【完結】ぼっち・ざ・ぜっと!   作:渚 龍騎

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では、最終回(仮)
無理やり感&展開が早めなのでご了承下さい。


7 地球という名の〝小さな海〟

 

 

 

 ライブをする為には、まず『STARRY』の店長でもある虹夏の姉──伊地知 聖歌の許可が必要になる。それから審査を通り、聖歌が認めてようやくライブへの出演が可能となる。それでいて、今回は新曲を披露する為、ひとりの作詞とリョウの作曲が必要になっていた。

 

 だが、リョウは基本的に歌詞を見てから思い付きで作曲する。ということはひとりが作詞してからでないと、本格的に動くことはできない。

 

 結束バンドのみんな、ひとり待ちであった。

 

 頭を抱え、机に叩きつけた。

 鈍い音が鳴り響き、叩きつけた衝撃が額から全身に駆け巡り、ひとりは「うぅっ」と呻いて頭を抑えた。

 

 いくら考えても、良い歌詞が思いつかない。

 『ギターと孤独と青い地球(ほし)』や『星座になれたら』、『忘れてやらない』等。これまでもいくつか作詞してきてはいたが、今回はなにも思いつかない。

 呻り、叩きつけ、呻いて、嘆いた。

 

『なあ』

 

(どうしようどうしようどうしようどうしよう。なにも思いつかない。なんで思いつかないの。はやく考えないとライブまで時間が……!!)

 

『ひとり』

 

(今回は本当に大事。ゼットさんが自分の故郷に帰れるかの運命がかかってる……!)

 

『なあ、ひとり』

 

(あああぁぁぁああ……!! そう考えたら余計にプレッシャーが……! なにか、なにか、なにか歌詞になりそうなもの……!)

 

『────』

 

(そういえば『星座になれたら』はモチーフがいたし、今回も誰かをモチーフにできれば……そうだ、ゼットさんがここに──!!)

 

『──ゼスティウム光線ッ!』

 

 目を向けた瞬間──小人となっていたゼットが自身の必殺技のゼスティウム光線を放ち、ひとりの眼前を彗星の如く突き抜けていった。

 

「──うわっ! あぁぁぁぁぁ……!?」

 

 突然の光線による攻撃で驚愕したひとりは慌てて身体を仰け反らせ、そのままバランスを崩して床に倒れた。

 

()ったた……」

『ひとり』

 

 仰向けに倒れたひとりの額に乗って、ゼットが顔を覗かせた。上下逆さまになった状態で「あっ、ゼットさん」と、ようやく彼の存在に気が付いたひとりは、彼を手のひらに乗せてゆっくりと上体を起こした。

 

「ど、どうしたんですか……?」

「どうもこうも、それはこっちの台詞だ」

 

 なにやら声色が怖い。怒っているようにも感じる雰囲気で、ゼットはひとりの手のひらで、腕を組みながらそう言った。

 え、と声を漏らして首を傾げる。なぜゼットが怒りを露わにしているのか、まるで理解できなかった。

 

『ひとり、最近は寝てないんじゃないか?』

「あっ、それは、まあ、はい……」

 

(早く書かないといけないのに、寝てる暇なんてない……ゼットさんの為にも、ファンでいてくれてる人たちの為にも、結束バンドの為にも……)

 

 周りの人の為にと、期待を背に感じる度にプレッシャーが()しかかる。みんなの期待に答えようと必死になって、今はもう睡眠や食事すらも取ることをやめて作詞に取り掛かっていた。

 部屋の隅に置かれたゴミ箱から溢れ、床に散乱する紙のゴミ。全てが無雑作に丸められて投げ捨てられている。それら全ては、ひとりが失敗した作詞の束だった。

 

『少し休んだらどうだ?』

「で、でも、早く書かないとみんなの練習が……」

 

 一刻も早く歌詞を作り上げれば、結束バンドの練習時間も多くなる。その為にも歌詞は早く制作しなければならない。寝てる暇などない。

 切羽詰まっているひとりの言動を見て、ゼットは『うーん』と呻っめから見上げた。

 

『ひとり、少し気分転換をしないか?』

「えっ、で、でも、時間が……」

 

 いいから、と促されるが、あまり乗り気じゃないひとりはその場から動こうとしなかった。それを見たゼットは『仕方がない』と呟き、その場から霧のように消えて行った。

 

「あっ、あれ、ゼットさん……?」

 

