ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「全ては虚しい。けれど、それを諦める理由にしたくない」


第二話ボーダー入隊試験

 近界民による大災害から、一ヶ月。年は変わり、正月を迎えた三門市に特別なイベントが開かれていた。

 

 それは【ボーダー入隊試験】。先日街を救ったばかりの話題の組織が一般人から人員を募集するというのだ。

 しかも対象は年齢に制限なく、全て本人の自由意思。特別な経歴も試験料も不要。さらには給料すら出る(勿論法律に引っかからない範囲で)という話。

 

 結果として試験会場には、第一回にも関わらず様々な年齢層の人間が集まることになる。

 

「ここで……俺は近界民を……」

 

 姉を殺された復讐に取り憑かれた少年であったり。

 

「ここか? チャンバラできるってのは?」

 

 生まれる時代を間違えた戦闘狂であったり。

 

「あ、ここですね!」

「無事について良かったですね♡」

「うん。時間通り」

「時間通り、じゃないわよ! 出発前に要らないいざこざ起こさないでよ!」

 

 力を手に入れるべく立ち上がった少女たちであったり。

 

「よし、お兄ちゃん頑張るからな!」

 

 妹弟のために拳を握る熱い男であったり。

 

 

 様々な想いがこの会場に集まりつつあった。

 

 

「思ったより少ない?」

 

 会場にたどり着いたアズサの第一声はそれだった。

 試験会場は直方体の形をした巨大な建造物。数キロ先から見てもその存在を認識できる【ボーダー】本部だが、建物の大きさに比して誘導された部屋は数十人程を収容できる講堂であった。

 

「ざっと50人くらいでしょうか? 大人と子供で半々といった感じですかね?」

 

 ヒフミもあたりを見渡しながら己の感想を述べていく。

 視界に映る受験者と思われる彼らは性別も、年代も、バラバラだ。それに彼女たち以外にも女性がちらほらいるのが見てわかる。

 

「コハルちゃんより小さい子もちらほらいますね♡」

「ちょっと! それどういうことよ!」

「言葉のとおりですけど?」

 

 事実、中には12歳の彼女たちよりも若い少年少女も認められ、本当に【ボーダー】はそんな子供も受け入れるのかと半信半疑になるアズサたちであった。

 

 だが、四人が話しているのが目立ったのだろう。近くで既に座っていた男がギロリとにらみつけてくる。

 

「そこ、煩いぞ」

「ひっ……」

 

 その眼光を受けコハルがビビるがすぐにハナコが前に出る。

 

「すいませーん、気をつけまぁす♡」

 

 欠片も反省してないのがわかるが向こうも騒ぎを起こしたいわけではない。

 

「ちっ……」

 

 そんな舌打ちだけして彼は意識をアズサ達から外す。

 

「こ、怖かったぁ……。は、ハナコ、ありがとね」

「はいはい、どういたしましてですよぉ♡」

 

 コハルのお礼を受け入れつつ、しかし、ハナコは付近の様子を含め考察していく。

 

(今の方が顕著ですが、やはり試験とは違う、剣呑な空気が伝わってきますね……。目的が復讐といった方も多いのでしょうか?)

 

 それもそうだろう、とハナコは自分で納得する。彼女の横にいるアズサも目的は復讐が殆どを占めていることは容易に想像できる。

 

 そして、説明が始まった。

 

「皆さん、本日は【ボーダー】へようこそ。これだけの人数が集まったことに感謝する。進行は私、忍田が担当させてもらう」

 

 出てきたのは中年の男性だった。年は20代といったところか。よく鍛えているのが服の上からもわかる程に引き締められた彼の体はこの場にいる全員盧空気を張り詰めさせるとともに、軍に近い形の組織であると言うことを認識させてくる。

 

「本日の日程は事前に通知した通りだ。まずは諸君の学力を測らせてもらう」

 

 だが、威圧的なのは外見だけで、肝心の進行自体は穏やかなもので、

 

「うげっ……なんでそんなのあるのよ……」

 

 と、コハルがぼやく余裕が生まれるほどだった。

 

「事前に通知されてましたよね……?」

「勉強が出来ないと扱えない武器なのだろう」

 

 コハルに心配の視線を向けるヒフミと、考察してみるアズサ。

 しけしここで、一人の少女が手を挙げる。

 

「よろしいでしょうかー?」

 

 浦和ハナコだ。

 

