ゼットさんによると、ガッツハイパーキーはいくつかあって、それとガッツスパークレンスと呼ばれる変身アイテムを使うことで、元の姿へと巨大化して怪獣と戦うのだとか。
しかし、変身する為に必要不可欠のガッツスパークレンスと、その他のガッツハイパーキーはハルキさんが持っているらしい。ゼットさんは『多分、きっと、持ってるはず』と顔を色んな方向へと泳がせていた。
でも、人探しなんてできっこない…………。
項垂れる。ライブハウスのゴミ箱の中で縮こまる。俯いて、真っ暗な世界へと入り込んで、大きく肺に沢山の酸素を取り込み──、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜」
大きく溜め息を吐いた。それはゴミ箱だけに留まらず、ライブハウスの中に蚕食していき、遠目から三人が見つめていた。
無表情で変わらない大人びた雰囲気の少女。
心配げな表情で見つめる金の髪色が目を引く少女。
肩の辺りまで苛烈な真紅の髪を伸ばした少女。
三人は遠くから一人でブツブツとぼっち節を呟き続ける後藤ひとり──ぼっちちゃんに向けて目を細めていた。
「あれは、どうしたんでしょうか……」
遠目にぼっちちゃんを見つめながら、赤髪が特徴的で顔立ちが可愛らしい少女──
「いつも通りのぼっち」
「うーん、いつものことのようだけど。今日は、なんだろうね〜」
冷静に答える山田リョウと、苦笑しながらひとりを見つめる
結局は考えても分からず、虹夏がゴミ箱へと歩み寄ってひとりを見下ろす。その表情は苦笑が大きく滲んでいたが、声色は優しくひとりを心配していた。
「ねー、ぼっちちゃん大丈夫?」
「あっ、は、はい……ちょっと落ち着きたくて……」
「まだバイト始まってないよ!?」
仕方がないといえば仕方がない。
ひとりは朝に起きた出来事を思い返して、この先どうするべきか悩みに悩んでいた。
ウルトラマンゼットと一体化した、と話すべきか。人探しをする為には、バンド仲間の力があれば楽になる。だが迷惑を掛けたくないとばかり思ってしまって、思考が更に深淵へと深く潜って行った。
「ほら、ぼっちちゃん出ておいで」
「ひとりちゃん、手を出して」
二人から手を差し伸べられて、ひとりはゆっくりとその手を取る。そのまま支えられるようにしてゴミ箱から出ると、虹夏と郁代が心配げな眼差しを向けた。
「ぼっちちゃん大丈夫?」
「あっ、は、はい……すいません」
立ち上がって、溜め息混じりに俯くひとりを心配した郁代が、首を傾げて顔を覗き込んだ。
「ひとりちゃん、なにか悩みごと? 私で良ければ相談に乗るわ」
「あっ、いや、そんな大したことじゃないんですけど……」
大したことではある。日本語が下手な宇宙人と人探しをしている──なんて普通では有り得ないことなのだから。もしそんなことを言ってしまえば、とうとうヤバい奴だと思われてバンドを辞めさせられるかもしれない。
「いーや、ぼっちちゃんはうちのバンドの大事なギターでもあるんだから、困ったことがあるなら遠慮なく言ってよ!」
「えー」
「そこ、嫌な顔しない」
リョウが嫌だと言わんばかりに声を漏らし、虹夏はすかさず叱責。そんな彼女たちの姿を見ていたひとりは、思わず笑みを浮かべてしまった。
(みんなになら、話せるかも……)
信じてはもらえないだろうけど、ウルトラマンゼットのことを伏せれば問題はない──思考を巡らせて、三人にどうやって伝えようか悩んでいた。
三人の和気あいあいとしたやり取りに、ふと笑みを浮かべた直後──、
『素晴らしい仲間でございますなあ!』
