ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「君の右足に風間さんのモールクローが当たる。それだけは見えた。場所は車庫。その後ろに太刀川さんが見えるし後ろからはクロコが来てるよ」


黒トリガー争奪戦 弐

「くそっ……」

 

 ぶつけようのない苛立ちを胸に抱えながら彼は出水たちの待つ民家の屋根に急ぐ。数秒遅れただけだがその体はトリオン体。開いた距離は随分なものとなる。

 

「はーい、ここでストップだ。俺より前に出るなよ」

 

 だが、思いの外すぐに追いつく。声の方を向けば米屋と出水が呆れた顔で道路を眺めていた。

 

 その理由は一つ。

 

「スパイダーか」

「だな。ここまではなかったんだが。この先はあちらのテリトリーらしい」

 

 民家の屋根から道路を覗く三輪。確かに暗闇の中でもチラホラと極太のワイヤーが視界に映る。

 

「マジでめんどくせぇ。準備し終わった阿慈谷隊。どうするよ槍バカ」

「だな。A級の認識はみんなそれだぜ。弾バカ」

 

 ランク戦の当たればとにかく面倒くさい状態の阿慈谷隊と本番でぶつかることになってしまった彼らの心境は【面倒くさい】の一言だった。

 

「じゃあ、どうする? このまま指をくわえてみているか?」

 

 だが、停滞は三輪が許せない。心に溜まった鬱憤をぶつけるが如く出水に噛みつく。

 

「落ち着け三輪。誰もそんなこと言っちゃいない。当真がもうじき狙撃ポイントにつく。戦闘はそこからだ」

 

 三輪を宥めつつ、しかしどこか諦めたような声色でそんなことをいう出水。悪い予感が彼をつき纏う。

 そして、その悪い予感は当たっていた。

 

『駄目だ、出水さん。めぼしい狙撃ポイントは、全部潰されてやがる。いつから準備してたんだあいつら』

 

 やはり、と半ば予想していた状況に出水は辟易とする。

 

「厳しいか?」

『いやいや、そんなこと言ってないって。俺にかかれば狙撃ポイントなんかなくても屋根の上で十分だ』

「おーけー。ならこっちから動こう。敵の位置が分かり次第動け。それまでに見つかったら助けに行けないからな」

『りょーかい』

 

 ふぅ、と息を吐きながら出水は米屋と三輪を一瞥する。

 

「と。いうわけでだ。今から動くぞ。作戦としては俺が更地にしてアイツラを炙り出す。その後は全員でドーンだ。トラップさえなくなればこっちが優位取れるだろ」

 

 大雑把な作戦だが現状打てる手はそれくらいだった。敵の姿はレーダー上に未だ現れず、翻って自分たちの居場所は把握されていると考えたほうが良いこの状況下で出水は勝ち筋を探っていく。

 

 そんなときだった。これらの耳にオペレーターからの通信が入った。

 

『こちら三輪隊オペレーター月見。レーダーに反応ありです』

「お? 阿慈谷隊でバックワームしてないのは……ヒフミか」

「トリガー構成を変えてる可能性もあるが……まずは様子見だな。どうせトラップ壊すなら場所はバレるんだ」

 

 そう言って彼は両手にトリオンキューブを展開する。それぞれ炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)

 そして、合成。

 

誘導炸裂弾(サラマンダー)。ほいっと」

 

 キューブの展開からおよそ2秒で作り出されたその凶器は勢いよく上空に打ち上げられ……そしてヒフミを示す場所に飛んでいく。

 

 距離はおよそ二百。着弾まで十秒もない。

 

 だが、

 

「ほぅ……?」

 

 出水が弾を打ち上げて数秒後、ヒフミの場所からも弾幕が打ち上がる。そしてそれはあろうことか、出水の弾を相殺しきる。

 

「随分と合成が早くなったな……」

『次弾来ます!』

 

 ちょっとばかり感心した出水だが、オペレーターの月見がその意識を戦闘に引き戻す。

 

「全員ある程度バラけろ! 絶対に屋根の上から降りるな。そして路地からの不意討ちに警戒! 分かったか?」

「了解!」

「了解」

「よし。まずはヒフミから落とす。行くぞ」

 

 そして再度、全攻撃(フルアタック)の構え。その威力はほぼほぼ互角。

 

「うおっ……間近で2位と3位の撃ち合い見れるとか最高だな」

「気楽に言ってくれるなぁ。けど俺ガードとか今使えないからポディーガード頼むぜ」

「任せろって。虫一匹通すか、よっ!!!」

 

 激しい弾幕の中、民家の塀の間から鞭のように伸びてきたスコーピオンが出水を狙うが米屋に阻まれる。

 出水は一瞬狙おうか迷ったがすぐさまグラスホッパーで飛ぶ音が聞こえたため断念。また弾幕も正確になってきているので

 