「ふむ……質問があるなら随時受け付けよう。君は?」

「浦和ハナコと申します。大学や高校で入学試験があるのは分かりますが【ボーダー】に学力試験があるのは何故なのでしょうか?」

 

 ここに集められた人間は年代もバラバラ。ならば一体何を基準に測るのか。何を目的に測るのか。この説明は事前のパンフレットには書かれておらずほとんど謎だ。

 

 もっとも、ハナコからすればいくつか予測できているのだが横に座っている可愛い後輩のために聞いただけである。

 

「ふむ、不安にさせてしまったのならば申し訳ない。最初に断っておくがこれはあくまで【学力試験】ではなく【学力測定】だ。今回募集に制限は特にかけていないが君たちのように学生が多い。ならばその学生を預かるにあたり面倒をこちらが見る必要が生じることもあるだろう。そこでフォローの手を回すためにも入隊時点で知っておきたいのだ」

 

 男の丁寧な説明に、また別の青年が発言した。

 

「なら勉強がだめでも大丈夫ってことか?」

 

 その発言は聞けば誰もがずっこけそうになるものだが進行を務める忍田は動じることなく説明していく。

 

「そうだ。ただし、落ちないからと言って手を抜いている、と判断された場合は別だがな」

「分かりました。質問に答えていただきありがとうございます」

 

 聞きたいことは聞けたのでおとなしくハナコは座る。そしてそのまま横に座るコハルの耳に口を近づけ、

 

「だ、そうですよぉ。コハルちゃん。良かったですね♡」

 

 と、つぶやくのは忘れない。

 

「べ、べつに心配なんてしてないしっ……」

「コハル、その顔で言われても説得力はないぞ」

「う、うるさいったら! 説明が始まるわよ!」

 

 そう言ってコハルは周りのことを見ないようにしながら前に向き直す。気づけば男の周囲に少年と少女が紙束を持って待機していた。

 

「では続きを。学力試験が終わり次第君たちには教室を移ってもらい、面接の準備をしてもらう。その後体力測定を行わせてもらう。いずれも君たちを試験として落とす、というよりは君たち個人個人の適正を見て判断するために行うものだ。故に正直に、ありのままでいてくれたらいい。また、その際の誘導は彼らが行ってくれる」

 

「木崎レイジと申します。よろしくお願いします」

「つ、槌永ヒヨリですぅ……。よ、よろしくお願いしますぅ……」

 

「うむ。そして面接、体力測定を終え、入隊が決まり次第、我々が持つ【武器】を実際に触ってもらう」

 

 一瞬だけ、講堂内の空気が張詰められる。

 日本で触ることがない【武器】。その非日常性を改めて認識した者は気を引き締める。勿論アズサたち四人も。

 だが、そんな緊迫した空気をものともせず話は進行していく。

 

「勿論実際の戦闘などさせることはない。が、それは後に話そう。まずは学力測定と面接の方に集中してほしい。試験は十分後の午前十時から行う。レイジ、ヒヨリ、問題と解答用紙の配布を」

「はい」

「は、はぃ……」

 

 命令を受けた男女が前列からマークシートを配っていく。

「あの人大丈夫かな……」

 

 青年はともかく、おどおどしている少女を見てヒフミはこの組織が心配になるのであった。

 

 

「な、なんで試験がみんなおなじなのよぉぉぉ。配慮とかないわけ!?」

 

 学力測定が終わり、昼休み。食事の空間に響き渡るのはコハルの絶叫だった。

 

「これで落とされるわけじゃないし大丈夫。それに私もそんなに取れてない」

「そういう! 問題じゃ! ないから!! 私が馬鹿だって思われたらどうするのよ! ていうかなんで解けてないアズサが落ち着いてるのよ! 一番入隊したいのあんたでしょ」

 

 ずれた解答をしているアズサだが、本人も言うとおり、彼女もまた、マークテストで行われた学力測定はいい感触はなかった。というか普通に悪い。

 

「思われたらも何もコハルちゃんは勉強が苦手ですからそのことが伝わるのはいいことなのでは?」

 

 そして一方でこの四人の中では最も成績が優秀なのはハナコだ。この面子の勉強は普段彼女が見ていると言える。

 もっとも、見てもらっても悪いのがアズサとコハルなのだが。

 

「だまりなさあああああい! ていうかあんたはどこまで解いたのよ! 当然全部解けたんでしょうね!」

「全部解きましたよ?」

 