 辺りを見渡した瞬間──ひとりの身体が意思に反して、勝手に動き始めた。

 困惑が表情(カオ)に滲む。首を巡らせて、身体がなぜ勝手に動いているのか微塵も理解できない。踏ん張り、力を入れ、引き絞る。だが身体は全く言うことを効かずにベランダを飛び出る。そして自宅を見上げ、膝を軽く曲げると、一気に力を解放して跳躍。普段は少したりとも飛べない身体が、軽く跳躍しただけで二階建ての家を悠々と飛び越え、華麗に屋根に着地した。

 

「えっ…………」

 

 辺りを見渡す──高いです。

 普段を見上げていた同じぐらいの高さの家を一望できる。地面からでは見えなかったあの最寄りの駅も。遠くの景色が隅々まで見渡せる景色を見て、ひとりは思わず感嘆の声を漏らした。

 

『どうだ? 綺麗でごさいますでしょう?』

 

 人間大にまで大きくなったゼットが、ひとりの横でなぜか自慢気に語る。だがそんなこと、ひとりは気にならなかった。

 なぜなら、本当に綺麗だと感じられたからだ。

 一見は住宅街など自然のない場所は綺麗に感じられないかと思ったが、それは誤った考えだった。

 人類の生み出した創造物。多種多様の色や形は、地球の生み出した自然とはまた違った景色を形作り、世界を彩っていた。

 

『普段は下から見上げる景色でも、違った視点からみれば世界が変わる』

 

 ゼットはひとりの横で腰を下ろす。そして遠くを見つめてから、その瞳をひとりに向けた。

 

『ウルトラマンは、確かに凄い力を持っている。だけど、万能の神様ではない。一体化(一つ)になっていても、互いに分からないことばかりだ』

 

 ウルトラマン。その名は、あらゆる宇宙の平和を守る正義の巨人。光を描き、悪を砕く守護者。人間と比べても、その力は天と地以上の差がある。だがウルトラマンといえど、全知全能の神ではない。たった一つの、人と同じ命あるものに過ぎない。

 分からないことは分からない。

 守れない命も当然ある。それでも尚、正義を信じて戦うからこそ──彼らは『ウルトラマン』なのだ。

 

『難しい問題だ。だから──俺も一緒に考えるよ』

「えっ……?」

『困っていることがあるなら、遠慮なく言ってくれ。歌詞のことはよく分からないが、俺もひとりの助けになりたいんだ』

 

 ゼットは『ひとりが、俺を助けてくれているように』と付け足した。その時、なぜかゼットの表情が笑ったように見え、ひとりは目を擦ってからゼットをもう一度見た。だが、その表情はなに一つ変わっていなかった。

 

『俺は、全ての命を守りたい。だけどそれは、俺一人じゃできない。だからハルキがいる。ハルキや、ストレイジの仲間たちがいたからここまで来れた』

 

 だから、とそう言葉を繋いでゼットは空を見上げた。

 

『ひとり、お前にはみんながいる。結束バンドのみんなや、今は俺もいる。もうひとりぼっちなんかじゃないんだ。だから、もっと頼ってくれ。何事も、一人では成し遂げられないんだ────』

 

 普段の不思議な言動とポンコツが垣間見えていたゼットが、今は不思議とどこか遠い人のように感じる。神秘的な雰囲気が漂っていて、それこそ人としての雰囲気はなく、ウルトラマンの名に相応しい佇まいをしていた。

 

「ゼットさん……」

 

 見つめて、ひとりはその場に腰を下ろす。膝を抱え、小さく蹲るようにして瞳を閉じた。暗黒の中の安寧。押し入れの臭い。初めてコメントで褒められた時の感動。ライブをやり切った後の感情。認められ、必要とされた時の想い。全て覚えている。

 この感情を、この想いを、なにもかも────、

 

「わ、私、頑張ります……!」

『俺もできる限りのことはするぞ!』

「あっ、ありがとう、ございます……!」

 

 突然『よし』と声を上げて立ち上がったゼットに驚く。ゼットを見上げると、彼は拳を強く握り締めてから声を上げた。

 

『それじゃあウルトラ気合い入れてくぞッ! ひとりっ!!』

「え、あっ……はい……?」

 

 困惑して首を傾げるが、ゼットはお構いなしにひとりを見下ろして強く頷いた。

 

『まずは身体を休めて、歌詞はそれからでございますな!!』

 

