ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

11 / 21
「例の近界民(ネイバー)が危険区域に? 分かった。君たちが今動ける唯一のA級だ。健闘を祈る」



第九話 策謀

12月14日土曜日。

 

 その報告が城戸に届いたのは昼過ぎになってからだった。

 

 三輪隊が追っていた【空閑遊真】と名乗る近界民(ネイバー)。平日はB級隊員である天童アリスが常に一緒にいた上、行動範囲も学校や市街地といった戦闘には適していない場所であった。結果として戦闘を仕掛けることもできなかった。

 

 しかし、どういうわけか、今日この日は標的の近界民(ネイバー)は戦闘しやすい危険区域に向かったとのこと。

 

「尾行がバレたのか、それとも何か別の目的があるのか……」

「しかし、阿慈谷隊がやられた相手に三輪隊が勝つことができますかね?」

 

 城戸が相手の意図を考えていると根付が不安そうに話しかけてくる。

 事実、阿慈谷隊のランク戦成績はA級5位。対して三輪隊のランク戦戦績はA級9位だ。地力なら阿慈谷隊が勝つ、という風に考えるのは間違っていない。

 

 だが、城戸は根付の意見を否定する。

 

「心配する必要はない。阿慈谷が負けた理由は多くあった」

「負けた理由ですと? 相手が黒トリガーだったということなら変わらないのでは?」

「それもあるが……順に挙げていこう。一つ目、あの戦いが遭遇戦であったことだ。阿慈谷隊の強みが活かされるのは拠点防衛戦だ。対して三輪隊は遭遇戦に強く出れる」

「な、なるほど……」

 

 白洲アズサのトラップ、阿慈谷ヒフミの曲射、いずれも真価が発揮されるのは十分な準備が整った場だ。

 そして実際、ランク戦においてもアズサの居場所が序盤にバレた場合、多くは上位攻撃手によって落とされていることも多い。

 

 

 確かに、と納得しながら根付たちは続いて挙げられる理由を聞いていく。

 

「二つ目、阿慈谷隊の中で遭遇戦に強い下江隊員が不意打ちで真っ先に落とされていたことだ。あの時点で彼女たちに勝ちの目は無かった。善戦はしてくれたがな」

 

 そう。あの戦闘において、コハルであれば前衛を務めることが可能であった。彼女の反射速度や俊敏さは阿慈谷隊の中で群を抜いている。

 

「三つ目、敵の能力が一切不明だったことだ。例えA級一位の太刀川隊でも未知の黒トリガーというのは脅威だ。それを一切不明の状態で立ち回った阿慈谷隊、対して彼女たちが集めた黒トリガーの情報を持つ三輪隊。さて、これでどちらが勝つと思うかね」

 

 反論はない。もとより根付たちも三輪隊の実力を疑っているわけではない。順位という一側面で見てしまったゆえの不安だ。しっかりと根拠を挙げ、説明されたならもう不安はなかった。

 

 

 同時に、ピピピピと城戸の端末に通信が入る。相手は月見蓮。三輪隊のオペレーターだ。

 戦闘から早数分。決着がつくには十分な時間だった。

 

「早かったな。黒トリガーは……」

「三輪隊、敗北しました。敵の黒トリガーの能力は【敵のトリガーをコピーする】ことです。大至急対応が必要かと思われます」

 

 部屋を沈黙が支配した。

 

 

「これは由々しき事態だ。錠前隊。君たちはこの事態を引き起こしたと言ってもいいのだが、その点は分かっているかね」

「この事態を引き起こしたのは城戸司令では? 我々は危険があれば排除せよ、と命令を受けた。危険がないと判断できれば次は友誼を結ぶ。そんなにおかしな話だったか?」

 

 険悪な空気が会議室を締め上げる。

 城戸派のいるこの場に呼ばれたのはA級3位部隊錠前隊。呼び出しの内容は勿論空閑遊真を見逃したことだ。

 

