アビャゲイル氏の『悪魔しょうかん』三次をお借りしました。
【日本某所 悪魔娼館】
「一文字違うだけで盛大におかしいんだよなぁ……」
「何が?」
「僕がここにいる事とか修行のためにココに来る必要がある事とか全部!!!」
ガイア連合の黒札、【ミナミィネキ】が作り上げた商業娯楽施設……。
というより、ドストレートに言えば『悪魔の風俗嬢が働いている風俗店』。それが『悪魔娼館』である。
当然だが、悪魔との性行為はたとえ悪魔召喚プログラムで契約している悪魔であろうと危険が伴う。
魔術契約などで安全を確保しても抜け穴を見つけられればMAGを搾り取られて殺されかねないし、性交中は心身ともに隙だらけだ。
そうやって暗殺された悪魔召喚士は歴史上何人もいるのだろう、人間とはまこと業の深い生き物である。
……というわけで、黒札でありショタオジの弟子でもある【ミナミィネキ】が作ったのが、安全に悪魔と性行為が楽しめる【悪魔娼館】だ。
魔術契約に加え、ミナミィネキ手ずから訓練した美女・美少女・美青年・美少年の悪魔がお出迎え。*1
性技に加え、性格面でも徹底的な指導を受けたことで式神相手の性行為に慣れたお客様にもご満足いただける仕様である。
「いや、世界最古の職業って言うぐらいですし、娼婦に対して偏見は持ちませんよ?
そういうモノが必要なのもわかりますし、情交が儀式的に意味があるのも理解してます。
小学生を連れてくるんじゃないよ!特に……」
「あら、ハルカ君。しばらくぶり♪」
「これで3回目ですけどこの人と会うのにここはアウトでしょぉ!?技術部のラボとかじゃダメなんですか!?」
「こっちで会うほうがお前の反応が面白いから却下」
「クソ師匠コラァ!!」
……先ほどからちらほらと名前が出ている、ミナミィネキこと【新田美波】。
悪魔召喚・契約・式神作成などのガイア連合が誇る技術を十全に学んだ技術者であり、ガイア連合スケベ部で特に有名なド淫乱美女だ。
悪魔娼館なんてトンデモ施設を作り上げただけでなく、内部でできる事を考えたら実質【邪教の館】になりつつある、という有能な変態である。
まあ一般的にはシュメールでありそうな聖娼だの悪魔の風俗嬢だの男娼だのがごっそりのいる館なんて邪教極まりないから邪教の館であってそうだが、それはそれ、これはこれ。
スケベ部筆頭であることを除いても、シノや阿部とは別の意味で有能な技術者なのは間違いない。
……ハルカと並ぶとおねショタ犯罪臭がすごいが、阿部と一緒にいる時のほうがホモショタでもっとヤバいのでセーフ!
なにはともあれ、何故この施設を利用し無さそうなハルカが、それも3回も訪れてるのかというと……。
「それじゃあ、今日も式神ボディの調整をしましょうか……と言いたいけど、先に阿部さんの用事からね?」
「……ああ、そういえば今日は師匠も用事があるんでしたっけ」
ご存じ、ハルカの体のほとんどは【ギルス】という式神の肉体で構成されている。
コレのメンテナンスは式神技術に通じた黒札にしか行えず、必然的に施術できる場所も人材も限られるのだ。
とはいえ通常ならそこまで高頻度のメンテは必要ないのだが……。
「……ところで、今度は何やったの?生体装甲部分が全焼、式神筋肉が焼き切れるって。
アギダインどころかマハラギダイン叩き込まれてもここまでウェルダンには……」
「ちょっと全身を内側から燃やしながら戦闘を……二回ほど……」*2
「エンチャントファイア!?」
もちろんそんな網の上で焼きすぎた焼肉みたいな状態で出歩くことはできないので、既に回復魔法や各種アイテムで治療済みだ。
が、こういった無茶をした後は当然体に不具合がでないか心配になるわけで。
死闘と呼べる戦闘を経験した後は、その都度阿部やシノやエドニキや黒医者ニキといった技術部黒札たちの診察を受けるのである。*3
「もうすぐ中学校に上がるので、後者で不具合起こして誤作動させるわけにもいきませんから……」
「あ、そっか。ハルカ君、来月から中学生だものね……うん、大丈夫。ちゃんと用事を済ませてから診察してあげる」
「ありがとうございます、新田さん」
(こうして普通の会話してる分にはただのほほえましい関係なんだが、ミナミィネキのせいで盛大にインモラルな雰囲気がするんだよなぁ)