 勝手に話が進んでいき、ゼットの姿が光の粒子となって消える。平穏が取り戻された世界で、ひとりは屋根の上で孤独に取り残されていた。

 辺りを見渡す。ただ街並みを一望できるだけで他には何もない。ゼットの姿もそこにはない。ゆっくりと立ち上がって、屋根の端まで歩み、下を見下ろす。落ちたら怪我では済まない。見下ろした瞬間に思った以上の高さで、ひとりは直ぐに顔を引っ込めて座り込んだ。

 腕を組んで、なにが問題なのか気が付いた。

 

 

 

「私、どうやって下に降りればいい……の……?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして数日後──ようやく歌詞が完成して、聖歌の承諾も頂いた。あとはライブに向けて本格的に練習を施すのみ。結束バンド全員が一致団結している中で、ウルトラマンゼットはひとりを横目に見様見真似でギターの練習をしていた。

 

『やっぱりレベルが違うな……ウルトラ凄え』

 

 感嘆の声を漏らして、ゼットはその手を止める。黙々とライブに向けた練習をする結束バンドのメンバーを見つめて、ふと笑った。

 どこかかつての自分の姿と重なる。真剣な表情で、ただ目の前のことに一直線。愚直ながらに真っ直ぐ。ヒカリカナタ。努力に、努力を重ねて、ウルトラマンゼロというその巨大過ぎる目標を掲げて、それに向かって突き進んだ。仲間との出会いで描いた光を。

 

 思い耽って何度も『うんうん』と頷いていると、奏でられていた息の合った演奏が止まる。そして額の汗を拭って、ふうと一息ついた虹夏がカバンからタオルを取り出した。汗を拭いながら呟く。

 

「うん、かなり良くなったね」

「そうですね。私も、ひとりちゃんに放課後も教えて貰ってるおかげで大分できるようになりました」

 

 純粋かつ率直な褒め言葉に「えへへ、そんなことないですよ〜」と照れくさげに笑顔を浮かべたひとり。ゼットはこの一ヶ月の中で、ひとりが直ぐに調子に乗ることを理解していた。

 

『ひとり、調子に乗り過ぎだ』

「あっ、はっ!」

 

 ゼットのツッコミを受け、ひとりはようやく気が付いて正気に戻る。頭を震わせて、顔を上げた。

 まだ完璧とは言えないが、ある程度は完成に近付いている。ひとりの作った歌詞を見て、リョウはそれほどの時間をかけずに作曲して来た。音楽による才能は、やはり他のメンバーと比べても頭一つ抜けているのだと実感していた。

 

「さて、それじゃあ練習はこれぐらいにして。みんな片付けたらちょっとあっちに集合ね」

 

 そう言って、ある程度の片付けを終えるとライブハウスの机を囲むようにして椅子に座った──ゼットは手のひらサイズにまで小さくなってひとりの前に用意されたコップの縁に座っていた。

 最後に虹夏が座り、一冊のノートを取り出して机に置いた。

 

「それじゃあ今日は、ハルキさんを誘う為のライブ告知イラストを考えたいと思います」

「ハルキさんホイホイ」

「ハルキさんはゴキブリじゃないから」

 

 虹夏はカバンから三冊の自由帳を取り出して、三人の前に置く。そして机の中心に色鉛筆を置いてから、席に戻った。

 ハルキを探す手っ取り早い方法としては、ライブに自分から来てもらうのが良い。ウルトラマンゼットのことをデザインに載せて、それを目撃すれば一目散にハルキはライブに現れる──そう推測して、結束バンドは思考を巡らせていた。問題点はある。

 

「でも、そのままゼットさんのことを書いたら、周りの人はなにがなんだか分かりませんよね?」

「あー、それは多分大丈夫。取り敢えず結束バンドのマスコットキャラクターにすれば問題ないよ」

 

(えっ、本当に大丈夫なの……?)

 

 ゼットに視線を向ける。彼はコップの縁でバランスを崩して、ジュースの中に落ちそうになっている。慌てて手を差し出してゼットを救い、机の上に戻した。

 

「あっ、あの、ゼットさんはそれでいいんですか……?」

『なにがでございましょう?』

 

(あっ、やっぱり聞いてなかった)

 

「えっと、結束バンドのマスコット的キャラクターとして書かれてもいいんですか……?」

 

 ゼットは腕を組む。そして僅かに呻りながら考えた。

 首を振られるかと思いきや、ゼットは声色を高くして『俺は構わないぞ!』と言った。その予想外な答えにひとりは思わず二度見をして驚愕した。

 

「えっ、い、いいんですか……?」

『それでハルキが見つかるかもしれないなら、俺も腹をくくるでございます』

 

