【某月某日 新潟県某所 放送席】
「さー!これから始まりますは田舎ニキVSショタギルスによるタイマンプロレス!
実況はわたくし、ガイア連合白衣の似合う美女コンテスト第四位!
ウサミミネキこと兎山シノがお送りしまーす!」
「解説のくそみそニキこと阿部です、よろしくお願いします」
『ガイアプロレスIN新潟』の会場付近にて、外部から不可視になる結界を張った放送席が設置されていた。
天幕を張り、イスとテーブルを並べ、各々が好みの飲食物まで設置したゆるゆるなプロレス実況席である。
偵察用式神を改造した『撮影用式神』が飛び回り、テーブルの上にはシノの脳細胞チップを搭載したパソコンが置かれ、実況スレをリアルタイムで追っている。
特撮俺たちは今か今かと生放送の開始を待ち構えている……当然、黒札限定放送だ。
この戦いがプロレスであることは黒札に周知されており、それどころかスパチャ可能な生配信として放映中だ。
まだ試合前なのに続々とスパチャが集まってきている。日本円・マッカ・マッスルドリンコ・傷薬・魔石……。
なお、どれもこれも霊山同盟支部の倉庫に収まることになる模様。
最初の頃はギルスの戦闘シーンの配信で霊山同盟支部の運営費用を稼いでいたのだ。ノウハウは十分にある。
「ところであっくん。今回のプロレスだけど、ぶっちゃけあっくんならもっと穏便に解決できたよね?」
「まあ、そうだな。ほむらとやらをメスガキわからせしてから両組織の会談……でまあ、落としどころを探るって手もあるにはあった」
それをやらなかった理由は、可能な限りこの事件を派手に爆破炎上させ、大量の黒札を巻き込んで『釘』の威力を上げるためだ。
はっきりいってこれだけ黒札がかかわってきてる以上、当事者である二人ですら盤上のコマでしかない。
釘を刺す対象である二人の関係者に至っては、盤上にすら上がれない『巻き込まれてるだけの存在』だ。
こうしてマッチ程度のボヤ騒ぎを山火事にしてやれば、次は大火傷じゃ済まない、と認識して軽挙に出るのを慎む。
ブラック~プラチナの人材は貴重なのだ。
協力者……という名の一部の超人におんぶにだっこな現地人が、因縁や私情で行動して足元の小石になられちゃたまらない。
……というのが『建前』だ。
「ぶっちゃけて聞くけどあの二人のプロレス見たかっただけだよね???」
「もちろんさぁ!!」
「あっくん、最近ろくでなし通り過ぎてひとでなしになりつつあるよ?そんなあっくんも好きだけど」
いつの世も、悪党というのは影で笑うモノなのである。
【某月某日 新潟県某所 決闘場】
(ついに来てしまったこの日が……)
先日、阿部との会談によって決定した【ガイアプロレスIN新潟】。
田舎ニキこと碧神 凍矢からすれば、いろんな面倒くさい問題あれこれを一切合切先送りにできる機会ではある。
そう、これは『先送り』だ。お前らがお前らの私情で動いたらこーなるんだぞ!いいのか!?と言う実例を見せつけて理性を補強する、それだけのイベントだ。
いずれこの釘差しも効果が薄れ、私情を優先し軽挙に走る者も出てくるだろう。
だが、そもそも根本的な解決云々となるとひっじょーにこの問題は面倒くさい。
(根っこにあるのがメシア教への隔意だからなぁ……)
というか、だ。
これがまるっと解決できるようならカオス転生本編・外伝で読者から「メシア教うぜぇ」扱いはされていない。
結局のところ過激派が世界中で暴れまわってて、数はカンストしてる穏健派はガイア連合を彼ピ扱いしてて。
なおかつ過激派の一部が穏健派に潜伏中かつ穏健派も数が多いから人格がピンキリ……。
そんな極まったクソゲー状態なのがすべての元凶なのである。こんなもんジョニデが復活してもどうしようもない。
今度はジョニデ認める派と認めない派で大戦争おっぱじめるだけである。
……というわけで、そもそも明確な解決策なんてないのだ。この問題には。
いつか爆発する問題だった、そこでほむらが火種を投げ込んできた。だから不燃性のバリケードで囲ってからガソリン注ぎこんだ後に鎮火しよう。それだけのお話なのだ。
なのだが、それで『影の国の修練を終えた相手』とタイマン張るとか、凍矢からすれば憂鬱極まりない。
(プロレスだしレギュレーション決まってるけど、向こうの分身は『LV50』。
なおかつ回復アイテムは緊急用のモノ以外は禁止で、後遺症が残りそうなモノも禁止。
逆に言えばそれ以外は『なるべく派手にやる』以外制限なし、か……)
ここら一帯は確かに人里からは遠い、地脈・霊脈ともに問題はなく、更地にしてしまっても地ならし代が浮くレベルの僻地だ。
オマケに阿部の手で会場外に影響が出ないよう結界が張られている。強度は少なくとも流れ弾が当たってもヒビが入らないレベル。
手はず通りなら、戦闘開始してしばらくしたら『関係者』をサスガブラザーズが連れてくる事になっている。
結界の外から観戦させて、下手にガイア連合の戦力同士がぶつかったらどうなるかを見せる……そのように計画し、細かい部分まで詰めてきた。
(安全のためにシノさんからレンタルしてきた『コレ』があるけど……。
壊したら弁償かなぁ!?これもしかして弁償かなぁ?!また借金増えるのかなぁ!?)
