吉良吉影、『オルフェノク』になる。   作:ほろろぎ

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最終話 吉良、散華

 吉良吉影はしがないサラリーマンとしての皮を脱ぎ、殺人鬼としての本性を少女──真理の前にさらけ出した。

 吉良が変身(・・)したネコを思わせる異形の怪人が、新しい犠牲者を増やすため、(するど)い爪の生えた手を真理に向ける。

 

「オルフェノク!?」

 

 怪人の姿を見た真理は叫んだ。

 同時に少女の発した単語に、吉良──キャットオルフェノクも動きを止める。

 

「貴様、なぜオルフェノクのことを……」

 

 目の前の少女が自らの姿を知っていることに、吉良は内心で驚きを覚えた。

 蘇った死者が変化する怪人──『オルフェノク』の存在は、大企業「スマートブレイン」が隠ぺいしている。

 世間には一切公表されていないその名を知る者がいたとは……。

 

(この女、一体何者だ?)

 

 吉良の中にほんのわずかな好奇心が湧いた。

 少女を殺して手首を手に入れる前に、その答えを知りたい。

 真理の腕をつかんでいた力がゆるむ。

 

 その一瞬のスキをついて、真理は渾身(こんしん)の蹴りを怪人の『股間』に見舞った。

 

「フグッ!?」

 

 キャットオルフェノクは(もだ)え、うずくまる。

 怪人化したといえ男は男。急所の弱さは変身前と変わらないようだった。

 

 股をおさえ苦悶の声をあげる怪人をしり目に、真理は大慌てで吉良の元から離れていく。

 遠ざかっていく少女は、走りながらどこかに『電話』をかけているようだった。

 

「おのれ、あの小娘……ッ」

 

 痛みにフラつきながら立ち上がると、キャットオルフェノクもすぐさま真理のあとを追う。

 人間を凌駕(りょうが)する身体能力を持ったオルフェノクとして吉良は覚醒した。

 対する真理はただの十代の少女だ。

 体力の差を考えれば、怪人の魔の手から逃げられるはずがない。

 

 だがどうしたことだろう。

 真理は入り組んだ路地裏の道を巧みに走り回って、吉良はなかなか少女を捕まえることが出来ないでいた。

 逃げ場のない袋小路に誘い込んだはずの吉良が、逆に真理によって迷路に誘い込まれたような錯覚を覚える。

 まるで、吉良のようなバケモノから何度も逃げ延びてきた(・・・・・・・・・・)ような、とても手慣れた逃避行だった。

 

 しかし、とうとう少女の逃走にも限界が訪れた。

 どこかの倉庫の扉の前で、真理は立ち止まる。

 どうやらドアが施錠(せじょう)されているようで、これ以上先に進めなくなっていたのだ。

 

 なんとか扉を開けようと四苦八苦している真理の背中に、キャットオルフェノクがとうとう追いついた。

 

「おやおや、どうやらここが『限界』のようだね」

 

 薄笑いを浮かべながら吉良が言った。

 そのまま、真理の背に向けて言葉を続ける。

 

「そういえば、さっきどこかに電話していたようだが……誰を呼んだんだね? 警察か? それともまさか自衛隊とか」

「そんなのより、もっと頼りになる奴よ。……こういう時だけはね」

 

 真理の顔は期待の言葉とは裏腹に、不愉快そうに歪んでいた。

 

「色々と気になる所だが、さっき気づいたんだ。そろそろ仕事に戻らなければいけない時間なんだよ、私はね」

「……じゃあ、このまま見逃してもらえたり?」

 

 真理の期待もむなしく、キャットオルフェノクは再び少女にかぎ爪を向ける。

 

「さっさと君の『手首』をもらって、帰らせてもらうよ」

「こいつも中曾根さんと同じでヤバい奴かぁ」

 

 真理は恐怖に耐えるように、ギュッと目をつむった。

 ジリジリと少女に迫るオルフェノク。

 二人の距離があとわずかとなった時、こちらに迫って来るバイクの爆音が辺りに響いた。

 

 これまでの経験(・・・・・・・)の成せる(わざ)か。

 謎の直感が働き、真理はその場からスライディングするように、横に飛びのいた。

 

 吉良が少女の行動を認識するより前に、それまで真理が背にしていた扉が勢いよく開け放たれる。

 開かれたドアは衝撃で留め具が外れ、キャットオルフェノクにぶつかり、衝撃で怪人を弾き飛ばした。

 

