ゼット「朝はあるんでございますか!?」
「最近ぼっちちゃんの様子おかしくない?」
そう切り出した虹夏の言葉に、自主的に練習を施していた郁代とリョウが顔を上げた。
おかしい──その言葉には思い当たる節が幾つもある。だがそれは、毎度毎日のことで結束バンドのメンバーは感覚が麻痺して、ひとりの奇行をおかしくないと思ってしまっていたが、今回はまた別。
「確かに、言われてみればそうですね……」
「よく一人で喋ってる」
虹夏の言葉を受けて、郁代は顎に手を置く。リョウは特に気にしていない様子だったが、ひとりの行動がどこかおかしいことには薄々気が付いていた。
ひとりの奇行は数知れず。だが最近のひとりの行動はどこか様子がおかしかった。
自分の世界に入ることは元々多かったが、最近は席を外して壁やなにもない空間に向かってよく話している。それもまるで誰かと会話しているようで。ぼっち節でもなければ、架空の友達と話している様子でもない。
更には、バイトや自主練習の後、直ぐに帰宅している。遊びなどに誘っても、用事があるからと言って断り続けている。
「また、夏休みみたいなアレでしょうか……?」
「いやでも、遊びに誘っても来ないんだよね」
夏休みでは、結束バンドのメンバーと遊ぶことができず、情緒が不安定に陥っていた。だが今回に関しては、明らかに様子が違う。それもひとりが『ハルキ』と呼ばれている男性の話をしてからだった。
「なにか隠してる感じ」
「やっぱりリョウもそう思う?」
ベースに触れていた手を止めて、リョウは頷く。結束バンドのバイト先でもある『STARRY』で一足早く集まった三人は椅子に座って唸った。
なにか困っているなら助けてあげたい──そんなことを馳せながら、虹夏はぼんやりと目の前のドラムを眺める。助けたいからと言っても、聞いてはならない事の可能性もあった。
例えば、男性には訪れない女性にのみ来る現象。
「私もあった。でも虹夏が無理やり……言わないならベースを取り上げるって……」
リョウはハンカチを目尻に当てて、涙を拭う素振りを見せる。郁代が心配げな眼差しを向けるが、虹夏は軽蔑に似た色を強く滲ませていた。
「私はそんな鬼じゃない。やっても
「鬼」
「あんたが仕掛けたんじゃい」
突っ込みを入れて、虹夏は顎に手を置く。結束バンドのリーダーとして、大切な仲間であるひとりがなにか困っているのなら手を差し伸べたいと感じていた。
「まあ今日は様子を見て、やっぱりおかしかったら声をかけてみよう」
「そうですね」
◆◆◆◆
「やっぱりおかしいよね」
「うん」
「はい」
三人は虹夏のもとで肩を並べて、自主練習をするひとりを見つめる。ギターを弾きながら時折、ひとりは壁の方へと視線を向けてなにか話している──ただの独り言ではなく、質問に答えるような声で。
自分の世界に入っているのではかと思ったが、呼び掛けには直ぐに応答していた。
「ぼっちちゃん!」
「あっ、はいっ!」
急な虹夏の呼び掛けに、ひとりは身体をビクッと震わせながら顔を上げる。虹夏が真剣な表情で立ち上がり、ひとりのもとまで歩み寄って行く。その間ひとりは、なぜ虹夏が真剣な面持ちで歩み寄って来るのか恐怖で仕方がなかった。
(えっ、なんで? 私なにか虹夏ちゃんを怒らせるようなことした? ゼットさんと話してたから? まずいまずい、バンドクビにされる……!)
