ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「むむむ……どうして迅さんは私にセクハラしてくれないのでしょう……?」



始まりの終わり 終わりの始まり 壱

「作戦終了です。皆さんお疲れ様でした♡」

 

 アズサの緊急脱出を皮切りにヒフミ、コハルも阿慈谷隊の隊室へと帰還する。

 

 ヒフミはやりきった顔でその表情は、三者三様でアズサは釈然としない顔で、ヒフミは満足そうな顔で、コハルは不満げな顔で、

 

「釈然としない……」

「あはは……アズサちゃん、最後に頭吹き飛ばされてましたもんね……」

「油断しないでよ! 当真さんがいることはわかりきってたんだから」

「いや、三輪との話し合いが満足行くものだったから……」

「それは言い訳」

 

 アズサの緊急脱出は冬島隊狙撃手、当真勇の狙撃によるもの。三輪が緊急脱出したその瞬間の気の緩み。それを当真は見逃さなかった。

 

「まあまあ。迅さんの作戦は無事に完遂しましたし。目くじらを建てなくてもいいでしょう♡」

「けど悔しくない? この前のランク戦も狙撃で落とされたのに本番も落とされたのよ? 次は勝ちたいじゃない」

 

 コハルが立腹なのは、同じように隙を狙われたことがランク戦でもあるためだ。

 

「それもそうですけど……ほんとなら冬島さんがいてもっと好き放題してきますからね……」

「撃った次の瞬間には別の狙撃ポイントにいるのは本当に酷いと思う」

「アズサ、あんたは鏡見たほうがいいと思う」

「ん? なぜ」

 

 心底不思議そうな顔でコハルの顔を見つめ返すアズサ。ヒフミやハナコは思わず笑顔になる。

 

「あはは……。アズサちゃんはそのままでいいですからね」

「うふふ。その通りですよ。そう言えばコハルさんは男性への言葉責めがお好きでしたか。そのような趣味とはつゆ知らず……今度おすすめを紹介しますね♡」

「ちょ、ちょっとまってよ! 何の話よ!」

 

 そして、唐突に飛んできたハナコの口撃にコハルは焦る。

 

「ナニって、米屋さんを言葉責めしていたではありませんか。勿論録音してますからね♡」

「け、消しなさいってば!」

「あはは……」

「鏡を見ても私しか映ってないが……」

「アズサちゃん!?」

 

 阿慈谷隊室が混沌としてくるその時、ノックの音とともに扉が開かれる。

 

「よー、皆おつかれ」

「あ、迅さんいらっしゃい」

「開ける前に許可を取りなさいったら!!」

 

 やってきたのは迅。ヒフミはいつも通りに歓迎するが、コハルは履いていた靴を蹴り飛ばす。それをやはりいつも通りに躱され、何事もなかったかのように迅は話し始める。

 

「戦果は聞いたよ。皆健闘してくれたようでなにより。それにアズサちゃん、今日まで三輪との接触を禁じて悪かった」

 

 褒め言葉と、そして謝罪。

 

 アズサが近界民(ネイバー)への態度を軟化させたとき、彼女はまっさきに三輪へその価値観の変化を報告しようとしていた。

 

 それを止めたのは、迅とセイア。三輪の部屋にたどり着くために通る通路で彼と彼女は待ち受け、そして三輪との接触を禁じたのだった。

 

 その当時聞けなかった真意をアズサは問う。

 

「今更だが今日までに話し合っていたら今回の騒動は大きくなっていなかったのでは? 私なら三輪との境遇も近い。説得するなら適任だっただろうけど今回じゃなくても良かったはずだ」

「いーや、駄目なんだよ。今回の騒動はある程度大きくなる必要があった」

 

 例えば、空閑の(ブラック)トリガー。三輪の近界民(ネイバー)への態度が南下してしまえば空閑と三輪の戦闘が起こる確率が著しく下がる。そうなってしまえば彼の学習する(ブラック)トリガーが【錨】や【射】を得ることができなくなる。

 

 最悪そうなってしまえば直接玉狛のトリガーを(ブラック)トリガーにコピーさせるという手もあるが……それは空閑が乗り気ではないだろう。

 

「はぁ……また沢山見てるんですね……」

「今回の騒動の結果は未来に大きく関わるんでね。あ、これ。お礼ね」

「にゅ、入手困難なペロロジラⅣの限定ぬいぐるみ……! い、いいんですか? 無給でも今回の件は流石に協力しましたよ? ありがとうございます!」

「ちょっと、受け取るのが早いわよ!!」

 

 迅の返事を待たずにヒフミの手が、ペロロジラのぬいぐるみを受け取るが、迅はそれを笑顔で見届ける。

 

「迅さんの頼みなら断らないんですけどね♡」

 

 瞬間、迅は飛び退く。背後から近づいてきたハナコから距離を取るように迂回して、阿慈谷隊の出入り口を目指す。

 

「そ、それじゃあ俺はこれで。色々行かなきゃ行けないところがあるんでね」

「? どこです?」

「城戸さんの部屋。きっと今頃修羅場だからね!」

 

「逃げられましたね……」

 

 ハナコの残念そうな声が部屋に溢れるのであった。

 

 

「一体どうなっとるんだ! 迅の妨害はまだわかる! だがなぜ忍田派の阿慈谷隊が参戦しているのだ!」

 

 ボーダー上層部の集まるこの会議で、一番口調が荒れているのは、鬼怒田だった。

 だが、その怒りも当然だ。敵になるはずの無かった阿慈谷隊が精鋭部隊の大作戦を潰したとあれば面子を潰されたも同然だ。

 

 そして何より、その阿慈谷隊の属する忍田派、そのリーダーが目の前にいるのだ。抑えろ、という方が難しい。

 

