ワールドトリガー 私達の青春の物語   作:ゴウ・フェトア

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「何故だ……何故! 何故この未来を選んだ!! 答えろ!」


第四話 師

「では、実際に武器を触るに当たって、まずは合否の発表をしよう」

 

 オリエンテーションという名の実演から数分後、モニターには先程の市街地ではなく番号が張り出される。

 不意打ち気味に発表されたそれに、受験生は戸惑いつつも各々の合否を確認していく。

 

「あ、皆受かってますね!」

「当然……当然? ハナコも受かってるのか」

「な、何したのよ……。ていうか体力測定受けてないとかずるくない?!」

「あはは……、ハナコちゃんは不思議な人ですからね……」

 

 憤るコハルを慰めるヒフミ。そして、おおよその受験生が合否の判定を確認し終えた時、何人かの職員らしき人員が新たに体育館に入ってきて指示を出し始める。

 

「じゃあ攻撃手(アタッカー)希望の人はこっちに来い」

銃手(ガンナー)の者はこっちだ」

狙撃手(スナイパー)はこ、こちらへ……働かせすぎですよぉ……」

射手(シューター)はこっち。並んで並んで」

 

 その誘導を聞いてコハルは焦る。彼女はまだポジションを決めかねていた。というより決め手に欠けていた。

 

「ね、ねぇ、アズサ、ヒフミ。あんたたちはどうするの?」

「私は銃手(ガンナー)だ。助けてもらったときの印象が強いし銃なら馴染みがある」

「私は射手(シューター)です! なんだか魔法みたいで使ってみたくて」

「な、なるほどね?」

 

 同じ状況であるはずの二人に聞いてもまさかの即答。

 え、やばい、どうしよう。それがコハルの表情にありありと現れていた。

 

「コハルはどうするんだ?」

「あ、えっと……」

 

 会話として自然な返し。だがそれはますますコハルを追い詰め……

 

「コハルちゃんは攻撃手(アタッカー)とかいいと思いますよ♡」

 

 救いの手が現れた。

 

「ハ、ハナコ!? どこにいたのよ! 心配してたんだからね!」

 

 コハルに、後ろから抱きつき、耳元で囁くようにアドバイスしたのは浦和ハナコ。突然の出来事に驚きながらもコハルは彼女の事情を問う。

 

「ちょっとここの【ボーダー】の人とお話してたら遅くなってしまいまして。あ、体力測定はすでにパスしてますよ」

 

 にっこり、と擬音が付きそうなほどの笑顔がコハルに向けられる。

 その笑みの深さにヒフミとアズサが何処か不穏なものを感じて後ずさる……が、コハルは素直にそれを受けったようで。

 

「え、ほんとに?」

「嘘です♡ スカウトされたので全部スルーして正規隊員にしてもらえました♡ みなさん以外にはまだ秘密ですけどね」

 

 「フンッ!」と、騙されたことに気づいたコハルがハナコの腹部を小突くがハナコはノーダメージ。

 一方でそんな重要なことを聞かされてヒフミは目を白黒させていた。

 

「私達には言っていいんですか?」

「勿論♡ 皆さんの合格もまとめて取ってきましたので♡」

「「「え゛っ……」」」

 

 そして爆弾はさらに投下される。

 「こいつ、今度は何しやがった?」が3人の共通の内心だった。

 

 ハナコという生徒は優秀な生徒だ。勉学に限らずその頭脳の優秀さは多岐に渡り小学校卒業時点でその名は様々な分野で知られつつあるほど。

 

 人間性も悪くない。善悪で言えば善に寄るし、法律だってしっかり守る。

 

 だが、法律を守れば、ルールを守れば、その頭脳は目的を果たすことに全力で注がれる。

 時には道徳や倫理観すら忘れていてもアズサたちは驚かない。

 

「それでですね。コハルちゃんのポジションはヒットアンドアウェイの攻撃手(アタッカー)がいいかと……」

「まって?! まって?! ついていけないんだけど!? ほんとに何したのよあんた!」

「ナニと言いますか……。普通にお互いの利益を考えてですね。もともと不合格者なんてほとんど出ない試験なので向こうからしても大きな問題ではなかったのでしょうね」

 