イン♂モラルな雰囲気を作り出してる男が言えた義理ではないが、確かに風俗店の一室で会話してるのもあってひじょーに犯罪臭い絵面である。
なにはともあれ、阿部が「シノから渡されたブツだ」と言って持ってきたトランクと共に奥の部屋へ。
ハルカの方は、ミナミィネキから「あ、ジュースならあるから、遠慮なく飲んで待っててね?30分もせず終わるから♪」と言われ、待合室の隅っこでソファに座って待つことになった。
(……とはいえ、待っててね、と言われてもなぁ)
ストローをさしたオレンジジュースをちぅー、と飲みながら、どうしても周囲に目が行ってしまう。
3回目の来訪ということもあり、行きかう悪魔娼婦や悪魔男娼には見慣れた顔もなくはない。
ここは黒札の客・スタッフと従業員しか来ないVIP向けの待合室なので人気は少ないし、プレイルームでもないのでおっぱじめるバカもいない。
ちょっとしたキャバクラのような雰囲気になっており、目を付けた娼婦や男娼を連れて奥へ行って……なんてことも可能らしいが、ハルカはあんまり詳しく知らなかった。
(まだ昼間なのもあって、お客さんほとんどいないからなぁ。いや、まあ、そういう時間を選んできたんだろうけど)
阿部に聞いたところによると、このスペースは悪魔娼婦を侍らせながら黒札同士で商談をする『接待』に使われることもある、とかなんとか。
そこらへんは一般企業と同じだ、『接待』にキャバクラ使うとか昭和かよと言う人もいるかもしれないが、美女に囲まれれば気を良くするのが男のサガ。
黒札同士でモメないように色々工夫してるんだろうなー、とか考えていたら、ふいに人の気配を感じた。
『お客さんかな?』と思いつつちらりと振り向くと、金髪の少女がふらりと待合室に現れていた。
年齢は推定だが10代中盤から後半……ハルカよりいくらか年上に見える。黒札ならばこの年齢でとんでもない強者と言うのもよくある話だ。
しかしどこか陰のある表情で、微妙に退廃的だが明るい雰囲気の店内に対し、彼女の周囲だけ若干暗く感じるほど。
そして、彼女が訪れたとたんに悪魔の従業員……特に『男娼』の空気にわずかな変化があったのを、ハルカは微細に感じ取った。
(警戒、困惑、あとは忌避感かな? ……何があったんだろう、ここの従業員、新田さんがしっかり教育してるって話だけど)
オレンジジュースをちびちび飲みながら、すごすごと隅っこの席に座る彼女をもう少しだけ観察する。
以前、夜に訪れた時も彼女のような女性の客はいた。美少年の男娼を両側に座らせ、ゆるんだ顔で酒かジュースを飲んでいた記憶がある。
男性客とそれほど楽しみ方は変わらない以上、彼女も男娼を買いに来たはずなのだが……。
注文を取りに来た悪魔従業員にソフトドリンクだけを頼み、それを飲みながらテーブルに備え付けのタッチパネルを無感情に見ている。
(メニュー……あ、これか。 うわ、食べ物や飲み物のメニューだけじゃなくて娼婦のメニューもある!?)
最近の外食チェーンによく置いてある、タッチパネル式の注文機械。
一応キャバクラ風スペースでの注文にも使えるが、席に呼ぶ娼婦・男娼の注文もこれでこなせるようになっていた。
従業員を呼んで注文するのが億劫な者は、これを操作して注文してください、ということなのだろう。
なのだが、その少女は男娼を呼ぶ気配もなく、同性愛者のように娼婦を呼ぶ気配もなく、時折おかわりのドリンクだけを頼んで座っているだけ。
操作を見る限り、男娼を頼もうとする気配を見せてはドリンクのページに戻す……を繰り返しているようだ。
そして、こういう少女を放っておけない男がここにいた。
「すいません、隣に相席よろしいですか?」*4
(後で新田さんに土下座して謝ろう。それでもだめなら腹を切ろう)
「え……? あ、はい、どうぞ」*5
ダウナーなテンションのまま、隣に座ったハルカをちらりと見て返答する少女。
ハルカの方から少しずつ話題を振り、ちょっとした雑談交じりに距離を詰めていく。
いきなりグイグイいっても警戒されるだけ、当たり障りのない会話を間を開けて行い、少しずつ相手の情報を探る。
そして、10分程度会話を続ければ彼女のテンションが最底辺からやや低め程度まで回復し、彼女の名前……『伊予島 杏(いよじま アンズ)』と言うらしい……を聞き出すこともできた。