「彼の話を全て信じているのかね?」

「信じている。それに彼の話をまともに知っているのは城戸司令や林藤さん、忍田さん、それくらいだろう。嘘で名乗る価値があるとは思えない」

 

 敵の話を信じるのか、というのは正論だ。近界民(ネイバー)が全員敵だという認識ならばそれは間違いない。

 一方でサオリの言い分も間違っていない。上司である忍田からくだされた命令は危険があれば排除せよ、である。相手の言い分が納得できるものであるのならば排除する理由にはなり得なかった。

 

「話は以上か?」

 

 その話だけならば、と彼女は帰る意思を見せる。城戸は引き止めるつもりはなかったが一つ質問をした。

 

「君たちから見て彼の強さはどれくらいだ?」

「強さの物差しが曖昧だ。その疑問に答えることができない」

 

 強い、弱い、時と場所、時間と精神身体。勝負を決する要因は多くある。

 それに、サオリは空閑遊真の強さについて話すつもりはなかった。敵ではない少年の情報を城戸にくれてやる理由はない。

 

「そうか。わかった。退室してよろしい。だが今後、彼が民間人やボーダーに被害を出した場合、君達が彼を討伐しなさい。そしてその後見逃した責任として青春アロナの持つ黒トリガーは我々が預かる」

「それは……」

 

 当然だ、とサオリは思う。これに反対するのであれば敵の言うことが信用ならないと言っているのと同義だ。彼女には頷くしか選択肢はない。

 

「どうした? 彼の話を鵜呑みにするならば民間人に被害は生じないのではないかね」

「分かった。いいだ……」

「ちょっと待ったー。その話飲んじゃいけないよ」

 

 だが、未来が見えているものがいればここは必ず介入してくる。

 

「迅、何の用だ?」

 

 やってきたのは迅悠一。怪しげなサングラスを輝かせながらズカズカと部屋に入ってきた彼はサオリと城戸の間に割って入る。

 

 

「いやいや、城戸さん性格悪いなぁ。サオリちゃんだけ呼ぶとかずるくなーい?」

「なんのことだ」

「今の約束だとボーダーから彼を攻撃して、反撃されただけでもアロナちゃんの黒トリガーは回収できるっていう寸法でしょ? 流石に見逃せないって」

 

 サオリは目を見開く。確かにそうだ。攻撃を仕掛けて反撃されたのならばそれは立派な被害である。

 

「城戸司令。ボーダーはまだ彼を攻撃するつもりなのか? いや、それよりも、私を騙そうとしたということか?」

 

 猜疑心がサオリの心から滲み出る。

 

「別に嘘など言っていない。その近界民(ネイバー)を見逃したのは君たちだ。その事実は揺るがない」

 

 動揺した様子は欠片も見せない。が、迅の言葉を否定しない時点でアウトだった。

 

「撤回だ。そんな条件、絶対に呑まない。そしてこの件は忍田さんへ報告させてもらう」

 

 それだけ言い捨てて彼女は部屋を出ていく。乱暴に閉められた扉が悲鳴を上げるがそれだけで彼女の鬱憤は晴れないだろう。

 

「サオリちゃんばいばーい……。城戸さん、流石に今のは無理筋じゃない? 何を焦ってるのさ」

「焦ってなどいない。管理下にない黒トリガーを看過出来ないだけだ」

「その黒トリガーって【風刃】や【先生】も入ってる感じ?」

「……隊室しなさい。入室を許可した覚えはない」

「もー、そんなこと言っちゃってー。わかりましたよーだ」

 

 迅もここでやるべきことを終えたのか、特に反抗することもなく部屋を出ていく。残されたのは気まずい空気の城戸派の大人たちだ。

 

「城戸司令……どうするつもりですか? 三輪隊は敗走し、他のA級隊員も非交戦的……」

 

 勝つだけならばまだ他のA級も可能性はある。だが現状、城戸の直接指揮下にある部隊で三輪隊以上の部隊はいない。

 

「問題ない。あと四日で遠征部隊が帰還する」

 

 しかし、城戸の声は落ち着いたものだった。

 