 やはり不穏な言い回しだがどうやら少なくとも脅迫ではないようで胸をなでおろす三人(ちなみにだが、ハナコは脅迫を否定していない)。

 そして、アズサたちの中に友達を疑うようなことをする少女はいない。ハナコが話をつけた、と言うならばそれ以上聞くことはなく、むしろハナコが無理していないか、という方向に転がっていく。

 

「それはそうかも知れないけど……ハナコ、大丈夫だったのか? なにか言われたりはしなかったか?」

「大丈夫ですよー。交渉事は私の得意ごとなので♡」

「な、ならハナコちゃんはどのポジションに行くつもりなんですか?」

 

 そういえばと、衝撃の連続で忘れかけていたハナコのポジションを確認していくヒフミ。

 

「ああ、私はオペレーターというのを希望させてもらいました。皆さんの補助をさせていただこうかと」

「お、おぺれーたー…?」

「皆さんへ、地形の情報や敵の情報をお伝えする人のことですよ♡ 先程の実演にはお見えになりませんでしたが、今の正規隊員はどのチームもオペレーターがいるようです」

「なるほど。それはたしかに助かる。今から私達がチームを組むとして、新たに人員を追加しなければいけなくなるところだったのだな。未然に防ぐとはさすがハナコだ」

「いえいえそれほどでも♡」

 

 ハナコのポジションにほか3人が納得しつつ、反論する必要も特にはない。

 それに周りを見渡しても同年代の少女はほとんどいない。新たにチームを作るに当たって異性を引き込むとなると彼女たちにとっての心理的ハードルが上がるのは想像に難くない。

 

 そうして、全員のポジションのポジションが確認され、周りを見ると彼女たち以外の合格者もぞろぞろと並び始めていた。

 

「では、皆さん、頑張ってきてください。そして早く一緒にチームを組みましょう♡」

 

 やはり、笑顔で、ハナコはアズサたちを見送った。

 

 

 アズサがやってきたのは的と銃が置いてある訓練場だ。銃手(ガンナー)専用のその室内は広い空間に動き回る人型の人形が置かれている殺風景な部屋だった。

 そして、部屋の中央で待ちけるのは先の解説役、木崎レイジ。

 

「ようこそ、銃手(ガンナー)希望の皆。俺の名前は木崎レイジ。改めて宜しく頼む」

 

 高校生としては異常なほど鍛えられた肉体がその強さを見せかけではないと教えてくれる。先程の戦闘での解説もあり、彼を前に無駄口を叩く者はここにはいなかった。

 

「さて、本日は基本的な銃を触ってもらう。全員前へ。人数分の武器を渡す」

 

 その様子に満足しているのか、いないのか。彼は懐から取り出したボタンを押すと、床から台がせり上がり、そこに棒状の物体が並べられる。

 

「これは……なんだろうか?」

 

 アズサが、頭にクエスチョンマークを載せながらレイジに問う。だがレイジの方も元々説明する気はあったようでスムーズに説明していく。

 

「これが俺たちの武器だ。まずは全員手に取ってくれ。そしてそのまま【トリガー起動(オン)】と口にしてくれ」

 

 それに逆らう理由があるはずもなく、若干からかわれているのかと疑う隊員もいる中それは始まっていく。

 

「トリガー起動(オン)……っわ?!」

「と、トリガー起動(オン)! お、おお……」

 

 驚きは当然のものだ。言葉を口にした瞬間視界が暗転し、次の瞬間には服装が【ボーダー】の正式隊員のものとなり、同時に体が抱えていた披露が一瞬で消え去ったのだ。

 

「トリガー起動(オン)

 

 アズサも周りに続いて口にするが結果は変わらない。他の者と同様にその服装は隊服へと変わるが、その現象を動じることなく受け止める。

 

「現在、諸君の体は戦闘用のものへと変換されている。いくら怪我しようと生身にそれが還元されることはない。故に事故等もそちらは気にせずに触ってみてくれ」

 

 そして現れるたくさんの的。そのそれぞれに受験番号と同じ番号が顔に当たる部分に書かれており、己の狙う的を示していた。

 

