半終末当たりのお話。
『アビャゲイルの投下所』様のキャラクターをガッツリお借りしました。
【霊山同盟支部 貴賓室】
「とゆーわけで、商品は色々開発してるし製造工場もガンガン作ってるし。
いざとなったらリース生産してる支部にも協力要請できるから、
必要なのは売り先なんだよ売り先!いや今でも困ってないけどね!」
(呼ばれたと思ったら徹夜明けみたいなテンションで解説されている……!?)
霊山同盟支部の支部長室のすぐ近くにある、重要な商談等に使われる『貴賓室』。
阿部の手による結界複数に加え、シノを含めた技術部が思いつく限りの防諜設備を備えた商談・会議用の部屋だ。
流石に山梨支部のソレには遠く及ばないし、その山梨支部ですら方法によってはファイアウォールを抜けるようなので、これでもまだ『気休め』レベルらしいが。
そんな貴賓室に今回呼ばれているのは、ガイア連合内の組織の1つである『KSJ研究所』の代表者の一人、大森カズフサであった。*1
裏では強烈なアンチメシアン活動をやりまくっている研究所ではあるが、阿部とそれなりに縁が深い黒札勢であり、シノも一目置くほどの技術力を持った技術者系俺達の集団である。
特に『地下を進む船』のアイディアは阿部経由で知ったシノが「その手があったかァー!!」と机から後方2回転しながら地面に落下するほどの衝撃であったという。
阿部も愛用の『蟲毒皿』*2を納入してくれるお得意様でもあるので、こうして商談のために呼ぶことも少なくないのだ。
「いやーごめんにぃ?今日で徹夜20日目だからさ。さっき3日ぶりにシャワー浴びれたぐらい忙しくって!」
「……なんか、その割にはイキイキしてるような……」
「まあ技術者冥利に尽きる環境ではあるからさ!じゃぶじゃぶ開発費が使えて!
人材もガンガン集まってきて他の研究所との技術提携もスムーズで!
おまけにだいたいの発明品がピンキリありまくるとはいえ人類の役に立つ!
流石に設備は山梨支部に劣るけど、自由度は圧倒的だもんねー!
あとは単に徹夜明けの脳内麻薬ドバドバランナーズハァーイ!」
(この辺のマッドサイエンティズムは流石についていけないんだよなぁ……)
ガイア連合には変人奇人が多種多様に存在し、そういう奴ほど有能だったりするのが事実は小説よりなんとやら、なわけで。
意外と人格面は黒札の中ではマトモな部類であるカズフサ、メシアンや天使への憎悪を除けば現地人への支援量含めて大当たりの部類な黒札である。
逆に言えば、この手の【有能な変人】相手だと、若干テンションに押される所があった。
「で、えーっと、話を戻すけどさ。今回KSJ研究所に依頼したいのは、『海外への販路拡大』なんだよねぇ」
「……海外?というと、中華戦線や欧米のシェルターみたいな?」
「そーそー。一応狩人ニキ*3のツテもなくはないんだけどさ」
元々、狩人ニキは山梨支部(もといショタオジ)から物資・設備などの支援を受けた上で活動している黒札だ。
今更霊山同盟支部が出張った所で、せいぜい各シェルターに配布されるアイテムの点数が少し増える程度の効果しかない。
狩人ニキの一行が持っていけるアイテムは限られる以上、霊山同盟支部の支援物資は『山梨支部の物資を詰め込んだ空きスペース』が定位置になるからだ。
「まあ、確かにKSJ研究所は蟲毒皿や蟲毒皿ピッチャー*4をメインに色々運んでるけど……。
霊山同盟支部から無理なく支援できるアイテムじゃ、焼け石に水な気がするなぁ」
呪殺弾は確かに天使相手に効果は高いが、KSJ研究所が提供している蟲毒皿で十分という感想が出てくる。
傷薬やマッスルドリンコ等の消耗品も同様だし、蟲毒皿ピッチャーでぶん殴ってるのを知った後は武器の供給も始めた。
ガードアクセラー*5は便利そうだが、現状のメインウェポンは蟲毒皿ピッチャーと小銃。
銃弾の方で色々カバーが効く以上、わざわざ『GM-01 スコーピオン』*6を持っていく理由も無い。
悪魔(天使)相手に近接戦を仕掛けられるような人材も少ない以上、シノの狙いがイマイチ分からないカズフサであったが。
「最新バージョンの『デモニカG3』、20機ほど『無料提供』するからさ。
信頼できるデビルバスターやシェルターに配ってきてくれない?」
「んなっ!?」
「いやー、狩人ニキにも5機ぐらい任せたんだけどね?