 ピシリと固まるコハル。だが固まったのはコハルだけではなくヒフミもだ。食後の紅茶を水筒から出しながら驚きの声を出す。

 

「え、あれ全部解いたんですか? 高校の範囲も結構あったような……」

「逆に言えば高校生レペルの知識までしかありませんでしたしそれくらいならば♡」

 

 一応言っておくと、彼女たちは中学一年である(コハルのみ小学6年生)。

 

「同じ学校に通っているはずなのにこの差は何なのだろうか」

「あはは……(アズサちゃんは着眼点が違いすぎるからじゃないかな……)」

 

 自虐的にいうアズサだが決して馬鹿でも怠惰でもない。だがどうしても着眼点が致命的にずれているのだ。

 勿論着眼点が違うのは決して悪いことではない。だが、こうして一般人が受けるテストを受けるには不適と言わざるを得ない。後でハナコと一緒にアズサの良さを殺さずに、上手いこと常識人との考えをすり合わせようと考えるヒフミであった。

 そして、当然、コハルにアズサ。ハナコと話題が回ってくればヒフミにも話が振られる。

 

「ヒフミは大丈夫だったの?」

「普通といったところ……ですかね。問題自体は学年毎に纏まってたと思いますし、自分の学年まで解けたかと?」

 

 普通だった。

 

「む、むぅ……。同じ勉強してるのに私達だけ駄目なんて納得がいかないわ! アズサ! 帰ったら勉強よ!」

「うむ、承知した」

「その習慣が続いてくれたらいいんですけど……」

 

 繰り返すがコハルは学年が一つ下である。となるとハナコに教わったほうが良いのだがその選択肢はコハルにないらしい。

 

 

 そんな話をしていると、時計の針が回り、時報が鳴る。

 同時に、講堂に先程もいた体格の良い青年が入ってくる。

 

「今から呼ぶ者は俺に着いてくるように面接の部屋に案内する」

 

 いきなり学力測定の結果発表だろうか、と四人は身構える。そして、次々と名前が呼ばれていく。

 

 そして、大勢の名前が呼ばれていく中で彼女たちの名前もあった。

 

「阿慈谷ヒフミ」

「浦和ハナコ」

「下江コハル」

 

 アズサ以外の三人が。

 

「? 私だけ呼ばれなかった……」

「私達の中だとアズサちゃんだけ呼ばれませんでしたね……」

「アズサ……あんたテストそんなにやばかったの?」

「うーん、色々と考えられますけど心配はしなくていいと思いますよ?」

 

 動揺する三人とは別にハナコは考えるような素振りを見せながらアズサの脱落を否定する。

 

「な、なんでよ? アズサだけ入隊できなかったら笑い話にもならないわよ?」

「うーん、確信がないのではっきりは言えないんですけど、何かしらの基準が向こうにあるのかと。それに適したのが呼ばれた側なのか、呼ばれなかった側なのかどちらかはわかりませんが」

 

 だが、あまりに情報が少ない。仮定はいくらでも出せるが不安にさせるものや、不快にさせるものをここで話すつもりは彼女にはない。

 

 それに他の三人もハナコが言っていたことが間違いであったことは殆どない(ないと、断言できないのは悲しいところ)と知っていたのでおとなしく従うことにする。

 

「呼ばれたものは全員来たか?」

「あ、はーい、私達もでーす」

「ほらほら、行きますよ。アズサちゃんもまた後で」

「ちょ、ヒフミ! ハナコ!」

 

 席を立ち列に並んでいく三人。アズサはそれを手を振りながら見送った。

 部屋に残ったのは10人ほど。ハナコは「落とされたとは限らない」という旨を発言していたが「流石に駄目だったか?」とアズサが不安になってきた頃、先程部屋にいた少女ヒヨリが講堂に入ってくる。

 

「えー、今から名前を呼ばれた方は私の方についてきてくださぁい……」

 

 そして

 

「白洲アズサさぁん」

「ふむ、呼ばれた」

 

 席を立ち少女の作る列に並んでいく。

 

「三輪秀次さぁん」

 

 そして、アズサの後ろ。入室時にアズサ達を睨みつけてきた少年が呼ばれたようだった。

 

「お前か」

 

 アズサの後ろに並んだ少年だったがどうやらすでに嫌悪を抱かれたようだった。

 

