ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「諏訪さん、今回のC級はどう?」
「んあ? アツコか。どうもこうもねえよ。レベルが低いとは言わねえが高いやつもいねぇ」
「平均的だと想いますよ。少し前が豊作過ぎましたね」
『記録、0.6秒』
「はぁ??」
「わぁ……」
「まじか……」
「外野が騒いでますね……もう一回やらせます?」
「これで後々関係に響いても困るし……。やらせてあげて」
「はい。では……」
『記録、0.4秒』
「縮まるかぁ……」
「流石。やっぱり強いね。彼」
「秤さん、彼のことを知ってるんで?」
「この前ちょっとね」
「ほーん? まあいい。さっきの発言は無しだ。今年の奴らも面白いじゃねぇか」
「最初から動ける子はいないとは言いませんがやはり珍しいですよね。十秒切るだけでもすごいのに」
「十秒クラスになると緑川に、黒江ちゃん、それに木虎ちゃん。みんなA級だね」
「期待の新人だな、こりゃ」


始まりの終わり 終わりの始まり 弐

 1月8日水曜日。この日、ボーダーでは新規隊員の入隊式が行われていた。

 

 狙撃手とそれ以外に分かれ各々の性能を確かめていく新入生だったがそれを上のオペ室から見ている者たちがいた。

 

 B級12位諏訪隊、諏訪洸太朗

 B級12位諏訪隊、堤大地

 A級3位錠前隊、秤アツコ

 

 彼らは今年の新入生たちがどれだけのポテンシャルを秘めているのかを見に来ていたのであった。

 

「さて、今年の新人はこんなもんですか」

 

 満足そうな顔をした堤が気に入った者の書類を探し当てファイリングしていく。

 

「あの射手(シューター)の三人組も面白そうだな。B級に上がった姿が見てぇ」

 

 諏訪は調子乗りらしき三人組を面白いと思ったらしくその顔を覚えておく。勿論B級に来たら叩き上げるためだ。

 

「面白そうだけど……射手(シューター)三人組ならすでにB級には間宮隊がいるよ?」

「いるけどよ〜、あいつら動きが堅実っていうか硬いんだわ。もうちょっとはっちゃけてほしいんだが」

 

 間宮隊。B級下位であり、全員がメガネをかけている奇特な隊だ。全員が追尾弾(ハウンド)使いというのも更におかしな性能をしている。

 動きが良くなれば化けそう、というのは諏訪の思うところであった。

 

「ん? 流れがおかしいですね……」

 

 だが、ここで堤が気づく。いつになっても測定していたC級隊員が退室しないのだ。

 何があったのかと諏訪やアツコも階下をのぞきみる。

 

「あ? どうしたよ」

「全員分の測定は終わったので退室のはずなんですが……」

「ですがってお前よ……。ん、何だあの眼鏡」

 

 最初に気づいたのは諏訪。彼がC級の目線を追うと話題の中心にいるらしきB級の正規隊員を見つける。

 B級であれば全員知っている自信があった彼だが、その顔に見覚えはない。

 

「あんなやつ、正規隊員にいたか?」

 

 B級は言ってしまえば60人程度しかいない。そして殆どがランク戦で司会に名前を呼ばれながら戦うために、諏訪はその顔と名前はほとんど一致している、あるいは一致していなくとも顔に見覚えがあるはずだった。

 

 一方で、先日の黒トリガー関連で、一枚噛んでいたアツコはその顔に見覚えがある。

 

「この前B級に上がった三雲隊員だったはず……。なにか風間さんに言われているね」

『そっちオペ室? 今から風間さんと三雲くんが仮想戦闘するから展開お願い』

 

 彼の、三雲の説明をした直後、時枝から通信が入り……返事をする前に切られる。

 

「あ? なんで俺らが」

「仮想戦闘? ほんとにどういう話の転がり方してるんでしょう……」

「風間さんか。なにか考えがあるのかな……」

 