「では、試し打ちも兼ねて一旦触ってみよう。撃ち方が分からないというものはまとめて指導するので俺の方まで来るように」

 

 アズサは腰のホルダーにいつの間にかある銃に目をやる。

 引き抜き、安全装置の有無を確認し(なかった)、慣れた手付きで的に銃口を向ける。

 

 パン!と乾いた音が響いた。

 

 

「調子はどうだ?」

 

 その後、撃ち方指導を終えたであろうレイジが順番に他の隊員を見る中でアズサの順番がやってくる。

 当たれば遠くなる、という設定の的はすでに距離を50メートルにまでのばしており、それを認識したレイジは素直に感心する。

 

「いい調子……だと思う。思います」

「敬語はいらない。俺は一戦闘員で、君も一戦闘員だ。それに……ふむ。確かに良い調子のようだな。触ったことがあるのか?」

「父がモデルガンを触っていた……。試し打ち程度だが。撃ち方自体は教わっていた』

「なるほど、道理で筋が良いわけだ。だがそれ以上に天性の才能があるのだろう。我々としても歓迎なことだ」

「……あの、木崎……先輩? 少しいいだろうか?」

「うん、何だ?」

「この【ボーダー】は、射撃以外の技術は学べたり……するのだろうか?」

 

 少し聞きづらそうに、しかしこれだけは聞いておきたかったアズサ。

 彼女はこの【ボーダー】に、近界民を倒すための、殺すための手段を求めてやってきた。

 そしてそれは、チーム戦を意識してのものではない。友達が一緒に来てくれたことには感謝するが、自分ひとりでもできるようにならねばならない、というのが彼女の現状の認識であった。

 

「射撃以外というと……。ああ、君が白洲アズサか」

 

 そしてレイジの方も彼女の事情は聞き及んでいた。

 

「……私のことを誰かから?」

「ああ。君に指導を請われたら紹介するように言われている。錠前サオリ、と言って分かるかな?」

「私を助けてくれた人だ。忘れるはずがない」

「そうだ。そしてずっと君を気にかけてる人でもある。この訓練が終わったら残ってもらっても構わないか? 是非会わせたい」

「大丈夫」

 

 その申し出はアズサとして願ってもないことだった。

 やれることはやる。立ち止まることは自身が許さない。アズサはそういう少女だ。

 そしてその即答に満足したのかレイジはアズサに背を向ける。

 

「わかった。なら今はこの訓練に集中するんだ。できるか?」

「うん。大丈夫」

「頑張れ。行き詰まったら聞きに来い」

 

 そして、訓練が終わるその時までアズサは銃を打ち続けた。

 

「木崎だ。白洲を連れてきたぞ」

「入ってくれ」

 

 そんな短い掛け合いで目的の部屋の扉は開かれる。木崎のあとに続くアズサは少しばかり緊張しながらも彼の後ろに引っ付き部屋に入る。

 

 室内にいたのはアズサと同年代の四人の少女。そしてその全員にアズサは見覚えがあった。

 

「サオリに……さっき戦っていた人たちか」

「そうだ。紹介しよう。右から順に秤アツコ、錠前サオリ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリだ」

 

 レイジが少女たちを示しながら紹介していく。サオリ以外はほぼ初対面であり一応一人ひとりに会釈をしていく。

 それが終わるのを見届けると木崎はアズサの紹介に取り掛かる。

 

「サオリはすでに知っているがこいつは白洲アズサ。やる気はあるしトリガーを使う才能もある。鍛えればいい戦士にねるのは間違いない」

「そんなにか」

 

 つい呟いたのはアズサだったがそれも仕方なし。周囲に銃の腕前を競い合う機会も、トリオン寮の測定機会もないのだから当然ではある。

 だが、サオリたちの方はというとそこまで驚く様子はない。試験結果やさっきまで行っていた訓練の成績すら知っているのだから当然ではあるのだが。

 