そう思った瞬間、身体が凍えたように小刻みに震え始める。思考が恐怖で蚕食していき、冷や汗が吹き出すように溢れる。ピックを握る手がまともに落ち着かず、床にピックが転がり落ちた。
「ぼっちちゃん、ちょっと姿勢を正して」
「あっ、はいっ!」
椅子を持ってきた虹夏が、ひとりの前に腰を下ろす。虹夏の一動作に身体を震わせながら、思考を巡らせて謝罪の言葉を考える。だが、思い当たる節があるようでないように感じてしまって、もはやなにも分からなかった。
「ぼっちちゃんって猫背なだけで、ちゃんと背筋伸ばすとかなり大きいよね」
「えっ、あっ、はい……?」
突拍子もない発言に、ひとりは間の抜けた声を漏らす。それに対して虹夏は「あのね」と話を切出して、ひとりの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「もし悩んでるならなんでも言って。歌詞のことで悩んでるなら、私たちも手伝うから」
「あっ、ありがとうございます……」
感謝を告げてから、ひとりは首を振った。
「で、でも、たぶん大丈夫です」
ひとりは自信なさげな雰囲気ではあったが、柔らかく笑みを浮かべた。
ウソをついているようには見えない。表情や、声音にウソの色が滲んでいるようにも感じられず、虹夏は「そっか」と笑った。
「なにかあったら遠慮なく言ってね」
「あっ、はい。ありがとうございます」
そして自主練が滞りなく進んでいき、ひとりは壁を見上げてからなにかをポツリと呟き、帰り支度を始める。どこか忙しなくギターを片付けて、扉の前で深々と頭を下げた。
「あのっ、すいません、お先失礼します」
「うん、お疲れ〜」
「じゃあねひとりちゃん」
また明日、といつものようにそう言ってひとりは踵を返してSTARRYを足早に出て行く。その背中を見送っていた三人は、ぼんやりと今日のひとりの行動を思い返していた。
独り言の多さ。時折ギターの演奏を見せるような仕草。明らかに三人には見えないなにかを見て、動き、話している。ひとりのイマジナリーフレンドの可能性はあるが、やはりどこかおかしい。
「ぼっち、これ忘れてる」
考えを巡らせていると、リョウがひとりの座っていた椅子に落ちていた物を拾った。
「あ、これ、ひとりちゃんがハルキさんに返したいって言ってた玩具ですね」
リョウの手にはガッツハイパーキーがあった。覗くようにして郁代はそれを眺め、手に取って見る。プラスチックのような質感でそれほど重くはない。全体的に水色で彩られていて、正面には不思議な見た目の人らしき形のなにかが、腕を十字に組んでいた。
「これはなんなんだろうね」
「これが無いと困るって言ってましたけど……」
「どう見ても玩具だよね」
三人はぼんやりと眺めて唸る。どう見ても玩具のようだが、この辺りでは見たことがない。疑問に感じるのは、その玩具がなぜそこまで大事なのかということ。
ひとりはどうしても返したいと発言していた為に、大事な物であるのは確か。だがなぜそれほどまでに貴重な物なのかは分からなかった。
「もしかしたら超貴重なお宝かも」
「売ろうとしない。他人の大事な物を売ったらバチが当たるよ」
「おばあちゃん」
「怒るよ」
「ごめんなさい」
それにしても、と虹夏はガッツハイパーキーを郁代から受け取って眺める。呻りながら、ハイパーキーをくるくると回してみて側面にスイッチのようなものがあるのに気が付いた。
僅かな好奇心からスイッチを指で押した瞬間──、
不思議な音と共にネイティブな発音が響き渡った。
「おお、音が鳴った」
「びっくりしました……」
僅かに驚きながら、虹夏はハイパーキーを手のひらの上で見下ろした。
「やっぱり玩具ですよね」
「そう見えるよね……」
「ちょっと貸して」
リョウにハイパーキーを渡す。リョウはそれを眺めて、振り、耳元でスイッチを押し込んだ。
瞬間、不思議な音と共に眩い輝きがライブハウスを照らす。光の線が〝Z〟と形を作り、それが広がって四角へと変化。そのあり得べからざる出来事に三人は驚愕で言葉を失っていた。
「あー、なにこれ」
「光の、扉……?」
端的に言うなればそれだった。
眩いほどの光の集合体。それらは扉のように薄く、縦長い形を形成して、なにもない空間に立っていた。
困惑して、三人は顔を見合わせる。光の扉に視線を向けて、ゆっくりと歩み寄る。扉の前に立って、三人は上から下へと視線を巡らせてから離れた。
「ちょっとリョウ、見て来て」
「なんで私?」
「もしかしたら中にかっこいいベースがあるかもよ?」
「そんなので騙されない。虹夏が行ってきて」
「イヤだ」
行って。
イヤだ。
そっちが行って。
いやそっちが行って。
行け。イヤだ。行け。イヤだ。
そんなやり取りが続いて、見ていられなかった郁代が虹夏とリョウの間に宥めながら割って入った。
「それじゃあみんなで行きましょう」
「先に行って」
「リョウ先輩の頼みなら!」
「こーら、三人で行くんでしょ?」
虹夏は面倒そうな表情を浮かべるリョウと、リョウの為に先に入ろうとする郁代の手を引いて光の扉の前に立った。だがいざ扉の前に立つと、それは人一人が入れる大きさでしかなく、虹夏がリョウと郁代を見つめてから固唾を飲んだ。
「わ、私が中を覗いてみるよ」
「気を付けて下さい伊地知先輩」
「骨だけ集めとく」
「よろしく」
