時系列は『泣いた悪渦鬼』編の序盤ぐらいです。
『G3ユニット』……ガイア連合技術部のとある転生者が発足したデモニカスーツのテスト部隊であり、
自衛隊とは別口でデモニカスーツの試験・運用を行う試験部隊だ。
現地人(特に金札)に対してデモニカスーツの譲渡を行う黒札が増えたことに伴い、自衛隊のような訓練された組織以外での運用データの不足が表面化。
さらに自衛隊のように『数を揃えてゴリ押す』以外の場面が求められる事も増えたため、別口での装備開発の必要性まで発生。
前者に関してはその転生者が個人的な付き合いのある黒札、あるいはそこを経由して地方霊能組織に『G3MILD』を譲渡することで運用データの収集を行っている。
が、流石に試験武装までとなるとあちこちにバラまいてデータ収集するには不適当。
仮に地方霊能組織に試験運用任せたら実戦で欠陥発覚して死にました、なんてことになったら色々とマズい。
そのため、ある程度は技術部転生者の思うままに動かせるデモニカ部隊が必要になったのだ。
そして今日もまた、G3ユニットに新たな変態装備が持ち込まれる……。
【霊山同盟支部所属 ガイア連合兵器試験場】
「というわけで、新たな試験装備がやってきたぞー!」
ハイテンションにG3ユニットを呼び出した彼女の名は『兎山(トヤマ) シノ』
G3ユニットを発足した転生者であり、量産型デモニカスーツ『G3MILD』の開発者である。
コストダウン・軽量化・量産性の向上を同時に達成しながら戦闘に耐えうる『G3MILD』の開発者というだけあって、
技術部向けの霊能の才能を持ちつつ、本人の(前世含めた)技術者・科学者としての知見もたっぷりという、技術部になるために生まれてきたような女性であった。
「……またですか」
「今回はマトモなのだといいですね」
「低レベルだと生身で撃ったら骨折と脱臼するサブマシンガン*1が初期装備だぞ、私は諦めた」
それでもこんな扱いになるあたりマッドサイエンティストっぷりはお察しである。
ちなみに、こんな愚痴をこぼす二人の名は『ソフィア・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ』と『タティアナ・アラーベルガー』。
G3ユニットの隊長と副隊長であり、どちらもLV10を超えている一流の霊能力者*2でもあり、
状況が悪化し続けている海外からの亡命者でもあり、自衛隊関係者以外では数少ない『正式な軍事訓練』を修了している貴重な人材である。
「といっても、今回は技術交流の結果生まれた新兵器って感じだけどねー!ほら、あっちでデータ取ってるのが、シノさんとは別のガイア連合の技術部チーム」
「……横のつながりとかあったんですね、ガイア連合技術部」
「普段『規格統一もできないのかあの趣味人どもぅうわぁあ~!!』ってキレてますもんね、シノ司令」
「や、あそこの技術部はまーだマシだよ。ヘンテコな外見のネタ装備作ったりはするけど。
それはそれとしてデモニカから収集したデータのフィッティングの手間が増えるから、
できればG3系列を採用してほしいけど……かといって1つに絞ると技術の停滞がおきる。
いろんな形式を『消費リソースが常識的な範疇で』試すのは大事!」
いずれG3タイプ、あるいはデモニカスーツそのものに欠陥が見つかる可能性も0ではない。
例えば、シノはいずれガイア連合外でもG3タイプが生産できるよう、少しずつ製造難易度や製造工程を簡略化し、フランチャイズ契約のような形で外部委託できるように計画を立てていたのである。
崩壊後は友好的なシェルター等に『G3MILD』タイプの生産設備を設置、技術者を育成しG3MILDを使ったチームを編成。
異界でも通信できるG3トレーラーの大型通信機を発展改良していき、ガイア連合の金札や地方黒札等を主体に連絡網を作る。
崩壊後はシェルター同士に『道』の概念をを付与していないと各地のシェルターの流通が完全に寸断される問題も、
通信技術と各地の戦力さえ確立しておけば現在行っている『霊道』や『ターミナル』の設置と合わせ、救援や異常事態の報告が迅速に行えるのだ。
「だから、将来的にはG3MILDの生産は『外部委託』する予定だったんだよねぇ。
そうすればガイア連合はG3やG3Xなんかのハイスペックデモニカに集中できるし。
生産拠点そのものが増えれば、自然とG3系列で規格統一されていくだろうから。
なんせパーツの安定供給力が違うわけだし。でも、そうなったら今ほど色んな実験はできない」
「なるほど……自衛隊や警察の影響力と合わせて、G3系列がトップシェアを独走する前に他の技研で様々な研究・実証をしてもらいつつ、シノ司令の研究成果との技術交換によって『安定性』と『意外性』をバーターする、と」