「遠征部隊!」

「そういえば……」

「確かに、彼らは命じれば従ってくれるでしょう。タイミングがいいですね」

 

 四日程度ならば今更泳がせたところで大きな被害は出ないだろうと輝度は予測していた。

 

 実のところ、近界民(ネイバー)撲滅を掲げる城戸だったが、彼にとって空閑遊真を名乗る近界民(ネイバー)は倒すべき敵ではなく、黒トリガーを持つ外部者という認識だ。

 

「問題なのは忍田派が敵に回る可能性だ」

 

 故に、心配なのは他の陣営からの妨害だ。

 

「そうなれば……非常に厳しい状況になりますね」

「対象の近界民(ネイバー)に狙いを絞れば敵戦力は一人です。それならばA級部隊で処理できる。問題は迅が攻撃のタイミングを読んで何かしらの手を打ってくることでしょうが……」

「A級合同部隊でも黒トリガーを奪取できなかった場合は天羽を使う」

「できれば出てきてほしくないですけどねぇ……」

 

 根付の心配は、だがしかし、黒トリガーを奪えるという名目のもとでは吹けば飛ぶものでしかなかった。

 

 

「どーしよーかなー」

 

 数人掛けのソファに寝そべるのは迅悠一。城戸派の集まる部屋から撤退した彼は行きつけの部屋、百合園セイアの自室で悩んでいた。

 

「迅、悩みがあるならはっきり言ってくれないか。せっかくのお茶が美味しく無くなってしまう」

 

 そんな迅を真横で見ながらセイアはため息をつきながら二人分の紅茶を入れていく。友人からおすすめされた一品であるのだが迅がうだうだ言っているのを見て入れなければよかったと後悔するがもう遅い。

 

「いやいや、セイアちゃん、難しい局面なのは分かるでしょ? 誰を動かすのが丁度いいのか悩みどころなんだよね」

 

 だが、セイアから不満を言われるのは迅にとっては慣れたもの。未来に関する愚痴を言えるのがセイアだけなため頻繁にこの場所を訪れては同じ目で見られているのであった。

 

「私はまだその未来を見ていないよ。だから特にアドバイスをすることもない」

「俺としては錠前隊が動かせたら戦力的には安心なんだけどさ」

「はぁ……。相手チームはどこで、君の目的はなんだい?」

「相手は太刀川隊、三輪隊、冬島隊、風間隊だね。そんでこっちの目的は風刃の強さを上層部に知らしめること」

 

 迅の目が捉えているのは四日後の夜に勃発する黒トリガー争奪戦。敵はいずれもA級上位チーム。一人で戦えば五分五分だが彼としては負けるわけには行かない。

 

「なるほど……。なら錠前隊はやめた方がいい」

「やっぱそうだよねぇ。彼女たちを使っちゃうと【風刃】が勝ったんじゃなくて、黒トリガー2つが勝った、っていう認識になっちゃうよね」

 

 彼の目的を果たすための条件は複数ある。だが何より大事なのは後々の交渉のために【風刃】が活躍すること。そのためには大勢を率いて応戦することもできなければ黒トリガーをもつ錠前隊に助けを求めることもできない。

 

「加えて空閑遊真という近界民(ネイバー)に敵意がない必要がある。まさか迅、目的を隠したままA級上位と戦わせるつもりはないだろう?」

「いや、普通に隠せるなら隠すけど?」

「…………」

「や、やだなぁ、迅さんジョークだよー! できればそこらへんも話した上で戦闘に協力してほしいよね!」

「はぁ……なら阿慈谷隊がいいだろう。戦力的にもちょうどよくなるはずだ。嵐山隊も行けるはずだ」

 

 候補としてはその二つ。他のチームであれば四日後にボーダー付近にいないか、迅のお願いを聞いてくれなさそうなところしか思いつかない。

 

「うんうん。それしかないよね。そしてどっちを選ぶかだけど」

「大部分は迅が倒す、その手筈で合ってるかい?」

「うん、その予定だよ」

「ならばどちらでもいいはずだ。どちらも瞬殺されるチームではないのだから」

「そうなるかー。オーケー。ならあとはくじ引きでもしようか」

 