 三者三様に不思議がりながらも彼ら彼女らは仮想戦闘の準備を勧めていく。

 

「よし、準備できました。行きます」

 

 堤が、風間と三雲が戦闘フィールドに入ったことを確認してボタンを押す。

 

 その直後、三雲のトリオン体は破壊された。

 

「瞬殺じゃねえか! 期待させやがって!」

「ま、まぁまぁ諏訪さん。様子を見ましょうって」

「それにしても早いね……」

 

 そんな短い会話をした直後、三雲のトリオン体が再び破壊される。

 

「もう驚かねぇわ……。なぁ、結局あいつどんなやつなんだよ。なんでアツコは知ってんだ?」

「あー……アズサが弟子を取ったとか言ってたから……」

 

 黒トリガー争奪戦の裏事情を暴露するわけにもいかず彼女はそれ以外に、一番最初に出てきた記憶を話す。

 だがそれが意外と興味を引いたようで諏訪はその話の続きを促した。

 

「あ? 白洲か? あいつ弟子とか取るやつだったか?」

「私もそんなイメージはなかったんだけど気付いたら頻繁に玉狛に行くようになってたよ」

「三雲ダウン。たしかに三雲くん動きはいいですね」

「だな。使うトリガーもおもしれぇ。射手がスパイダー使うのかよ」

「アズサなら絶対に習わせるだろうね。使い方は全く違うけど。カメレオンの風間さんの行動範囲を制限しようとしてのは分かる」

 

 彼らの階下、三雲は弾とスパイダーを使って賢明に風間を炙り出そうとしていた。

 だが、それを風間は意に介さない。彼の戦闘技術はその程度では止まらない。

 

「もうちょっと障害物があればスパイダーも機能し易いんだろうが……流石に広え。多少制限したところであれじゃ誤差だろ」

「設置箇所が壁と床だけですからね。そう言えばスパイダー使いは珍しいですけど使い手を見ればみんな強いですからねぇ」

「スパイダーは目的がなきゃ入れねぇ。てことは入れてるやつは目的がある。そら強いわ」

「アズサは主に罠の作成。木虎は屋内戦や空中での機動力確保だね」

「機動力ならグラスホッパーでもいいのでは?」

「自分一人ならね。グラスホッパーは一度踏むと消えるし罠に使うにしても光って目立つ。展開中はトリオンを消費するしね。トリオンが少ないならスパイダーの方がいいと思うよ」

 

 そんな雑談を交えながら、時折、堤が三雲ダウンと言いながら時間は過ぎていく。

 

 七敗目

 

「おお! 今のおもしれえじゃねえか」

「壁や床への設置では効果が薄いと判断して、大量のスパイダー串刺し作戦、というところでしょうか?」

「相手が風間さんでなければ決まってそうだけど……風間さんはスパイダーで串刺しにしたところでスコーピオンで脱出できるからね」

「体の好きなところから生やせるのいいですよねぇ」

 

 十敗目

 

「なぁ、これいつまで続くんだ? 眼鏡の心を折るまでか? なんか嫌われてんだろあの眼鏡。風間さんの地雷踏むとか何したんだ?」

「風間さんはそんな人じゃないと思いますが……三雲くんが一本取れるようになるまでじゃないですか?」

「まぐれでも風間さんから一本取れれば相当な名誉だと思うよ……」

「秤さんでもそう言いますか……」

「一対一の風間さんが強い。強すぎる。その強みはその技術と手数による対応力。戦術として落とすなら私達や他のA級でも可能だけど……こうも一対一だと勝つのは厳しいよ。私なら十戦して3勝くらいじゃないかな」

「流石ですねぇ」

 

 十四敗目

 

「そういや迅さんがA級隊員に戻ってたけどよ。なら風刃は誰が持ってんだ?」

「私は知らない。少なくとも私じゃないよ。他のA級か、攻撃手のトップ層に割りあてられるとは思うけど」

 

