ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「迅さんからの救援要請? 従っておけ。後で十分な釣りが来る。勿論セクハラしてきたら蹴り殺せ。なに? やりすぎじゃないか、だと? あいつはそれだけのことをしている」


黒トリガー争奪戦 壱

「三輪、もう少しゆっくり走ってくれよ。疲れちゃうぜ」

 

 そんな呆けたことを言う太刀川を三輪は冷たい瞳で睨み返して無視する。

 

『目標地点まで残り500』

 

 彼の耳に届くのはオペレーター三上の進捗報告。

 戦闘は間近なのだ。それに何より近界民(ネイバー)を直接倒す滅多にない好機。そんな機会を眼の前にぶら下げられて三輪の心は逸るばかりだ。

 

「止まれ!!」

 

 その声を上げたのは太刀川。先程は太刀川のお願いを無視した三輪も大人しくその命令には従う。

 

 その理由は単純明快。

 

「迅……!!」

「なるほど、そうくるか」

 

 彼らの進む道路の先。交差点となる場所で立ちふさがっていたのはS級隊員、迅悠一。

 

 自然体で、迅は己の(ブラック)トリガーに手を伸ばしながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「太刀川さん、久しぶり。みんなお揃いでどちらまで?」

「うおっ? 迅さんじゃん。なんで?」

「よう、当真。冬島さんはどうした?」

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

 

 まるで挨拶を交わすかのように、流れるように行われた会話で当真は、迅が欲しかった情報をこぼしてしまう。

 

「余計なことを喋るな、当真」

 

 風間が注意するもすでに遅い。

 ペースを取り返すべく太刀川が今度は口を開く。

 

「こんなところで待ち構えてたってことはオレたちの目的もわかってるわけだな?」

「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ? 最近玉狛の後輩たちはかなりいい感じだから邪魔しないでほしいんだけど」

「そりゃ無理だ……と言ったら?」

「その場合は仕方ない。実力派エリートとしてかわいい後輩を守んなきゃいけないな」

 

 全員が、戦闘態勢に入る。彼の手に明確に風刃が握られたこともあるが、迅の言葉が宣戦布告だと理解したためだ。

 

 そして、その言葉に一番驚いているのは太刀川だった。

 

「なんだ迅、いつになくやる気だな」

 

 内心では迅と戦えることに喜びつつ、その真意を確かめに行く太刀川。

 

「おいおい、クロコちゃんの言う通りかよ。ほんとに迅さんと戦う流れ?」

 

 当真も事前に予測されていたとはいえ、(ブラック)トリガーを持つ隊員と戦闘になることに期待をふくらませる。

 

 一方で、冷静な者もいる。

 

「【模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる】。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな? 迅」

 

 風間が持ち出したのは隊務規定。ボーダー隊員として絶対の決まりをちらつかせるが迅を退けるには至らない。

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしてることもルール違反だろ。風間さん」

「……!」

 

 すでに、空閑遊真が玉狛支部に編入したというのならば迅の言葉は正しい。一瞬で言い負かされた風間だがその横では三輪の堪忍袋の緒が切れる。

 

「【立派なボーダー隊員】だと……!? ふざけるな! 近界民(ネイバー)を匿っているだけだろうが!!」

近界民(ネイバー)を入隊させちゃダメっていうルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

「なん……」

 

 先の風間に続き、三輪も言葉をなくす。戯言だ、と心のなかでは思うものの反論することはできない。

 

「いや、迅、お前の後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ」

 

 太刀川を除いて。

 

「玉狛での入隊手続きが済んでても正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。俺たちにとってお前の後輩は1月8日まではただの野良近界民(ネイバー)だ。仕留めるのになんの問題もない」

「へぇ……」

 

 詭弁には詭弁を。戯言には戯言を。太刀川は迅の言葉を引き裂く。

 そしてその横では三輪は太刀川が苦手な理由をはっきりと自覚するのであった。

 

「邪魔をするな。迅。お前と争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する。本部と支部のパワーバランスが崩れることは別としても(ブラック)トリガーを持った近界民(ネイバー)が野放しにされている状況はボーダーとして許す訳にはいかない。城戸司令はどんな手を使っても玉狛の(ブラック)トリガーを本部の管理下に置くだろう。玉狛が抵抗しても遅いか早いかの違いでしかない。大人しく渡したほうがお互いのためだ。それとも、(ブラック)トリガーの力を使って本部と戦争でもする気か?」

 

 恐らく、この場で最も冷静な風間。迅の論が崩れた時点で城戸の命令関係なしに風間は(ブラック)トリガーを奪取することを決断していた。

 

 だが、迅も譲る訳にはいかない。

 

「城戸さんの事情は色々あるんだろうがこっちにだって事情がある。あんたたちにとっては単なる(ブラック)トリガーだとしても持ち主本人にしてみれば命より大事なものだ」

 

 迅の脳裏に過ぎるのは空閑遊真の実情。(ブラック)トリガーが奪われてしまうことになれば彼はその存命すら危ぶまれるだろう。

 

 そしてさらには、来る大侵攻の被害が増す。見逃せる事態ではない。

 

「別に戦争をするつもりはないが……大人しく渡す訳にはいかないな」

「あくまで抵抗を選ぶか……」

 

 残念そうに呟きながら風間はトリガーに手をかける。もはや戦闘開始は目前。

 