「木崎、そんな推薦はいい。私が頼んだんだ。とっとと私に指導権を寄越せ」

「全く……別に構わないが。白洲を怖がらせるんじゃないぞ」

「そ、そうですよ。な、仲良くしてください……心労で死んじゃいそうです……苦しいです……怖いです……」

「ヒヨリ、ややこしくなるから私達は黙っておこうね」

 

 決して険悪ではない、が、サオリのきつい言い方に眉をひそめる木崎とその部下。

 

 だが、ここはアズサが他の反応を一蹴した。

 

「構わない。私はここに強くなるために来たんだ。他のことはどうでもいい」

 

 その言葉を聞いて悲しそうな顔をしたのは木崎とサオリ。ほか3人の少女は、少し……いやかなり引いた顔でアズサを見る。

 小声で何やらヒヨリとミサキが言い合い、それをアツコにポカリと殴られているがそれはそれ。

 

 錠前サオリが、立ち上がり、アズサの前までやってくる。

 

「白洲アズサ。近界民が憎いか?」

「憎い」

「【ボーダー】は近界民と戦う組織だ。お前は【ボーダー】の剣になれるか?」

「なれるかどうかじゃない。なるんだ。その為に力を貸してほしい」

 

 その2つ。その2つだけ聞くとサオリはレイジに視線を送る。複雑な心象を抱くレイジだが本人と受け入れ先が了承している限り間に入る必要もない、と客観的にも判断できる。

 

「俺にも力を貸せというなら構わん。万能手(オールラウンダー)として攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)射手(シューター)の面倒は俺でも見れる。だからサオリ。お前は」

「分かっている。私の得意分野はゲリラ戦や戦術面だ。白兵戦は一級品のお前たちには一歩及ばないのは自覚している」

 

 ここでサオリの視線はレイジからアズサへ注がれる。

 

「白洲アズサ。今日からお前を鍛え上げる。戦術、心理戦、ゲリラ戦に罠や誘導、私の持つ全てをお前に叩き込む」

「こちらからお願いしたいくらいのことだ。だが、二つほど聞いておきたいことがある」

「なんだ? 条件があるなら先に言え。これらは強制事項ではないのだから」

「条件ではなく質問だ。一つはチームについて。私はこのチームに入るつもりはない。友達とすでに約束しているからだ」

「それはこちらも同じ。これ以上チームの人員を増やすつもりはない。我々のオペレーターの都合もある。その点は気にしなくてもいい。あくまで私が個人的にお前に指導するだけだ」

「なるほど……」

 

 1つ目が杞憂であると知り一先ず安心するアズサ。だが、彼女が真に気になっていたのはもう一つの方だった。

 

「では2つ目。私はなぜ、あなたに鍛えてもらえるのか? 自惚れるつもりはない。今日この建物内には私以外にも、私以上に才覚がある者がいたはずだ。なぜ私が選ばれた?」

 

 沈黙。部下も、レイジも黙り込む。サオリの目がスッと細められる。

 

「リーダー……」

「構わん。話す」

 

 一瞬、逡巡したアツコが心配そうにサオリに声をかけるが返ってきたのは気丈な声。

 

 そして告げる。

 

「アズサ。私がお前を育てるのは贖罪だ。お前の両親を助けられなかった。そのことに対する呵責をお前を鍛えることで解消しようとしている」

「おい、その言い方は」

「レイジさん、黙ってて」

 

 レイジを静止したのはアツコ。普段見せない年上への要求にレイジは思わず黙り込む。

 

「許してくれと言うつもりはないし言ってもらうつもりはない。事実は私の救助が遅れたことでお前の両親が死んだ。それだけだ。故にお前を鍛えようとするのは私の気持ちを楽にするためだ」

「……話してくれてありがとう。納得した」

 

 はっきりと、包み隠さないその言い方にアズサは目の前の少女の不器用さと誠実さを垣間見る。

 言葉の内容はアズサのデリケートに深く関わることだ。だがその根底にあるのが優しさ故にアズサは辛くない。

 

 そして何よりアズサの結論は最初から決まっていた。

 

「私の名前は白洲アズサ。今日からよろしく頼む」

「私は錠前サオリ。お前を歓迎しよう」




コハルかあいい……お持ち帰りしたい……
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