なんなら技術投資で彼の借金が増えるのを楽しみにしてるフシがあるヒトデナシからレンタルしてきてしまったことを今更ながら後悔している凍矢であった。
そんなこんなで謎の苦悩に右往左往していると、結界の入り口から何かが入ってくる気配を感知。
そちらへ振り向けば、台本どおりに『怒りの演技』のままこちらに走ってくる霊山同盟支部の支部長……『鷹村ハルカ』がそこにいた。
(よーし、あとはブックに従ってなるべく派手に……暴れてくるか!)
上着をはだけて、その下に巻いた『ベルト』を露出させる。
ハルカもそれに合わせたのか、両腕を胸の前でクロスさせて力を込めた。
凍矢が『スマートブレイン社製のゴツい携帯電話』を取り出すのと同時に、ハルカの腰に『メタファクター』*1が出現。
そのゴツい携帯電話……『ファイズフォン』に指定されたコードを入力し、腰のベルト『ファイズドライバー』に叩き込む。
【5 5 5 ENTER】『Standing by』
「「 変 身 ! ! ! 」」『Complete』
物質化したMAGの赤いラインが凍矢を囲み、神聖な光がハルカを包む。
その中から現れた『ハイエンドデモニカ・555(ファイズ)』と『式神・ギルス』の拳が交差した。
【十数分後 決闘場外部】
「一体全体どういうことなんですかこれは!?」
「いやー、そこは俺達に聞かれてもなぁ……」
プロレス開始の直後、予定通りに新潟派出所に到着した『流石兄者』から、『九重 静』と『秋葉 ほむら』にプロレスの情報が伝達。
そこから凍矢の式神である『破裂の人形』にも話が伝わり、全員で現地へと向かうことになったのである。
といっても、このガイアプロレスIN新潟の目的を考えて盛大に加工されたモノであり……。
おおよそ『ほむらと桜子の一件にキレた霊山同盟支部の支部長が乗り込んできて、それを凍矢が迎撃中』とだけ伝わっていた。
トラポートを使って新潟派出所から決闘場の近所まで転移、その後は覚醒者特有の超人的な身体能力でダッシュ中である。
「ともかく、霊山同盟支部とか調和派の方は弟者が向かってる。俺たちは俺達で現地に向かおう」
「なんでこんなことになるのよぉ!?」
(ついに婚約の話まで出た矢先にこのような……!)