 相変わらずの下手な日本語で答えたゼット。

 ひとりの様子を伺っていた郁代が「どう?」と問いかけ、ひとりはゆっくりと頷いた。

 

「だ、大丈夫みたいです」

「それなら善は急げだね!! さっそくみんなでデザインを考えるよ!」

 

 虹夏の声を受けて、全員は「おー」と腕を掲げた。

 二時間ほどの時間が経って、それぞれは告知のポスターを完成させた。

 それからは張り紙としてライブハウスの外に貼り、イソスタで郁代が拡散。極めつけは外でビラ配り。正直言うなら下北沢の街中に貼るのが手っ取り早いのだが、それには様々なところで許可が必要になり、それほど簡単なことではなかった。

 それからできる人材──主に郁代と虹夏がビラ配りを担当して、ライブに向けた練習もこなしていきながら約二日が経った日。この日もまたライブハウスに集まってハルキ探しの進展を話していた。

 

「どうしましょう……何も進展がありません」

 

 郁代が神妙な面持ちでそう切り出した。

 オリジナル曲の作成から練習。そしてウルトラマンゼットの存在をアピールするチラシ。それを配るところまでは良かったが、そこから進展がなにもない。郁代の大臣としての力を以てしても、ハルキに関する情報がなければ、本人が来ることもない。完全に行き詰まっていた。

 

「うーん、でもまだ二日しか経ってないからね」

 

 当然といえば当然ともいえる。そんな簡単に人が見つかれば、ゼットも苦労しない。ライブ当日になって、ひょっこりと顔を出す可能性もある。だが逆に、ライブ当日にも顔を出すことがなければ、完全にハルキを探す手段を失ってしまう。そうなれば、ゼットとハルキが出会う可能性は皆無に等しくなる。あと約一週間しか残っていない。

 どうするべきか、郁代と虹夏が呻って頭を抱えた瞬間──虹夏の姉にして『STARRY』の店長を務める星歌が、虹夏の名前を呼んだ。

 

「虹夏、このチラシのヘンテコなキャラはなんだ?」

「えー、かっこいいでしょー」

 

 聖歌はチラシを眺めて、眉間にシワを寄せる。マスコットのように可愛く書かれてはいるが、一般の人から見ればなにがモチーフなのかも分からない。疑問に思っても不思議ではなかった。

 

「まあ、別にいいけど」

 

 そう言って、星歌はカウンターの前に椅子を持ってきて腰を下ろす。そしてパソコンを開いて、ジュースを片手にキーボードを叩き始める。画面をぼんやりと眺めながら、聖歌はポツリと爆弾を投下した。

 

 

 

「そういやさっきライブハウスの前で、このキャラクターのことをしつこく聞いてくるやつがいたな」

 

 

 

 ────時が止まった。

 全員が星歌を見つめて固まる。リョウ以外のメンバーはぽかんと口を開けて、思考が完全に停止。四人とゼットの視線を背中に受けて感じた聖歌は、空気が静まったことに疑問に思って振り返った。

 

「え、お前らどうした?」

「お姉ちゃんいまなんて……?」

 

 聖歌は「ああ?」と半ば苛立ったような様子で、紙パックのストローを咥えながら答えた。

 

「だから、さっきその意味不明なキャラクターについてしつこく聞いてきたやつがいたんだよ」

「どんな感じの人だった?」

「なんでそんなに食いついてんだよ」

「いいから答えて」

 

 眉を寄せて困惑する聖歌。虹夏は聖歌に歩み寄って、他のメンバーも真剣な眼差しで食い入るようにして彼女を見つめていた。

 聖歌も思わず耐え切れなくなり、表情に困惑を滲ませて、僅かに虹夏から逃げるようにしながら口を開いた。

 

「なんか、サバゲーみたいな格好で、凄いグイグイ来るやつだったな」

 

 端的に特徴を語った聖歌の言葉を受けて、ゼットが『ハルキだ!!』と声を上げて立ち上がり、それを聞いたひとりが虹夏に視線を向けた。

 

「は、ハルキさんです……!」

「よし来た!! みんな行くよ!!」

 

 虹夏の合図と共に全員一斉に立ち上がって駆け出す。ライブハウスを飛び出るように扉を開き、階段を駆け上がった先──太陽の眩い光を受けて思わず目を隠した。何度か瞬きを繰り返してから、辺りを見渡すと一人の影が四人の前に立った。