「そゆこと!実際、巷で出回り始めた『G3R』*3ってシロモノもあるから、
早いとこ生産拠点を外部に作らないとAKみたいにパクられかねないからねー」
「確か……規格外品や試作品をくみ上げた『G3リサイクル』でしたか?」
「そそ。G3MILDは生産性を重視した機体だけど、初期のころは失敗もあったからね。
大量生産目指そうとして規格に満たないパーツが結構でたし、ボツになったパーツもあるし。
他の技研に捨て値で売ったりしたパーツもあるから、それを組み合わせて作ったんじゃないかな。
特許料(パテント)?オカルト世界にそんなモノはぬぁい!」
「とはいえ、私やタティアナのような『非才』の身からすれば『G3R』だろうとデモニカは喉から手が出るほど欲しいモノ……」
「だーよーねー。結局のところシノさんが開発したデモニカ・マザーマシン*4を他の技研の技術と交換で流して、少しでもデモニカの流通量を上げるしかないんだよねー。最大の問題は『デモニカ不足』だから」
こればっかりはデモニカ・マザーマシン式神の開発が遅れたのが悪い。
というのも、デモニカ・マザーマシン式神は別に万能デモニカ生産機ではない。融通が利くだけで一般的な工作機械の延長線上にあるのだ。
マザーマシンを式神化し、オカルト系のアイテムやデモニカのパーツを効率的に生産できるようにする……というアイディアはよかった。
が、そのためにはデモニカ・マザーマシンで『何をつくるのか』を明確にする必要がある。
ところがガイア連合は自由人の集い、マザーマシンに打ち込むデータの元になるデモニカ自体がデザインから細部の仕様まで千差万別。
技術者Aのデモニカと技術者Bのデモニカではパーツの互換が下手するとブラックボックスぐらい、なんてアホな事になってるパターンすらあった。
だいたい趣味に走った技術部俺たちが自分が大好きなアレやコレやを再現するために弄りまくった結果である。
そのためシノはデモニカ全体に対応できるデモニカ・マザーマシンの開発を打ち切り、自衛隊のゴトウ部隊や警察の対オカルト対策班に採用が決まった『G3』タイプを改良。
マザーマシンの設計を弄るのではなく、ソレで生産するモノの設計を弄り、さらに生産物をデモニカの量産ラインにブチこむことで無理やり解決したのだ。
デモニカ『不足』ではなくデモニカ『枯渇』になっていない原因の一端は、これによってG3系列のパーツを大量確保したシノの功績と言えよう。
……まあ、その為に『まずは数優先!』で完成品のデモニカ・マザーマシンだけでなく、試作機のデモニカ・マザーマシンまで使った結果発生した規格外品が『G3R』となったので、人生何がどう転ぶか分からないモノである。
「閑話休題!そんなわけで今回は『デモニカ・マザーマシン』の技術と交換で入ってきた『あるモノ』を組み込んだデモニカをテストしてほしいんだよねー!」
「!? か、完成品のマザーマシンそのものを技術交換に出したのですか!?」
「まあね。と言っても、それだけの価値はあるモノは仕入れられたし。
あそこの技術者はシノさんに負けず劣らず天才だわ。負ける気はないけど!」
「……天才って書いてキチガイって読みませんか?」
「ソフィア隊長諦めてください、ガイア連合は大体そんな感じです」
会話をしている間にも、ガチャガチャとなにやら『調整』していたモノをG3トレーラーから引っ張り出してくる。
一見すれば『黒いG3X』タイプのデモニカスーツ。しかし、細部の仕様はG3Xと異なっているように二人には見えた。
既存のパワードスーツに使われている人工筋肉をオカルトで強化したモノではなく、よりオカルトに近いパーツを多く使っている。
デモニカというよりは、一部の黒札が使っているような高性能装備に近い印象を受ける。
「デモニカ『G4』……G3Xですら追い付かなくなってきた霊能力者用に試作したモノだよ」
「G4、ですか。具体的にはどのような違いが?」
「ガイア連合ロボ部が開発した『試作型人工筋肉』*5、
これを採用しつつ全体的にオカルトパーツを増やした強化型だね。
強度は3.1倍、パワーアシストは2.6倍、その代わり軽量化なんかは考えてない。
完全に覚醒用、それもG3Xで物足りない人向けのハイエンド機さ!」
「……ですが司令、それだと既に育てたデモニカから乗り換えることになるのでは?」
デモニカスーツは所有者に合わせて最適化・成長するパワードスーツだ。
後からスキルを追加することもできるし、いくら性能がいいからといってすぐに乗り換えられるような装備ではない。
「もちこーす、そこも解決済みでノープログレム!
G3シリーズのデモニカは、シノさんの手が入った後期型からは対策済み!