 金属の扉が勢いよくぶつかれば、普通の人間であれば骨折はまぬがれない。

 しかし怪人と化した吉良は痛みはあれど、怪我もなく起き上がる。

 

 扉が外れぽっかりと開いた倉庫の出入り口には、一台のバイクにまたがった『茶髪の青年』が、面白くなさそうな顔を浮かべキャットオルフェノクを見ていた。

 先ほど吉良が立ち寄ったクリーニング店で店番をしていた、あのぶっきら棒な男だ。

 

「巧! 遅いよ!」

「お前が店番してろっつったんじゃねえか」

「お店の番よりオルフェノクの方が大切でしょ!」

 

 怪人である吉良を前にしても、変わらずに口喧嘩を始める真理と、巧と呼ばれた青年。

 

(この男もオルフェノクを知っているのか……何なのだ、こいつらは)

 

 キャットオルフェノクは猫の目を鋭く光らせ、巧を注視する。

 巧は乗って来たシルバーのバイクから降りると、後部に取り付けられているトランクを開け「なにかの道具」を取りだした。

 それは、なんのために使うものなのか想像もできない、機械造りのベルト(・・・・・・・・)状の物体。

 

 巧はそれ(・・)をまさにベルトのごとく腰に巻き付けた。

 さらに取りだした折り畳み式の携帯電話に、「555」のコードを入力。

 

『スタンディング・バイ』

「変身!」

 

 機械的な音声を発する携帯を、掛け声とともにベルトのホルダーにはめこんだ。

 巧の体の表面に、赤色のエネルギーの流動経路である「フォトンストリーム」が浮かぶ。

 つづけて彼の体を、超金属「ソルメタル」で造られた外殻が(おお)った。

 

「な……にぃ……!?」

 

 キャットオルフェノクの細い猫目が驚きで見開かれる。

 巧は謎の道具を使い、超金属の仮面の騎士──『ファイズ』へと変身した。

 それは肉体を別のモノへ変異させるオルフェノクの「変身」とは、まったく(こと)なったものだった。

 

「オルフェノクじゃあない! スタンド使いでもないッ! 何者なんだ、コイツはぁーッ!?」

「ゴチャゴチャうるせぇーなぁ」

 

 動揺するキャットオルフェノクの叫びを、うるさいと一蹴しながら巧──否、ファイズは殴りかかった。

 

「オラッ! オラッ!」

「グッ、オォ……ウオォ!?」

 

 吉良にとっては、この世界に来て初めての戦闘。

 だが元より吉良吉影は、杜王町においても極力「争い」というものを避けてきた。

 そのため戦いに慣れていない──特に接近戦での殴り合いに──キャットオルフェノクは、喧嘩戦法のファイズにのっけから押されっぱなしだ。

 

『どうやら「平穏な人生」目指してたんでよォー……ちとハングリーさに欠けてるようだなあッ』

 

 因縁の相手に言われた言葉が、吉良の脳裏によみがえった。

 

 その間にもキャットオルフェノクはパンチの連打を受け、さらに両腕の防御の上から痛烈なキックを食らい、大きく吹っ飛ばされる。

 ファイズは余裕の態度で、追撃を加えんと倒れる怪人に迫った。

 

「なんだ、コイツ? オルフェノクにしちゃずいぶん弱いな」

「クッ……あまり舐めるなよ、小僧ッ!」

 

 接近してきたファイズの油断をついて、キャットオルフェノクの手が騎士の胸部装甲「フルメタルラング」に触れる。

 

 ドグォン!!

 

 突然起きた「爆発」によって、今度はファイズが吹き飛ばされた。

 

「どうだ、これが私の『能力』だ……!」

 

 よろよろと立ち上がりながら、キャットオルフェノクが言う。

 吉良吉影の以前の能力──スタンド「キラークイーン」には、触れたものを『爆弾』にして消し飛ばすという絶大な力があった。

 

 現在のオルフェノクとしての吉良の力は、キラークイーンより劣るものの、「触れた箇所を爆破できる」という点では共通のもの。

 さきほどはファイズの装甲の一部を爆破し、その衝撃で打撃を与えたという訳だ。

 

「巧! 大丈夫!?」

 

 真理は心配の声を上げる。

 横たわるファイズは胸から煙を出し、銀色のボディーアーマーには亀裂が走っていた。

 

「痛ってぇーな、この野郎!」

 

 装甲の状態に反して、スーツの下の巧の声は以前と変わらない調子だ。

 キャットオルフェノクはすぐさま二の矢を放とうとしたが、それより巧の反撃の方が早かった。

 

