【西島家の屋敷 客間】
『御用があればお声かけを』と言って客間を出ていった夏芽を見送り、客間に腰を落ち着けた二人は少しだけ緊張を解く。
異界の『偵察』の後、おおよそ流石兄弟から渡された情報が間違っていなかったことを確認し、本格的な調伏は明日からと言って屋敷へ戻って来た。
最初は疑いの視線が強かった夏芽ですら、最後は驚愕と期待とわずかな後悔を混ぜた表情で二人の後に続いていた事を考えると、少なくとも『偵察』の意味はあったらしい。
「調伏の前に僕たちの力を見せつけて、それに払う対価について『相談』する時間を設ける……これ、必要だったんですか?」
「ああ、もちろんさ」
そう、極論流石兄弟の情報だけで異界攻略には十分だし、低レベルの簡易式神を作って送り込む程度なら消耗も少ない。
そのまま異界に突入し、異界の主……そして封印されているらしき祭神を解放してしまえば、それで今回の依頼は終了だ。
「だけど、それでは『高く売れない』。彼女らは手持ちの資産をはたいて我々に『礼』をして……それで終わりだ。個人のヒーローならそれでいいが、組織のトップはそれじゃいけない」
「……そう、ですね。そう……ですよ、ね」
あからさまに落ち込むハルカに、小学生相手に言い過ぎたか?と僅かに思考に躊躇が混じる。
だが、霊山同盟支部の今後は彼にとっても見過ごせる案件ではない。
S県・A県・K県での活動を広げている彼にとって、S県とK県の県境に相応の拠点ができるのは非常に大きい。
何より、与一の出身はS県だ。生前はごく普通の会社員、今世も19年しか生きていない彼にとっても第二の人生の生まれ故郷を見限った罪悪感はあったのだ。
(まあ、その罪悪感も『だから私の手でS県を守るんじゃー!』ってならない程度だけどさ……)
他に誰もやらないまま時間経過していたならやったかもしれないが、やってくれる人間が出たならそれを支援することで自分に折り合いをつける。
ガイア連合の黒札にそこそこの頻度である傾向というか……『誰かがやってくれるならそれでいいじゃん』的な思考であった。
政治がー、とか、国がー、とか言う人間は多いが、そう言ってる人間の何割が選挙にいくのか。
もっというと、そこから自分で政治家として立候補して国を変えようと思える人間などどれだけいるのか。
黒札の大半が平凡な日本人気質だとしたら、その本質は『事なかれ主義』だ。
与一もまた、継続的な利益を無理なく追及するのはどこまでいっても自分のためであり、世界を救うだの故郷を守るだのに命賭けられるほどの情熱は持っていないのである。
(だから、この子には育ってもらわないと困るんだよね。私が故郷を守らなくてもいいように)
だからこそ、故郷を『守ってくれる』人間が現れたのは都合が良かったのである。
人材育成やスパチャという形で、故郷を守ることに『無理なく力を貸す』ことで精神を割り切る一助にするのだ。
今回の仕事もそう……ハルカに自分なりの『交渉の流れ』を見せることで、彼が今後S県を掌握するのに役立つ知識や経験を積ませる。
相手が子供だ……というごく常識的な理屈は、霊能組織特有の女子供でも戦うという現場状態と、転生者の中には少年少女もいるという現実が鈍らせる。
(そういうわけだ、せいぜい正義の味方をやっていてくれ。ハルカ君?
私は『私の利益』のために動かせてもらうよ。欲しいモノも見つかったしね)
ガイア連合の黒札は、決して善人だらけではない。
元一般人が大半である以上、そこそこの確率でクズも混ざる。
……与一は『マトモな方のクズ』であった。
「それに、こんな簡単な霊感商法に引っかかる家なんだ、遅かれ早かれ詰むよ」
「……? 霊感商法って、詐欺の一種ですよね?」
「ああ。私のような三流山伏のいう事にホイホイ乗ってる時点で、警戒心は薄いのさ。この家は」
……ん?とハルカは首を傾げ、与一に質問を続ける。
「あの、失礼ですが山伏としてはどの程度の修行と技術を?」
「神主の元で、残された資料を基に半年ほど修行詰めかな。無論、富士山で。
たった半年の修行で身に着けた付け焼刃の技術でも、騙される霊能力者が多くて多くて……、
ボロい商売すぎてマトモな仕事をする気がなくなるね、本当に」
(……いや、世間一般では貴方のその経歴は『天狗に修験道を習った』と大差ないモノなのでは?)
