ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「サオリ、アロナ。あとは頼んだよ。仲良くね」


第三話 ボーダー入隊試験 弐

 いくつものスクリーンが移されている管制室。映されているのは運動服に着替えさせられた様々な年代の少年少女たち。

 そしてそれを見るは、栗毛色の鳥羽のようなアホ毛が特徴の少女。食い入るように、分析するように。一人ひとりに熱心に視線が向けられている。

 少女の名前は小南桐絵。現【ボーダー】でも屈指の弧月使いの攻撃手(アタッカー)である。

 

「なかなかいいじゃない。これなら……」

 

 何事か呟こうとしたとき、管制室の扉が開く。

 振り返った桐絵が見たのは、彼女と同じ年代の、しかし少しばかりの上背のある黒髪の少女、錠前サオリである。

 すでに強襲銃(アサルトライフル)型トリガーを腰に装備しており出撃前であることが桐絵にも察せられた。

 

「あら、サオリにしては珍しいわね。出撃前に他の子としてるなんて」

「桐絵か。少々試験が気になってな」

 

 その言葉に更に驚く桐絵。サオリが他人に興味があることなんてかなりのレアケースだ。桐絵の知る限りそれは彼女のチームメイトを除けばたったの二人。

 

「ほんとに珍し。サオリが他の人に気をかけるなんて」

「なんでもいいだろう……。それで? 今回有望そうなのは?」

 

 そう言いながらサオリもスクリーンの一枚一枚に目を通し、その様子を珍しげに眺めながら桐絵は所感を述べていく。

 

「結構いるわよ。ほら、今先頭走ってるやつとか」

 

 まず桐絵が注目していたのは16歳の少年だ。筆記が壊滅的であり「点数が悪くても入隊させてくれるのか?」と問うた問題児にしか見えない存在だが、その一方で体力測定の結果は目を見張るものがあった。

 

「名前は……太刀川、か。確かに他の記録も優秀のようだな。派閥は?」

「予想としては忍田派ね。近界民に対して憎くもなんともないって」

「妥当だな」

 

 だが、どうやらサオリの興味を引く存在ではなかったらしく反応は淡白だった。

 なら次は、と桐絵が目ぼしいものをリストアップし始める横でサオリが小さく呟く。

 

「アズサか……」

 

 その目が捉えたのは白髪の少女。白洲アズサ。筆記試験は幼少期を外国で過ごしたことで学年平均よりやや下。トリオン量は13と豊富。体力試験の結果も悪くなし。その報告を見たサオリは少しばかりホッとした様子を見せる。

 そして、やはりその反応が珍しかったのか桐絵はサオリに尋ねるのであった。

 

「その子知り合いなの?」

「……まあ、な。派閥的にはどうなりそうだ?」

 

 別に隠すことではない。だが、自分の救助が遅れたせいで両親が死んでしまった少女だ、などとは言えず、誤魔化すサオリ。

 だが桐絵とサオリは旧ボーダーからの長い付き合いである。桐絵は誤魔化した空気について察しはするものの、追求はせずに持っている答えを返す。

 

「城戸派ね」

「やはりそうか……」

「やはり?」

 

 サオリの返答に再び違和感を覚え、しかし次の瞬間、桐絵の脳内で解が出る。

 

「ああ、もしかして助けたのってこの子? 事前に送ってもらった申込書と経歴で、城戸さんが直々に面接したみたいよ。それにどうやら迅たち曰く特異点の一つでもあるみたい」

 

 ほぼ百パーセント正解の真実にたどり着き、サオリは否定も肯定もせずに目を細めるだけだ。もっとも、桐絵はその仕草が図星を突かれたときのものだと知っているのだが。

 結果として桐絵は既に『助けた子が【ボーダー】に入るに当たり気になっている』というサオリの人間味がある行動に生暖かい視線を向け始めていた。

 その仕草が癪だったのだろう。サオリは話題を変えるべく口を開く。

 

「セイアに迅か。あいつら……また何か企んでるのか」

「辛辣ねぇ……。サオリ、いい加減仲直りしなさいよ。いつまでセイアと喧嘩してるつもり?」

 

 話題をずらされたことに桐絵は気づいている。が、あえてそこは突っ込まない。それは出た話題が、桐絵及びサオリにとって重要であったからだ。

 

「別に……そんな訳じゃない。あいつが悪くないのは私が一番分かってる」

「ならどうしてよ。【先生】だって皆仲良くしろって……」

 