「──っ!?!?!?!?」
突然響いた声に驚き、ひとりは声にならない声を上げ、全員の視線がひとりへと向けられる。だが、ひとりにとってはそんなことよりも眼前で起こった事実に驚愕を隠し切れなかった──なにせ、そこにはウルトラマンゼットが平然と立っていたのだから。
ゼットは遠くで三人に視線を向けながら、腕を組んで感慨深く頷いていた。
「ぜ、ゼットさん、ど、どうして……?」
『ハッハッハ、心配することはない」
「あっ、え、それって……」
ゼットに言われた言葉の意味が理解できず、彼の姿を注意深く凝視する。そして珍奇なものでも見るような三人へ視線を移して、ゼットに戻した。
ゼットの身体は僅かに透けていて、ふくらはぎの辺りから下の足の部分は完全に消えている。まるで絵に描いたような幽霊の状態で、ゼットはそこにいた。
「ど、どうしたのぼっちちゃん」
「あっ、え、こ、これ見えてないんですか……?」
「え、どれ?」
ひとりが指を指したゼットのいる方向へと、三人が視線を向ける。だが、三人は首を傾げてそこにいるゼットが完全に見えていない様子だった。
(本当にみんなには見えてない……? こんなにハッキリと……)
ゼットを見つめる。
(いや、透けてた……で、でもこんなにちゃんと見えるのに……私にしか見えていない……)
見えていたら話をする必要もなかった──と声にできない恨み言と共にを叫んだ。
一人で虚しく目尻に涙を浮かべていると、リョウに肩を叩かれた。振り返れば、彼女はハンカチを目尻に当てて泣いている
「ぼっち、とうとうそこまで……」
(やっぱり見えてないんだ……)
ようやく理解したひとりは三人に向けて「すいません」と謝罪を告げて、ゼットを一瞥。ゼットはライブハウスをじっくりと眺めて『おー』と興味津々に色々なものを見つめていた。
不思議な感覚だった。
イマジナリーフレンドがイマジナリーでなくなっているような感覚。人探しはできる気がしないのは事実。ライブハウスにたまたま来てくれたりしないものだろうか。
(イマジナリーフレンドたちが探してくれれば楽なんだけどな……)
『──僕たちに任せてよ!』
ひょっこりと、イマジナリーフレンドの一人であるギターを模したお友達が顔を出す。ギタ男が笑顔で『任せろ』とそのマシュマロのような手で胸を叩いた直後に、辺りを眺めていたゼットが声を荒げた。
『──うおっ! なんだお前は!』
「え…………?」
ゼットはギタ男を見るなり、腰を落として構える。そして幽霊のように宙を漂いながらギタ男に向かって突進した。
(え、見えてるの……?)
ゼットはギタ男を捕まえようとするが、ギタ男は華麗な身のこなしで軽やかに避ける。だがゼットも負けじと粘ってギタ男に飛びかかっていた。
右に行って、左に行って、虹夏を飛び越えて、四方八方、縦横無尽に二人の戦いは続いていた。
『──お前は! いったい! どこから現れた!!』
(私のイマジナリーからです。あ、喜多さんの髪に隠れた)
『ちょこまかと……!』
ギタ男は郁代を飛び越えて行き、ゼットは身体をすり抜けて行く。終わりの見えない戦いの中、ゼットが肩を大きく上下させて疲労していた。
こうなったら、とゼットは癇癪を僅かに見せて手を自分の頭部に翳してから勢い良く突き出す。
『──ゼットスラッガーッ!』
ゼットの頭部からブーメラン状の蒼い光が伸びる。それは高速で回転しながら飛んで行き、ギタ男を真っ二つに切り裂いた。そのままギタ男は空気に溶けるようにして消え、ゼットは安堵の息をついていた。
(わ、私の、イマジナリーフレンドが……)