 一色の色を基調としたつなぎのような服。漆黒の髪の下には勇猛な双眸があり、かなり若々しい男性が困惑した表情でひとりたちを見つめていた。

 誰が切り出すか言葉を呑んでいると、虹夏が一歩前に出て問いかけた。

 

「は、ハルキさん、ですか……?」

「俺の名前を知ってるってことは……!」

 

 男は顔をパァッと明るくして虹夏の手を握り締める。思わず驚きで声を上げた虹夏を真っ直ぐに見つめて、()()()()()()()()は感謝を告げた。

 

「ありがとうございます!! 貴女がゼットさんを見つけてくれたんですよね!!」

「あっ、え、えっと……」

 

 珍しくたじろいだ虹夏。そのまま畳みかけるようにハルキは一歩を歩み寄った。

 

「俺、ナツカワ・ハルキっす!!」

「あ、ど、どうも、伊地知虹夏です……」

「虹夏さんっすか! ありがとうございます!!」

「ち、近い……」

 

 困り果てる虹夏が、後ろに立つ郁代たちに救済を求める視線を向けた。だが郁代は苦笑し、ひとりは目を背けて、リョウは「がんばれ」と他人事のようにしていた。

 その瞬間、空間が光り輝き、インナースペースへと続くヒーローズゲートが開く。あまりの突然の出来事に全員の身体が反射して飛び退いた。

 

『ハルキ、取り敢えずこっちに来てくれ』

 

 中からゼットの声が響き、ハルキはなんら驚く様子は見せず、なぜか姿勢を正して「押忍!」と声を出して結束バンドの方へ視線を向けた。

 ハルキは入るように促して「どうぞどうぞ」と手を差し出す。流されるように全員が入って、視界が眩い光に包まれながらインナースペースの中でゼットが立っていた。

 

「あああ! ゼットさんご無事でなによりです!」

『ハルキこそ無事でよかったでございますぞ!!』

 

 思いもしなかった再会にゼットもハルキも声色高くして喜んでいた。

 その様子を眺める結束バンドは、一ヶ月越しの再会を果たした二人を見て思わず微笑んでいた。

 

「嬉しそうで良かったね、ひとりちゃん」

「あっ、はい」

「ひとりちゃん?」

 

 二人の様子を見つめるひとりの表情は、どこか寂しそうな悲しい色を滲ませていた。

 

『失くすなんて酷いぞハルキ!』

「すんません! でも頑張って探したんすよー!」

 

 二人のやり取り。

 

『この一ヶ月どこで過ごしてたんだ?』

「ああ、それはゼットン星人から助けた女の子が、すっごい大きな家に住んでて、お礼にって泊まらせてくれたんです!」

『おお! それはウルトラ凄いな!』

 

(ゼットさん……あんな風に喋るんだ……)

 

 知らなかった声色。初めて見た感情。

 ウルトラマンゼットにとって、ナツカワ・ハルキがどれほど大事な人間であるのか思い知らされたような感覚。ひとりは、少し寂しくも感じながら、やはり嬉しさが勝っていた。

 

「ぜ、ゼットさん……」

『おおひとり! ひとりたちのおかげでハルキが見つかった。本当に感謝感激雨あられでございます!』

 

 頭を深々と下げたゼットに対して、ひとりは慌てた様子で何度も「わ、私のほうこそ、ありがとうございます」と頭を下げた。

 

『ハルキ、こちらは俺の命の恩人で師匠の後藤ひとりさんだ!』

「ああ! 貴女がゼットさんを! どうもありがとうございます! ゼットさんがお世話になりました!」

 

 ゼットの紹介を聞いて、納得したハルキがゼットと同じように深々と頭を下げる。それに合わせてひとりも頭を下げて、終わりの見えない感謝と謝罪の連鎖が始まってしまった。

 その連鎖を断ち切ったゼットが結束バンドのメンバーに手を向けた。

 

『そしてこちらは、俺の為に尽力してくださった結束バンドの方々だ』

「初めまして伊地知虹夏です」

「喜多郁代です!」

「山田リョウです」

 

 三人の自己紹介を聞き、ハルキは礼儀正しく姿勢を正してから元気よく声を大にした。

 

「対怪獣特殊空挺機甲隊ストレイジの元パイロット、ナツカワ・ハルキです!!」

「すごい人に会っちゃったね……」

 