 桐絵が言い切る前に、それは起こった。

 パンと空気が爆ぜる速度でサオリが強襲銃(アサルトライフル)を、桐絵の頭に突きつける。

 同時に、桐絵もまた『弧月』をサオリの首に突きつける。

 

「喧嘩売ってるなら買うけど?」

「うるさい黙れ。これは私とセイアの問題だ。【先生】は関係ない!」

「ならとっとと仲直りしなさいよ。引きずってるの丸分かりなのよ。今の【ボーダー】は家族でもないし、トリオン兵は待ってくれないのよ」

 

 正論なのは、桐絵。

 それはサオリも分かっており自分がわがままを口にしているのは百も承知だ。

 しかし、承知していても彼女には飲み込むことのできない出来事が存在していた。

 

「できるならやってる……。けど……」

「はぁ……私だってこんなこと言いたくないわ。だけど言う。あんたたちは一回、じっくり話し合うべきよ。今はお互いに逃げあってるようにしか見えない」

「……」

「……」

 

 一触即発。次にどちらかが口を開けばそれが開戦の狼煙となる。それが互いの共通認識。

 故に、ここで第三者が現れたのは双方及び【ボーダー】にとっても幸いなことだった。

 

「サオリ」

 

 開かれっぱなしだったドアから別の声がする。その瞬間に緊迫した空気は弛緩する。

 サオリは強襲銃(アサルトライフル)を肩に担ぎ直しながら声の主へ視線をやる。

 

「姫か……」

 

 やってきたのは姫と呼ばれる少女、秤アツコ。そしてその後ろには戒野ミサキと槌永ヒヨリもトリオン体の武装状態で待機していた。

 

「みんな揃った。それにセイアの言ってた予測時間だよ。デモンストレーションするのも考えるならそろそろ出た方がいい」

「うう……皆から注目されるとか、とっても苦しいです……恥ずかしいです……」

「大丈夫だよヒヨリ。苦しいのは生きてる証拠。そうでしょ? リーダー」

 

 そう。サオリが、今するべきは任務への準備であって桐絵と争うことではない。それにサオリの言い分は八つ当たりにも近い。落ち着いた彼女は桐絵に頭を下げる。

 

「錠前隊、出撃する。セイアの件に関しては時間をくれ」

「しょうがないわね……。うん。気をつけるのよ」

「すまない桐絵。そうだな……入隊試験が終われば模擬戦でもしよう」

「何本?」

「20」

「乗るわ」

 

 

「お、終わったっ……! 終わったのよね!?」

「コ、コハルちゃん! そこには誰も立ってません! ほら、お水と塩飴です」

「なかなかハードな測定だったな。大人組は割とついていけていたようだが」

 

 一方で、受験組。

 学力測定、面接、体力測定と怒涛のスケジュールが終わり全員が疲労困憊に陥っていた。

 彼女たちはまだ小6から中1。大人が受けているものと共通のものが出されればその疲労も仕方ないものだろう。

 

「あはは……。まあ募集要項読む限り戦闘するでしょうし、体を動かせるのは最低限の基準なのかもしれませんね」

「だからってこんだけ走らされるなんて聞いてないんだけど!? これ考えたやつ死刑よ! 死刑!」

「コハルちゃんは運動不足として……アズサちゃんのはなんでそんな平然としてるんですかね?」

「鍛え方が違う」

「さ、流石です……」

「ヒフミ。騙されちゃだめ。今の絶対何かの漫画のセリフよ」

 

 そんな軽口を言い合いながら、配られた塩飴や水を飲んでいると再び木崎がやってくる。

 

「みんな、よく頑張った。これにて体力測定を終わる。次は我々の使う武器についての説明になる。休みながら聞いてくれ」

「まだ触らせてもらえないんですか?」

「まだだ。まずはどういう武器かの説明からだ。皆の知る武器とは少々勝手が違うのでな」

 

 野次に丁寧に対応しつつ、木崎はポケットからリモコンのようなものを取り出し、ポチリとボタンを押す。

 すると、この体育館のどこにいても見えるような巨大なモニターが天井の隙間から降りてきて、映像を映す。

 その光景は受験者もよく知る警戒区域のものだった。かつては大都市を誇りながら一夜にして廃墟となってしまった悲劇の街。

 

