SELECTION PROJECT ~SELECTION HEEL~   作:マーケン

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第一話

 星々の煌めきに貴賤なく、されどどれが一番人を惹き付けるのか決めずにはいられないのが人の性。

 今宵もまた虚空に夢を見る星達が己の希望を輝かせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特例というものはおおよその人が好まない事象だ。普通ではない、王道ではありえないもの。意識しなくてもざっくりとルールを守って生活している私達の中に起きた不条理。それを好む人は少ない。少なくとも私は好きではない。

 けれども、だ。人とは現金なもので、いざ自分に利する特例を目の前に提示された時、断れる人もまた少ないのだ。

 

「えー、離島ブロック 黒松星(こくしょうあかり)です。みなさん言いたいことは色々とあると思いますが、円滑な進行のため今は抑えてください、以上」

 

 アイドルオーディションで勝ち抜いた9人を前に、唯一無勝でここにいる私は刺さる視線に内心びくびくしながら、表面上は取り繕っていけしゃあしゃあと言うのだった。

 テレビ番組発のアイドルオーディションリアリティーショー。過去6回行われ今年は応募者総数約10万人という規模に膨れ上がった流行の最先端、SELECTION PROJECT。私はその最終選考の場でこうして自己紹介している。特例として。

 ことの発端は当日消印有効の応募書類が応募期限をだいぶ過ぎてから到着したことにある。

 SELECTION PROJECTは未成年のオーディションをするにあたり、保護者の同意書などのウェブ上だけでは取り扱いにくい書類もあるため基本的に応募書類は紙の書類を送らなければならない。

 当日消印有効という特性上、応募期限過ぎてからもある程度は書類選考の猶予を儲けているのは想像に易いが、どうにも私の書類はその猶予を更に過ぎていたようで、有効書類が無効なものとして処理されてしまっていたのだ。

 どうしてそうなったか?それは私の住んでいるのが父島で、私の書類を送った前後はしばらく天候不良で物流が滞っていたからだ。とはいえ、不合格になることはあれ、先行漏れしているなんて思わないだろう。

 SELECTION PROJECTは応募者全員に当落の結果メールが来るようになっているから何時までたっても来ないことで問い合わせたところ書類が先行漏れしていたことが発覚。住んでいる地域柄、予選にも間に合うかギリギリということで、企画運営側で協議が行われた結果、この不手際を逆手にとった新しい企画をしようとなったのだ。幸運を掴んだものはどこまで努力してきた人に食らいつけるのかと。

 テレビ業界の闇を垣間見た瞬間である。

 そんな訳でいきなり最終選考に大抜擢された私はそれはもう炎上した。

 動きとしてはSELECTION PROJECTの地区代表が決まる→運営が私を使った企画を発表→運営ともども炎上(イマココ)

 10万人もの夢見る応募者が熾烈な競争をしていたらアホみたいなワープする奴が出てきたんだからそりゃ荒れるわ。

 SNSでは運営への批判。私の出身への弄り、私への渾名大喜利、アンチと擁護の罵倒大会など、それはもうお祭り状態でフォロワー数だけでみれば最終選考に残った他の面々と遜色無いレベルになった。

 

「あ、1つ忘れてました。島人しまんちゅとか言われてるのはご存知だとは思いますが、私これでも父島という東京都民ですので沖縄みたいな都会と同列に扱うのはやめてください」

 

 父島だの乳島だの、過去最高にアンチの多い最終候補者だの、星ちゃんを分からせたいだのSNSでの書き込みの酷さは本当にスラム街の様相で毎日眺めていると一周回って面白くなってしまう(私が特殊なだけかもしれないが)。

 とにかく私は本来想定していない方法でここに来てしまった(本来の実力でここまで来れたのかという問題は置いておく)。

 

「改めて皆さん、よろしくお願いしますね」

 

 なんにせよ、だ。最終選考に残れたのなら喜ぶところなのだろう。

 この夏休みの時期を利用して行われる最終選考。専用に設けられた合宿所は応募者からしたら憧れの舞台。分かりやすく例えるなら高校球児にとっての甲子園球場、スクールアイドルにとってのアキバドゥームだ。

 

「よく平然と顔出せたものね」

 

 その憧れの合宿所内の食堂にて針の筵に座るような気分を味わった人はきっと歴代候補者を見ても私くらいなものだろう。

 まさかこうして面と向かって否定的な意見を言われるとは思ってもいなかった。

 

「面の皮の1枚2枚、厚くなくてオーディションなんて受けられませんよ。まぁ、私は受けてないんですけどね。でも寧ろそっちは私がオーディションに居なくて良かったんじゃない?」

 

「・・・・・・随分自信家なのね」

 

「ちゃんと意味を捉えて返答できるあたりただの狂犬では無いみたいですね。けど、あまり喋りすぎない方がいいですよ?南関東ブロック代表 花野井玲那たん」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・噛んじゃった」

 

 良い感じに舌戦を出来ていたと思う。こう、格闘技の試合前のディスり合いみたいな。

 だというのに、肝心なところでなんでこう、ねぇ?

 

「っははははは、ええなぁ玲那たん。私もそう呼ばせて貰うわ」

 

「ちょっと、濱栗さん?」

 

「そんな怖い顔したら美人が台無し。笑顔笑顔」

 

 関西弁でからっと笑いながら横槍を入れたのは濱栗広海さんだ。方言から察する通り近畿代表の金髪の似合う、陽キャ感満載の子だ。

 

「濱栗さん、玲那たんはクールキャラ売りみたいなので強要したら悪いですって」

 

「キャラ作りはカメラ回ってない時も心掛けないとだもんね。凪咲も見習わないと」

 

 私の茶化しにボソッと呟いたのは四国ブロック代表の今鵜凪咲さん。自他共に認めるアザとかわいいキャラでその様式美が人気の小柄な子だ。

 しっかり聞こえてるのはわざとだろう。

 

「ちょっ、勝手に人のこと!」

 

「ほーら、話進まないよ。早く済まして食べないと女将さんに悪いでしょ」

 

 手をパンパンと慣らして子供を仕付けるように声を上げたのは九州・沖縄ブロック代表の当麻まこさん。やや大柄なことも合間って仕切るのが上手そうな雰囲気がある。

 

「そうだよ。食事は楽しく食べた方が美味しいよ?」

 

「まぁまぁ、今は鋭気を養うためにも、いただきまーす!」

 

「ん、美味しい」

 

 食事に関しては一家言ある、という雰囲気で話すスタイルのやたらいい北海道ブロック代表の八木野土香さんと、それに乗っかる勢いのいい体育会系の中国ブロック代表の淀川逢生さんが軌道修正してみんなようやく食事に手を付けた。いや、やたら落ち着きのある東北ブロック代表の小泉詩さんだけは先に食事していた。子役経験をしてきたというのは伊達ではないという落ち着きっぷりだ。

 

「まだ終わってないでしょうに」

 

 当麻さんが箸を置きなさいとジェスチャーをして、3人の手が止まる。

 そう、挨拶がまだあと1人残っているのだ。

 

「北関東ブロック代表 美山鈴音です」

 

 私なんかとは違う。本物のシンデレラガールが。

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