色んな意味で急展開である。
桜子とほむらの一件は静も把握しているが、ガイア連合とメシア教穏健派の関係ははっきりいって冷え切っていると認識していた。
穏健派は一方的なアプローチを繰り返し、ガイア連合はガイア連合で穏健派を切れないのでしぶしぶ同盟を組んでいる……そんな関係だと予測していたのである。*2
元メシアンである桜子のために他の支部や派出所まで殴りこんでくる人間がいるなんて、はっきりいって想定の範囲を大幅に超えていたのだ。
寧ろ『霊山同盟支部でも本音では元メシアンである桜子をうっとおしく思っているはず、その連帯感を利用して穏健派を共通の敵にして牽制を』とか考えていた。
天国から地獄、一歩間違えば霊山同盟支部との取引にも影響が……と思考を巡らせている静とほむらはしかし、現場にたどり着くことはできなかった。
「これは……結界!?」
「【紅蓮の手刀】!……傷一つつかない!?なによこの結界バカじゃないの!?」
「あー、こりゃ阿部さんの結界だわー。多分外に被害が出ないよう隔離したんだな」
当然兄者は詳細まで知っている立場なので、結界で現地が隔離されていることも承知の上だ。
かといってどうこうする気はないし、真相を言う気もない。流石兄弟にとって、各地の支部・派出所は例外なく『商売相手』だ。
なんなら依頼とあれば穏健派だろうが地方霊能組織だろうが飛び回り、調査や調伏を請け負っている。
そんな立場からすれば、支部・派出所同士の争いなんて損はあっても得はない。
何より、今回は阿部からの依頼を受けて『仕掛け人』として動いているのだ。この二人をハメるのも仕事の内である。
「こっちでも解除できないか試してみるが、しばらくはそこで見てるしかないな」
(結界の反対側には弟者がシスター・グリムデルや桜子ちゃんを呼んでるはず、あっちの釘差しはあっちでやるだろ)
そんな悠長な、と二人が言おうとしたところで、結界の中から響いてきた轟音が無理やり三人を黙らせる。
重いナニカがぶつかりあう音が何度も響き、そのたびに音の発生源が四人の方へ近づいてくるのだ。
何事かと音の方に目をこらしてみれば、明らかに現実ではありえないような光景が目に映る。
最初は『青と赤の竜巻がこちらにせまってくる』ようにしか見えなかった。
しかし、近づいてくればその正体が見えてくる。同時に、鈍く響く音の正体も。
片方は、赤いラインの特徴的なデモニカスーツを装備し、絶対零度の冷気を身にまとった戦士。
片方は、緑と黒の生物的な肉体が特徴的な、烈火の爆炎を振るう異形の戦士。
「あのデモニカが放っている冷気……まさか、凍矢様?!」
「間違いありません、マイマスターです。しかし、あの見慣れないデモニカは一体……!?」
「……ハイエンドデモニカの『φ』タイプだな。LV30以上推奨の試作機だったはずだ」
(なーるほど、搭載されてる『疑似食いしばり機能』がありゃ死ぬことはないもんな。万が一の保険か)
『ハイエンドデモニカ・555』……この設計素体となっている『デモニカ・G4X』には、絶対防御システムという機能が搭載されている。
『装着者に致死量のダメージが発生した場合、デモニカ側でソレを引き受け、装着者を守る』という機能だ。
代わりに高確率でデモニカが破損するが、プロレスとはいえ事故で凍矢が死亡したら絶対に遺恨になる。それを防ぐための措置である。
……なおハルカの方は分身なので、本人から凍矢に『遠慮なく八つ裂きにしちゃっていいよ!』という許可が出ている。言われた凍矢は盛大に引いた。
凍矢の放った右拳をギルスが左手の甲で逸らし、カウンター気味に右アッパーが放たれる。
それを僅かに上体をスウェーさせた凍矢が避け、そのままの勢いでギルスの腹にヒザがねじ込まれた。
おぐっ、と小さくうめいたギルスに、綺麗なワン・ツーのコンビネーションで追撃。
恐らく『復讐の氷拳』*3を打撃に乗せているのだろう。殴られるたびにギルスの体が凍り付いていく。
かといって、ギルスフィーラー等で牽制しようとすれば『ブフバリオン』で氷像の完成だ。中~長距離戦はあきらかに凍矢に分がある。
だからこそ体が凍結することを覚悟で突っ込むしかないのだが……。
「ヴォアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!!」
「うおっ!?」
しかし、その凍り付いた肉体がギルスの身にまとった炎で一瞬にして解放される。