それだけを告げて、虹夏は厭な冷や汗を拭いながら正面の扉を見据える。手を伸ばして、光の中にゆっくりとその歩みを進めていった。
顔を背け、腕は光の中に抵抗されることなく吸い込まれるように入る。そして虹夏の視界は真っ白の輝きに包まれて謎の空間に入り込む。徐々に瞳を開いた視線の先に、不思議な人が立っていた。
青と黒を大々的に刻まれた身体のデザイン。人と同じ形ではあるが、それは明らかに人ではない生物。その人らしき形のなにかはギターを持って手元を真剣に見つめていた。
『ハハハ、結構簡単じゃないか』
その謎の人物は、不器用にギターの弦を弾く。下手なリズムで、なにかぶつぶつと呟きながら、ギターを弾いていた。手元に集中している所為か、虹夏の存在には気が付かず、真剣に演奏しようとしていた。だが、気配に気が付いたその人物がふと虹夏を見つめ、ギターに視線を戻し、虹夏を見て、もう一度ギターを見下ろしてから虹夏を見た。
『あ』
「あ」
虹夏は謎の人物に対して目を眇めてから、踵を返して入ってきた光の扉から出た。
「伊地知先輩、大丈夫でしたか?」
「うーん、なんともないんだけど……」
歯切り悪く言葉を詰まらせた虹夏に対して、郁代とリョウは首を傾げる。虹夏は顎に手を置いて、首を傾げてから顔を上げ、口を開いた。
「なんか、不思議な人……? いや、人じゃないのかな……コスプレをした人、みたいな人が……ギター弾いてた」
「なにそれ」
「私もわかんない」
「なんか気になるから次は私が」
リョウは手を挙げて、光の扉の前に立った。
見たことのない現象に戸惑いながらも、ゆっくりと確実に歩みを進めていき、光の中へとその姿を消していった。
広がる不思議な空間。無数の光が反射して、跳ね返り、遠くで瞬く目の痛くなるような空間。辺りを見渡してから、正面に視線を戻すと、そこには人の形をした何かがリョウの前に立っていた。
ギターを肩に掛けた不思議なコスプレの人物。宝石の如き瞳がリョウを見つめて──、
『ナイスチュー、ミーチュー』
「…………」
アメリカ式挨拶。慣れない言葉と覚束ない発音。リョウは返事をせず、表情を変えることなく後ろ足で入ってきた光の扉を潜った。
「リョウ先輩、どうでしたか……?」
「なんかいた」
「なんか……?」
首を傾げる郁代に「うん」と頷いて光の中で見た人物の特徴を話すと、虹夏が「そう!その人!」と指を指した。
「英語で挨拶された」
「英語、ですか……?」
「ナイスチューミーチューって、ギター持ちながら」
郁代と虹夏の眉間に皺が寄った。
「外国の方、なんですか?」
「いや、あれは人じゃない」
リョウの言葉が返って来る度に郁代の頭にはクエスチョンマークが漸増する。いくら思考を巡らせても、想像がつかず、郁代は困惑が増えるばかりだった。
郁代は不安ばかりを募らせ、光を見据えた先で固唾を飲む。覚悟が決まった郁代が真っ直ぐ見つめて歩み出した。
「喜多ちゃん気を付けて」
「は、はい!」
虹夏の注意を背に受けて、郁代は光を潜った。
世界が変わる。この世のどこにも見たことのない空間。すべてが空想ではない現実で、眼前に広がっている空間を理解できなかった。しかし無限に広がるような空間は、光が無数に煌めいていて綺麗に感じられた。
『ニーハオ』
「…………え……?」
突然聞こえた声。直ぐにそっちへ視線を向けると、そこには見たことにない珍奇な格好をした人が立っていた。
目を見開いて、戸惑い続ける思考を落ち着かせながら目の前の人物を観察。かなりガタイがよく、背は郁代が僅かに見上げるほど大きく、人の形こそしていたが、明らかに別のなにか。それの正体がまるで分らなかったが、その見た目がハイパーキーに描かれていた人物と同じであることに気が付いた。
黙って見つめていると、目の前の人物はギターを握ったまま首を微かに傾げた。
『言葉が違う? じゃあ、シェイシェイ?』
「えっと…………」
どう返すべきか分からなくなり、郁代は踵を返して直ぐにその空間を飛び出た。
慌てて出て来た郁代は勢い余ってリョウの胸に飛び込み、彼女を見上げながら光の扉へと指を指した。
「──なんですかあれ!?」
「郁代も挨拶された?」
「ニーハオとかシェイシェイって言われましたよ!?」
「シェイシェイって、挨拶じゃないし」
思わず吹き出してしまったリョウは、怖がる郁代を見下ろして新鮮味を感じていた。
リョウが怖がる郁代の背中に手を回しながら、虹夏と視線を混じり合わせた。
「リョウ、どうする?」
「お祓いでも頼む?」
「いや絶対無理でしょ」
どう対処すべきか悩み果てていた時、勢い良くSTARRYの扉が弾けんばかりに開かれてひとりが飛び込んで来た。顔を真っ青にし、肩で息を整えながら階段を転げ落ちるようにして虹夏たちの前に立った。
「あっ、あのって──あ゛ぁ゛っ!!」
顔を上げて、目の前にインナースペースへと繋がる光の扉が開いていることに気が付いた。
声を荒げてから郁代、虹夏、リョウの順で視線を送る。三度見、四度見、そして更に五度見からの六度見。どう説明するべきか慌てふためいて、ひとりは身体を震わせた。
「ぼっちちゃん、こ、これ、なに……?」
困惑した様子で虹夏が問い掛けると、ひとりは更に声を震わせて戸惑った。
(な、なんて言えば……? 正直に宇宙人ですって? いやでもそれを言ったら更に困惑させちゃうし、なによりまたヤバイ奴だって思われる……!)