 十五敗目

 

「そらお前の隊はもう黒トリガー持ってんだろうが。分かり切ってんだよそんなこと。他にもっと情報はねえのか」

「無いかな……」

「三雲ダウン。お二人共もうちょっと見てあげません?」

「流石に飽きてきた。帰っていい?」

「おま、一人だけ逃げようってのか?!」

 

 

 そして、たどり着いた二十敗目。戦闘が一瞬止まったことに堤が気づく。

 

「あれ、再開しませんね」

「んぁ? 風間さんが飽きたか?」

「いえ、三雲隊員がなにか……。始まります」

 

 一瞬、三雲と風間が何かを話し合っていたように見えたが、その真偽がはっきりする前に戦闘が始まる。

 

「ああもう! 早く終われや! 俺は白髪のちびが見てえんだよ!」

「まぁまぁ落ち着いて諏訪さん、もしかしたら一矢報いるかもしれないじゃないですか」

「おめえ、本気で言ってるか? 今までのやられ具合見たろ」

「もしかするかもしれないじゃないですか」

 

 次の瞬間、三雲の奇策は発動する。

 

 スローの散弾をまき散らし、

 

 姿を表した風間にはスパイダーとさらなる散弾で行動範囲を狭め、

 

 そしてそこにスラスターを叩き込む。

 

 そして、ゼロ距離からの通常弾(アステロイド)が炸裂する……!

 

 

「いった……!」

 

 これは決まったと、驚くあまりガッツポーズまでする諏訪。

 

「いや、あれは……」

「うわぁ……惜しい……」

 

 そしてその直後、首を切られた三雲を見たアツコと堤。

 

「ちげぇ、相打ちだ」

 

 だが、表示された結果に諏訪は驚く。堤は驚きながらもそのことをアナウンスすると戦闘を終了する旨が時枝から伝えられる。

 

「さっきの白髪の子も玉狛、今の三雲くんも玉狛。玉狛が暴れますね」

「面白いメンバーのチームができそうだね」

「つまんない戦闘にならないことを祈るぜ」

 

 数が少ないが、ボーダーでも随一の実力者部隊として知られている玉狛。

 花岡隊と合わせて次のB級ランク戦が荒れそうだと諏訪は面白がっていた。

 

「お、どうやら狙撃手の方でも玉狛が暴れているみたいですよ」

 

 その時、堤の端末には諏訪隊オペレーター小佐野から連絡が送られてくる。

 

「何があったよ」

「玉狛の子が壁を壊しちゃったみたいで……試験管のヒヨリさんが泡拭いて倒れたと」

「……迎えに行ってくる」

「あ、行ってらっしゃい」

 

 玉狛、玉狛、玉狛、いずれも期待の新人が現れたと彼らはこのとき、それだけを考えていた。

 

 

「考えながら戦うやつは嫌いじゃない。今後も精進するんだな」

「あ、ありがとうございました!」

 

 一方で階下。戦闘フィールドが解かれた訓練室で三雲は去りゆく風間に頭を下げていた。

 

 同時に烏丸が観客席から降りてくる。その目にあるのは労いだ。

 

「三雲、お疲れ様。良かったぞ」

「烏丸先輩! ありがとうございます」

「まあ一回敵を倒すのに20回死ぬのは駄目だけどな」

「はい……」

 

 だが釘を差すことも忘れない。三雲が調子に乗る正確でないことは重々知っているが、風間と引き分けるというのはそれほどの偉業だ。

 

「どうだ、A級は」

 

 彼は聞く。初めてのA級とのまともな戦闘の感想を。

 

「やはり……とても強かったです。それに烏丸先輩やアズサさんとは違った強みを感じました」

「そうだな。A級は皆自分の強みを知っているからそれを押し付けた戦い方をする。俺は専用トリガーで大抵の状況には対応できるしアズサは自分の陣地に引き込んで爆殺する。風間さんは速度やカメレオンを用いた対個人戦闘だな。三雲、お前も自分の強みを見つけろ」