『バーニングフォーム』……とある『大天使』がこっそりハルカに授けた『シナイの神火』を纏った姿だ。
緑の装甲が赤く染まり、首元に炎でできたマフラーを巻き、四肢からは炎が吹きあがる。
一瞬だけ全身から炎を吹き出して凍矢を牽制、打撃を押しとどめたのだ。
しかし。凍矢も一筋縄で攻略できるほど甘い相手ではない。
即座にバックステップで距離を取り、腰に突いた『デジタルカメラ型ユニット』を手に装着する。
『ready』の電子音声と共に装着されたソレの名は『ファイズショット』。ガイアトルーパーが装備している『ガイアショット』の試作型であるパンチングユニットだ。
そして、腰に巻いたベルト『ファイズドライバー』を操作すれば、デモニカに登録されているスキルが自動で発動。
【タルカジャ】+【チャージ】=【エクシードチャージ】*4
【エクシードチャージ】+【鉄拳パンチ】=【グランインパクト】
『EXCEED CHARGE』という電子音声で準備が整ったことを察知すると、自身の拳に意識を集め、『復讐の氷拳』をさらに上乗せする。
デモニカスーツが力依存攻撃を、凍矢が魔依存の攻撃を。ハイエンドデモニカとそれにふさわしい超人だからこそ可能な荒業だ。
一方のギルス……いや、『バーニングギルス』も、その一撃を全霊をもって迎撃にかかる。
スカサハ直伝の【会心の覇気】*5で限界まで高めた力を両腕に集中。
【会心の覇気】+【火龍撃】*6=【バーニングライダーパンチ】
互いの拳が衝突し、周囲が火炎旋風と極寒の吹雪に包まれた。
元々【魔】型であり肉弾戦が苦手な凍矢はデモニカによってそれを底上げし、一方のハルカ/ギルスはステータスのごり押しでバフの差を補う。
纏っている冷気と熱気が激突の衝撃でまき散らされ、結界のすぐ外で見ていた面々が思い思いの悲鳴を上げて身を伏せる。
大半は結界によって外に漏れださないように調整されているが、観戦者に対する『脅し』もかねて衝撃の一部が伝わるようになっている。
(これが……凍矢様の、いや、ガイア連合の『本気』……!?)
(侮ってたわけじゃないけど、どう考えても追いつける領域に無い、なくない……?)
なお、ガイア連合的には本気どころか上には上がいる模様。当然、どっちも。*7
吹雪と爆炎の押し合いは、バフの差もあってかじわりじわりと凍矢が押しつつある。
分身ではなく本体がきてフルパワーならともかく、このレギュレーションでゴリ押しは通じない。
なにより、ギルスは本来パーティ戦の前衛or対メシア系に調整された個体だ。今回はどちらの能力も活かせていない。
……が、しかし。『その程度』で押し切れるようなもやしっ子なら、影の国での修行でくたばっているのだ。
「ライダアァァァ……」
「ッな……」
「ダブルッ!パァンチッ!!」
エネルギーを『両腕に』集中していたことを活かし、打ち合っていた左腕を引き、凍矢の体勢を崩してからみぞおちへ右拳を叩き込む。
ごふっ、と息を無理やり絞り出された凍矢を、そのままアッパーカットの要領で真上に跳ね上げた。
だがギルスも理解している、パンチの感触が鈍い。デモニカ555に搭載された『物理耐性』がダメージを軽減したのだろう。
そして凍矢もガンギマリ勢の一人、ただで吹っ飛ばされるほどヤワな相手ではない。
「ッ……おおおぉぉっ!!」『ready』
空中で体をひねって体勢を制御、腰からデジタルサーチライト型キックユニット『ファイズポインター』を取り外し、右足にセット。
ドライバーのエンターキーを押し、再度【エクシードチャージ】を発動させた。
チャージ系は重複できないので【コンセントレイト】は使えないが、その分はパッシブスキルの【氷結ハイブースタ】*8で補う。
MAGがデモニカスーツのラインを通って右足に供給され、攻撃対象をロックオン・拘束する【ポインティングマーカー】が射出。
ギルスをロックオンしたマーカー目掛け、凍矢の跳び蹴り……【クリムゾンスマッシュ】が飛んできた。
ご丁寧にシノが凍矢向けに刺したスキルカードの【氷龍撃】を【飛び蹴り】の代わりに使った一撃である。
「ヴォオオオォォアアァアアァァァァッッッ!!」
対するギルスもまた、それをむざむざ無策で受けるつもりはない。
自身が巻いている炎のマフラーを掴むと、それを引き抜く。
引き抜いた炎のマフラーが形を変化させ、『S字に折りたたまれた状態の刀剣』となって形成された。
【シャイニングカリバー】……バーニングフォーム、そして【光輝への目覚め】と呼ばれる姿でのみ使える武器だ。
