1部ネタバレ要素があるため、通過予定者、通過している最中の方の閲覧はおすすめしていません。
ちょっとしたエッチなシーンがあります。
───随分とご機嫌な様子で。
湯気を纏った俺の前には、既に部屋着に着替えていた希伝がベッドに腰かけ、スマホを持ちながら頬をだらしなく緩ませていた。
時刻はとっくに晩を過ぎた頃、新曲のダンスレッスンによる疲労を癒すため風呂に入っていた。温もりと微睡みを心ゆくまで堪能していたからなのか、いつものように早く出るよう促されたところだった。
「おー、やっと出たか」
画面からちらりとも視線を外さず喋り出す。聞かなくても見ているものは分かっていた。
「まぁた女漁りか。懲りねぇなお前」
「この子から声をかけてくれたんだぜ。かわいい子じゃん」
投げられた言葉は返さず、水気を拭きズボンを履く。この長さの髪を乾かすには些か荷が重いだろう、バスタオルを肩にかけてベッドに腰掛ける。
「おーいたらー、お前ちゃんとドライヤーで乾かせよ?」
ごもっともな指摘だ。この状態で寄りかかっても、きっと押し返されるだろう。
「そいつ、今度のコラボメンバーの1人じゃないか?」
「そう。可愛かったから個チャ見たら、めっちゃエロい身体して踊ってんの」
振り付けはちょっと解釈に合わねーけどな。
そんなことを言いながらもフリップする手は止まらない。未だに火照りが収まらない身体を冷ましながらぼんやりとトーク画面を覗き見する。絵文字に彩られたカラフルな会話だ。
俺の画面には出さないくせに。
「火遊びは程々にしとけや、面倒なことになっちゃァ敵わねぇし」
「大丈夫だって」
「俺まで色狂いに見られちゃ堪んないんだよ」
希伝が女のことを話す時、いつもとても愛おしそうに笑う。どうせすぐに振られてしまう癖に、懲りもせずに何回もまた繰り返す。
本当に馬鹿だ、と。
「おい、服が濡れんだろうが。早く乾かしちまえよ」
すぐ耳元で希伝の声がする。寄りかかり、肩に頭を乗せていた自分がいた。道理で暖かいわけだ。
「お前さ、可愛ければ誰だっていいのかよ」
「は、急に何?」
「別にぃ?」
「なんかめんどくせぇなお前……」
言われなくても自分が面倒臭いやつだって分かっている。いくらルームシェアをしているからって相手に踏み込もうとした自分に、気味悪ささえ覚えるくらいだった。
火照っていた身体は、いつしか外気に当てられ冷えてしまっていた。
「あっ、まさか寂しいんですか〜?」
「なんでそうなるんだよ」
この位置からはよく見えないが、絶対にニンマリと笑っている。
あぁ、ムカつく。馬鹿なくせに、女の前では優しく大切に愛でて。本心から大事にしてようが俺の目には愛玩動物に対するソレと大差なんてない。
「女にヘラヘラしっぽ振ってる年中発情期の考えることは、相変わらずよく分かんねぇなぁ」
「はぁ? おま、そういうのじゃ」
「また痛い目見ても俺は何もしないからな」
「………………」
希伝の肩口に顔をうずめてるのか、言葉尻は篭って消えた。意地を張っているんだろうか、半裸なのにも構わずにそのままベッドに倒れ込む。傍から見たら、もしかしたら俺の方が滑稽に見えているのだろうか。
───ギシ。
「風邪でもひく気か?」
ふわりと頬に何かが滑る感触がする。希伝の片手が俺の頬に手をあてがっている。
細くも角張った指が眼孔を覆い、空いた手で俺の手と絡ませる。
「おい、何して……っ?」
腹、胸、首元と順に柔らかい感触が襲う。激しくはなく、むしろ優しささえ感じる程の刺激だ。それでも視界を奪われたこの状態では充分すぎる刺激となった。
「ん……ふっ、ぅ……」
やがてその感触は唇にまでやってくる。とても軽く、触れ合う程度の優しい刺激だ。
……キスをされている。俺が、希伝に。
しばらくフレンチキスを繰り返すと離れていく。それと同時に視界を覆っていた手も外れた。
「……お前、」
その顔を他の女にも向けていたのか?
今まで見た事がない程柔らかく、愛おしい表情を浮かべていた。
「可愛い顔してんじゃん、薫々良」
屈辱だ。こいつに組み敷かれる日が来るなんて、こいつがあんな顔するなんて!
でも、それより何より屈辱なのが。
「嫌だったら逃げてもいいんだぜ?」
恋愛感情を全く抱いていない相手なのに、振り解けるほど優しく組み敷いているくせに、拒むことが出来なかった俺自身が何よりも嫌だった。
「誰が逃げるもんか」
突き放すだなんてもう出来ないんだ、クソッタレ。