どっちかといえば蟲毒皿の代わりになる呪殺弾が欲しいみたいでさぁ」
『デモニカG3』……ガイア連合で量産されたポピュラーなデモニカスーツである。
【仮面ライダーG3】とほぼ同じ外見を持ち、内装は当時の一般的なデモニカと同じモノ。
しかし、シノがこれに目を付け、共通規格化やフレームの統一という【生産性の向上】を重視した改造を実施。
これを元に、廉価版である【G3MILD】、強化版である【G3X】。
LV30以上推奨のハイエンドモデル【G4X】、その白兵戦調整型【G1X】*7等が生まれた名機である。
細かなバージョンアップが現在も続けられており、一般的な人工筋肉から悪魔素材を用いた人工筋肉をデフォルトで採用。
剛性・靭性に優れた【妖鬼】と、柔軟性・軽量が特徴の【妖獣】の素材を元にした複合人工筋肉により、強度及びパワーアシスト効果は初期型を遥かに上回る。
式神パーツを詰め込んだブラックボックスのカートリッジ化で、デモニカが故障してもカートリッジを入れ替える事で即座に応急修理が可能。*8
ガイア連合技術部が開発した『安全な悪魔召喚プログラム』の搭載まで可能にした、完成系ともいえるデモニカスーツなのだ。
「アプリは『悪魔召喚プログラム』を中心にメジャーなのは一通り入れてあるよ。*9
更に悪魔召喚プログラム内に『式神アガシオンLV5』をプレゼント!*10
ムドとディアは覚えさせてあるから、対天使なら数合わせ程度にはなるんじゃない?」
オマケに装甲は『天使の羽』を素材にした対ハマ耐性装甲!
ハマにも種類あるからね、ダメージ発生するタイプなら有効でしょ」*11
「まったまったまった!?このてんこ盛りデモニカ20機をタダで輸出!?」
確かに、デモニカとしての性能自体は『すごい便利』以上でも以下でもない。
G4Xのようなハイエンドモデルでもないし、ガイアトルーパーのような最新型でもない。
一般に流通しつつあるG3タイプの最新バージョンに、これまたガイア連合ならそれなりの日本円やマッカ、ガイアポイントで揃えられるオプション付きという代物だ。
ある程度レベリングしている黒札が、お気に入りの金札等にちょっとお高いプレゼントするよ!ぐらいのデモニカである。*12
問題は、そんなもんを20機まとめてKSJ研究所経由で輸出するという点。
はっきり言って、カズフサからすれば『狙い』が読めない。
「いやね、ぶっちゃけ霊山同盟支部……あとスマートブレインが今後直面するのがさ。
『商品はじゃんじゃか作れるけど売り先が無い』って現象だと思うんだよね」
「? いや、各支部にリース生産を打診するぐらいデモニカG3は需要あるんじゃなかったっけ?」
「『今は』、ね。カズフサ君、終末後の環境で、ウチの商品が安定して販売できると思う?」
「……!!」
その時カズフサに電流走る。
確かに需要はある、ものすごくある、半終末でも終末後でも、霊山同盟支部の商品は売り先に困らない。
多神連合やメシア穏健派だって、廉価版である『デモニカG3MILD』を相場以上の金額で買いそうな勢いなのだ。*13
しかし、どれほど需要があろうと、終末後の時はまさに世紀末な世界で『安定した商売ができるのか』?
