それは、過去。
突如として発生した、東三門市を襲った大災害。
死者行方不明者、合わせて1200人。多くの人命が失われ、そして奪われた。
敵の名は近界民。奴らの持つトリオンなる兵器は地球のものとは根底から異なった。銃は効かず、戦車は踏み潰され、ミサイルは叩き落とされた。
そして、
「お父さん……お母さん……」
ここにも一人、悲劇のハズレくじを引き当て、両親の
しかし、そこは戦場だ。トリオン兵があちこちで蠢き、少女もその標的だった。
一体のトリオン兵が少女目掛けて飛びかかる。
少女は、避けない。むしろ、それを受け入れたかのような諦めの表情でその様子はじっと見つめていた。
そして兵器の鋭利な足が少女の心臓目掛けて突き出される。
パァン!
だが、さらなる悲劇は訪れなかった。銃弾とは違う、一発のレーザーのような弾道がトリオン兵の足を吹き飛ばしたのだ。
パァン! パァン! パァン!
断続的な破裂音は続け
「こちら、
白髪の少女が声のした方向に目をやる。そこには長い黒髪をポニーテールにまとめた、同年代の少女が立っていた。手にはアサルトライフルを構え、一瞬だけ白髪の少女へ目をやった後、周囲への警戒を再開する。
だが、最も目を引くのは頭の上に鎮座する煌めきだ。
十字架を2つ重ねたような輝きが彼女の頭上で薄く輝いていた。
「錠前、了解した。それまでトリオン兵を迎撃する」
どこかと通信していたのか、通信端末を持っている様子は無いが再び力強い声が響く。
パァン! パァン!
ほとんど狙いを定めずに再び発砲。光線とも弾丸とも表現できない軌跡が銃口から伸び、塀越しに彼女たちを狙っていたトリオン兵の核を撃ち抜いた。
「さて、そこのお前。もうじき迎えが……」
ぶっきらぼうな口調で、口を開いた少女だったが不意に止まる。白髪の少女の周囲に転がる2つの死体を見て。
「その二人は……両親か?」
「うん」
白髪の少女が端的に返すと黒髪の少女は目を細める。まるで何かを懐かしむように。その悲劇を見たことがあるかのように。
次に口を開いたのは白髪の少女だった。
「私は、アズサ。白洲アズサだ。あなたは?」
「……錠前サオリだ。間に合わなくてすまなかった」
「あなたは何者なのだろうか? あなたが持つ銃は自衛隊とかで使われるものではないと私は思う」
どこか機械的な少女の問い。泣くでもなく叫ぶでもなく責めるでもない。
「【ボーダー】だ。私達は、私達をそう呼んでいる」
「そこに行けば、あの化け物たちを倒せるのだろうか?」
「奴らを殺したいのか?」
「殺したい」
パァン!と再び音が響く。また一匹トリオン兵が地に倒れ伏す。
「ならば来い。直に一般人からも募集が始まる。奴らを殺す
「ありがたい話だ。丁度いいな」
「必要だから準備があるだけだ。お前のためじゃない」
「構わない。使えるものがあるなら使わせてもらう」
「そうか」
そう言って
どんよりとした雲からポツポツと、雨が降り始める。すでに戦闘音は散発的であり、事態が収束に向かっていることが彼女たちに伝わってくる。
「終わったか……アズサ、立てるか?」
黒髪の少女が呟いた。
すでに敵影は見えず、オペレーターからの指示もない。
これは
数ある悲劇の一つに過ぎない。
そして、それは一人の未来を見る男によって作られた新たな出会いでもあった。
「うん、連れて行ってくれ……その【ボーダー】とやらに」
★
数日後。
「アズサちゃああああああん!」
病院から出てきたアズサに飛びつき、そして抱きしめる少女が一人。
彼女の名前は阿慈谷ヒフミ。薄茶のセミロングの髪を二つ結びにした少女であり同級生だ。
怪我などの検査のために【ボーダー】に滞在し、その後病院でお世話になっていたアズサが今日、帰ってくると聞いてこうして病院玄関で待っていたのだ。
「ヒフミ、苦しい」
「う。ぐすっ……、ごめんなさい。でも、でもぉ……アズサちゃんに怪我がなくてよかったですぅぅぅ……」
ぐずぐずと泣きじゃくるヒフミ。友人が心配で心配で、しかし面会謝絶になっていた為に会えず不安が募りに募った結果である。
そしてアズサとヒフミの他にも同年代の少女が二人。
「ちょっとヒフミ! アズサが困っててしょ!」
「まあまあ、お二人共落ち着いてくださいな♡ アズサちゃん、ご無事で何よりです♡」
一人は苦しそうなアズサを見かねてヒフミにストップをかける少女。名前を
そしてもう一人はその状況を見ながらもニコニコと笑顔を絶やさないピンクの、腰まであるロングヘアの少女。名前を
「うん、ありがとう。ハナコ。皆も来てくれてありがとう」
「来るに決まってるじゃないですか!! 本当にびっくりしたんですからね!