「お前ではない。私は白洲アズサ。先程は騒いですまなかった。あなたの名前は?」

 

 だがまあ、悪いのは入って喋りだした自分自身。そう思って謝罪すると幾らか空気が軽くなる。

 

「三輪秀次だ。呼び方はなんでもいい」

「分かった。秀次と呼ばせてもらう。私も呼び方は何でもいい」

「白洲と呼ばせてもらおう」

 

 軽い自己紹介だけだがほとんど落とされないと言われたとしても、仲が悪いことがいい方向に働くはずはない。そしてそのことは互いに分かっているのでそれ以上話すこともない。

 

「一、二、三……よ、よし、皆さん来てますかね。あちらに行ってしまった人もいないようですし……」

 

 結果としてアズサと三輪を含め、残っていた10人全員が呼ばれ、ヒヨリと名乗った少女の列に集まっていく。

 

「そ、それでは面接の待機室までご案内しますぅ……」

 

 案内図もまだ見せられていないのでどこに行くのか全く謎だったが。ヒヨリの迷いのない歩きについていけばそこは先程の講堂を更に小さくした会議室のような場所だった。

 

「で、では名前を読んでいくので順番に部屋を出て来てくださいぃ……えぇと、ちょっと待っててくださいねぇ」

 

 ペラペラと紙をめくって確認するヒヨリ。アズサが横に視線を向けると三輪と目が合ったので小声で話しかけてみる。

 

「秀次、この分け方はなんだと思う? 成績順だろうか?」

「いや、成績順はない。俺の友人もいたがそいつと俺でそんなに学力差はないはずだ」

「ふむ、なら他になにか共通点があるはず……?」

「人数比もおかしいしな。半分とかではなく五分の一となるとかなり特殊な条件だと思うが」

 

 ふむ、秀次盧友達もいるのか、と知った情報を飲み混んでいるとヒヨリが「あっ」と声を漏らす。

 

「見つけた見つけました。白洲アズサさーん……白洲アズサさんはいますか……? 来てくださぁい……」

「私だ」

 

 まさかのトップバッター。しかしここで緊張するような精神性を持っていないアズサは三輪に「行ってくる」とだけ言い残し、誘導されるがまま向かいの部屋の扉を開いた。

 

「初めまして。現【ボーダー】のトップ、城戸だ」

 

 顔に大きな傷のある、厳つい男がアズサの面接官だった。 

 

★ 

 

「君は、先日街を襲った化物、近界民についてどう思う?」

 

 面接官、そして、現【ボーダー】トップの城戸から最初に問われたのはそんな抽象的な問いであった。

 若干困惑しながらもアズサは自分の心を言葉にしていく。

 

「質問の意図が掴みかねる……が一言で表すなら怖いと思う」

「怖い?」

 

 目の前の男の仏頂面は動かない。だが、やはり臆するような性格ではないのでアズサは正直に述べていく。

 

「警察の銃も、自衛隊の武器も、殆どが通じなかった。一方的な虐殺を怖くない、と思えるほど私は豪胆ではない」

「ふむ、なるほど。ではボーダーに来たのは自衛の術を手に入れるためかね?」

 

 何かを見極めようとする城戸の問い。それが何か、アズサは分からないながらも答えを返していく。

 

「それもある」

「それも? 他にもあれば是非教えてほしい」

「私は近界民というものが憎い。両親は二人とも奴らに殺された。アイツらを倒す方法があるなら、私はそれを知りたい」

「復讐ということかね?」

「否定はしない」

 

 嘘は言わない。これだけは嘘をつけない。「引かれたか?」と思いこそするが、後悔はしない。

 

 彼女の憎悪は本物であるゆえに。

 

 そして一方の城戸。その仏頂面が少しばかり空気が変わる。

 

「なるほど。了解した。では次の質問だ。君は【ボーダー】に入って何がやりたい?」

 

 先ほどとは違い、想像していたような質問がようやく来て、アズサはやりたいこと、願いを言っていく。

 

「近界民を殺したい。復讐したいし、なによりこれ以上私から大切なものを奪わせたくない」

「ふむ……。それも良かろう」

 

 なぜか満足そうな城戸。その理由は彼をよく知る者であれば理解できるかもしれないがアズサには当然想像がつかない。

 

 しかし、そんな微妙な空気は置いておき、その後いくつかの定型的な質問がなされたあと、面接の終わりを告げられる。

 