「あの長さはマンティスか。ならコハルちゃんだな。俺が行くぜ。アズサの攻撃なら三輪のシールドで十分だろうし」

「分かった。行って来い。くれぐれも負けるなよ」

「はーい」

 

 そんな軽いやり取りをして米屋はグラスホッパーの仄かな発光を追いかける。

 それを見送りながら三輪は一つお願いをする。

 

「出水」

「ん? なんだ?」

 

 ヒフミの弾丸を一つ残らず撃ち落としながら、しかし己の弾丸も撃ち落とされながら、かれは三輪の声に耳を貸す。

 

「アズサが出てきてら俺がやる。あいつが何を目的としてるのか問い正す」

「あー、まあ別に止めはしないがあんまり戦闘中に私情を持ち込むなよ? 今は殺し合いをしてるわけじゃないんだからな」

「……」

 

 反論するほどのことではない。そう思いながらも二の句が告げずに心が引っかかる三輪。

 

「ほら、来たぞ。どうやら向こうもお前に話があるみたいだ」

 

 そして、まるで見計らっていたかのようなタイミングでアズサが現れる。場所は遠い民家の屋根の上。出水と三輪に向かって適当な通常弾(アステロイド)を飛ばしてくる。

 それをシールドで防ぎながら三輪は動き出す。

 

「いってくる」

「ああ、行って来い。俺は手助けしてやれるほど余裕がなさそうだがタイミングを見て当真を呼べ」

「了解」

 

 そして、彼は屋根の上を走り出す。屋根の上に一人残り、空から来たる弾幕を相殺しながら彼は独りごちるのであった。

 

「この戦い……迅さんはどこまで読んでるんだ……?」

 

 

 

 

「おいおい、みんなはっちゃけすぎじゃないか? 」

 

 一方で迅側の戦場。そこはすでに激戦と呼べる戦場と化していた。

 太刀川の二刀の斬撃が家々を切り刻み、それに連携した風間のスコーピオンが迅を的確に追い詰める。

 

 二人だけではない。スナイパーも迅の副作用(サイドエフェクト)ゆえに当たらないことは分かっていても、それが分かった上で彼の逃げ道となる空間を埋めていく。

 

 そして、クロコ。

 

「あとクロコちゃん、そのトリガーは連発するの大変なんじゃない? やめてくれると迅さんは嬉しいなーって」

「ん……。大丈夫。私はボーダーで一番トリオンがある」

 

 そして彼女は右手で銃を撃ちながら、空いている左手をかざす。

 それは彼女の使用する改造トリガー『(ゲート)』。

 

 効果はシンプル。入口と出口となる門を発生させるというもの。攻撃性能はそれ単体では全くないがチーム戦となると話が変わる。

 

「おっと……。ほんとにきついね」

 

 迅の頬を、彼が躱した筈の奈良坂の弾が後ろから掠める。

 

 仲間が撃った弾を門で回収し、出口となる門から射出する。

 事前に門を発見できれば単純にスナイパーが一人増えたのと変わらないが問題は今の時刻。

 

 夜に、しかも複数のA級隊員を相手する中で黒い門を発見することは非常に難しいと言わざるを得ない。

 しかも人が撃つのとは違い、出口となる門はどこにでもおける。死角となりやすい上空は勿論、迅の背後に設置することすら可能なのだ。

 

「未来視は見てないことは分からない。なら背後から狙うのは当然」

「そのとおりだけど、ねっ!」

 

 周囲をさらに菊地原、歌川が囲み始め、いよいよ不味いと判断したのか彼は大きく跳躍して距離を取る。

 

 勿論そのタイミングを逃す太刀川ではない。旋空弧月を2連撃で叩き込む……が、迅は的確に風刃で弾き返す。

 

 着地したのは左右を塀に囲まれた狭い道路。迅と数メートル距離をおいて太刀川、風間、クロコ、歌川、菊地原が睨み合う。

 

「いやぁ、ホントはみんなに消耗してもらうだけで良かったんだけどね。流石にそうも言ってられないか」

「おいおい、随分弱気だな。五分五分だったんじゃないのか?」

「いや、それは訂正しないよ」

 

 次の瞬間だった。迅は左手側の塀を風刃で切り裂いた。

 

「「「!!」」」

 

 その行為に反応できたのは太刀川、風間、クロコの3名のみ。太刀川と風間は刃を己の右手に添え、クロコはその場に獣のように体を折りたたむ。

 

 そして、反応できなかった攻撃手(アタッカー)のうちの一人、菊地原はその頭と胴体が切り離された。

 

「えっ……?」

 

 なにがあったかを理解する前に彼の体はひび割れて緊急脱出(ベイルアウト)の光に包まれる。

 

 それは戦場のレベルが一段回引き上げられた瞬間だった。

 

