改造人間短編集   作:ボンコッツ

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どこにでもいるOLのお話

 

友恵マナミ(2X歳)はどこにでもいるOLである。

 

地毛から金髪で、なんか縦ロールっぽくなる奇跡の天然パーマで、そこそこ顔とスタイルが良くて。

 

大学で民俗学を先行したが、研究者にはならず就職。

 

趣味はお菓子作りとテレビゲーム(ライトゲーマー)。

 

紅茶はティーパックよりも茶葉からこだわって入れる派で、夕飯のメニューはスーパーで割引になっている食材を見てから決めるタイプ。

 

周りの知人たちが結婚していくことにちょっと焦りを覚えつつ、運動不足解消にジム通いを始めただけの……。

 

 

前世の記憶を持った、転生者である。

 

 

いつものように会社に出勤し、ルーチンワークとなった事務員としての仕事を終えて帰宅する。

 

フレックスタイム制の事務所に勤めているため、趣味や娯楽に使える時間の確保はそう難しくはない。

 

今日はちょっとお高めの輸入茶葉と牛乳を買ってきたので、それをロイヤルミルクティーにして飲むために早めに帰宅。

 

クッキーと一緒にテーブルに並べ、普段はロクに見ないテレビのニュースをつけた。

 

それが、彼女の運命を変えた。

 

 

『自衛隊でも採用しているパワードスーツ、『G3』シリーズを警察の災害・テロ対策班に配備することが正式に決定いたしました』

 

(ああ、そういえばだいぶ前に自衛隊でパワードスーツが実用化されたとかなんとか……)

 

『これは自衛隊の五島一等陸佐が推進していたパワードスーツ、『G3』シリーズと同型で……』

 

(ふーん、G3……ん、『自衛隊』の『ゴトウ』……?)

 

 

マナミの頭の隅に何かが引っかかる。

 

今の人生の記憶ではない、ここ数年使っていなかった前世の記憶。

 

学生時代は受験や大学のレポート作成にフル活用していたソレの中に、今のワードで引っかかるモノがあった。

 

もう一口ロイヤルミルクティーを飲んだところで、記憶の奥底に眠っていた『フンドシ姿のマッチョメン』が脳内にフル投影。

 

 

「ぶふぅっ!?」

 

 

どこぞの良い風が流れる街のハーフボイルド探偵並みの勢いで紅茶を吹き出し、げほげほとせき込んでからテレビのニュースに目を向ける。

 

しかし、所詮はニュースで軽く取り上げただけの内容。目線を向けた時にはどこぞの動物園でライオンの赤ちゃんが生まれたとかなんとかというニュースに変わっていた。

 

急いで吹き出した紅茶をふき取り、部屋に置いてあったノートパソコンを立ち上げていくつかのワードを検索する。

 

 

『女神転生』……ヒットなし。

 

『五島一等陸佐』……ニュースサイトやまとめサイトがいくつかヒット。

 

『メシア教』……公式サイトがヒット、かなりの情報量。

 

『ガイア教』……ヒット無し、ただし『ガイアグループス』という大手企業がヒット。

 

『悪魔召喚プログラム』……オカルト系のまとめサイトにそれらしいワードが散見。

 

 

「……ウソでしょう……!?この世界って『女神転生』だったの……!?」

 

 

確かに、幼いころに自動車事故で死にかけてから妙なことはあった。*1

 

せいぜい平均程度だった運動神経が、クラスでリレー選手のアンカーを任されるぐらいに上昇したり。

 

ちょっとした切り傷や打撲程度ならその日の内にケロっと治っていたり。

 

肝試しで行ったオカルトスポットからものすごく嫌な気配がして、体調不良のフリをして全員で帰ったり。

 

とはいえ、彼女の女神転生の知識はそれほど豊富とは言えない。

 

ありったけの知識を絞り出しても、この先この世界がどうなっていくのかさっぱりわからないのだ。

 

 

(前世の子供の頃に、マ〇オ買いにいったときにゲームソフトの抱き合わせ販売に入ってたのをプレイして、難易度高すぎて一度投げたのよね……確か『真女神転生』ってタイトルだったはず)

 

 

その後、前世の大学で民俗学を履修した際に『女神転生』を進められ、実家に帰った時に古いゲーム機とソフトを引っ張り出し、

 

『話題のタネぐらいにはなるだろう』と攻略サイトとにらめっこしながらクリアしたのが唯一のメガテン知識なのが彼女だ。

 

体感では40年近く前、それも一周しただけのゲームである。おおざっぱなストーリーとインパクトのあった要素だけ覚えてるだけでも自分を褒めたいぐらいだろう。

 

大学で民俗学・神話学を学ぶうちに聞いた名前がちらほらなければほとんど忘れていたに違いない。

 

 

(ええと、一番まずいのは確か……東京に核が落ちる!ここはS県だけど影響がわかんない!