困惑の色を更に表情に滲ませて、声に出せない言葉を喉の奥に留まらせる。辺りに視線を巡らせ、目を泳ぎ回らせて思考が段々と追い付かなくなってきていた。
困りに困り果てていると、光の奥からゼットの声が響き渡った。
『ひとりひとり』
「あっ、ゼットさん」
『この際、こっちに入ってもらっちゃいなさい』
「あっ、はい」
どこからか響き渡った声に促されて、ひとりは「どうぞ」と言いながら光の方へと導く。案内されるようにして、三人は戸惑いながらも今さっき出て来た光の空間へと歩んだ。
「狭いところですけど……」
最後にひとりの言葉が告げられて、四人はインナースペースへと潜った。
目を覆うほどの光に包まれて、三人は五分と経たずにインナースペースに再訪。気が付いた時には眩い光が乱反射する世界に立っていた。
「ひとりちゃん、ここは一体どこなの?」
「ぼっちちゃん?」
振り返った先にひとりの姿はなく、正面を向き直したそこに謎の人物とひとりが並んで立っていた。
『ハローエブリワン。私はウルトラマンゼット』
「うるとら……?」
「ぜっと……?」
突然の出来事に三人は困惑を隠し切れなかった。
ひとりとウルトラマンゼット。二人の関係もそうだったが、なによりウルトラマンゼットの正体やその謎に困惑が増え続けていた。
『俺は地球から三百万光年離れた星──M78星雲の光の国からやってきたウルトラマンだ』
「え、え、え、え、ちょっと待ってちょっと待って」
これからなにかを語ろうとしていたゼットの言葉を遮って、虹夏はひとりの前に立った。
「ぼっちちゃん、これはどういうことなの?」
「あっ、えっと、私は今ゼットさんと一緒にいた『ハルキさん』を探しているんです」
ひとりの返事に虹夏は頭を抑える。リョウは無表情のままではあったが、郁代も眉間にシワを寄せて困惑している様子だった。
「地球から離れたってことは、この人……は宇宙人っていうことなの……?」
「あっ、そうです」
「どこでこの宇宙人……ゼット、さん? とは知り合ったの?」
「そ、それはゼットさんが危険な状態で、私と一体化しなくちゃダメだったらしいです」
次から次へと問い掛けられる質問に、ひとりは戸惑いながらも答えていく。時折ゼットが説明に補足を入れて、ある程度の質問攻めが終わると虹夏は「あああ!」と声を荒げた。
「つまりは、ゼットさんは他の星から来た宇宙人で、地球に来た時ハルキさんと別れちゃったから、探す為にぼっちちゃんと一体化して今って訳だよね?」
「あっ、そ、そうです……」
『ウルトラ勘が良いな』
虹夏の理解能力に驚くしかなかった。
簡潔に纏められた説明にひとりとゼットは頷く。それに対して三人は頭を抱えて、やはり困惑するしかない。だが目の前で起こっている事実は、空想でも幻想でもない。本物で、現実の出来事。
「もう、訳分かんないよ」
「まさか宇宙人が本当にいるなんて……ひとりちゃん、この人は本当に、その……」
怯えるような仕草を見せる郁代に、ひとりは「大丈夫です」と珍しく言い切った。なにか戸惑う様子を見せる訳でもなく、平然と、自然にそう答えた。
「ゼットさんは、良い人です」
「…………」
その返事を聞いて、郁代は笑った。
「ひとりちゃんが言うならそうなんだよね。ハッキリ言うと、まだ分からないことはあるけど、私はひとりちゃんのことを信じてるから」
爽やかな優しさが、オーラとして見えるほどにハッキリと映る。郁代の優しさはどこまでも底が知れない。ひとりは郁代の笑顔を見て「ありがとうございます」と頭を下げ、ゼットも並んで感謝を告げた。
「まあ、実際にそのゼットさんがいるわけだし、信じるしかないよね……リョウは?」
虹夏は無理やり納得の意思を見せて、リョウに視線を向けた。
