヤとセラの前に立ちはだかり、ライダーが桜をかばう。

 バゼットはシャンプーをつかって風呂桶にルーンを書きつけた。

 

 一方、ギルガメッシュは、

 

「ふむ、普段のざぶーんはプールであるから水着が必須であるが、今日は特別イベント『おふろでざぶーん』なのだから水着では雰囲気がでぬな」

 

 温泉プールで遊んでいる人々を見下ろしながら思案にふけっていたのであった。

 

「やはり水着で風呂など無粋である。正しくこの国の流儀に従うべきだ」

 

 ギルガメッシュは飛び込み台の先頭に進み出て、高らかに謳い揚げた。

 

「下々の規範となるのが王たるもの役目。我自ら手本を見せてやろう。さあ皆の者、我が威光を拝むが良い!」

 

 両手を高々と掲げ天を仰ぐ。ギルガメッシュの下半身をかろうじて覆っていた赤い腰布がふわりと浮き上がった。

 

「きゃああああああああああああああ!」

 

 プールの中にいる女の子たちの悲鳴がいっそう大きくなる。

 

(えい)(ゆう)(おう) キャストオフ!」

 

 ギルガメッシュの腰布が外れ、ざぶーんの天井に舞ってゆく。

 ほぼ同時にバゼットは手にした風呂桶をギルガメッシュに向けてぶん投げた。

 宙を舞う風呂桶がギルガメッシュの前に届いた瞬間にルーン魔術の詠唱を叫ぶ。

 

sowelu(ソウェイル)!」

 

 カッーーーーーーーーーー!

 

 風呂桶が弾け飛んで光を放つ。描かれていたのは太陽のルーンsowelu(ソウェイル)

 ざぶーんの温水プール一杯の冬木市民の皆さんの頭上にまばゆい黄金色の輝きが広がり、英雄王の下半身を神々しく覆い隠した。

 

「あちいい! 貴様は男子の股間に何をするかっ!」

 

 光がおさまった後の飛び込み台の上でギルガメッシュは股間を押さえてうずくまっている。間一髪で冬木市の人々への危険物の開陳は防がれた。

 セイバーが剣をかざしながら叫び返す。

 

「黙りなさい! それ以上やったら私もエクスカリバーを撃ちますよ!」

 

 

 

「はいはい、わいせつ物陳列は困ります!」

 

 飛び込み台に上がったランサーはギルガメッシユを台からどがっ!と蹴落とした。

 

「のわぁっ!従業員の分際で雇い主に噛みつくのか、この狂犬!」

 

 ギルガメッシュは天の鎖(エルキドゥ)を放つ。鎖を飛び込み台に巻き付けかろうじて落下を防ぐ。

 

「それにだ、我のお宝をなんと心得るか! 我の裸身は最高のダイヤモンドにも勝るのだぞ!」

 

 ランサーはギルガメッシュの言葉を無視して槍を取り出し飛び込み台をギコギコ切り始めた。

 ばきっ。

 飛び込み台が折れて、ギルガメッシユは台の破片もろとも温泉のなかに落下していく。

 

「貴様はクビだ! 野良犬に戻れ、ランサー!!」

 

 ざぶーーーーーーーーーーーーーーーーーん。

 

 ギルガメッシユの叫びは水飛沫と湯煙の中に消えていったのだった。

 

**********************************************************************

 

sowelu(ソウェイル)  

 

象徴:太陽

英字:S

意味:太陽を象徴する成功、名誉、勝利のルーン。太陽のエネルギーを表し生命力や健康という意味も持つ。kano(カノ)は人為的な松明の光を示すのに対して、sowelu(ソウェイル)は人が近寄る事ができない太陽の強い光を表す。

 

ルーン図形:

【挿絵表示】

 




バゼットさんの水着は何色がいいだろう?

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