 核の前から悪魔も出てくるはず!それこそ道端とか病院でも!……あれただの病院かしら?

 外国に逃げる?移住するにしたってそんな大金……それに日本以外が安全かもわからない!

 もしも、世界のどこにいっても悪魔が野良猫みたいな頻度で出てくるとしたら……)

 

 

『対策』は必須だ。序盤で出てくるピクシーやノッカーだって、人間を殺せる強さがあるのだから。

 

そう思ってからの行動は早かった。近所のサバイバルショップで『特殊警棒』や『防塵ベスト』を購入。

 

頭を守る防具は、工事現場用ヘルメット(ライトつき)があったのでこれを購入。

 

あとはアウトドア用のブーツ等、なるべく頑丈そうな衣類で身を包む。

 

新しいノートパソコンを買う予定だった貯金が吹っ飛んだが、背に腹は代えられない。

 

ゲームと同じかは分からないが、『悪魔』を倒せば人間はレベルアップする、はず。

 

少なくとも、ふらっと出てきた悪魔に対処できる程度の強さを得なければおちおち暮らしていられない。

 

 

(なるべく弱い悪魔……ゲームと同じなら、ゾンビとかピクシーかしら。流石に『ちんぴら』を殴り倒すのはちょっと……)

 

 

警棒やヘルメットはスポーツバックにつめて、防刃ベストの上からコートを羽織って隠す。

 

ボーナスでローンを組んだマイカーは、新古車の軽だし通勤ぐらいしか使っていないが目的には十分。

 

大学時代、民俗学のレポートであちこちを回っていた時、家から車で行ける距離でも『嫌な感じ』がする土地はいくつかあった。

 

最近だと、再開発予定の廃墟の近くを歩いていた時、バリケードの向こうからその感覚を感じたのである。

 

(確か、ずいぶん昔にガス漏れからの火災で何人も亡くなってからずっと廃ビルだったのよね。

 なんにせよ、ここに『悪魔』が出るんなら、ジム通いの代わりにココで鍛えないと!)

 

 

 

 

……その日から、友恵マナミの日課に『悪魔退治』が加わった。

 

廃ビルの異界は幸いにして、LV1~2の悪魔がちらほら出る程度。

 

こそこそと物陰に隠れ、後ろを取ったら不意打ちで警棒や金属バットを振り回してぶん殴れば倒せる。*2

 

火炎瓶の作り方もちょっとアングラなサイトには乗っていたので、ソレをぶつけて燃やしてもいい。*3

 

なにより、弱そうなスライムを2、3匹倒したあたりから『なんとなく悪魔の位置が分かる』し『姿を見れば種族や強さも分かる』。*4

 

 

(流行りの転生チートみたいなアレかしら……?)

 

 

自分の手を見たり、あるいは鏡に自分を映せば生前『真女神転生』で見たようなステータスが表記される。

 

悪魔に関しても似たようなモノで、遠目に見ていれば強みも弱みも丸わかり。

 

……実の所、これが本当に一般人なら、最初に踏み込んだ時点でスライムに食われて死んでいる。

 

霊視・霊感に高い素養を持つ『感知タイプ』ともいうべき才能の持ち主かつ、才能の器が各作品の主人公クラス。

 

転生者ゆえの恵まれすぎた才能による常時先手必勝&不意打ちガード、これによって無理やりソロでの悪魔退治を成立させていた。

 

 

(ようやく、LV3!アギとかジオとか使えないけど、ディアは使えるし、『見える・感じる』力も鋭くなってきたわ)

 

悪魔退治を初めて一か月弱、LV2まではサクサク上がったものの、LV3にようやく到達。

 

アギは火炎瓶で、ジオは折れた警棒を買いなおす時に選んだバトンタイプスタンガンで。

 

傷薬や魔石なんてモノはないので、一日数回程度は使えるディアでそれを補いながら悪魔を倒す。

 

ゾンビを殴り倒すのも、スライムやモウリョウに火炎瓶を投げつけるのも慣れたものだ。

 

なんだか段々バイオハザードとかの主人公みたいな気分になってきた彼女は、今日もご近所の噂になる前にとっとと自分に課したノルマを片付けるために異界に踏み込む。

 

 

「……?(なにかしら、普段なら一階にもスライムやモウリョウの一匹ぐらいはいるのに)」

 