未だに涙が引っ込む様子がないヒフミだが落ち着きは取り戻してきたのか、抱きしめていた腕を緩め、涙の溜まった瞳でアズサの無事を確認していく。
それを問題ない、と手で制しながらアズサが再び口を開く。
「迎えに来てくれて感謝する。ところで本当にお世話になっても良いのだろうか? 残念なことにお金が私にはほとんど」
すでにアズサの両親が亡くなったことはメールで伝えている。三人がここに集まったのはそのアズサを迎えに来た、という目的もあってのことだ。
「そんなの必要ありません! 気にせず私達を頼ってください!」
「そうですよぉ♡ それに、お金ならこの【ボーダー】とやらが色々便宜を図ってくれるそうで……。アズサちゃんが露頭に迷うこともなさそうです。不思議な組織ですね♡」
スッ、と目を細めながら、遠くの、廃墟となった街の中に佇む巨大な建造物、【ボーダー】本部へと目を向けるハナコ。
その様子を見てコハルが何か勘違いしたのか慌ててアズサに確認を取る。
「な、なんか変なこととかされてない? この建物の人たちも宇宙人だったりしない? なんか光線とか出してたらしいけど!?」
「トリオンという技術らしい。色々説明は受けたけどちゃんと地球の日本人だったと思う」
「大丈夫なんでしょうね……。あんた色々抜けてるから心配なんだけど」
納得、とまでは行かないがアズサがいつも通りの様子を改めて確認して安心したのかコハルは警戒しつつも話を流すことにする。
もっと大事な話が始まることを察したからだ。
口火を切るのはヒフミ。
「ところで、アズサちゃん、あなたもこの【ボーダー】という組織に入ると言うのは本当なんですか?」
途端にアズサ以外の空気が重くなる。彼女たちにとって【ボーダー】とは軍隊とやることがそう変わったようには見えていない。故にメールで伝えられたその情報はアズサが非日常へ向かっていくかのような、そんな不安感を伴うものだった。
「うん、もう決めた。私は【ボーダー】に入る」
だが、当の本人はサラッと肯定する。まるで悩むことなんか無いというかのように。
「どうしても、ですか? あんな化け物と戦うんですか? アズサちゃんの両親だって……!」
ヒフミが言葉を重ねる。戦うということは命の危険だってあるはずなのだ。友達が危険に巻き込まれるのは彼女の本意ではない。
「ちょっとヒフ……もが」
「はーい、ちょっとここはヒフミちゃんに任せましょうね」
コハルが何かを言いかけるがハナコから羽交い締めにされる。
その様子にキョトンとしながらもアズサは言葉を返した。
「うん。私は近界民を殺す。その為の力が、設備が、機会が、ここにはある」
「なんで……そんなことを一人で決めちゃうんですか……」
どう聞いても、アズサの返答が変わることはない。そのことを理解しても彼女は確認せねばならなかった。何故アズサが一人で、全て決めてしまったのか。相談してくれなかったのか。
「ごめん……。でも、これは私が決めるべきことだから。ヒフミ達を巻き込みたくない」
確固たる意思だった。その瞳に揺らぎなし。
それにアズサとしてはメールで事後報告したことで友達としての義理は果たしているつもりだった。ヒフミの【相談してほしかった】というのは理解はしつつも彼女の譲れない部分であったのだ。
「なるほど、分かりました。ホントだったらアズサちゃんには戦って欲しくなんかありません。けど、アズサちゃんの決意も、意志も曲がらないってことは分かりました」
「ん? うん」
だが、突然!ヒフミの空気が変わる。
「だから、私達も【ボーダー】に入ります!」
「え?」
その言葉にアズサは驚く。
だが、その言葉に驚いたのはアズサだけだった。
「アズサちゃんは被害者だから入れてもらえる、というわけではありませんよね? 一般の募集が始まるからそこに応募する、という話ですよね?」
「そ、そうだけど」