 だが、映像はそこで止まらない。この画面の意図が分からなかった受験者がザワザワしていると四人の少女が画面に映りこむ。全員が全員中学生から小学生程度であり、しかし、身に余る武器を所持しているその様は非常に奇妙だ。

 

「君たちには今から実際にその武器を使う隊員の戦闘を見てもらう。自分にはなんの武器が合うのかを考えながら見てみてほしい。錠前、聞こえるか? すでに映像を繋げた」

『こちら錠前。了解した』

「分かった。近界民が現れ次第始めてくれ」

『了解』

 

 木崎か通信を入れるとモニターから返信があり、四人の少女のうちの一人、錠前サオリが手を挙げ、合図をする。

 この子達が今から戦うのか、こんな小さな子達も【ボーダー】にはいるのか、など様々な印象を与えつつ、木崎の説明が再開する。

 

「さて、彼女たちはこの【ボーダー】の正規隊員だ。そして、これから見せるのは近界民という化け物との戦いだ。これを見て戦うというのが怖くなる人もいるかもしれない。その場合脱退してくれても構わないし、戦闘職以外への配属を希望することも可能だ」

 

 そして、それぞれのポジションや武器についての説明が簡単に始まる。

 それを聞きながらコハルは呆れていた。

 

「なによあれ? 私たちと年変わんないじゃない」

 

 もっと硬い軍隊のようなものをイメージしていた認識ががあっという間に【部活動のようなもの】にすり替わっていた。

 それはヒフミも同じようで不思議な感覚を拭い切れずにいた。

 

「みたいですね。それでもお強いのでしょうか?」

 

 だが、アズサだけは違う。それは彼女に一つ、知識があったから。

 

「あの人……わたしを助けてくれた人だ」

「え? どの人?」

「黒の長髪で強襲銃(アサルトライフル)を持っている人だ。サオリと言ったはず」

「あの人ですか……かっこいい人ですね。背も高そう……」

 

 そのことにコクリと頷くことで同意しながらも彼女には、一つ、気になることがあった。

 

「けどあのときは天使の輪っかみたいなのが頭についてたような……」

「人間にそんなのつく訳ないじゃない」

 

 コハルの感想は至極当然のものだった。

 

 

『緊急警報。(ゲート)が開きます』

 

 その時は、やってきた。木崎がポジションごとのおすすめや適正を紹介していると天井のスピーカーから大音量で通知される。

 同時に映像にも変化が起こる。黒い稲妻のようなものが走ったかと思えば球体を形成し、瞬く間に異界とこの世界を繋ぐ(ゲート)が現れる。

 

『こちら錠前。戦闘を開始する。姫は補佐を、ヒヨリはでかいのを処理、ミサキは爆撃。私が突っ込む』

『了解』

『はぁーい。はぁ……怖いなぁ……痛そうだなぁ……』

『ミサキ了解。あとヒヨリ。この通信って聞かれてるよ』

『はわぁ!? き、聞こえなかったことに……できませんかね』

『無理だと思うな』

 

 軽口を叩きながらも、サオリたちは走り出す。サオリは目立つ道路の真ん中を直進し、アツコとミサキは路地に紛れながら(ゲート)へと近づいていく。そして、ヒヨリは狙撃しやすい場所を確保するためデパートの屋上へ緑の板を使って跳躍していく。

 

 その数秒後、ようやく敵トリオン兵の姿が顕になる。

 

 頭に砲台のような装備をつけた巨大なトリオン兵。そしてその周囲には空中に浮かぶ球体のトリオンが9体。

 その距離、およそ200メートル。詰めるにはトリオン体でも数秒かかる距離であり、サオリの強襲銃(アサルトライフル)の射程よりも遥かに遠い距離。

 

 そこは砲台トリオン兵の射程だった。

 キュウン、という音の一瞬後、それは放たれる。

 

 直線の道路をそのままなぞるようにサオリを巻き込んで、道路の幅ほどの極光が放たれた。

 

 一瞬の静寂のうちの、破壊。

 

 ズガガガガガガガガ、と周囲の建物を破壊しながらそのレーザーはサオリを飲み込む。その光景に「ひっ」とコハルが声を漏らした数秒後、煙の中から、一切減速していない無傷のサオリが現れる。

 

 ざわめく受験生たちに木崎が簡単に説明をしていく。

 