 ファイズは腰のベルトに挿してある携帯型のツールを取りはずすと、画面を横に折り曲げ吉良に向ける。

 拳銃型に変形させた「フォンブラスター」の光線が、キャットオルフェノクに炸裂する。

 焼けるような痛みで吉良は動きを止めた。

 さらにファイズはフォンブラスターを連射して、キャットオルフェノクの体から火花を散らせる。

 

「ぐあぁ!?」

 

 吉良の苦悶の声が怪人の口から漏れる。

 キャットオルフェノクの爆破能力は触れなければ発動しない。

 しかしファイズは飛び道具を持っている。これでは近づくのは不可能だ。

 

 全弾撃ち尽くし弾切れとなったファイズだったが、巧はすぐにフォンブラスターのボタンを操作し、エネルギーを再チャージした。

 そして再び銃口を怪人に向ける。

 

(マズい……マズいぞ……このままでは、私はまた)

 

 死ぬ。

 吉良の背に冷たい感覚が走った。

 せっかく故郷を捨ててまで逃げ延びたのに、新しい力まで得たのに、このままもう一度死ぬのか。

 

 目の前の仮面の騎士に対する恐怖と、同時に自分への仕打ちに対する怒りが沸き上がる。

 ファイズはゆっくりと引き金に指をかけた。

 

「この……クソカスがぁーッ!!」

 

 爆発した吉良の怒りは、オルフェノクとしての肉体に「新たな力」を与えた。

 腹部の筋肉がシャッターのように開き、中から『植物と猫を混ぜ合わせたようななにか』が顔をのぞかせる。

 

「なんだ?」

「……ッ!!」

 

 注意をひかれたファイズは引き金を引くのをためらう。

 その隙にキャットオルフェノクは、距離の離れた(・・・・・・)ファイズへと攻撃を行った。

 

「うわぁっ!?」

 

 ファイズの目の前、なにもないはずの空間が突如として「爆発」する。

 爆発はファイズの周囲でも起き、その威力にのまれた戦士は銃をとり落した。

 

「……これは、『猫草(ねこぐさ)』ッ! 『見えない爆弾』ッ!!」

 

 猫草とは杜王町で吉良が飼っていた、「スタンド使いと(おぼ)しき猫」が植物状に変化した謎の存在である。

 猫草の能力「ストレイキャット」は、『空気を操作する』こと。

 吉良は過去に、この猫草の能力と自らのスタンドを組み合わせ、『空気を爆弾化』するという手法を身に着けた。

 

 現在のキャットオルフェノクの力もこれに由来し、近距離の空気を爆破するという力を発現させたのだ。

 『空爆態』とでも呼ぶべき新たな進化を()げた吉良。

 遠くの敵に対する攻撃手段を得、さらに相手のファイズは銃を落とし吉良に対する反撃手段を失っている。

 絶好の好機だった。

 

「やはり『運』は、この吉良吉影に味方してくれるんだッ!」

 

 「見えない空気の爆弾」が、次々とファイズを襲う。

 濁流(だくりゅう)に飲まれるように、爆発の渦に揉まれるファイズは身動きが取れない。

 

 しかし超金属の装甲は容易には砕けず、ソルメタルの防護を突破するより先に吉良の体力の方が限界に来てしまった。

 

「クッ……オルフェノクの力はキラークイーンに及ばないのか」

 

 『触れれば即殺』という絶大な威力を持っていたスタンドと比べると、怪人としての今のパワーは大きく劣化しているのを否めない。

 さらにファイズから受けたダメージも酷いものだった。

 キャットオルフェノクはだんだんと、呼吸が乱れてくるのを感じていた。

 下手に戦いを引き延ばせば、またファイズに追い込まれてしまうだろう。

 

「ハァ、ハァ……ここは『引く』しかないようだな」

 

 ひときわ大きな爆発を起こし、ファイズの視界をふさぐ。

 敵の追跡を阻むと共に、キャットオルフェノクは跳躍。

 戦いの場となった路地裏から、さらに人目の付かない別の場所へと、吉良はまんまと逃げ去っていった。

 

「ふぅ……ここまで来れば、あの『仮面の男』も追ってこまい」

 

 陽の差さないどこかの廃墟の中で、キャットオルフェノクは変身を解き、吉良は人間の姿へと戻る。

 満身創痍で服は血で汚れていたが、それでも怪人としての耐久力が吉良を生かしていた。

 