「忍田本部長! なぜ近界民(ネイバー)を守ろうとしたのだ! ボーダーを裏切る気か!」

 

 ボーダーの、【近界民(ネイバー)から市民を守る】という目的を盾に忍田へ言い詰める鬼怒田。

 

 だが、帰ってきたのは冷たい眼光だった。

 

「裏切る? 論議を差し置いて強奪を強行したのはどちらだ?」

 

 鬼怒田は怯む。根付も、唐沢も、己等が取った選択を悔いる。

 

「もう一度はっきり伝えておく。私は(ブラック)トリガーの強奪には反対だ。相手は有吾さんの子ども、これ以上刺客を差し向けるなら私が相手をする」

 

 その言葉に怯まなかったのは……城戸だけだ。

 

「なるほど。ならば次の刺客には天羽を使おう」

「な、天羽くんを……!? 彼を出されるとボーダーとしてのイメージが……」

 

 出てきた代案は、状況を更に激化させるものだった。

 迅に並ぶボーダーS級の一人、天羽。彼の(ブラック)トリガーなら攻撃性能は迅をも凌駕できる。(ブラック)トリガー二つが敵であってもA級合同部隊と合わせれば勝てる見込みはある。

 

 だが、忍田は折れない。

 

「構わない。天羽くんが相手に出てくるならばこちらも(ブラック)トリガーの準備がある。遠慮なく使用許可を出そう」

「っ……【先生】ですか……」

 

 ここで、更にもう一つの(ブラック)トリガー【先生】が会話に出てくる。

 その性能は防御よりだが、決して軽視できる発言ではない。

 

 それに、その所有者は錠前隊オペレーターのアロナだ。その(ブラック)トリガーが動くということは彼女の錠前隊も動くということ。

 (ブラック)トリガーを持ったA級3位部隊。天生に対して釣り合いは十分に取れている。

 

 互いに睨み合う。一分か、二分か、その時間が続く。

 

「失礼しまーす」

「失礼する」

 

 そして、その沈黙はたやすく破られる。

 扉を開けて入ってきたのは迅とセイア。

 

「迅! 貴様! 良くものうのうと顔を出せたな!」

「まあまあ鬼怒田さん、血圧上がっちゃうよ〜?」

 

 食って掛かる鬼怒田を迅は軽く流す。その横では城戸が部屋に入ってきた二人を冷静に受け入れる。

 

「迅に百合園か。君までそちら側にいるとは思わなかったよ」

「私としては大規模侵攻が控えている時期に内輪もしていることに驚きだよ」

 セイアの声は冷たい。協力すべき時期にどうしてここまでのごたついているのかというイラつきが他の面々に伝わってくる。

 

「まぁまぁセイアちゃん。そんな喧嘩腰にならないでさ」

「呆れるしかないだろう。大規模進行まであと一ヶ月。こちらの味方になり得る(ブラック)トリガーの使い手を殺そうとするなどどれだけの損害が出ることか」

「一ヶ月……? まだ当分先という話では」

 

 宥める迅。だがセイアのこぼした一言に根付は反応してしまう。

 

 百合園セイアは、間抜けな顔をする根付……引いては城戸に対して断言する。

 

「未来は決まった。1月20日月曜日、時刻は昼の13時14分。大規模進行はその日、その時に始まる」

「なっ……。なぜそれを早く言わない!」

「私の副作用がさっき発動した。それだけだが」

 

 怒鳴る根付に言い返すセイア。どちらも苛立ちを隠せていないが互いの立場故に仕方がない。

 だから、迅が仲裁する。

 

「まぁまぁそんなわけでさ。こんな不毛な争いやめようぜって言いに来たわけよ。というわけでうちの後輩、空閑遊真をボーダーに入れてくれない?」

「巫山戯たことを……」

 

 だが、現状城戸派に勝ち目はない。たった今A級部隊が敗走させられたばかりなのだ。語気にいつもの力強さが感じられない。

 しかし、ただ頷くなんてことはできない。彼らにもメンツがあり、立場がある。それにここは組織だ。力を示したからと言って例外として受け入れることはできない。

 

「勿論、タダでとは言わない」

 

 だが、城戸の立場は、迅もよく分かっている。

 彼はおもむろに、腰に下げていた【風刃】を手に取って机に置く。

 

「代わりにこっちは【風刃】を出す」

「……!?」

 

 セイア以外の、その場にいる全員が驚く。驚きすぎて誰も言葉を発することができない。

 城戸でさえも。

 

「あれ? 反応悪いなぁ。うちの後輩をボーダーに入れてくれたら本部に【風刃】を差し出す。それだけだよ」

「本気か!? 迅!」

「なんと……!!」

(そうくるか……)

 

 鬼怒田、根付、唐沢。混乱から脱した城戸派が食って掛かる。だがそこにはすでに、敵意よりも喜びの方が勝っていた。

 

 もとより【風刃】はボーダー内において適合者が極端に多い(ブラック)トリガーだ。確実な使い手が複数いる点で空閑の持つ(ブラック)トリガーよりも魅力的だ。

 

 そして何より、【風刃】には(ブラック)トリガーを倒し得ると判断されたA級部隊を真っ向から倒してみせた。

 

 この2点が、彼らの目を曇らす。

 

「そっちにとっても悪くない取引だと思うけど?」

 

 城戸が頷けば(ブラック)トリガーが城戸派に二本、敵に二本。断れば味方は一本、敵は三本。

 

 もはや、頷くしか手はない。

 

「良かろう。空閑遊真の入隊を認める」

 

 迅はニヤリと不敵に笑う。それをセイアは呆れた目で見ていた。




あんまり原作と差がない部分は書きたくないけれど書かなきゃ色々支障が出るから書くしかない……
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