「はい!」

 

 満足しきった顔の三雲。珍しく冷や汗が出ていない。

 

 だが、その後ろで扉が開き、新たな人物がやってくる。

 

「失礼する。三雲隊員は君だな?」

 

 三雲は呼ばれて振り返る。そこにいたのは長身の女性。傍らには先程別れたばかりの風間がなぜか立っていた。

 

「ど、どなたでしょうか」

 

 母と同レベルの威圧を感じさせる彼女を前に三雲は身構えるが烏丸が口を開く。

 

「A級3位、錠前隊の隊長。錠前サオリさんだ」

「ああ、失礼。名乗りを忘れていた。初めまして。錠前サオリだ。済まないが三雲くんと空閑くんを借りてもいいか?」

「ん? 俺も?」

 

 横でくつろいでいた空閑も名前を呼ばれて顔を向ける。

 

「何の……用事ですか?」

 

 空閑とセットで呼ばれることに嫌な予感しかしなかった三雲だが、残念ながらその予感は的中する。

 

「城戸司令がお呼びだ」

 

 

「よく来た。二人共。楽にしなさい。錠前隊員と風間隊員は迅の隣に座りなさい」

「了解」

「了解した。錠前、人の隣は俺が座る」

「助かる」

 

 三雲と空閑が呼ばれたのは普段上層部が会議している部屋ではない。机の配置やテーブルは大きく違っており部屋の大きさもより大きい。

 

 そして、まっさきに三雲たちの視界に入ったのは中央のプロジェクター。玉狛の宇佐美と、もう一人、三雲は名前を知らない男、冬島が何やらいじっているがそのプロジェクターからは上方に向かって星間図のようなものが空中に描写されていた。

 

「やーやーメガネくんたち」

「あ、迅さん、こんにちわ」

「こんにちわ」

 

 呆気にとられていた三雲たちをその場にいたメンバーの一人、迅悠一が話しかける。

 

 見ればその部屋には大勢の人間がいた。

 

 城戸派として城戸、根付、唐沢、三輪、砂狼、冬島、風間。

 忍田派として忍田、錠前、阿慈谷、嵐山。

 玉狛派として林藤、迅、木崎、百合園。

 

 名前は知らなくても、三雲は「見たことだけはある」という面々を前に心のなかで震え上がる。

 

 だが、会議を始めるのにそんなことは関係ない。ボーダーの首魁、城戸が口を開く。

 

「鬼怒田室長が訓練中の事故で少々遅れてくるが時間が惜しい。他の面々は揃った。会議を始めよう。百合園隊員」

「承った。すでに何人かには伝えたが知らない人もいるからもう一度。1月20日、月曜日。その日に近界から大規模な侵攻がある」

「なっ……」

「ほう」

 

 三雲も空閑も驚く。だが、その方向は違った。三雲は驚いたのはなぜそんなことが自分に伝えられるのか、空閑が驚いたのはなぜそんな正確な日時がわかっているのか、である。

 

「我々としては被害を抑えたい。そこで近界民である空閑くんに意見を聞きたいということだ」

「なるほど、それなら相棒に聞いたほうが早いな」

 

 忍田の言葉に空閑は即座に応じる。

 

 にゅっ、とそんな言葉が似合うような滑らかさでユーマの袖からトリオン兵が現れた。

 

「はじめまして。私の名前はレプリカ。ユーマのお目付け役だ。ユーマの父によって作られた多目的型トリオン兵だ」

「なん……」

 

 トリオン兵、その言葉に一瞬三輪が激昂しそうになるが、サオリが睨みつけて黙らされる。

 

 そして、レプリカの話が始まる。

 

「私の中にはユーゴとユーマが旅した近界の国々の記録がある。恐らくそちらの望む情報も提供できるだろう」

 