鎮西 与一。十九歳。
自己評価は霊感商法をやる詐欺師一歩手前の男だが、今の日本では法力を身に着けた超一流の山伏である。
【翌日 西島家 当主の間】
「取り入るべきです、どれだけの対価を払っても」
「……一日で随分と意見を変えたわね、夏芽。私も同意だけれど」
結論から言うと、この土地の異界調伏はとんでもないヌルゲーで終わった。
突入するガイア連合の二人は、LV20~30という彼女たちからすれば神話の英雄じみた超人たち。
一方の異界は、平均LV1~3程度の悪魔が沸いてくる『程度』の低位の異界。
調伏の際も案内役として同行した夏芽だが、彼女が援護する前にほとんどの悪魔が蹴散らされていくのを目の当たりにした。
『それじゃあ、今日は依頼通り、若い方の異界の調伏を行いますね』
昨日はスーツ姿だった与一と私服だったハルカは、持ち込んでいた『山伏の装束』に着替えて夏芽達の前に現れた。
おぉ……と思わず声を漏らしてしまうほどの神聖な気配。昨日までは霊能力者らしからぬ格好だったのもあって、余計に頼りがいを感じてしまう。*1
さらに、与一は背中に『弓』を背負っていた。彼女らが使っている梓弓とは大きく違う。
彼女たちは知るはずもないが、恐山の巫女も運用している機械弓……その中でも悪魔由来の素材を用いた強化型だ。
一方の少年は無手だが、戦い始めれば武器を持たない理由を一発で理解する。
【飛び蹴り+アギ】
『バーニングスマッシュ!!』*2
鷹村ハルカと名乗った少年が炎を纏った蹴り技を放てば、立ちはだかる悪魔は一撃で砕け散る。これなら夏芽達が振るう霊刀など必要ない。*3
【メギド+狙い撃ち】
『食らえ、破魔矢!!』*4
一方の与一が光り輝く矢を放てば、悪魔の群れが塵芥のように消し飛んだ。
どちらも神話の英雄がごとき超人、夏芽が100人いてもかなわぬ当代の出来物。
異界の主である大悪霊*5ですら、鎧袖一触で蹴散らした。
この状況において、意地を張ってこの土地を一族だけで維持し続けるのは悪手でしかない。
……が、どうにか違和感を持たれないように得た『明日までの猶予』*6は得られた。
約束していた報酬を払うのは当然の事として、どうにか『今後の付き合い』が続くようにしなければならない。
「ど、どうしようお姉ちゃん……目覚めたと思ったら色々ありすぎてついていけないんだけど……」
「言うな、秋穂……私も正直、混乱から立ち直ったと言い切れないんだ……」
そして、異界調伏を終えて帰って来た後に、報酬の支払いを行おうとした彼女らの前で起きた奇跡。
重傷と呪詛により余命いくばくもなかった巫女達を、あの二人は癒しの術*7でもって次々と治療していった。
意識が戻らず衰弱するばかりだった秋穂もまた、多少のふらつきはあれど既に起き上がって会話ができる状態である。
最終的に与一が「一人一人だと面倒くさいので全員集めてください」と言って、【メディア】と【ペンパトラ】という術を使いまとめて治療。
流石に疲労があったのか、無事の生還を抱き合って喜ぶ巫女をよそに二人とも
本当ならこれだけでも彼女たちの全てを差し出して礼をしなければいけない偉業である。
「その上、やろうと思えば失った私の腕の治療も可能とは……正直、異界調伏を含めてもガイア連合を侮っていた、としか言えないわね」
「はい……間違いなく彼らは常識外れの霊能力者の集団です。ここに派遣されてきたあの二人が特別格上、というわけではないでしょう」*8
そも、『取り込む』ではなく『取り入る』と表現している時点で、自分たちの側に引き込むのは不可能と判断しているも同じだ。