散っていったイマジナリーフレンドの空想を見つめて、肩を落とすひとり。ゼットは敵を倒したことによる安堵感と、意味不明な見た目であったことに首を傾げていた。
数少ないイマジナリーフレンドが消えてしまい、意気消沈しかけた時、どこからともなくひょっこりとギタ男が顔を覗かせてひとりの前に現れた。
『──お前っ! 倒したはずじゃ!?』
『僕はひとりちゃんがいれば死なないよ』
(なんか、ラスボスみたいなこと言ってる……)
またまたウルトラマンゼットとイマジナリーフレンドギタ男の戦いが始まった。
今度はゼットのゼットスラッガーも軽やかに躱し始め、ゼットは一生懸命に追いかけ続けていた。
(でも、どうしてゼットさんはイマジナリーフレンドが見えてるんだろう……)
いくら考えても分からない。そう思いたくないから、考えないようにしていたが、イマジナリーフレンドは結局は空想上のお友達。自分にしか見えていない架空の存在。それがゼットにも見えていること自体おかしかった。
「ねえねえぼっちちゃん」
「あっ、は、はい」
遠くで熾烈な戦闘を繰り広げるゼットとギタ男を他所に、ふと虹夏がひとりの肩を叩いて呼んだ。
「別に急かす訳じゃないんだけど、歌詞ってどれぐらいまで書けたの?」
「えっと、すいません、全然書けてないです……」
すっかり忘れていた。
文化祭でのライブが終わり、次のライブに向けて新しい曲を作ろうと言われて意気込んでいたのは良かったが、そんなポンポンと噴水のように歌詞が出る訳でもなく、更にはウルトラマンゼットとのひと悶着ですっかり記憶から抜け落ちていた。
このままではバンドをクビになる。そう思った瞬間に、ひとりは虹夏に土下座をしていた。
「あぁあぁあぼっちちゃん! 別に怒ってる訳じゃないから! どんな歌詞を書いてるのか気になっただけだから、頭上げて!」
恐る恐る顔を上げて、虹夏と郁代がひとりの身体を持ち上げる。そして四人はようやく結束して、バイトが始まった。まず最初はライブハウスの掃除。
着々と掃除をしていく中で、ひとりはゼットや人探し、そして作詞、あまりにもやるべきことが多過ぎる。考えるだけでも頭がパンクしてしまいそうで、ひとりは大きく溜め息をついた。
「ねえ、ひとりちゃん?」
「あっ、はい」
「さっきから溜め息ばかりしてるけど、なにか困ってるの? 私にできることならなんでも言って?」
優しさのキターン。
郁代が心配げな眼差しで見つめる。優しく美しい翡翠の瞳が、僅かな他の色を滲ませていて、そこにはキターンを直視できないひとりの姿が映っていた。
話すべきか否か、ひとりは目を泳がせて、郁代からも視線を逸らしてから俯く。ウルトラマンゼット、宇宙人、ウルトラの星、ガッツハイパーキー、なにから話すべきなのか──いや、余計なことは話さなければいい。
「あっ、あの、頼みたいことがあって……」
「うん、いいよ」
「あ、ありがとう、ございます……」
「それで、頼みたいことって?」
「人探しをしたいんです」
ひとりの言葉を聞いて、郁代は「人探し?」と思わず復唱してしまう。そんな郁代に向け、ひとりはウルトラマンゼットやガッツハイパーキーのことは隠して人探しをしていることを話した。
「それじゃあひとりちゃんは、そのハルキさんって人を探してるの?」
「あっ、はい……」
「でも、特徴とかは分からないんでしょ?」
「えっと、それは……」
ゼットに視線を向ける。彼はギタ男を肩に乗せて、ぼんやりとひとりを見つめ、首を傾げた。