「出たな。風刃」

「皆がもう少し大人しかったらここまでやるつもりはなかったんだけどね。太刀川さんたちにはきっちり負けて帰ってもらう」

 

 不敵に笑う迅。その手に持つは幾つもの光の帯を携える(ブラック)トリガー【風刃】。

 

『歌川、隠密(ステルス)戦闘を準備しろ』

『……! 狙撃手(スナイパー)との連携が取りづらくなりますが』

『いいから急げ』

 

 そう風間が言い切ると同時に、迅が風刃を振るう。一つは太刀川を、一つは風間隊を狙って。

 

 風間の意図を読めなかった歌川は反応が一歩遅れる。一歩。その一歩が彼のトリオン体に傷をつけた。損傷は深くは無いが決して浅いものではない。

 

 一方でその横、クロコは地面を這うかのような低い姿勢で駆け出し迅へ迫る。

 

「おっと、それは……その連携はいいね」

 

 彼はクロコが銃に炸裂弾(メテオラ)を込めているのが見えている。防御能力が無い風刃では至近距離で喰らえばトリオン体が破壊される可能性は、万が一だがあり得る。

 

 そして、それを見越して距離を取る迅だがそこを今度は太刀川が距離を詰める。

 

「【風刃】の怖さは遠隔斬撃。距離を詰めればただの剣と同じだ」

「ん。だから攻めて攻めてとにかく攻める。(ブレード)の補充はさせない」

「なかなか研究してるじゃん。二人とも」

 

 いくつかの剣戟を超えた後、迅は地面に叩き落される。単純な剣の実力ならば太刀川に分がある。

 そして、地面に降り立ったところを今度はクロコが銃で直接殴りかかる。背後から通常弾の追撃を行うことも忘れない。

 

「おっとっと……危ない危ない」

 

 そう言いながらクロコの攻撃を凌ぎきり、彼が逃げ込んだのは未使用の車庫。壁は切り裂いて脱出するには分厚すぎることもあり、唯一の出入り口を使わない限り脱出は不可能な袋小路。

 

 すかさず太刀川は迅に追撃するべく車庫に入る。

 

 入ってしまった。

 

「もう逃げ場はないぞ。(ブラック)トリガー」

「逃げられないのはそっちだよ」

 

 そう。逃げ場はない。迅が駆け込んだところに入り込んだ時点で太刀川に逃げ場はない。

 

 彼が軽く【風刃】を振るだけで、その軌跡に斬撃が生まれ壁を走って太刀川へ迫る。

 

 都合六発。致命傷こそ防いだがかなりのダメージが太刀川のトリオン体に入る。

 

 残りの風刃の残弾は……一つ。

 

 攻め手が変わる。次は数だ。先程まで隠密(ステルス)を使用していた歌川と風間が彼を前後から斬りかかる。

 

 勿論、迅はそのすべてを読む。後ろに現れた歌川は刃に体を両断され、風間は真っ向からそのスコーピオンを風刃で受け止める。

 

 残弾、ゼロ。

 

「風間さん! 0本です!」

 

 動いたのは迅以外の前衛。

 

 太刀川は風間の体に隠れ、傷を負ったその体で旋空弧月を発動する。

 

 風間は迅が逃げられないように風刃を固定し、迅の足をもう一つのスコーピオンで地面を介して縫い留める。

 

 クロコは迅の背後に門を設置。誤射を警戒したのか銃は用いず、門から伸びてきたのは右手と……スコーピオン。

 

 その全てを、迅は読み切った。

 

「備えあれば憂いなしってね」

 

 直後、車庫内を螺旋状に風刃の刃が駆け巡り、太刀川の右腕、風間の左足、クロコの右手を奪い去る。

 

「なっ……」

 

 それを見て、驚かなかったものはいない。ランキングでも上位の前衛の、それぞれの攻撃手段全てに、事前で打っていた手だけで対応するなど正気ではない。

 

(いやぁ……危なかったけどね。セイアちゃん、さんきゅー)

 

 勿論、迅の未来視も万能値はない。彼自身には膨大な数の未来が見えていたが、それ故に予知できなかった攻撃も多々ある。

 

 例えば風間のスコーピオンによる攻撃。モールクローと呼ばれる、地面を介して敵を縫い付ける攻撃を迅は読み逃していた。

 

 だが、その攻撃だけは戦いが始まる前から教えられていた。

 

 彼らは、A級合同部隊は忘れていたのだ。

 

 花岡隊が玉狛にいるということは知っていた。ならばアリスという戦力以外にも気を配る必要があった。

 

 迅の他にもうひとり、未来を知ることができる人物がいたことを。

 

「君は勝つよ。作戦通りに」

 

 小柄な少女が一人、ボーダー本部の自室から戦場を見ながらそう呟いた。




原作が緻密すぎてクロコ一人じゃ大きな流れが変えられねぇ……
オリチャーは次回までお待ち下さい
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