寝る前にふと思いついちゃったのでぽい。
【霊山同盟支部 稽古場】
「……槍術、棒術といった『長物』は、近接武器の中でも独特の才能を強いられます」
ひゅるん、と音を立てて、手に盛った『たんぽ槍』をひと回し。
慣れた手つきで【槍】を扱うのは、ご存じ仮面ライダー、鷹村ハルカである。
霊山同盟支部にある稽古場は、実践訓練用に異界内に作ったものから、今ハルカが佇んでいる道場型のモノまで様々だ。
オカルト技術による強化を施された床や壁は、霊能力者同士の『試合』でも簡単には壊れないように加工されている。
流石にアギダインでも叩き込めば燃えるだろうが、武術の訓練をする分には十分だ。
併設された温泉は湯治にも最適で、イワナガヒメの加護を応用して肉体の回復能力を高める効果がある。
ガイアカレーを筆頭とした回復効果のある料理も取り揃えており、訓練場としての設備は悪くない。
……県一つ跨いだ先に山梨支部があるせいで黒札が来る理由が皆無という欠点こそあるが、現地霊能力者にとっては破格の設備だ。
その道場の中で、ハルカは『誰か』に武術の指南を行っていた。
「どのような武術においても、『間合い』というモノは最重要要素の1つ」
話している最中に、目の前の相手が突き出したたんぽ槍の先を、槍同士の軌道を合わせて『逸らす』ことで首のすぐ横を通り抜けさせる。
「この『間合い』というのは、攻撃が届く位置という単純な意味だけでなく。
相手の防御・回避が間に合うか否か、意識や呼吸の隙間を突けているか否か。
そういった様々な要素が絡みあった……『槍が当たるか外れるか』の判断基準です」
突く動きから薙ぐ動きに変わった相手に、すり足で少しずつ間合いを開ける。
純粋な瞬発力で言えば、ハルカよりも『対戦相手』の方が数段は上。
キック力ならば勝っているだろうが、100m走では負ける。そういう能力差だ。
だがしかし、何故か対戦相手の『間合い』にハルカの姿が入ってこない。
「ただただ走って追いかけるだけでなく、攻防の合間に距離を調整する。
棒術や槍術の演武が美しく見えるのは、その距離を調整する足さばきの妙故に。
ドタドタと走るばかりでは100年かかっても追いつけません。すり足です,すり足」
一瞬で間合いを0にする『対戦相手』の健脚を見ながらも、ハルカはあくまで冷静に。
一度間合いが近接戦になろうと、二度、三度と打ち合っている内にいつのまにやら互いの距離が開いている。
かつて、とある薙刀の達人は『彼女の足は床から紙一枚上を滑っている』と評価された事があるそうな。
それほどまでに、磨き上げられた歩法というモノは攻防においてアドバンテージになる。
「話を戻しますが……槍というのは面倒な武器でして。
武器・武術の中でもことさらに『間合い』を重視する。
拳や刀剣よりも遠くへ届き、弓矢や銃よりも判断を求められる速度が速い。
故に、常に最適な『間合い』を維持する駆け引きと技術が必須となります」
対戦相手である『彼女』は、悪魔と戦い始めてからほんの数ヵ月。
シキガミパーツの移植とスキルカードを利用した『技術の習得』も行っていないとなると、棒術を習得する時間は無かっただろう。
黒札ですら、保証されるのはあくまで『霊能の才』のみ。武術の才は個々人の資質に深く依存する。
前世の経験、もとい前前世の種族によっては武術の天才と言う事もあるかもしれないが……。
『彼女』の前前世はどう考えても魔獣か妖獣、よくて聖獣か神獣だ。
人間の技術の集大成ともいえる『武術』に長けている種族とは思えない。
「貴方があの『棍』……いや、『棒』ですか?を武器として扱うのならば。
ましてや、それが僕にとっても縁深い……『クウガ』の武器の模倣なれば。
腕力だけの素人が、鉄パイプを振り回すような戦い方をさせるわけにはいきません」
気合の咆哮と共に放たれた上段突き、それを半身になって回避し、たんぽ槍の石突で足を払う。