ハルキという人物の特徴はゼット自身が分かる。こうして姿も見えて、こっちの状況も分かるならば、自分自身がやたらめったらに聞いて回る必要もない。
「ある程度なら、分かります……」
「そっか。それじゃあ分かったわ。私も、そのハルキさんって方を探すのを手伝うわ」
「喜多さん……」
向けられた郁代の表情は、どこまでも優しく、温かいものだった。どれだけこの笑顔に救われたか。陰キャには眩しいほどの目を焦がす輝きが、本当に温かくて心地が良い。その笑顔が誰かを裏切ったことはなく、いつだって頼りになる。だからこそ、郁代の周りには人がいて、キターンとしていた。
「ところでひとりちゃん、そのハルキさんはどんな格好をしているの?」
「え、それは……」
(そうだった。喜多さんにハルキさんの風貌を伝えなければ、探しようがない……)
えーっと、考えるフリをしてゼットに視線を送る。だがゼットは軽く手を振るだけで、こちらの意図を理解していなかった。なぜイマジナリーフレンドと仲良くなっているのか気になるが、いまはそれどころじゃない。
「喜多さんちょっとすいません」
そう言って席を立つ。そそくさとゼットのもとまで歩み寄り、郁代に聞こえない声で問い掛けた。
「あっ、あの、ハルキさんってどういう方なんですか?」
『そうだなあ。真っ直ぐで、ウルトラ熱い男だ!』
「いや、そういうことじゃなくて、どういう見た目なのか聞きたくて……」
ゼットは腕を組む。うーん、と十分なほどに悩んで手を叩いた。
『地球の言葉でなんて言うのか分からないな』
「え、それじゃ分からないですよ……」
『ストレイジの服を着ているのは確かなんだが』
(また新しい名前がでてきた……)
次から次へと新しい単語が出る所為で、もはやすでに訳が分からなくなっている。
「他にはないんですか……?」
『ないな』
「ないんですか……」
『そうだな』
この会話で理解した。
やはり、神秘的な雰囲気で悠然としているように見えるが、ウルトラマンゼットはかなりポンコツなのかもしれない。
「それじゃあ探しようがないのでは……」
『え、マジで?』
「は、はい……」
『それは、参りましたな……』
ゼットを見つめ、意気消沈しかけるひとりと、彼女を心配するお二方。当然ながら結束バンドのメンバーを含めて、他の人間にウルトラマンゼットの姿は見えない。それでは、いま他のメンバーからはどう見えているのかと言うと────、
「ぼっちちゃん、また壁に向かって話してるね〜」
「もしかしたらぼっちには霊媒師的な特別な力が」
「なにそれ、こわっ」
当然ながら、ウルトラマンゼットの存在は見えていない。周りからして見れば、想像上の誰かと喋っているようにしか見えない。リョウ、虹夏、郁代、三人にとってひとりの謎行動は日常茶飯事。いつものことだろうと思っていたが、今回はマジである。
「ひとりちゃん、そこに誰かいるの?」
「あっ、き、喜多さん……いや、ちょっと独り言を……」
「そうなの? ところで、そのハルキさんがどこにいるのかとかは、検討はついてるの?」
郁代からの問い掛けに困惑して、ひとりはゼットに視線を送る。すると彼は腕を組んで首を振った。
「あっ、えっと、分からない……です」
「そっか……」
答えて、郁代は明らかに困った様子を見せる。その表情も困惑の色が強く滲み、ひとりはたじろいだ。
困らせた。
自分ですら理解できていないのに、他者が理解できるはずがない。きっと郁代すらも呆れてしまっているのでは、とひとりは顔を伏せた。
その瞬間、郁代はひとりの手を取った。
「それなら頑張って探さないとね!」
(うわっ!! 尋常じゃないほどのオーラがっ!)