「今日は災難な日だった。だが、どうにか生き延びたぞ。この吉良吉影、今まで乗り越えられなかったトラブルなど無いのだからな」

 

 人間としての姿を真理に知られてしまったが、きっとまた「スマートブレイン」の連中がどうにかしてくれるだろう。

 吉良吉影はすっかり油断していた。

 油断しきっていた。

 

 倉庫の中に、突如強烈な光が差し込み、吉良を強く照らした。

 光の発生源は、一台の「サイドカー」のライトだった。

 

 黒塗りのバイク──『サイドバッシャー』から降りた「鋭い目つきの男」は、吉良を見ながら腰にベルトを巻き付ける。

 それは、ファイズが身に着けていたのと非常に似通った、金属製のベルトだ。

 

「変身」

 

 男は静かに言った。

 男の体の表面を、黄色い二本のラインが覆い、その姿をもう一人(・・・・)の仮面の騎士──『カイザ』へと変える。

 

「な、バカな! さっきの! 『他にも』いたのかッ!?」

 

 カイザは腰のホルスターから銃型の武装──「ブレイガン」を抜き、「ソルグラス」で生成された刃「フォトンブレード」を展開した。

 ゆっくりと近づいてくるカイザに対し、吉良はその場から動けないでいた。

 ファイズとの戦いで力を使い果たしていたし、なによりカイザから放たれる異常なまでの「圧」が、吉良に不用意な行動をとることを(いまし)めていたのだ。

 

(ま、マズいぞ……目の前の男は『危険』だ……)

 

 連続殺人鬼である吉良吉影をして、異様とまで思わせる『カイザの男』。

 彼から放たれる強烈な「殺意」に、吉良は全身から冷や汗が出るのを止められなかった。

 

「ま、まってくれ! 私は見ての通り、ただの人間だ!」

「……お前、『オルフェノク』なんだよなぁ」

 

 カイザも当然のようにオルフェノクの存在を認知している。

 一般人を(よそお)い逃げるという賭けに出た吉良はしかし、その賭けに負けた。

 カイザはすでに吉良がオルフェノクだと知っている(・・・・・)のだ。

 

 無様だが、生き延びるためなら仕方ない。

 吉良は(おが)むように両手を差し出すと、命乞いに出た。

 

 もちろんこれからいう言葉は、その場しのぎの嘘であるのだが。

 

「わ、わかった! もう人間を殺さないと誓う! だから助けてくれ!」

「…………」

 

 カイザは無言で、ブレードモードのブレイガンを振るった。

 黄色に発光する刀身が、発せられた熱で吉良の『両手首』を切断する。

 

「うおぉぉああぁぁーッ!?」

 

 神経に直接焼けた石を押し当てられたような、筆舌に尽くしがたい強烈な痛みが吉良を襲う。

 『いともたやすく行われるえげつない行為』。

 それを成したカイザは、酷く冷たい声で言った。

 

「オルフェノクはみんな死ぬべきなんだよ」

 

 再び振るわれるブレイガン。

 フォトンブラッドの刃は次に、吉良の首と胴との繋がりを綺麗に断ち切った。

 

 超常の存在であるオルフェノクと言えど、首を切断されては生き延びるのは不可能である。

 生首は宙を舞い、地面に落ちるまでのわずかな間に、吉良は最期の思案にふけった。

 

(クソッ、ここまでか……。だが、私は『次』があることを知っている……)

 

 そう、吉良吉影は元の世界で一度死に、この世界で再び生を得た。

 ならばこの世界で死んだとしても、その次の復活が無いとは言えないではないか。

 

 だが一つだけ言えることがある。

 それは……吉良吉影は『天国』へだけは、決して行けないだろうということだ。

 

(だが、たとえ『そこ』がどこだろうと……次はもっと上手くやるさ)

 

 最悪の時にこそ『チャンス』というものは訪れる。

 吉良の持論だ。

 

 死という最悪の経験をしたからこそ、吉良には「新たな世界での目覚め」というチャンスが訪れると、今わの際でも信じていた。

 それが『吉良吉影』という人間なのだ。

 

 最低最悪の殺人鬼ではあるが、幸福になることを決して諦めない吉良なら……たとえそこが『地獄』だとしても、悪人なりの『希望』をもって存在し続けることだろう。




書き終わって、吉良を弱くし過ぎたなと思いましたが
ジョジョ本編でも仗助に戦い慣れてないことを指摘されていたし
たっくん草加とでは相性も悪いだろうな、と(言い訳)
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