このぐらいのコミュ力を磨いておかないと支部長なんてやれないのである。超人だらけのガイア連合支部長たちと交渉しなければならないのだから。
ちなみに、この事態を受けて一部従業員がミナミィネキと阿部の所に駆け込んできたが……。
「占い的には吉兆しか出てないな」「うーん……じゃ、じゃあ経過観察で……」
と言う判断により、この二人のいるテーブルは要観察状態で放置される事となった。
「なるほど、このお店に迷惑をかけるような失敗をしてしまったのを気にしている、と」
「はい……あまり細かい事は話せないんですが、そのせいで大切なモノを無くしてしまって……」*6
彼女が起こした事件だが、詳細に語るとこの小説がR18になってしまうので概要だけ説明すると。
好みの美少年専用式神を貰ったのはいいが、俺の嫁にはYES LOVEだがノータッチ!という性癖だった為に手を出さず、
その分ため込まれた『美ショタとアレコレしたーい!』という欲求をこの悪魔娼館の男娼で発散。
問題は専用式神の自我が育ち始めており、その状態で元ゴブリン現美少年男娼に自分の主がギシアンされるのを黙認せざるを得ず。
結果的に式神はNTR脳破壊を長期的に受け続けてしまい、オキニの男娼二名を身受けしたところで店の中で盛大に暴走。
ミナミィネキによって鎮圧されたものの、悪魔娼館一号店に多大な被害が出た悪魔娼館初期の失敗例である。
「……借金返済は終わったんだけど、いざそうなると何をしていいかわからないの。
あれ以来、何とか立ち直ろうと色々試してみたけど、どうしても立ち直れなくて……。
このお店に来て何もせず帰るのも、これで4度目か、5度目か……。
癒されたくてきたのに、誰かを指名してお話しする勇気も持てなくって……」
(ふむ……見た感じ、僕と同じぐらいかそれ以上の霊能力者だけど、ここまで折れるほどの何かがあったのか……)*7
この時点で、ハルカはおおよそ彼女の精神状態を察していた。
失敗や喪失があまりに大きすぎた事による『再起への恐怖』、それが心を食いつぶしている。
無理に立ち上がって挑戦しようとすれば、途中で心が耐えられなくなり余計に深みに落ちる。
かといって立ち上がれないままだとどんどんドツボにハマる、まさしく八方塞がりの袋小路だ。
こういう時は何かしらの気分転換でメンタルリセットするのが大事なのだが、良くも悪くもマジメそうなので引きずってしまっているのだろう。
(それでも店を壊した借金返済という『義務』のためになんとか頑張っていたが、それが終わったことで燃え尽きた、と)
「伊予島さんは、ちょっと何も考えなくなったほうがいいかもしれませんね」
「え……?」
「心が弱ってるときに何かを考えても、今以上にヘコみ続けるだけです。
それならいっそ、何も考えない時間を過ごしつつ、誰かに弱みをぶつけるべきですよ。
悪魔娼館(ここ)はきっと、そういう場所ですから。一時の夢で弱みを忘れるための……」
「一時の夢……なら、貴方が夢を見せてくれるの?
正直、その……かなりみっともない所を見せる事になると思うのだけど。
引かない?ホントに引かない?」
「僕でいいなら、よろこんで。それに、弱ってる女性に露骨な悪感情を向ける外道になったつもりはありませんから」
「そ、それじゃあ……」
そして、若干息を荒くした伊予島が少しずつハルカに近寄っていき……。
【十数分後】
「【獣の眼光】のスキルカードはこれでいいわ。
それにしても、よく用意できたわね、獣の眼光が入る情報媒体なんて。
それに、確か貴方【龍の眼光】が使えたんじゃ……」
「シノのところの試作品さ、これでようやく獣の眼光が入った。
まあつまり、龍の眼光が入るような情報媒体はまだ完成してないんだよ」
「ああ、なるほど……だから獣の眼光が使える私の所に来たのね」
阿部は【龍の眼光】は使えるが【獣の眼光】は使えない。
そして、スキルカード作成では【強いスキルが使える】事が必ずしも最適ではない。
なんらかの情報媒体にスキルを保存する以上、強力すぎるスキルや魔法は収まるカードが存在しなくなるのだ。
なので、需要がありそうなスキルはむしろ最上位よりもその一個下ぐらいのスキルの方が安定して生産できたりもする。
全門耐性ではなく各属性の耐性のスキルカードに需要があるのも、主にコスパと入手難易度の関係である。
「さーて、あの二人はどうなったかな。一応占いじゃ吉兆が出てたが」