「さて、面接はこれで終わりだ。そちらの扉から出ていきなさい」

「ありがとう。その、最後に一つ聞いてもいいだろうか?」

「何かね?」

 

 何をするつもりなのかと、訝しげにアズサを見返す城戸。

 

「私は【ボーダー】には入れるのだろうか?」

 

 立ち上がりながらそのことだけは聞いておきたいアズサ。だが城戸は口を割らない。

 

「ここで先んじて教えるつもりはない。発表を待ちなさい」

 

 すでにアズサを自身の配下に加えることを決定しているのだが、それを知るのは本人である城戸と未来を知る男だけだった。

 

「うん、わかった」

「君の道に幸あらんことを」

 

 そして、面接部屋の扉は閉じられ、 

 

「うっ……うっ……あんた、大変だったのね……ぐすっ……」

「ええと……誰だろうか?」

 

 部屋を出たらすぐ横で少女が泣いていた。

 同じ受験生か?と思いながら声をかけたアズサだがどうやら違うらしい。

 

「ごめんごめん。自己紹介しなきゃね。私は小南桐絵。【ボーダー】の職員であんたたちの先輩になる予定よ」

「白洲アズサだ。入ったらよろしく頼む」

「ええ、なんでもいいなさい……っと、まずは移動しましょ。私案内を任されてるのよ」

「そうだったか。ならよろしく頼む」

「ええ! 任せなさい!」

 

 聞けばどうやら次は体力測定らしく、現在は更衣室に案内されているらしい。

 そして目の前の少女、桐絵はどうやら黙っているのが苦手らしくアズサに話しかけてくる。

 

「そういや、さっきのあんた、全然ビビってなかったわね?」

「おかしかっただろうか?」

「いやいや、そんなことないんじゃない? 家族が襲われたとか十分な理由になると思うし。それに主義主張は自由よ。私達に求められてるのは実力だけ」

 

 ぐっと、何かを思い出すかのように拳を握りしめる桐絵。その瞳にアズサはどこか、自分と同じものを感じた。ああ、この人も、何かを奪われたのだ、と。

 

「実力というと、戦闘力のことだろうか? 正直喧嘩したこともないのだが」

 

 だが、それはそれ。向こうが言うつもりがないなら聞きはしない。アズサは会話を続ける。

 

「そこはこっちで面倒見るわよ。けど、素質なかったら辞めたほうがいいかもね」

「死ぬだけだから」

「……そうだな」

 

 とても、実感のこもった一言だった。

 だが、アズサも無力故に両親を亡くした境遇だ。その言葉は深く突き刺さる。

 それ以後会話はほとんどなくなってしまうが目的地の扉が見えてきてようやく、桐絵が再び口を開く。

 

「それじゃああっちの部屋で着替えたら反対側の扉から出て頂戴。服も袋に入れて忘れないようにね」

「ん。分かった」

「それじゃあね。体力測定頑張って」

 

 それだけ言うと彼女はもと来た道を引き返していく。それを見送った後、アズサは更衣室で指定の服装に着替え、扉の先へ向かうのだった。

 

 

「おぉ……こんな空間が建物の中に……」

 

 目の前に広がる光景に自然と言葉が漏れる。建物の中だというのに超巨大な空間が彼女を迎え入れたのだ。どうやら体育館のような空間らしくあちこちに体力測定に使われそうな器具が転がっている。

 

 そして、その中央にはすでに面接を終えたのであろう、第一陣とも呼べるメンバーが待機していた。

 どこに行ったものかとアズサが悩んでいると彼女に声をかける少女が二人。

 

「アズサちゃんこっちですよ!」

「良かった。ちゃんと来れたのね」

「ヒフミとコハルか。あれ、ハナコは?」

 

 ヒフミとコハルを見つけ、少しばかり安心したアズサだったが一番不合格にならなさそうなハナコがいない。

 

「それがこっちにはいなくて……。ハナコちゃんのことですし、落とされることはないと思ってるんですけど」

「私達に心配されるなんてハナコにしては珍しい……」

「ちょっと、私を入れないでよ!」

「あはは……」

 

 その後も何人か来るがハナコは来ない。

 そうこうしているうちにヒフミたちを案内してくれた青年が再び号令をかける。

 

「よし、これで全員だな。今から体力測定を行う。各自順番に回ってくれ」

 

 ハナコがいないことに若干の不安を覚えながらも三人は体力測定に挑むのであった。

 