「なら! 私達が応募しても何にも問題ありませんね!!」
「ない……けど……。ん? 私達?」
その言葉尻に違和感を覚えたアズサ。だが、その真相など自明だろう。
「ちょっとアズサ、ヒフミだけ行くわけないじゃない。私達も行くに決まってるでしょ!」
「まぁ、そういうことです♡」
アズサにとっては予想外の、しかしヒフミたちにとっては必然のその答え。
「ん……しかし」
アズサからしたらヒフミたちを巻き込むつもりはなかった。それ故の「しかし」。
だが、そんな言葉は彼女たちの前にはなんの障害にもならない。
「あんた、自分が巻き込んだとか考えるんじゃないわよ! これは私達が決めたことなんだから! あんたが責任を負うなんて
「コハルちゃん、
「う、うるさいったら! そういうわけだから! 一人で戦おうなんて禁止なんだから!」
顔を真っ赤にしつつも言いたいことをはっきり言えてスッキリした様子のコハル。メールで、アズサが入隊を決意したことを伝えられた時点で彼女たちの決断は早かった。
「そういうわけです。アズサちゃん。私達は一蓮托生の仲間です。一人で戦う必要も、一人で悩む必要も、一人で抱え込む必要もないんです!」
ヒフミが、きゅっとアズサの両手を握りしめる。顔を見て、目を合わせ、アズサの心の奥底を覗き込む。
「ヒフミ……」
「アズサちゃん。最後に寝たのはいつですか?」
「……」
「辛いことをちゃんと周りの人に吐き出せましたか? ちゃんと泣けましたか?」
アズサは逃げられない。両の手を固定され、顔を背けることくらいしか出来ない。
「ここで戦おうとすることを私達は止めません。けど、アズサちゃんはその選択をする前にやることが……あります」
「ヒフ……ミ……」
付き合いの長いアズサには、ヒフミが何を言おうとしているのか、分かっている。分かってしまった。
「泣きましょう……! 辛いときは辛いと泣くんです! 寂しいときは寂しいと泣くんです! アズサちゃんはそれが苦手です! いっつも心に蓋をしてます!」
そう言って、ヒフミはアズサが切り出すのを待つ。
コハルもハナコも、何も言わない。
数秒か、数分か、少しばかりの時間を置いてアズサがようやく口を開く。
「お父さんが……押入れに押し込んでくれたんだ……」
「うん……」
「お母さんと一緒に、そとにでて……」
「うん……」
「嫌な予感がしたんだ……嫌な音がしたんだ……。急いで出たけど、でも、全部手遅れ、だったし……。私に出来ることなんて、何もなかったんだ……」
「このまま……死ぬかと思ったけど……私はそれでも良かったんだ。だって、相手は未知の化け物で、鈍器も刃物も通らなくて……出来ることなんてないって、諦めるしかないって思ったから、ここで死んでもいいやって」
「でも……対抗手段があるなら別なんだ! 私と同じくらいの子がアイツラを倒していったんだ!」
「私は……私はここで立ち上がるんだ!
「そうでしたか……」
「アズサ……」
「正直……現実感がなんにもないんだ。今だって、何か夢を見てるんじゃないかって。寝て起きたらお父さんもお母さんも【おはよう】って言ってくれるんじゃないかって思ってるんだ。化け物が攻めてくるなんて夢だったんだって、私だけ助かったのはなにかの間違いなんだって……う、うぅ……」
「いいんですよ……泣きましょう。私も泣きます。アズサちゃんが泣き止むまで一緒に泣きます」
「おどうざん……! おがあざん……! なんで……こんな……」
立っていることもままならなくなったのか、アズサが膝から崩れ落ちる。周囲の目も憚らず泣き
ヒフミも泣く。友達が泣き下手
少女たちのわんわんという鳴き声が響く。
これは空閑遊真がくるおよそ四年前から始まる物語。
というわけでクロスオーバーです。原作開始前なので時系列に気をつけつつ好き勝手やりたいと思います。
以下ブルアカ知らない人向けに軽くキャラ紹介(ブルアカみんなやろうぜ)