「これで脳破壊事件アゲインだったら今回は弁償じゃ済まないからね?」
「そんときは俺が責任もってショタオジに土下座するさ、さーて……」
スタッフルームから待合室に向かおうとするが、なぜか従業員たちが物陰に隠れてこそこそと待合室をうかがっている。
「もっと詰めてよ!」「見えないでしょ!」と小声の押し合いへし合いでベストポジションを取ろうとしているあたり、何かしら【面白い事】は起きているらしい。
客があの二人しかいない時間帯とはいえ、ミナミィネキの訓練を受けた従業員がこうなる程度には、そこに『何か』がある。
「……何があったの?」
「あ、ミナミ様!アベ様!見てくださいアレ!」
小声で待合室を指さすイケショタゴブリンに、何事かとこっそりのぞき込んでみれば……。
「いちゅもいちゅもね、しきがみラブ勢がね、じとーってみてくりゅのよ!」*8
「うんうん、あんずちゃんは沢山頑張ったのにひどいねぇ」
「しょうなのぉ、あんずがんばったのにひどいのよぉ!たくしゃんマッカも稼いだのにぃ……」
「よしよし……さ、可愛いお顔が台無しですよ。目の下のクマが消えるよう、お昼寝しましょうね」
「んぅ、ぱぱぁ、はるかぱぱぁ……んちゅ、んちゅ……」
「「なにこれ……?」」
思わずそう呟いてしまうのも無理はない。なんせ状況を端的に説明瑠するなら
『自分より年下の男の娘寄りの美ショタ&筋ショタをパパと呼んで赤ちゃん言葉で甘えてる少女』である。
しかも膝枕までしてもらって、お昼寝と言われたら自分の親指をしゃぶりながらすやすやと寝始めた。
眼を離していた30分程度で一体何が?!と二人そろって宇宙猫になるのも無理はない。
「最初は普通の会話だったんですけど、ハルカ様が鼻息荒く近づいてきた伊予島様を『ハグして頭を撫でた』所から状況が変わりまして……」
「胸元に抱き寄せて『よしよし』って囁きながら慰め続けて、段々と困惑→羞恥→すすり泣き→安楽、って感じで推移していって……」
「最終的には見ての通り、ハルカ様を『ぱぱ』って呼びながら膝枕の上で甘え倒してます」
「「どういうことなの……?!」」
これに関しては、ハルカが本質的には『この店の従業員じゃない』のが非常に大きい。
この店はあくまで一時の夢を与える場所、ミナミィネキも以前の失敗から、ハマりすぎないように工夫する塩梅を身に着けた。
……が、伊予島に必要だったのはむしろ逆。自分を収められるほどの器を持つ相手にドロッドロに甘える経験である。
こればかりはイケショタゴブリン達では荷が重い、彼らはミナミィネキの教育のおかげで愛を与えることはできるが、元はゴブリン。
色んな意味でスレ切った彼女の精神を受け止めて、なおかつどれだけ寄りかかられても折れないだけの『心身の強さ』は無い。
具体的に言えば『彼女と文字通り同等かそれ以上の強さ』かつ『クソ重感情を受け止められる器』かつ『彼女の性癖にクリーンヒットする美ショタ』じゃなければいけないとかいうクソゲー案件である。
ショタオジでワンチャンあるかないか、とかいう超ニッチな条件を、しかしハルカは満たしていた。満たしてしまいました。
おしゃぶり代わりに自分の指をしゃぶりながら、久方ぶりの熟睡にふける伊予島。
感情抑制のために再改造された自分の式神を見た瞬間の悪夢を、毎朝毎晩延々と見続ける日々からようやく解放されたのだ。
その後、寝ている間に他のお客さんの迷惑にならないようスタッフルームの仮眠用ベッドにて八時間ほど爆睡した伊予島。
目覚めた後に改めてハルカを指名しようとして「あ、すいません。僕男娼じゃないんです」の一言で宇宙猫→土下座のコンボを華麗にキメて、
最初の一時間すら待たずに先に帰ってしまった阿部を追って、8時間ずっと膝枕をしていたハルカに礼を言ってから見送ったのであった。
しかし、今回の一件で盛大に目覚めてしまった新たな性癖に嘘はつけず……。
「ミナミィネキさん」
「……どうしたの?」
「私、パパのおっぱいを吸えるように頑張るね……」
「伊予島さん、寝てる間にテンタラフーにでもかけられたの???」
伊予島 杏。(原作通りかつ転生前計算に入れなければ)14歳。
家に帰ってから特撮俺達経由でハルカにスパチャを入れつつ、密かに霊山同盟支部への支援・移籍を検討し始めたのだった……。