無論最上なのは婚姻関係の締結だが、ガイア連合に女の術者がいないとも思えない。
霊的な素養を重視するなら、ガイア連合内部でお見合いしたほうが圧倒的に効率的である。*9
ではいっそ一夜の過ちでもカマしてもらおうかと考えたが、片方は小学生でもう片方は明らかなキレ者。色仕掛けが通用する相手とも思えない。
「……そも、私たちの体でお礼を、という発想自体が……どう考えても私と秋穂の体程度じゃ不足では……」
「やめようお姉ちゃん!一応年頃の乙女なんだから!それ以上は大切なナニカが折れちゃうから!!」
娘二人は【JK】歳である。容姿も相応に整っているが、流石に絶世の美女というほどではない。
仮にハルカがレムナントを連れてきていたら、あんな美女がいるのに自分たちでは、と一歩引いてしまうぐらい自分の『女』に自信がないだけだ。
そんな娘たちの様子をみかねて、当主であり母である春奈は一つため息を吐く。
「私達の方からあれこれ押し付けても、向こうからすれば迷惑な事もあるでしょう。
仮に故郷に恋人がいるとしたら、体で礼をすることはその恋人との仲を拗れさせる事になりかねません。
恩を仇で返す前に、私が直接条件を詰めて来ます……ですが二人とも」
『何を要求されても受け入れる覚悟はしておきなさい』とだけ言って、その日の会合は終わった。
【翌朝 西島家の屋敷 正門前】
「…………あの、夏芽さん」
「何も言わないでください、お願いします……!」
「じゃ、秋穂さん」
「すいません、いろんな意味で乙女としてのナニカが砕け散ったので、すいません……」
「あ、はい」
もう1つの、西島家の祭神が封印されているほうの異界の調伏については、交渉役等も準備してからじっくり進めることが決まった。
解放したはいいが、目覚めた神とトラブルになった案件は少なくない。第二のアラハバキ案件*10が起きたらシャレにもならない。
念のために結界に長けた黒札を派遣してもらい、万が一の場合は異界から出る前にシバき倒して調伏するという方針となった。
盛大に押し付けた恩に関しては、今後西島家は『霊山同盟支部』傘下の派出所となって、霊山同盟支部がA県で活動するときの拠点となることで決着した。
実質家ごとの身売りであり、彼女たちの持つ資産・財産・人材もまたガイア連合で運用することになる。
が、その代りとして送られてくる各種オカルトアイテムや【デモニカG3MILD】を考えれば破格すぎるトレードだ。
ここらで発生する異界は、四国の大赦が管理しているものよりは格上なのもあり、少量だがMAGやマッカ、稀に魔石程度は手に入るのが大きい。
ある程度支援して自立させつつ拠点として整備すれば、黒札が現地で活動するときの一時拠点としては十分に発展可能である。
ここまで冷静に利益の話をしてきたが、それは『目の前の光景』から現実逃避している少年少女の思考のせいだ。
具体的に言うと……。
「それじゃ、『はーちゃん』。次は祭神の解放をするときに来るからね♪」
「そ、そんな、はーちゃんだなんて……こんな年増を、それに娘の前で……」
「いいのいいの、それにまだまだ20代の美人さんで通る外見なんだから自信持たなきゃ♪」
「も、もう。与一さんってば……」
盛大に乳繰り合っている与一と春奈から目を背けたい小学生(ハルカ)と娘(夏美&秋穂)である。
詳細な条件を詰める、ということで行われた与一と春奈の話し合いだが、朝までかかったソレがどーいう内容だったのか。
だいたい想像はつくけどいろんな意味で想像したくないのが彼ら/彼女らの常識であった。
実の母親が死んだ父親を忘れたように雌の顔をしているのを見せつけられて宇宙猫になっている姉妹。