答えは『わからない』としか言いようがない。
「ターミナルシステムだって、いざ終末になった時に稼働率十割なんて期待できないしね。
『試供品』を大盤振る舞いしてでも、終末後に商品を売れる先は確保しておきたい。
上手く終末後もターミナルやデビオクが機能してくれれば、海外輸出も現実的になる」
「……なるほど、このデモニカ20機は『無料サンプル』か」
「スーパーでおばちゃんが売ってるウィンナーよりはお高いシロモノだけどね!」
KSJ研究所も、式神制作技術を抱えている以上、やろうと思えばデモニカやブラックボックスの製造も可能だ。
とはいえ今更設計図仕入れてデモニカ製造の練習を積むより、彼らはやるべきタスクが大量に積みあがっていた。
一方で、霊山同盟支部はデモニカの量産体制については全支部で1、2を争うほどに最適化と拡大が進んでいる。*14
だからこそ、KSJ研究所には『メシア過激派と戦っている海外組への支援強化』というメリットを。*15
霊山同盟支部は『終末後に残るかもしれない販路開拓』というメリットを。
海外の対メシア戦線の同志には『最新バージョンのデモニカに加えて新たな後援者』を。*16
一石三鳥な取引ということで、今回カズフサを霊山同盟支部に呼び出したのだ。
「とりあえず、俺の一存では決められないから、持ち帰ってジュンやスカリエッティとも相談するけど……ホントにいいのかこれ?初期投資にしても安くないぞ」
「いやー、ぶっちゃけさぁ。プレステ全盛期のソニーと同じミスをやらかしかねない状態でさぁ」
「……というと?」
「【G3MILD】と【G3X】が売れてるのに微妙に【G3】がダブついてるから輸出したい」
「なんで!!??」
思わずツッコんだカズフサであるが、これには深くて浅いワケがあった。
G3シリーズは共通規格に加えて強化改造も可能な発展性も確保されている傑作機。
やろうと思えばジムをジムⅡ→ジムⅢにするように、GMILD→G3→G3Xと強化していく事も可能なのだが……。
G3MILD=推奨LV15以下。未覚醒者の覚醒や低レベル時の補佐にうってつけ。
LV15あたりで色々物足りなくなるが、お値段はお安い。
G3=推奨LV1~30。幅広く使える、良くも悪くも普通のデモニカ。値段は並。
G3X=推奨LV10~30。上記の2種では物足りなくなってきた人向けの拡張・強化版。
LV10未満だと微妙に使い切れない機能が多いし、ちょっとお高い。
こういう具合である。
そして、デモニカは改造費用も安くはない。買い替えるよりはずっと安いが、デビルバスターからすれば他に金をかけたい部分はいくらでもある。
「そのせいで『G3MILDを安く買って長く使って、途中で一気にG3Xに強化して改造費用を浮かそう』って考えるデビルバスターが増えた……!!」
「あー……良くも悪くもG3が中途半端になっちゃったのか……」
「G3のフレームは大人気だけどね!ガワだけ変えて特撮ヒーローとか再現するのにちょうどいいから!G3は売れないけど!!」
なまじG3MILDの開発に心血を注ぎ、安くて戦闘に耐えうる最良のバランスを突き詰めてしまったからこその問題。
G3MILDでもそれなりのレベルまでは問題なく使える上に、G3Xまで一気に強化した方がG3を経由するより諸経費が浮く。
というわけで、一番オーソドックスなはずのG3に『在庫』が発生する前兆が見え始めたのだ。
「というわけでプレステ作りまくって在庫過多になったからアメリカに輸出したソニーと同じ手段を取りたい!
頼んだよカズフサ君!あ、ちゃんと宣伝用に『スマートブレイン』のロゴを入れておいたから♪」
「うわホントだ胸部装甲のとこにシレっと!?っていうかまだ決定じゃないって言ってるでしょう!?」
「頼むよー!ウチにきて桜ちゃんをファックしていいから!」*17
「親友の貞操をこんなことで売らないでください!?」
ぎゃーすかぎゃーすかと騒がしくしがみついて来るシノを凌ぎながらも、なんとか『持ち帰って検討します』で済ませたカズフサなのであった。
……なお、終末後も東海道霊道やターミナルシステム、デビオクやガチャ等は問題なく稼働。
各販路がガッツリ生き残ったせいで、在庫どころか作ったものからハケるある種のバブルが到来。
結果、シノは今以上のブラック労働で様々なオカルトアイテムを制作するハメになりましたとさ、ちゃんちゃん。
0機製造される事もあれば一か月ぐらい納品されないとかも平然とありそうだし。