 

「さて、これで面接は終わりなのだが、なにか質問はあるかね?」

「あ、質問してもよろしいのですか。ならそうですねぇ」

 

 時は少しばかり遡り…ハナコの面接室。担当は忍田という講堂での進行も務めた男であった。

 忍田から見たハナコ盧成績は優秀の一言。成績は今回の希望者の中でトップ。面接ものんびりした面は認められるもののはっきりとした意志を持ち、友情にも恵まれている。

 

「この【ボーダー】に後方支援のような現場を指揮するようなお仕事はありますか?」

「ある。なるほど、君はそのポジションを希望するのかね? 君は戦闘員にもなれる素質を持っているが、同時に学力試験を見れば頭がいいこともわかる」

「お褒めいただき光栄です♡ しかし、私自身裏方作業が向いていると思っておりますので」

「希望があるなら考慮しよう」

「ありがとうございます♡ あとはそうですね……。そうだ、これだけは聞いておきたかったんですよ」

「なにかね?」

 

 そんな優等生の彼女だったから、油断した。 

 

「あなた達の中に、未来が見える人がいたり……しますか?」

「……!?」

 

 いきなりの爆弾発言。いや、【ボーダー】の中でなければ冗談で済まされたかもしれない。

 

 だが、ここはその【ボーダー】である。ハナコの指摘どおり【未来視】や【予知夢】の副作用(サイドエフェクト)を持つ者が在籍している。当然部外者が知っているはずはない。

 城戸がそこまで考えることに約0.5秒。それだけの時間の逡巡でハナコには十分だった。

 

「ああ、分かりました。その反応で十分です。いえ、不思議だったんですよ。突然現れた未知の敵。それに対してあなた方は迅速に対応してみせた。恐らく【ボーダー】がいなければ被害はこの街に留まらなかったことでしょう」

 

「……」

 

「だんまりは肯定しているのと同じですよ? 正直妄想に妄想を重ねてますので違うと言ってくれればそれで良かったのです。1割くらいしか想定してませんでしたしね。逆にその時はこの【ボーダー】という組織が真っ黒と言うことになるので冗談でした♡と言いつくろうつもりでしたし」

 

 ハナコとしては【ボーダー】が黒ではない、という確認のために聞いただけだったのだが忍田からしてみればそうではない。

 

「それに面接のグループ分けも流石にはっきりさせすぎですね。恐らくあのグループ分けは近界民に復讐心を抱いているか否か。どうすればそんなことを判断できるのかと思っていましたが未来が見えるなら造作もないでしょう。しかしそうですか……本当にそんな人が……」

 

 彼は何も言えない。まず、ここで彼が何を言っても彼女の考えを補強するだけだ。実際グループ分けは別の方法(・・・・)で行われている。一方で、【未来が見える人間】がいるという情報は正しい。だが片方を否定すれば片方を肯定せざるを得なくなる。

 

 トリオン兵器の一つ。記憶消去兵器。その使用を忍田が考え始めたときだった。

 

「はいはい、可愛いお嬢さん。ストップだ。これ以上忍田さんを虐めないでね」

「迅……」

「どちら様でしょう?」

 

 突如、部屋の扉が開き若い青年が入ってくる。年は中学生か高校生程度。ハナコよりは年上であろうその青年は二人の会話をぶった切った。

 

「はいはい。実力派エリートの迅でーす。変な未来が見えたから来てみたけど面白いことになってる?」

「迅、面接中だ。いきなり入って来るんじゃ」

「それはそうだけど彼女の記憶消すのは良くないよ? 何回消しても同じ思考に行き着く。それに彼女の友達にもやらなきゃいけない。となるとすでに会話してる何人かの受験生の記憶もいじらなきゃならない。得策じゃぁない」

 

 忍田の言葉を切って捨てる迅。それは今だけではなく未来すら見る男の言葉。

 

「あら♡ 私、記憶消されちゃうところだったんですか? というより、その言い方はまるで」

「そう。俺がその【未来視】ができる人だよ」

 

 ゴーグルを外し、まっすぐハナコと視線を合わせる。

 

「宜しく。浦和ハナコさん。俺の名前は迅悠一。できれば君たち(・・・)とは仲良くしたい」

「ふふふ、お熱いお誘いですね♡」

 

 未来は転がる。どこまでも。




この時期の入隊メンバーやばいのしかいない……
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