まさかの指導役が交代しても鋒山家案件*11が発生するという現実に頭痛を覚えるハルカ。
そう、与一の言う『自分の利益』とは、与一の難儀な性癖である『未亡人フェチ』にあった。
巫女等の血が強い家も多いため、この界隈なら夫を悪魔との戦いで失った美人未亡人はそこそこ見かける。
そーいう家を探し出し、俺TUEEEで救世主ムーヴしながら未亡人の愛人を増やしまくるという業の深い黒札……それが鎮西 与一であった。
女性型の専用式神を持たない理由も簡単で、何をどうやっても専用式神は『未亡人にはなれないから』というのが理由だ。
……ちなみに、人妻も好きだがリアル寝取りをやらかすほどの悪性が無いあたり、妙な所でバランスが取れている。
一方の春奈も、姉妹が幼い頃に夫を亡くしてからは当主として己に厳格さを強いてきた。
当然再婚など考えたことも無く、男性経験も少ない故に盛大な男日照り。
夫との出会いも霊能一族同士の見合い結婚ということもあり、年下の美青年かつ神話の英雄がごとき霊能力者である与一に口説かれ、一晩ですっかり骨抜きにされていた。
というか、与一の手で静音結界を張られた部屋だったので、それはもう朝まで『人に聞かせられない声が出るような行為』をされていた。
色んな意味で死んだ目になっている娘二人と、雌の顔で見送る春奈に手を振って、屋敷を後にしたハルカと与一。
来た道である石段を下りながら、与一は軽い調子で問いかけた。
「参考になったかな、ハルカ君?」
「ええ!最後以外はね!!!」
鷹村ハルカ、十二歳。魂の叫びであった。
登場人物資料『静西 与一(シズニシ ヨイチ)』
年齢 19(前世は換算しない)
LV 27
狙い撃ち
連射撃ち
刹那五月雨撃ち
メギド
ハンマ
メディア
ペンパトラ
※主な習得スキルのみ抜粋
ガイア連合の黒札(転生者)であり、地方遠征組の一人。
外見はドリフターズの『那須与一』。
山梨支部所属の真面目にレベリング勢で、レベリングと同時に神主から修験道を学んだ山伏。
弓術関連のスキルも覚えてからは弓の練習も熱心に行っており、自己研鑽については修羅勢にならない程度に熱心。
……なのだが、欲を律するには程遠く、酒は嗜まないが肉欲にはひじょーに正直。
とはいえハニトラに引っかかるほどマヌケではなく、本編のとおり、高レベルの知力・魅力と顔と舌を活かして盛大に未亡人をひっかけている。
あちこちでこんな感じの霊能力者の愛人を作っては、遠征時の拠点替わりにしてるマジメ系クズ。
阿部ほどではないが愛人に子供も産ませているが、
養育費として後々ゴミになる日本円
+
魔石等のダンボールに詰め込めるほど手に入るオカルトアイテムで支援している。
総じて『クズではあるけどバランス感覚のあるクズ』である。
登場人物資料『西島家』
当主 西島春奈(母) LV3
次期当主 西島夏芽(娘 姉)LV3
西島秋穂(娘 妹)LV2
外見はガールズ&パンツァーの『西住しほ』『西住まほ』『西住みほ』。
才能は特筆して言うべきところはなく、ロバの中ではマシな方、程度。
弓術と合わせて中距離である程度戦えるのが利点だが、悪霊系の悪魔は銃耐性・銃無効が多いのでひじょーに相性が悪い。
そのためハマ系の術を乗せて放つ技術を奥義としてきたが、習得できる者が限られていた上に一度近づかれれば餌食になっていた。
この一件の後、ガイア連合製の弓矢に変えてからは悪霊をアウトレンジから殲滅できるようになり、安定して間引きができているとのこと。
……なお、後々当主である西島春奈に『姉妹と年の離れた妹』ができることになり、姉妹が余計に複雑な顔になる模様。