 

明らかに、普段と比べて悪魔の数が少ない。

 

ゲームのようにわらわら出てくるモノでもない、というのは分かっているが、それを加味してもいつもと違う。

 

そろりそろりと、一カ月弱通い詰めたおかげで暗記してしまったビルの内部を進んでいく。

 

階段を上がり、火事があってから放置されている業務用のデスクやひっくりかえった棚等に身を隠し、進先の安全をしっかりと確認しながら、奥へ奥へと。

 

普段なら、ここまでで1度ぐらいはスライムかモウリョウ、あるいはゾンビかゾンビドッグを見かけるはずだ。

 

今の自分では少し危ないと判断した『悪霊 ゴースト LV4』がいるビルの3階には基本的に近寄らないので、細かい構造まで把握できているのは2階まで。

 

一通り二階を散策し、悪魔の気配どころか『悪魔が出そうな空間の気配』まで薄くなってきたところで、嫌な予感が友恵の背筋を伝う。

 

 

(おかしいわ、絶対に。こんなこと今まで……)

 

 

電磁警棒を構えたまま、なるべく音をたてないように一階へ戻ろうとしたのが功を奏した。

 

かつん、かつん……硬質なナニカが一歩ずつ、地のコンクリートがむき出しになっているこのビルの階段を降りてくる音が聞こえたからだ。

 

思わず出そうになった悲鳴を抑えるクセは、この一か月で必死に身に着けた習慣である。

 

構造的に1→2階の階段と2→3階の階段が別の場所にあるので、背後から足音が響いただけでも最初のころの彼女ならあんまり可愛くない悲鳴を上げていただろう。

 

なるべく一階への階段に近い物陰に身を潜め、こそこそと音がする怪談を覗き見た。

 

 

 

そして、見た。見てしまった。

 

昆虫を思わせる緑の角と甲殻、そして牙。筋骨隆々とした黒い肢体は鋼のごとく。

 

右手に掴んでいるのは、恐らく階段で遭遇したらしいゾンビだ。首根っこをひっつかみ、ズルズルと引きずっている。

 

そして、フリーズした友恵の目の前で、ゾンビの首を握りつぶした。

 

友恵は見た、その目で見た。今出回っている粗悪品のCOMPよりずっと精度の高いアナライズでその姿を見た。

 

だからこそ、ある意味非常に正確で、それ以上に間違ったデータを見てしまった。

 

 

『?? ネフィリム LV50』

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

(なにあれなにあれなにあれなにあれマズいマズいマズい!!!)

 

 

【ネフィリム】……知識だけは知っている。大学で単位のためだけに学んだ民俗学や神話学には、一神教の聖書もあった。

 

堕天使と人間の間に生まれた巨人であり、たいそうな力持ちでバベルの塔の建設にも貢献した。

 

しかしそれ以上に大食漢であり、あらゆる生物を食べつくし、挙句の果てに共食いまで行った。

 

そのせいで罪深き人間と共に、聖書の神の大洪水で滅ぼされた、と。

 

 

(どう考えても人間を頭からバリバリってオレサマオマエマルカジリするタイプの悪魔!

 しかもLV50……50!?5とか15とかじゃなくて!?)

 

 

LV50と言えば、彼女が大学で学んだ著名な神々や悪魔が属するレベルだ。

 

レベルが1ケタ、いってしまえばそこらにいそうな妖精や地霊とガチバトルやってる友恵の敵う相手ではない。

 

恐怖のあまりあふれそうになる涙を何とか堪え、両手で口を押えて出そうになっている悲鳴を無理やり飲み込む。

 

荒くなりかけている呼吸をなんとか整えようとして、なにかの身間違いじゃないかともう一度階段の方を覗き見て……。

 

 

 

ぐりんっ、と……友恵が隠れている物陰に、ネフィリムが勢いよく振り向いた。

 

 

 

「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!??」*5

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

 

 

ついに友恵の一般人メンタルが限界を迎え、唸り声か遠吠えかもわからない声を上げたネフィリムから脱兎のごとく逃げ出す。

 

一階につながる階段に飛び込み、途中で思いっきりずっこけで転げ落ち、しかし【覚醒】に至った肉体はその程度では動じない。

 

涙と鼻水と涎と血と、とにかくいろんな液体で顔中べったべたにしながら出口目掛けて駆け抜ける。

 

思考は『死にたくない』一色で染め上げられ、背後からあの怪物が追ってくる音が聞こえれば、何を言っているのかも不明な発狂ボイスをブチまけながら駆け抜ける。

 