「私は始めからぼっちを信じてた」
「さすが先輩!!」
はいはい、と呆れた様子でリョウに引っ付く郁代を剥がして虹夏はゼットの前に立った。
「わ、私、伊地知虹夏です。結束バンドのドラムやってます」
「私は喜多郁代です。ギターとボーカルやってます。これからよろしくお願いします」
「山田リョウです。結束バンドの柱です」
自己紹介を受けて、ゼットは礼儀良く姿勢を正して頭を下げた。
『これはご丁寧に。俺はM78星雲光の国、宇宙警備隊所属のウルトラマンゼットです。ウルトラマンゼロ師匠の弟子やらせてもらってます!!』
腹の底から声を出したゼットは、自分の所属などを語り、結束バンドとの自己紹介を一通り終えた。そしてとあることをふと疑問に思った郁代がゼットの肩に掛けられたギターを指指した。
「思ったんですけど、どうしてゼットさんはギターを持っているんですか?」
郁代の疑問に、虹夏とリョウも「確かに」と気が付いた。
宇宙人が地球のギターを持っている。それだけでもかなり不思議なことでもある。だがそれに加えて、虹夏たちが訪れた際はギターを熱心に弾いていて、よく見ればそのギターはひとりが代替機として購入したギターだった。
『ああこれは、俺がひとりに頼んでビターを教えてもらってるんだ。これが弾けるようになれば、きっと一人前の戦士として一歩前進できるはずなんだ!』
「ビター……?」
ゼットの言葉に郁代は思わず復唱して首を傾げた。
慌ててひとりが郁代に駆け寄り、耳元で囁いた。
「多分ギターのことを言ってるんだと思います」
「そうなの? どうして言ってあげないの?」
「いや、それは、もし言って傷ついたらと思うと、中々言えなくて……」
否、真実はただなんて言って間違いを正せばいいのか分からないだけである。そんなこと言えるはずもなく、ひとりは平然とウソを重ねてしまった。それに対して、郁代は手を叩いて笑顔を浮かべた。
「ひとりちゃんは優しいのね!!」
郁代のポジティブ思考には助けられることが多い。だがその分、自分自身の心に罪悪感が募っていく。ひとりはまた一つ罪を重ねて、頭を抱えてしまった。
しかし、そんなこと知る由もない虹夏とリョウはゼットの横に並んで──、
「ゼットさん、それビターじゃなくてギターなんですよ?」
『えっ、そうなのか!?』
「そう、ビターだと『苦い』って意味になる」
ゼットは『なるほど!』と頷いて納得していた。
平然と間違いを正してしまった二人の姿に、ひとりはポカンと口を開けて固まってしまった。
(私が何日も考えても思いつかなくて、いざやろうと思っても怖くてできなかったのに……)
二人は特に悩む様子もなかった。それは郁代もまた同じ。
ゼットの方を見ると、彼はもうすでに三人と楽し気に会話をしていて、いつの間にかひとりはインナースペースでぼっちになってしまっていた。ぼんやりと四人の姿を眺める。入り難い雰囲気にこそなっていたが、ひとりは不思議と笑みを浮かべていた。
(もう隠さなくても大丈夫になった……良かった……)
大切な人たちに隠し事をするのは辛い。だが、これからはもう隠し事をする必要がなくなって、心なしか引っかかっていた重りが外れたような感覚だった。
安堵の息を漏らすと、振り返った郁代がひとりの手を取って柔らかに笑った。
「ひとりちゃん、ゼットさんとの出来事を私たちに教えて?」
向けられた笑顔にひとりは、今までよりも力強く頷いて答えた。
「はいっ!!」
ひとりのウルトラナビとか、やりますか。
今後の更新などは、変な呟きと共に私のツイッターアカウント@hokattya258でお知らせしていますので、ぜひ興味があれば。
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