 それを黙って聞くボーダーの面々。口を挟むようなことはしない。

 なぜならば、どこか不穏な雰囲気を感じるからだ。

 

「だが、その前に。ボーダーには近界民に対して無差別に敵意を持つ者もいると聞く。私自身まだボーダー本部を信用していない」

 

 その言葉に、納得するもの、反感を抱くもの、困惑するもの、その心内は様々だ。

 

「ボーダーの最高責任者殿には私の持つ情報と引き換えにユーマの身の安全を保証すると約束して頂こう」

 

 求められたのは口約束。だが、空閑遊真によってそれほ真実を確かめる重要な問いとなる。

 

 彼の副作用(サイドエフェクト)を知ってか知らずか。城戸は恐れることなく言い返す。

 

「良かろう。ボーダーの隊務規定に従う限りは、隊員空閑遊真の安全と権利を保証しよう」

 

 空閑遊真は、反応しない。それを確認してレプリカは協力の意志を固めた。

 

「確かに承った。それでは、質問に答えよう。知りたいことは、何か?」

 

 忍田が立ち上がる。

 

「敵国の情報として現在わかっているのは敵の頭に角が生えているということ。それで国の特定は可能か?」

「可能だ。それは近界最大級の軍事国家、神の国アフトクラトル」

 

 それは、セイアの予知。彼女の副作用(サイドエフェクト)は迅とは違い会ったことのない相手でも見ることができる。

 

 それ故の、今回の情報アドバンテージ。

 

「その角はアフトクラトルが開発したトリオン受容体だ。以前より彼の国ではトリガーを加工したトリオン受容体を幼児の頭部に埋め込み後天的にトリオン能力が高い人間を作り出す研究が進められていた。アフトクラトル独自の技術ゆえ他の国から角つきが現れるとは考えにくい」

 

 早速、敵の正体が判明する。そのことに少しばかり空気が和らぐが事態は予断を許さない。

 

「アフトクラトル……警戒すべきことを挙げてくれ。なんでも構わない」

 

 質問は林藤。相手のことが少しでも知りたいがゆえの質問だったがこの問いの答えに会議室の温度は一気に下がることとなる。

 

「まずは何より(ブラック)トリガーの本数だろう。我々が滞在していたのは数年前だが当時でも13本あった」

「13っ!?」

 

 思わず叫んだのは根付。彼に戦闘の良し悪しや駆け引きは分からない。だがそれでも、(ブラック)トリガーが13本という言葉の重みは十分すぎるほど理解できてしまう。

 

 たった数週前、(ブラック)トリガーでA級部隊が壊滅させられたばかりなゆえに。

 

「安心してほしい。基本的には黒トリガーは本国の防衛に回される。多くても一人だ」

「なるほど……。了解した」

 

 添えられたレプリカの言葉に林藤はなんとか返事を返すが、これで安心するものはいない。少なくともA級や上層部には。

 

「それに遠征に使われる船はサイズが大きいほどトリオンの消費も激しい。恐らく十人もいないだろう。一方でトリオン兵は卵にして収納できる。そちらは膨大な数の投入が予想される」

「つまり、敵の主力はトリオン兵。角つきの近界民は少数だと言うことだな?」

「現在の情報ではそうなる」

 

 なるほど、と今更ながら敵の強大さを理解して、彼らは気を引き締める。

 

 

 

『一つ、よろしいでしょうか?』

 

 

 

 そんな、みんなの心が一つとなった部屋に、備え付けられていたスピーカーから音声が流れる。

 

「ミレニアムかね」

 

 城戸は驚くこともなく問う。三輪が他の近界民と上層部が繋がっていたことに衝撃を受けているがそんなことは話し相手には関係ない。

 

『ミレニアムの……そうですね。超天才病弱美少女ハッカーとでも名乗りましょうか』

「要件は何かね。わざわざこのタイミングで会話に入ってきたのはどういうつもりか」

 