そして、あと出口まであと10m足らずまで来たところで……ダンッ、とナニカが床を蹴る音。

 

友恵をあっさり補足したネフィリムは、跳躍と共に友恵を追い抜き、出口と友恵の間に着地した。

 

ゆっくりと状態を起こしながら彼女の方に振り向くネフィリムに対し、ぺたり、と地面に崩れ落ちる。

 

彼女の顔にゆっくりと伸びてくる右腕、近くで見ればますます異形だと脳の冷静な部分が変に分析。

 

恐怖が限界を超えたのだろうか、異界に入る前に済ませてきたはずなのに、彼女の太ももが生温かい感触で湿っていき……。

 

 

「えヒゅ……」

 

 

それを認識する前に、ぷつん、と頭の中で何かが切れて、ふわりと意識が遠のいていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というのが、私が霊山同盟支部の事務員をすることになった経緯ですね」

 

「いや色んな意味で端折りすぎやろ!?何があったんやそこから!?」

 

「その後は目覚めた後にガイア連合について説明を受けて、ガイアグループスに転職して、

 実家に近い霊山同盟支部に配属希望を出した以外これといって話せることが……」

 

「いやそーだけども!確かにそっからさきはテンプレだけども!?」

 

 

霊山同盟支部の食堂にて、たまには支部の食堂でも使ってみようかなー、と思い立った葛葉 茜。

 

どうやら職員の昼休みにもカブったようで、顔見知りの受付だった友恵と共に昼食をとっていたのだが。

 

話題が『ガイア連合に入ることになったきっかけ』になり、簡単な結界で防音にした隅のテーブルで話し始めたのである。

 

 

「でも、私はここにきてよかったと思ってるわ。あれだけ無茶なレベル上げをしていたのも、誰にも頼れなくて一人で頑張らなきゃ、ってなっちゃったせいだもの」

 

「まあ、いきなりとんでもない世界に転生したってことが分かったら、パニックにもなるわなぁ……」

 

「そうね……でも、今はゆっくりとだけど一歩ずつ、この先の事を考えながら進んでいける。

 上には上がいるけれど、なんとか私と家族の分ぐらいは避難先も何とかなりそうだから。

 

 ……今世には親しい友人もいないし……恋人もいないし……」

 

「ちょ、ちょいちょいちょい。ヘコまれてもこまるわ!ほら、カキフライ食べながら持ち直しや!」

 

「うう、もぐもぐ……カキフライおいしい……」

 

 

コントじみたやりとりではあるが、終末が来るという恐怖に一人怯えていた女性はもういない。

 

ガイア連合の後発黒札の一人として、地道なレベリングと受付業をこなし、来るべき末法の世に備える新たな同士がそこにいた。

 

 

 

 

「でもいまだに変身した支部長は怖いわ」

 

「軽くトラウマになっとるやんけ!!」

 

 

僕は悪くねぇ!という仮面ライダーの叫びが聞こえたが、こういう時は男が悪くなるのが世の常なのであった。

 

*1
この時の臨死体験で覚醒した模様

*2
ただし転生者に限る

*3
アギ系の素質がある転生者に限る

*4
霊視・霊感系の素質がある転生者に限る

*5
訳「なんでここに一般人が!?」





登場人物資料 『友恵 マナミ(トモエ マナミ)』



年齢 27歳

LV 3
(ガイア連合加入時)

※主な習得魔法のみ抜粋

霊視(アナライズ)

ディア
パトラ
ポズムディ
アギ
マッパー



霊視ニキや流石兄弟等と同じく、察知・解析の才能に優れた転生者。

外見は魔法少女まどか☆マギカの『巴マミ』……だが、年齢もあって『巴マミの平凡な日常』バージョンである。中学時代のジャージも使ってる。

前世も今世も民俗学・神話学を大学で学んでおり、神話系の知識は中々に豊富。

ちなみに前世で専攻した理由は『なんとなく面白そうだったから』であり、
今世では『前世で書いたレポート等を思い出せば課題はほぼ丸写しでいいから』。

極論学歴のために学んだ程度だったが、それが以外にも役に立った形である。

性格は優しく、面倒見がよく、しかし若干引っ込み思案。

ただし行動力自体は(良くも悪くも)一度スイッチが入るとスゴいものがあり、走り出した時の爆発力は稀有なモノがある。

現在は、上記の失神から目覚めた後に手当と説明とついでにお風呂も貸してくれたハルカの勧めでガイア連合霊山同盟支部に勤務。

簡易式神やアガシオンをレンタルしつつ、専用式神の購入を目指して業務とレベリングに励んでいる。
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