ブラックボックス含めた記憶領域のカートリッジ化が進んでるのさ!」
「……ではまさか、先週受けた我々のデモニカのアップデートは……」
「そ♪『主要パーツのカートリッジ化』改造!カートリッジ部分を前のデモニカと取り換えることで、前のデモニカが学習した内容を次のデモニカに移行することができるんだよー!LV・スキル・装着者に合わせたクセまで事細かく!シノさんは『フィッティング』って呼んでるけどね」
確かに、この機能がG4にもついているのなら、G3Xでも持て余すようになる高レベル異能者でも対応可能だ。
元々使っていたG3XのカートリッジをG4に移植し『フィッティング』を行えば、元のデモニカと同じ使い心地で性能をアップさせることができるのだ。
代わりに元のデモニカは初期化された状態になってしまうが、それはそれでメンテナンス後に新人向けに回せばいい。
これから先必要になってくるハイエンド機としてのニーズに応えられるよう作ったのだろう。
「しかし、現状G3Xですらフルスペックを発揮するには程遠い。我々でもG3で十分な場面がほとんどです。このG4の装着者として想定されているのは一体……」
「んー……まあ、私みたいな『超人』かな。今後、シノさんたちに追い付いてくる後輩がいないとも限らないし」
(そうポンポンいるものでもないと思うが……)
「ともあれ試作機だからね、G3タイプになれてる二人にテストパイロットを頼みたいってわけ。
この人工筋肉を提供してくれた技研の皆も、人型に近い状態に加工してからの運用データはいくらあっても足りないだろうし」
「ええ、もちろん断ることはありえません、ありえませんが……もう1つだけ、質問があります。
このG4の『仮想敵』は、なんですか?」
装着者は最低でもシノに近いレベルの超人。
つまり一般的なDLVのレギュレーション3だと測定不能になる強さの怪物たち。
そんな怪物が纏う装備の仮想敵……既存のC3Xの2~3倍という基礎スペックを考えれば、マトモな悪魔ではあるまい。
少なくともソフィアとタティアナの二人がG3Xを身にまとい部隊を率いれば、『DLV70』近い悪魔はギリッギリなんとかなる。
となれば、もはやDLVという基準が役に立たない戦場に投入される装備である、と推測したのだ。
「……新潟の『アラハバキ案件』って聞いてる?」
「……? いえ、恐らく我々『金札』には開示されていない情報、かと」
「正確には許可が出てない金札には開示されてない情報かなー。
オッケー、ってことはまだあっくんからは聞いてないんだね。
つい最近、新潟県にて国津神アラハバキが復活。ただし早期接触・交渉に失敗。
人工物を分解し自然に返還す力をもって暴走を開始したせいで結構な被害が出かけたんだよね」
「なっ……あ、アラミタマ、というやつですか?まさか、G4の仮想敵とは……!?」
「うーん微妙なラインだけど大体そんな理解でイイヨ!幸いにして【田舎ニキ】*6……
まあ、黒札の一人が早期に接触・鎮圧。事なきを得たんだけど、備えあればうれしいなっ、て」
(……『備えあれば患いなし』では?)
『アラハバキ案件』、と言っても具体的な事件名が決まっているわけではない。
ショタオジが出張ったことで掲示板の話題になった事件の1つであり、上記の通り【国津神 アラハバキ LV30】が起こした事件だ。
つまり、このG4デモニカの仮想敵とは『LV30を超える悪魔』や、封印を解いたはいいものの交渉ぶっちぎって大暴れおっぱじめた神々と言うことになる。
なるほど、とソフィアとタティアナは一応の納得を得た。
「それにね、二人とも……このアラハバキ案件は『相当スマートに片付いた』事件なんだ」
「スマート、ですか?」
「うん、田舎ニキの迅速な対応と、協力してくれた黒札たちによる支援も大きいけど……
アラハバキが『破壊』じゃなく『回帰』。神々による再度の支配を望んでいたからだろうね。
これがそんな穏当な目的じゃなく、ただただ大暴れしたい……なんて神が目覚めてみなよ。
MAG不足だろうと温存なんて考えない、弱体化どころか破滅覚悟でLV上限をぶっちぎる。
50、60……いや、もっとかな。普通に国家存亡の危機が訪れるとシノさんは推測してる。
だからこそ、使える手札は1枚でも必要なんだよ」
ごくり、と生唾を飲む音は誰のモノだっただろうか。
その理性的なアラハバキ神ですら、G3ユニットを皆殺しにして余りある強さを誇る。
それ以上を想定した装備の試験ともなれば、二人も少し緊張感が戻ってきた。
……のだが、一方のシノが「たはー、でもねぇー?」と肩の力が抜ける顔をしたせいで、また緊張感がどっかいってしまった。