 そして、彼は適当にあみだくじを作るとセイアに問う。

 

「ところでセイアちゃん、運っていい方?」

「いいと思うかい?」

 

 

時は過ぎる。

 

「これが今回の遠征の成果です。お納めください。城戸司令」

「御苦労。無事の帰還なによりだ。ボーダー最精鋭部隊よ」

 

 帰還した風間たちを労い、迎え入れるのは城戸司令。

 そして彼の横では鬼怒田が未知のトリガーに目を輝かせていた。

 

「おお、素晴らしい! 未知の世界のトリガーか。これでボーダーのトリガー技術は更なる進化を遂げるぞ!」

「鬼怒田さんさ〜遠征艇もうちょいでっかく作れねぇ? オレ足なっげーから窮屈で死にそうだったぜ」

 

 体調の冬島が船酔いのため、A級冬島隊の隊長代理当真はこの上機嫌を逃すまいと自身の要望を伝えるが帰ってきたのは鬼怒田の睨み顔だった。

 

「バカ言え! あれよりでかいのを飛ばそうと思ったらトリオンがいくらあっても足らんわい!」

「ありゃ、そーなの?」

 

 システム上無理ならば仕方がない。それくらいの分別は彼にもある。要望が通らなかったゆえにがっかりするもこれ以上は口を挟まない。

 

 城戸司令が口を開く。

 

「さて、帰還早々で悪いがお前たちには新しい任務を与える。現在玉狛支部にある黒トリガーの確保だ」

「黒トリガー……!」

「玉狛?」

 

 帰還早々にくだされた命令。だが、たった一文の中に情報量が多すぎた。

 

 困惑する遠征部隊を尻目に城戸は三輪隊へ目を向ける。

 

「三輪隊、説明を」

 

 答えたのは狙撃手(スナイパー)、奈良坂。

 

「はい、まず最初の発端は12月4日夕刻、阿慈谷隊が開いた門への対応に向かったところ黒トリガーを持つ近界民(ネイバー)と遭遇。敗北しました」

 

 その言葉に再び遠征部隊は衝撃を隠せない。阿慈谷隊が敗北するという事実は普段A級ランク戦で彼女たちと対決する彼らにとってそれなりに重い事実だった。

 

「あの子たちが? まあ、黒トリガーならしゃーねーか」

「黒トリガーの能力は?」

「相手の攻撃を学習して自分のものにするものです」

「厄介だな……」

 

 その情報を聞くだけで風間たちは全員が、敵のトリガーの厄介さを理解する。

 黒トリガーというのは単体で見れば確かに脅威だが、種さえ割れれば対応可能なものも多い。

 

 例えば【風刃】。長射程の斬撃は確かに脅威だが至近距離の近接戦闘に持ち込めば太刀川は勝つ自身がある。

 

 だが、敵の能力をコピーするとなればその武器は間違いなく多彩さである。一筋縄に攻略法が見えるものではない。

 

 三輪隊の報告は続く。

 

「その後近界民(ネイバー)は市街地に逃走。そして今日再び危険区域にやってきたところを我々三輪隊が襲撃……敗北しました」

「ほぉ?」

 

 太刀川が不思議そうに声を上げる。確かに初見殺しが多そうな敵トリガー。だが、彼には三輪隊が無策に敗れるとは思っていなかった。

 

 その意図を城戸は察したのだろう。三輪隊に任せるつもりだったが彼もまた戦闘を齧る人間として進言する。

 

「三輪隊の名誉のために口を挟むが敵の黒トリガーの能力が判明したのはその三輪隊との戦闘だ。阿慈谷隊との戦闘時、敵が使っていたのはシールド、グラスホッパー、スラスター、レーダーのみだった」

「なるほどね」

「錠前隊はどうしたよ? アイツラの黒トリガーなら一人くらい問題ねえだろ」

 