 所属と名前を聞いて頭がパンクしてしまいそうになった虹夏の言葉に、郁代とリョウも頷く。ゼットの曖昧な特徴では想像もできなかった風貌で、礼儀正し過ぎる人間だった。

 ゼットもそうではあったが、ハルキも礼儀正しい。そしてかなり熱い人格の持ち主である。ハルキは「そうだ」と思い出したように口を開いた。

 

「ゼットさん、俺たちが追いかけてきたゼットン星人なんですけど、もうこの地球を去って別の星に逃げたみたいです」

『なんだと、そうだったのか……それなら早く追いかけないと』

「はい、名残惜しいですけど」

 

 ゼットは踵を返して、結束バンドの前に立つ。そして視線を一人一人に向けた。

 

『申し訳ないが、俺たちはもうこの星を発たなければならない』

「そ、そう、なんですか……」

 

 早い。本当に早い。まだハルキとは会ったばかりだというのに、そんな余韻もなしに早過ぎる。そんな別れを告げられて、結束バンドの面々は少し悲し気な雰囲気を出してしまった。

 一ヶ月という短い間でも、言葉を交わして、共に練習もした。その時間は決して消えない。それは最早、ウルトラマンゼットも結束バンドのメンバーといっても良かった。いずれは来る別れの時──来るとわかっていても、いざ来てしまうと悲しいものだった。

 

『最後に一つ、皆さんにお願いがあります』

「願い……?」

 

 ゆっくりとゼットは頷いた。

 

『ぜひ、結束バンドのライブを聞かせて頂きたいのでございます』

 

 その言葉に、全員は目を見開いて互いに視線を交わした。そして全員はゼットに視線を返して頷き、ひとりが答えた。

 

 

 

「は、はい!!」

 

 

 

 ◆◆◆◆

 

 

 

 ヒカリトオク。流れていく世界は、まるで加速しているようだった。そして、ゆったりと流れているようでもあった。

 初めて聞いた結束バンドというバンド。

 初めて感じた結束バンドの熱意。

 強く、激しく、そして優しく、その音は美しかった。

 

 ウルトラマンゼットは忘れない。

 山田リョウという人間を。

 喜多郁代という人間を。

 伊地知虹夏という人間を。

 

 

 

 そして、後藤ひとりという人間を。

 

 

 

 結束バンドというウルトラ凄いバンドを──絶対に忘れない。共に過ごした時間は短いけれど、刻み込まれた記憶は決して消えたりしない。それは、結束バンドの者たちも一緒の想いだった。

 

 

 

「結束バンドです!」

 

 

 

 たった二人の為に開かれたライブ。

 観客は、別の世界からたまたま訪れた者達──否、今回のライブには観客など存在していなかった。

 

「今回は私たちの新しいオリジナル曲を聞いてください!」

 

 虹夏の合図と共に、眩い光がライブハウスの中に煌めき、結束バンドの中心にウルトラマンゼットが姿を現した。全員が互いに視線を交じり合わせて、ゼットが肩に掛けたギターをかき鳴らして叫んだ。

 

 

 

『それでは結束バンドの皆様方!! よろしくお願いします! ウルトラ張り切っていきますぞ!!』

 

 

 

 そして始まった。

 宇宙という広大な海にポツンと漂う小さな星。あり得ることのなかった出会いから始まった、あり得ない現実。響き渡る演奏は、ウルトラマンゼットを送り出す曲であると同時に、最初にして最後のコラボレーションだった。

 その演奏には、観客など不要。ウルトラマンゼットと結束バンドの互いに向ける心に刻むメロディー。

 

 これは、無限に広がる宇宙で起こった出来事。

 地球の言葉が下手なポンコツ宇宙人ウルトラマンゼットと、コミュ症でぼっちな少女の後藤ひとりの出会いと別れ。その曲の名は────、

 

 

 宇宙に浮かぶ〝小さな海〟の話────。

 

 

 




 これにて『ぼっち・ざ・ぜっと!』は完結(仮)となります。ここまで短い間でしたが、ありがとうございます。
 ですが最後に『IFストーリー』を近い内に投稿するつもりなので、気になる方はぜひそちらも期待していただけると嬉しいです。興味ないぜって言う方もぜひ見てってください。逃しませんよ?
 後はこの話を見ていただいた後に、結束バンドの『小さな海』を聞いてください。投稿の経緯や、個人的な綺麗な終わらせ方はIFの方でやりたいと思います、

評価感想があれば是非。ここの後書きの文字を押していただければ飛びます。

 今後の更新、新作の情報などは変な呟きと共に私のツイッターアカウント@hokattya258でお知らせしていますので、ご興味があれば。
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