「今使っているのは【シールド】だな。皆が正規隊員になったときに使えるようになる。敵の攻撃を小さく分厚く防いでもよし。広く薄く張って備えるもよしだな。他にも固定して防ぐとか汎用性は高い」

 

 同時、デパートの屋上から放たれた一筋の光線がトリオン兵の大砲に直撃し、爆炎を生んで破壊した。

 200メートルは、ヒヨリの射程圏内でもあるのだ。

 

「そして狙撃。アイビスと呼ばれる武器種で素質があるものほど強い威力を出せる。弾速は遅いがあのように鈍重な敵を屠るならもってこいだ。他にももう一つ、イーグレットもあるが……ヒヨリは使わんだろうから狙撃手(スナイパー)志望の者は後で見せよう」

 

 一瞬の攻防。その数秒でサオリは200メートルの距離を詰め終わる。距離およそ30メートル。パァン、パァン、パァン、と一撃ごとに放たれる弾丸が確実に浮遊するトリオン兵を潰していく。

 

「二人は銃手(ガンナー)だな。ミサキ……路地の黒髪の子は対空ミサイルを、真正面から飛び込んだ黒髪の子は強襲銃(アサルトライフル)をモデルにしている。銃の形は希望があればたいてい何とかしてくれるので銃手(ガンナー)を希望する者は自身に合った銃を見つけるとよいだろう」

 

 爆発と、周囲のトリオン兵が機能不全に陥っていく中で、ようやく、サオリを今更ながら脅威と認識したのだろう。浮遊するトリオンは距離を取るべく空へ逃げるがそらを路地からの迫撃砲が狙撃する。

 

『はーい、逃さない逃さない』

『ミサキ、良くやった。姫、大砲持ちを狙えるか?』

『核の場所が見えない。ちょっと削って』

『了解。2秒後に外殻を破壊する』

『ありがと』

 

 そんな短い言葉とともに、サオリの周囲に瞬間的に生成されるのは人間の頭ほどあるキューブ状の発光体。それが瞬く間に8つに分割されると巨大トリオン兵の頭部から腹部まで的確に破壊していく。

 

 未知の現象に、やはり、受験生たちは混乱するがすかさず木崎が説明を加えていく。

 

強襲銃(アサルトライフル)の女性だが、彼女は射手(シューター)も兼ねていてね。彼女の周りに光の玉のようなものが見えたと思う。それは銃から放たれる弾丸と同じものだ。また、弾丸の種類にも色々ある。キューブ状にしていたのはバイパーと呼ばれる弾丸だな。上級者になれば今のように思い描いた軌道で飛ばすことができる。ちなみに先程銃で撃ったのはアステロイド。こちらはまっすぐしか進まないが破壊力がある」

 

 そんな説明の最中、トリオン兵の巨体は揺れる。すでに弱点となる核は表に露出し、このまま一度も有効打を与えずに倒れてなるものかと、無事な皮膚から小銃のような発射口が現れサオリに狙いを定める。

 

『旋空弧月』

 

 だが、発射口が火を吹く寸前、トリオン兵が縦に両断された。

 

「あとは最初に紹介した近距離特化の攻撃手(アタッカー)についてだな。盾と剣を持つ女性がいるだろう。あの盾はレイガスト。近距離戦の守備の要だ。取り回しが少々難しいが使いこなせれば傷を受けることはそうそうない。また、彼女の持つ剣だが、名前は『弧月』。我々が最初に作った武器であり攻撃力と耐久力に優れた武器だ。そして、最初に作られたこともあり、様々な追加のオプションが存在する。今の旋空弧月もその一つだ」

 

 戦闘時間は警報が鳴ってから約60秒。

 それだけの時間で侵攻してきたトリオン兵は機能不全に追い込まれたのだった。

 

『敵近界民の沈黙を確認。戦闘を終了する』

「お疲れ様。気をつけて帰ってこい」

 

 簡素な報告に笑顔で答えながら、木崎はオリエンテーションを締めくくる。

 

「と、まあ。実際の戦闘はこんな感じだ。攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)射手(シューター)狙撃手(スナイパー)、様々なメンバーが協力して戦うことを想定している。正規の隊員になった際はそのことを意識しておいてくれ」

 

 受験生からしたら疲労困憊の状態で見せられたショッキング映像だったわけだが、そんな疲労など吹き飛ばすようなオリエンテーションであった。




副作用持たせたいけどブルアカって能力の詳細がわからないのが多すぎる……
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