 一方で当真。彼はなぜA級の9位部隊が駆り出されていたのかが分からなかった。なにせこのボーダーには防衛戦力として最高と考えられている錠前隊がいる。

 

「奴らは中立に立った。今回の件に関与することはない」

「なんだそりゃ」

 

 訳の分からない答えだったが城戸の機嫌が一段階悪くなったのを察して当真は黙り込む。

 

「……報告を続けます。その後玉狛支部の迅隊員が戦闘に介入。迅隊員とその近界民(ネイバー)に面識があったため一時停戦。その後迅隊員の手引で玉狛支部に入隊した模様、その後今に至ります」

近界民(ネイバー)がボーダーに?」

「前例はある。玉狛の技術者も近界民(ネイバー)だ。それに本部にもB級にトリオン兵がいる」

 

 その風間の言葉を受けて納得する遠征部隊の隊長たち。彼らが状況を理解したのを受けて、風間は3人を代表して字体の確認を行う。

 

「今回の問題はただの近界民(ネイバー)ではなく黒トリガー持ちだということだな? 玉狛支部に黒トリガーが二つとなればボーダー内のパワーバランスが崩れる」

「そうだ。だがそれは許されない。お前たちにはなんとしても黒トリガーを確保してもらう」

「黒トリガーの行動パターンは? 一人になる時間帯とか決まってんの? まさか玉狛の全員を相手するわけには行かないだろ」

 

 太刀川の問い。それは玉狛に所属するボーダー最強の部隊と称されるA級ランク外の玉狛隊、黒トリガーを所持すS級隊員迅悠一。目標の黒トリガーをもつ近界民(ネイバー)のことも考えれば、確実に作戦を遂行するためには多くの情報がいる。

 

「黒トリガーは13日の金曜日までは天童隊員の寮と学校の行き来を繰り返していました。14日土曜日午後に玉狛支部へ出向き、以降は毎朝7時頃玉狛支部にやってきて夜九時から11時の間に玉狛を出て天童隊員の寮に戻るようです。現在はうちの米屋と古寺が監視しています」

「チャンスは毎日あるわけだねぇ。ならばしっかり作戦を練って……」

 

 奈良坂の詳細な情報に根付はしたり顔だ。眼の前にいる三チームはいずれも信頼が置ける優秀なチームだ。

 

「いや今夜にしましょう。今夜」

「……!?」

「今夜!?」

 

 だが、誰もついていけない。太刀川の立てる作戦に。

 自分たちの報告が軽く見られたと思った三輪は食って掛かる。

 

「太刀川さん、いくらあんたでも相手を舐めない方がいい」

「舐める? なんでだ三輪。相手のトリガーは学習するトリガーなんだろ? 今頃玉狛でうちのトリガーを学習しているかもしれない。時間が経てば経つほどこっちは不利になるぞ?」

「っ!」

 

 だが、帰ってきたのは納得の行く理由だった。なにより三輪隊の報告を真摯に受け止めたからこその考えだった。

 

「それに、長引かせたら見張りしてる米屋と古寺に悪いだろ。サクッと終わらせようや」

「なるほどね」

「……確かに、早いほうがいいな」

 

 反対する理由もなく風間も当真も

同意していく。

 

「それでいいですか? 城戸司令」

「いいだろう。部隊はお前が指揮しろ。太刀川」

「了解です」

 

 ならば今からやるべきは作戦会議。この部屋に残る理由はない。

 

「さて、夜まで作戦を立てるか」

 

 そう言いながら彼らは部屋を出ていく。

 

「襲撃地点の選定が先だな」

 

 その言葉に太刀川はなるほど、と答えつつ、

 

「ま、大筋はうちの狼がやってくれるさ」

 

 そう言って、扉を開いたその先に、黒衣に身を包む長身の女性が立っていた。

 頭には加古隊の喜多川のように副作用故の犬耳様のハネのある灰色の髪。獣のような剣呑さを纏いながら彼女は言い放つ。

 