「試作には『妖鬼』系の素材がドンドコ必要っていうのがネックなんだよねー。
人工筋肉の補充もなかなかはかどらいから、中々こういう起動テストも行えなくって。
先日二人に話した『大江山』の件が上手く進めば、妖鬼の素材もがっぽがっぽなんだけど」
「酒呑童子の配下を試験素材にする気ですか司令……」
「いつもながらガイア連合はどこかイカれてますね……」
先にテストパイロットをするのはタティアナの予定なので、会話は装着しながら行う。
オートフィッティングにより、小柄なタティアナにしっかりフィットするようサイズが変化するG4。
この人工筋肉は『妖鬼系MAGへの適正で同調率が変化する』特性があるが、そこは元々タティアナが覚醒者だった事&シノによる調整と改造で克服したらしい。
「しょうがないじゃーん!【田舎ニキ】とはバイク用の石油との取引でG3MILDや付属装備を流す交渉中だから遠方への出張は誘いづらいし、『古都』周辺での活動実績がある【アーッニキ】*7は別の理由で誘いづらいし!一応どっちも声はかけてるけどさ!」
「【アーッニキ】……?」
「あー……ガイア連合の凄腕の黒札の一人で、噂では倒した悪魔が危ない薬をキメたような白目で見つかるとかなんとか……」
「……この前合同で仕事をした淫魔交じりのジャパニーズ・クノイチたちの系譜ですか?」
「流石に対魔忍と同じ扱いはやめてあげて。うーんと、【アーッニキ】は奥さんとか恋人とか愛人とか何人かいるんだよね。それ自体は珍しくないじゃない?」
G4に接続した機器から送られてくるデータを記録しつつ、キーボードを叩いていたシノがため息をつく。
この場にいる3人は、別に男が何人女を囲おうがこれと言って思うところはない。
寧ろソフィアとタティアナは(自分は加わる気0だが)黒札がやるのなら、多くの種を残してくれるハーレム状態は歓迎すべきものであった。
……日本各地で現地霊能者相手に種だけ残してヤリ捨てしてる安部ほど割り切るのもそれはそれとしてアレだが。
シノも似たような考えなので、どうやら『組ませづらい』というのは別の理由があるらしい。
「1つ目は、あっくんがアーッニキを見た時に『うほっ……いい男』な視線送ってたせいか無意識に避けられてる可能性があること。面識あるのか一方的に見ただけなのかはシノさんも知らないけどね」
「なにをやってるんですかあの破界僧」
「後で聞いたら鍛えられたいい体といいケツの形をしてたってニッコニコだったよ」
「なにを言ってるんですかあの破戒僧」
「もう一つは、あっくんじゃなくてたっちゃんの方。こっちが本命」
調整を終えてアップデート待ちの画面になったところで、常温のスポーツドリンクを一口飲んでからシノが口を開く。
「アーッニキのお嫁さんの一人が、たっちゃんの母親に瓜二つなの。双子の姉妹かクローンかってレベルで」
「……そこまでですか?」
「うん。まあ霊能力者としても人格面でもぜんっぜん別人なんだけどね、外見と声はクリソツ。まあつまり私やたっちゃんと似た声なんだけどさ」
「一緒にいたらものすごく会話が面倒くさそうですね」
なにせCV田〇ゆかりが4人である。
ともあれ、ハルカの母親が起こした事件の概要*8や、それまでの鷹村家での扱いを聞いたことがある二人からすれば、シノが【アーッニキ】(正確にはその妻)とハルカを会わせる機会を減らしたがるのも何となく理解できた。
「向こうも多忙だろうけど、戦力は一人でも欲しいから声をかけて……できればたっちゃんと会わないように采配する程度しかできないけどね。アーッニキ自身はあっくんよりよっぽとマトモだし」
「自分の惚れてる男をそこまで下げますか……」
「あっくんが世界で一番のゲス男でもシノさんは大好きだもーん♪」
「はいはい……」
はーっ、とげんなりしたようにため息を吐く二人をヨソに、調整が終わったのか、G4の拘束具が外れる。
シノのナビゲーションに従ってG3トレーラーを歩いて出たタティアナは、G4の稼働テストを行う試験場へと歩を進める。
試験用弾丸を装填した『GM-01 スコーピオン』を手に、ボウリング玉をG4目掛けて飛ばす多数の射出装置の中心に立った。
『G4システム、稼働試験を開始します』
「了解……稼働試験を開始します!」
……この2日後、全ての稼働試験を終えた『G4システム』は、大江山にて起きた『百鬼夜行討滅作戦』に投入。
兎山シノを装着者とし、大きな戦果を上げる事となった。
さらにここで採取された妖鬼系の素材は、シノを通じて人工筋肉を発明した技術チームに優先的に配給・販売。
同じ技術者としてのよしみか、多量の素材を使い惜しみなく技術研究に励めるように取り計らうのであった……。