 相手のボケを完全に無視して、城戸が話を急かす。もともとこの会議にはミレニアムを招待していた。だから、途中まで黙って話を聞いていたことにも目くじらを立てるようなことはしない。

 怖いのは彼女が沈黙を破って会議に参加してきた理由だ。

 

『怒らないでくださいな。いえ、話というのはシンプルでして』

 

 

 

 

 

『ミレニアムの遠征艇技術が出回っております。旧型の性能ではありますが人員はレプリカ様の予想よりも多いと考えられます』

 

 

 

 

 

「なに……!?」

『我々の数年前の内紛に関しましては皆様も知るところではありますが……。敗北した敗残兵は遠征艇で散り散りになりました。我々はその一つがアフトクラトルに辿り着いていることを確認しています』

「それは……つまり……」

 

 考えたくない。それが今発言した根付の思いであり、皆の心であった。

 

『ミレニアムの人員増員システムがアフトクラトルに渡っているということです。勿論、現在の我々の技術のほうが数段上ですが』

 

 

「ええ。ええ。分かってるわ。心配しないで頂戴。お爺さまの名前に恥じないよう……ちょっと! 人が真面目に話してるのに笑わないでよ!」

 

 一人の少女がディスプレイ越しの会話に笑顔を咲かせる。紅色の髪、そして本来ならば人間には存在しない角が生えている。

 

 時折白目を向きながらも彼女は画面の向こうの相手と通話を続けていた。

 

 が、その時部屋にノックが鳴る。

 

「社長、会議の時間だよ。いつまで話してるの」

「うぇ?! もうそんな時間なの?! それじゃあ切るわ! 次は輝かしい戦果と一緒に連絡するから!」

 

 そして彼女は急いで体裁を整え、ノックの主を迎える。

 

 扉の前にいたのは白と黒の髪が特徴的な黒角の少女。

 

「行くわよカヨコ! 便利屋出張任務よ」

 

 傍らの少女の名前を呼びながら、紅髪の少女、アルは作戦室に向かう。

 

 

「遅いぞ。アル」

「な、生意気じやないかしら。ヒューズ。一体いつから私に指図するようになったのかしら?」

 

 茶髪の青年が遅れてきた紅髪の少女を叱る。

 

「おい、煩いぞ。ノーマルトリガー共。騒ぐくらいなら船降りろ。狭いんだよここは。ノーマルトリガーのお前たちが載せてもらえてんのはお情けみたいなもんだぞ?」

 

 長い黒髪の男はその光景に呆れたのか苛立ったのか、誰にでも聞こえる声で怒鳴りつける。

 

「エネドラ……社長をバカにするなら私が相手するよ」

 

 紅髪の少女の横で控えていた白黒の髪の少女が腰のトリガーに手を添える。

 

「あ? 雑魚の腰巾着が、なんか言ってんなぁ! 聞こえねえぞ!」

 

 売り言葉に買い言葉。一触即発の空気が部屋に流れる。

 

「エネドラよ。俺たち雷の羽(ケリードーン)部隊にも喧嘩を売っているのか? それなら言い値で買うぞ? がはははは!」

 

 赤髪の大男が諌めようとしたのか、それともさらに争いを大きくしようとしたのか、割って入る。

 

「ランバネイン……。エネドラなんかの挑発に乗らないで。面倒くさい」

 

 それを呆れた目で見る傍らの小さな小さな白髪の少女。

 

「ホホホ。皆さん元気なようで。しかしその元気は敵対者にこそぶつけましょう」

 

 そして、混乱するその全てを、たった一人の老剣士が制した。

 

「ヴィザ翁、感謝します」

 

 困っていた赤髪の女性が老剣士に頭を下げる。

 

「全員揃っ……いや、アイツラは別船だが……問題ない。ここにいる全員、聞け。これより数日後、玄界へ侵攻を開始する」

 

 そして、この船の主、青髪の大男が宣言する。

 

 

 

「雛鳥を手に入れるぞ」




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