「ん。話は聞いてた。作戦も立てた。いつでも行ける」

 

 A級一位、太刀川隊の第三の刃。砂狼クロコである。

 

 

「予想される敵戦力はA級玉狛チームの3名、S級の迅さん、林藤支部長、そして黒トリガーをもつ近界民(ネイバー)の少年、こんなものだと思う」

 

 夜まで暇な遠征部隊を集め、クロコはホワイトボードに簡単な地図や予想される敵戦力を書き加えていく。その凶悪な面々に当真はげんなりした顔だ。

 

「おいおい、玉狛フルメンバーじゃねえか」

「ううん。正確には玉狛には花岡隊がいるけれど、正直言ってアリスちゃん以外はみんなの敵じゃない」

「まだいるのかよ」

「敵には未来視持ちの迅さんがいる。いつどんなメンバーで向かっても不意打ちはできない」

 

 文句を言っていても始まらない。彼女たちは最悪を想定して作戦を積み上げていく。

 

「なるほどな、で、振り分けは?」

「ん。基本は隊毎に対処する。私達太刀川隊が迅さんを抑える。風間隊はアリスちゃんとは相性が悪いから玉狛A級を、三輪隊と冬島……あ、冬島さん倒れてるんだっけ?」

「そ。わりぃな」

「ん……。分かった。なら太刀川さんが迅を抑えて。時間稼ぎでいいから。基本陣形としては太刀川さんが迅、風間隊がA級を抑えるのは変更なし、出水さんはアリスちゃんを行動不能を目標に。私と風間隊で黒トリガーの少年と戦闘する。三輪隊は予備戦力として動いて。拮抗してるところに加勢してもいいし未知の戦力がいたらその迎撃を。あと当真さんは好きに動いて」

「おいおい、黒トリガー抑える俺の負担がデカくないか?」

「仕方ない。敵戦力が強大だから。好きなだけ迅さんとやりあって」

「三輪隊了解しました」

 

 三輪隊も任せてもらえなかったのは悔しく感じながらも予備戦力を温存するのは基本だ。出し渋られているわけでもないため納得する。

 

「理想はそれだな。風間隊も了解した。襲撃地点は?」

「正面から叩く。けど時間は夜にする。迅の未来視は強力だけどいつどの時間なのかまでは分からない。なら太陽が沈んでることは絶対条件」

「ん? なんでだよ」

「太陽の位置で戦闘開始時間がバレるって話だな?」

「ん。さすが出水さん」

 

 ホワイトボードに深夜2時と書き加えられる。

 

「夜なら時間を知る手段は腕時計くらい。けど迅さんはつけてない。それに時間を夜にすることで敵がいつくるか分からない疲弊も誘える」

「……なぁ、これ、いつ考えたんだ?」

「今だけど?」

「面白い。どうせなら全力の迅とやりたいが」

「無茶言わないで。あと本当の戦闘時間は4時。何かをメモ書きする人は迅がこの光景を見ている可能性を考えておいて」

 

 迅の能力は未来視。そこに音声は含まれない。どこまでも迅を意識した対策だった。

 彼女の発言に他のメンバーが納得したのを確認してクロコは再び作戦を告げていく。

 

「ん。それじゃあ次は具体的な作戦を立てよう。三輪くん、敵の黒トリガーの能力は?」

 

「あ……、シールド、グラスホッパー、スラスター、鉛玉(レッドバレット)通常弾(アステロイド)、いずれもボーダーのものより出力が数段上です」

「なるほど」

「強化ボーダー隊員って感じ、かな。」

「隠し玉もまだありそうだな。要警戒っと」

 

 その報告を受けて動揺するものはいない。黒トリガーというだけならば彼らには勝機がある。

 特にA級一位、太刀川隊の面々はむしろ助かったとすら思っている。どんなに早くとも、どんなに出力が高くとも、それだけならば彼らの敗因にはなり得ない。

 

「これが、A級一位……か」

 

 その隔絶した実力と自信に、静かに三輪は嫉妬するのであった。




クロコ、参戦
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。