常人離れして優れたバランス感覚であろうと、物理的な法則に囚われる以上、足が宙に浮けば転ぶだけ。
無論、0.1秒以下の時間で建て直せるのだが……接近戦において、その瞬きの時間は致命傷だ。
「僕も二流の槍使い*1という自覚はありますが。
それでも教えられる事はある……槍術・棒術の基本にして奥義。
足さばきと駆け引きによる間合いの測り方と変え方、それを覚えず長物を振るえば……」
どすっ、と対戦相手……即ち、厄介客二号こと『幼女ネキ』。……【鵺原リン】の鳩尾にたんぽ槍の先がめり込む。
無論、ただ頑丈になるよう加工されただけのたんぽ槍だ、食らっても大したダメージもない。*2
が、衝撃は別。足払いで宙に浮いていたのもあって、幼女ネキの体がすぽーんと道場の床を転がっていった。
「分かりやすく体験してもらいましたけど、こうなるわけですね」
「で、できれば体験じゃなくて理論からがよかったなーって」
「痛く無ければ覚えませぬ。
それに、数ヵ月で二年以上かけた僕と同等かそれ以上のレベルなのは驚嘆に値しますが、
『同レベルかそれ以上で技術を持った相手』との経験が不足している様子」
「あー、まあ、レベリング最優先だからなぁ……」
数ヵ月でLV56というのは、黒札として考えても相当なハイペースだ。
レベリング最優先、かつ式神にまで経験値を配分してこのレベルとなると、幼女ネキの対人戦技術・及び武術習得度はそこまで高く無いと推測できる。
というか、そもそもメインの戦闘スタイルが『ヌエを中心とした悪魔に変身しての圧殺』だ。
人間の体で正拳突きを極めたからと言って、ヌエに変身したらネコパンチしかできないし、キングフロストとか腹が邪魔だし腕が短いし……。
というわけで、それこそ変身先が全部人間型悪魔でもないかぎり、デビルシフターにとって武術って学ぶ意味が薄いのである。
つまり、ハイペースでレベリングしてた幼女ネキが、彼女にとって『優先度の高く無い技術』なんて習得してる時間は無いわけで……。
山梨支部なら鍛練に付き合ってくれる黒札や指導用式神もいただろうが、結局武術の基礎とは反復練習。
となれば、大抵の黒札にとって木刀なんぞで素振りしてるヒマがあれば悪魔の一匹でもぶっ殺した方が強くなれるのである。
「ですが!ユウスケさんと同じ武器を使うのならば話は別!
彼の棒術を唯一見たことがある僕が指導役をやります!寧ろ無理やりにでも叩き込みます!
具体的には先日霊山同盟支部のロビーでダダこねて業務妨害してた事へのペナルティで!!」
「別のペナルティにしてほしいです!!」
「じゃあ尻を出してください。イヨジマさんがすごい顔になる尻叩きを100回で手を打ちます。尻叩きだけに」
「ワーイ棒術ノ特訓ウレシイナー!!!」
(痛いとか通り越してメス堕ちしそうなスパンキングとか受けてたまるかァー!?)
鋼メンタルな彼女からすれば、たんぽ槍でシバき回される程度は苦にもならない。
痛みも無いし、なんなら安全が保障されている分山梨支部でのレベリングより肉体的には楽まである。
が、問題は精神面であって。
(自分より年下*3の少年にシバき回されるって精神的にクる!!)
「さ、この道場はクソ師匠による調整異界化のおかげでちょっとした精神と時の部屋状態です。*4みっちりやりましょう!」
「……ええい、これもドラゴンロッドを使いこなすためだァー!!」
「その意気です!はい、次はすり足保ったまま道場を100周ランニング!!」
「足ついたままなのにランニングって言うのか!?」*5
……なお、このしばらく後にハルカが影の国に放り込まれてスカサハ流槍術まで身に着けた上に、公式超ド級スパルタ師匠まで持って帰って来たせいで。
うっかりスカサハに見つかろうものなら影の国式槍術ブートキャンプに巻き込まれる可能性が出てしまった模様。