S字に折りたたまれた【エマージュモード】から、双刃刀型の【シングルモード】へと変形させて凍矢を迎え撃った。
あらゆる物を凍らせる冷気を纏った飛び蹴りを、あらゆる物を焼き尽くす劫火を纏った双刃が迎撃。
相殺しきれなかった炎と冷気が周囲に飛び散り、巻きあがり、決闘場をあっという間に覆いつくす。
凍り付いた空気中の水分が一瞬で蒸発し、それでなお焙られ続けて水蒸気爆発が連続する。
挙句の派手に両者のMAGが物理法則を歪め、光る光帯となって周囲を巻き込んで広がっていった。
「これパラダイス・ロストでさいたまスーパーアリーナぶっ壊したヤツぅ!?」と放送席のシノが叫んだ直後に、ギリギリで相殺し合っていたエネルギーが炸裂。
ICBMでも叩き込まれたんじゃないかというほどの閃光と轟音、そして衝撃の後に、倒れこんだ面々がなんとか起き上がる。
くらくらとする視界と頭をどうにかこうにか最初に上げたのは、転生元の影響か『光』に対しては慣れがはやそうなほむらであった。
「……なによ、これ……」
だが、見た所で目の前の光景が理解できるかと言うとそうではない。
決闘場は真ん中に一本線を引いたかのように、視界の右と左で光景が違いすぎた。
右側……バーニングギルスがいた方は、地面がガラス化し、岩が溶岩となり、草木は灰も残さず焼き尽くされた灼熱地獄。
左側……凍矢/ファイズがいた方は、激突する直前の光景そのままにすべてが氷像となり、あらゆるものが停止した永久凍土。
それが激突したポイントに空いているクレーターを境に分かれているのだ。ゲームかなにかの宣伝ポスターのような光景である。
さらに、ほむらが全力で攻撃してもキズもつかなかった結界がいつのまにか壊れている。*9
直後に「マイマスター!!」という破裂の人形の声が聞こえ、ほむらの隣をすりぬけて駆け抜けていくのを見て、静と共にそれに続いた。
結界の反対側で観戦していたらしいシスター・桜子やシスター・グリムデルも走り寄って来た。
クレーターの中で、力を使い果たしたようにギルスと凍矢は仰向けに倒れこんでいる。
電子音と共に凍矢の変身が解除され、その姿が静たちにとって見慣れたソレに戻った。
「凍矢様?!お怪我はっ……!?」
「え?あ、ああ。大丈夫……すごい疲れたけど」*10
「ハルカ支部長、大丈夫ですか!?」
「あ、桜子さん。大丈夫大丈夫、これ本体じゃないから」
駆け寄ってくる静たちをどうどうと抑えつつ、ふらつきながらも立ち上がる凍矢。
一方のハルカだが、こちらは変身が解けても立ち上がる様子を見せなかった。
「と、さすがにMAGを使いすぎました……ここまでみたいですね」
「ああ……あとはこっちで後始末しておく。ありがとう」
「ええ。 じゃ、プロレスの件含めて説明をば……お願いしますね」
え、それも俺がやるの!?と凍矢がツッコんだ瞬間、ハルカの体が霞のように消え去った。
実体分身は個別でHPを持ち、それが0になるか維持しているMAGが切れれば消滅する。
今回はハルカがリモートで動かしていたので、恐らく本体が供給を切ったのだろう。
消滅したハルカに驚く面々に、元々分身についての説明を聞いていた凍矢が解説した。
「……つまり、凍夜様とあの激戦を繰り広げていた支部長も分身で……」
「もっというと、師匠もあの支部長も全力は出してない、ってこと……?」
「まあ、そうなるな」
(俺、本来ならあんな殴り合いスタイルじゃなくて後衛魔法型だし……)
「……なるほど、よくわかりました」
この場でプロレスの決着を見た面々が、バラバラの立場ながら1つだけ意識を統一した。
『ガイア連合でそれなりの立場にいる人間同士がカチ合うマネだけはさせちゃいけない』と。
なお、凍矢の苦労はまだまだ続く。具体的は……。
「ところで凍矢様。今回の一件についての事細かな事情を……」
「マイマスター、なぜ私を伴ってプロレスするのは却下なのですか?」*11
「あ、田舎ニキー!これ回収した555のレンタル代とメンテ代ね!データ収集のお仕事込みってことでお安くしとくけど!!」
「とりあえず俺の結界は解除したし戻そうと思えばこの光景も戻せるけど……。
しばらくは地元組織へのナマハゲ用に残しておこうぜ!見に来た現地人が白目剥くのが目にみえらぁ!」
「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
頑張れ田舎ニキ!負けるな田舎ニキ!一応生配信に届いたスパチャの半分は田舎ニキのモノだぞ!!*12