郁代から放たれた極光から目を背ける。直視してしまえば目を焼かれてしまうのではないかというキターンから、ひとりは目を覆った。
「そのハルキさんって方を知らないか、私の友達にも聞いてみるわね」
「あっ、ありがとうございます」
郁代は優しく、社交的で、明るい。ひとりが描いていた陽キャそのもののようで。誰からも好かれるその性格が、まるで星座のように美しく輝いていた。
その真っ直ぐな優しさに、いったいどれだけ救われて来たか──彼女の笑顔を見て、思わずひとりも笑ってしまった。
「ちょっとー? 二人でなにを話してるの?」
「お金儲け?」
郁代とひとりのやり取りを見ていた虹夏たちが側に歩み寄る。そして郁代が、ハルキと言う名の男性を、ひとりが探していることを簡潔に説明した。
「そっかぁ、ぼっちちゃんにもとうとうそんな人が現れたかあ」
「あっ、いや、そういうことじゃ……」
「あははっ、ごめんごめん」
冗談混じりの言葉に笑って、虹夏は持っていたモップを立てて体重を僅かに預ける。郁代から告げられた言葉を思い返しながら、虹夏も首を傾げた。
「じゃあ、どうしてぼっちはその人を探してるの?」
「それは……」
リョウの問い掛けにひとりは目を伏せる。大人の男性を探している、ということはなにかしら理由がある。恋人、父親、生き別れの兄、その他諸々。だが、ひとりの場合は見たことすらない男性を探していた。
情報も曖昧なもので、なぜその人を探しているのかリョウの言葉で、全員がひとりに視線を向けた。
突然向けられた視線にひとりはたじろいだ。
どうして探しているのか、リョウの疑問は分かる。なぜ探す必要があるのか、どんな関係なのか、知らなければ探せないこともある。ひとりは脳内にあるタンスの引き出しから、なにかないのか、欺瞞でも構わないから見つけ出そうとしていた。
「まあでも、ぼっちが話したくないならそれでいい」
「そうだね、なにか事情があるんだろうし」
「ですね、詮索し過ぎるのもよくないですから」
三人は笑顔を浮かべてそう言った。
どれだけ優しいのだろうか。
なぜここまで優しいのだろうか。
本当に優しくて、本当にいい人達だった。
郁代や虹夏だけではない。リョウも感情が表情に表れにくいだけで、とても前を向く優しい人間である。この場にはひとりを軽蔑するような人間はいない。だからこそ、裏切るようなマネをしてはならない。
「あっ、あの……っ」
ひとりの声が三人の意識を向けた。
全てを言っても、決して信じてはもらえない。だが、ここまで優しくしてくれている人たちを裏切りたくない。そんな感情に駆られて、ひとりはポケットからガッツハイパーキーを出して机に置いた。
「なにこれ?」
「おもちゃ?」
「綺麗な色ですね」
水色を基調としたデザイン。中心に描かれているウルトラマンゼットは、光に当てると反射してキラキラと煌めいている。不思議なものを見せられた三人は首を傾げていた。
宇宙人のことはあくまでも隠し、ひとりはようやく覚悟を決めて切り出した。
「こ、これはハルキさんのものなんです。これが無くて、きっと困っているから、返してあげたいんです」
ガッツハイパーキーはもとよりゼットやハルキのもの。いまはゼットが持っているが、ハルキはこれがなければゼットに会うことすらできない。ウルトラマンゼットに会わせたいというのではなく、ガッツハイパーキーを返す名目で探してもらえれば、それほど関係性を語る必要もない。
「なんでしょうねこれ」
「秘密のもの。売ればかなりの大金に」
「売らない売らない」
虹夏はハイパーキーを手に取って、郁代と並んで観察する。数秒ほど眺めてから、ひとりに渡して「よし」と頷いた。
「ぼっちちゃんの為にも、私たちも手伝うよ」
「はい!」
「…………」
「こらそこ、明らかに面倒そうな顔しない」
リョウの表情を見て、虹夏は指を指した。
郁代と虹夏はやる気を見せてくれているが、リョウは面倒そうな色を滲ませていた。だがそれでも、彼女はやってくれる時はやってくれる人である。この三人がバンドの仲間でよかったと、心から感じていた。
虹夏が拳を握って、合わせて郁代も握った。
「それじゃあ、そのハルキさんって人を頑張って探してみよう!」
「おー!」
「お、おー……」
虹夏と郁代が息を合わせて拳を天井に突き出す。それに遅れてひとりとリョウも突き出した。その直後に、どこからか現れた店長の星歌が虹夏の頭を叩いた。
「仕事しろ」
「なんで私だけ!?」
「やらなきゃお前らもこうなるって見せしめ」
鋭い眼差しがひとりや郁代たちに向けられる。貫く眼光を受けた郁代とひとりは「はいっ!」と、今日一番の声を出して返事──すぐに各々の仕事をやり始めた。
これから、バンド活動にバイト、学校もこなしながらの人探しが始まる。今までのやり取りをギタ男と共に仲良く聞いていたゼットは両手で拳を握って感激の声を漏らしていた。
『最高の仲間たち!! ひとりにも、こんなウルトラ凄い仲間がいたんだなっ!!』
興奮しているゼットを無視して、ひとりは先が怖いあまりに溜め息を漏らしていた。