「お前も当然知っているだろうが遠征部隊に選ばれるのは(ブラック)トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。他の連中相手ならともかく、俺たちの部隊相手にお前一人で勝つつもりか?」

「俺はそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さはよく知ってる。それに加えてA級の三輪隊。俺が(ブラック)トリガーを使ってようやく五分五分だろ」

 

 A級混成部隊の総人数は11人。ランク戦ならば自分以外のチーム全員が敵のようなものだ。

 

 だが一方で、(ブラック)トリガーを使って行われる戦闘はA級隊員達にとっても未知だ。迅の発言が強がりなのか、それとも事実に基づいた発言なのか、判断することはできない。

 

「いい加減なことを……!」

 

 三輪が駆け出す。迅の今までの発言で地雷を幾つも踏み抜かれ、半分くらいの確率で勝てると煽られた彼の体は踏みとどまることができなかった。

 

 その背中を、クロコが背中越しに押し倒す。

 

「ぐっ……何を……」

 

 クロコに攻撃の意志はない。ゆえに三輪にダメージはないが味方から唐突に行われた行為に苦言を呈す三輪。

 

 いや

 

 苦言を呈そうとした三輪、だった。

 

 彼が倒れた姿勢のまま顔を前に向けると、顔の目の前、即ち走っていれば足首の位置にワイヤーが貼られていた。

 

 罠トリガーの一つ【スパイダー】。高低差の激しい場所に張れば新たな足場にもなり、細く張れば敵から認知されにくい罠となるトリガーだ。

 

 そして、このトリガーを罠として使うのは

 

「迅さん、引っかからなかった」

「大丈夫大丈夫、アズサちゃんはここから撤退でいいよ」

 

 白洲アズサ。彼女しかいない。

 彼らが進んできたすぐ隣の路地からアズサが顔を覗かせ、すぐに撤退していく。

 

 その意味を、その場にいる全員が理解する。

 

「白洲……アズサ!!」

 

 三輪の咆哮が誰もいない市街地跡に響き渡る。

 その少女は、三輪にとって、ここに最もいてはいけない存在であった。

 

『全員、作戦変更。敵は阿慈谷隊。玉狛のメンバーは考えなくていい。メンバーは下江コハル、阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ。迅さんの相手は私と太刀川、風間、歌川、菊地原、奈良坂、古寺が引き受ける。他のメンバーは早急にアズサを倒して。指揮は出水さん』

 

 即座にクロコは作戦の変更を全員に伝える。ここで出迎えたということは玉狛を戦場にする気はないと言うこと。それは即ち玉狛のメンバーを戦闘に使う気がないということ。

 

『OK』

 

 出水はそれだけ返すと他の隊員に目配せしてアズサを追う。この場でクロコがアズサを追う指示を出したのは、不意打ちを狙うであろうアズサやヒフミたちを警戒しての判断だというのは即座に理解していた。

 当然、他の隊員もそれに続く。だが、呼ばれた中で一人、動けない隊員もいた。

 

「なぜ……なぜあいつがここにいる……! なぜ俺の邪魔をする! あいつだって近界民(ネイバー)が憎いはずだろう!」

「三輪、迅さんは未来という絶対的な情報アドバンテージがある。誰でも味方にすることができる、未来視を甘く見てた」

 

 混乱から抜け出せない三輪を飛び出さないように抑えつつクロコはアズサが迅の側に付いた理由を推察する。

 

 もともとアズサの近界民(ネイバー)への憎しみは天童アリスとの接触で軟化していたのは知っていた。

 

 しかし、今彼女が守ろうとしている近界民(ネイバー)は数日前にアズサを倒した本人だ。その心境を察するのは難しい。

 

「クロコちゃんの褒め言葉も久しぶりに聞くなぁ。元気かい?」

「ん、お陰様で。強盗は考えるのも実行するのも大好きだから」

 

 にこやかな笑顔で迅はクロコに話しかけ、クロコもそれに応じる。

 だが、同時に彼らは武器を構える。迅は、風刃を起動する。太刀川とクロコも、風間隊も、それぞれの武器トリガーを起動していく。

 

「三輪君、行って。迅さんは私達が倒す」

「いやぁ、流石に阿慈谷隊がこっちについたら俺が勝つよ。俺の副作用がそう言ってる」

「未来視の副作用か……面白い。お前の予知を覆したくなった」

 

 売り言葉に買い言葉。互いが己の力を信じて、その自信を相手にぶつけ合う。

 

「……了解」

 

 三輪も落ち着いたのか、アズサの逃げた方向に走り出す。

 

 かくして戦場は整った。

 

 これより(ブラック)トリガー争奪戦、勃発。

 

戦場α

 

●守勢

S級     迅 悠一

 

●攻勢

A級     太刀川 慶

太刀川隊   砂狼クロコ

 

A級     風間 蒼也

風間隊    歌川 遼

       菊地原 士郎

 

A級     奈良坂 透

三輪隊    古寺 章平

 

 

戦場β

 

●守勢

A級     阿慈谷 ヒフミ

阿慈谷隊   下江 コハル

       白洲 アズサ

 

●攻勢

A級     出水 公平

太刀川隊

 

A級     当真 勇

冬島隊

 

A級     三輪 秀次

三輪隊    米屋 陽介    




漫画からの参照引用が増えたことは申し訳ありません。ただこの一連の流れをやっておかないと「こいつら勝手に戦いすぎだろ」となるのでやむを得ずデス……
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