改造人間短編集   作:ボンコッツ

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かまぼこ二枚分の人生

 

 

(げっ……今日はかけ蕎麦の日か……)

 

 

佳乃 杏(ヨシノ アンズ)にとって、かけ蕎麦とは負け犬の味であった。

 

別に蕎麦アレルギーであるとか、蕎麦という料理そのものが嫌いであるとかそういうわけではない。

 

ただ単に、K県のとある町にある小さな教会を管理している神父が父である佳乃家という環境。

 

その清貧を是とする教義とあまり裕福ではない家計の事情から、物心ついたときから週に一度は夕飯がかけ蕎麦だけの日があっただけだ。

 

市販のツユに安売りしてた蕎麦を放り込み、自分や妹も手伝っている家庭菜園からとってきたネギをちらしただけのかけ蕎麦。

 

もやは食べ慣れすぎて感動もなにもない蕎麦を啜りこむ、食事ではなく栄養補給100%の感覚だ。

 

小学生になったばかりの妹にとってはこれといって思う所は無いらしいが、食べ盛りである彼女にとっては思う所しか無い。

 

……これで、この市にある教会がこの小さな教会1つだけというなら納得もしよう。教会の娘なんてこんなもんだ、と妥協もできたかもしれない。

 

 

(いいよなぁ、【メシア教】の教会は。ウチよりデカくて豪華で、カネもあって……)

 

 

ずずっ、と蕎麦をすすりながら遠い目をする。

 

まだ中学生になったばかりとは思えない、若干スレた目つきであった。

 

それなりに面積と人口があるこの市では、もう1つ【メシア教】の教会があったのだ。

 

自分達の管理している【一神教系】の教会より寄付金も補助金も多いようで、土地の広さも建物の新しさも、ついでに信者の数も比喩ではなくケタが違う。

 

同じ中学校に通う生徒にはメシア教のシスター見習いもいたが、明らかにお小遣いは自分より多そうだった。

 

 

(同じ神様信仰してるんなら、ウチもメシア教にしちまえばいいのにさ……)

 

 

そんなことを思いながらも口には出さずに夕飯を終え、ごちそうさまとだけ言って部屋に戻る。

 

リビングで流れているニュースには、バラバラ殺人だの連続失踪事件だの、はっきりいって気分が余計暗くなるモノが増えてきた。

 

無駄にお人よしの父親はそれに心を痛めているようだが、心を痛める前に肉と野菜を炒めて蕎麦に肉野菜炒めの一皿でもつけてほしいのが彼女の本音である。

 

毎日質素な食事というわけではないが、週に一度ランダムで自分が【メシア教に信者取られてる教会の娘】だと思い知らされているような気がして。

 

そのうちに、杏にとってかけ蕎麦は負け犬の象徴になっていた。

 

 

(つまんねぇなー……なんかないのかよ、面白い事……)

 

 

ベッドに寝転がって、読み飽きたマンガを床に放り投げながら天井を見上げる。

 

これといった将来の展望もなく夢も無く、このままいけばどこにでもいる普通の女性になるか、この教会を継いでシスターになるか、だ。

 

何の面白みも刺激も無い日常は、思春期を迎えた彼女にとっては倦怠感だけを募らせるだけの日々なのだ。

 

 

 

……それでも、何事もなく昨日から地続きの明日が来る。

 

そんな日常がこの上なく幸せなモノだったと認識したのは、それからしばらくたったある日の事。

 

ニュース番組の内容が、どこぞの国が宣戦布告だの、海外への渡航制限や輸出入制限だの。

 

どっかでミサイルが撃たれただの、戦争が始まっただの、アメリカでカルト教団と化したメシア教がどーとかだの。

 

このご時世にスマホも持っていなかった杏にとっても、テレビのニュースや立ち読みで読む雑誌の記事から伝わってくる不穏な空気は尋常じゃなかった。

 

両親もどこかソワソワとしている日が増え、彼女と妹に非常用持ち出し袋の位置を覚えさせたり、連絡用に携帯電話も契約して貰ったり。

 

今どきガラケーかよ、と少しだけ思った杏であったが、どう考えても尋常じゃない昨今のアレコレを考えれば何も言えなかった。

 

そしてついに届いた携帯電話を手に、少しだけ上向いたテンションを自覚しながら友達に初めての電話をかけようとした、その時であった。

 

 

 

まるでトラックか何かが壁をブチ破って突っ込んできたような轟音と衝撃が鳴り響き、寝そべっていたベッドから転がり落ちる。

 

「いっつつ……なん……なんだ今の?!」

 

思いっきり頭をぶつけたせいでくらくらする視界を無理やり整え、まずは隣の部屋にいる妹の様子を確認した。

 

幸いにして怪我はなかったようで、今の音と衝撃に怯えて青い顔で震えていた。

 

ここで大人しく待ってろよ!と妹に言い聞かせ、手近な所にあった箒を片手に恐る恐る教会の方へと歩いて行く。

 

本当にトラックが突っ込んできたならまだいい(修繕費用考えたらよくはないが)、最近では国内でもテロだなんだと物騒なニュースがチラついていた。

 

もしもカルト教団がウチに爆弾でも放り込んだのなら……なんてぶっ飛んだ想像が出てきてしまうのは中学生故か。

 

 

だがしかし、時に現実というのは妄想をはるかに超えて残酷になる。

 

 

忍び足でドアを開け、教会に併設された居住スペースから教会の方へと足を進める。

 

古い建物なだけあってちょっとした迂回路や裏口もあり、杏子はよく掃除やミサをサボってそれらを使って遊びにいった経験があった。

 

その経験が功を奏したのか、足音の1つすら立てずにさっきの轟音がした礼拝堂にまでたどり着き……。

 

 

巨大なバケモノが、父と母【だったもの】を貪り食う光景を目にした。

 

 

「~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?」

 

悲鳴を上げそうになった自分の舌を思いっきり噛みしめて無理やり悲鳴を抑え込む。

 

口の中に血の味が滲み喉の奥からすっぱいものがこみあげてくるが、それも無理やり飲み込んだ。

 

じわり、と目じりに涙が浮かんでくるが、潤んだ視界を無理やり袖で拭って来た道を戻る。

 

バクバクとうるさい心臓を死ぬ気で抑え込み、妹の部屋にもどってこちらを見上げてくる妹の手を取った。

 

 

「モモ、逃げるぞ!」

 

「え、でも、パパとママは……」

 

「いいから!お姉ちゃんの言う事聞くんだ!早く!!」

 

 

なるべく声を上げないように、しかし妹を急かすように立ち上がらせる。

 

部屋に置いておくように言われた非常用持ち出し袋を急いで担ぎ、サイフと携帯電話だけポケットに詰め込んで裏口から外に出た。

 

外に出れば、街のあちこちから聞こえてくる轟音と悲鳴。パトカーや消防車のサイレンも遠くから聞こえてきた。

 

緊急時は中学校か小学校に避難するようにと言われていたが、それどころではない。

 

なにせ避難場所に向かう途中の道で、同じように逃げようとしていたらしい家族連れが【エサ】になっているのを見たからだ。

 

子供が受け止めるにはあまりに凄惨な光景に、茫然自失のショック状態な妹を引っ張って逃げ切れたのは奇跡に近い。

 

助けを呼ぶ声や悲鳴の全てに目を背け、たった一人の家族を守るために体に鞭を打って走り続ける。

 

それから数分か数十分か数時間か、時間の感覚など完全に狂いきった頃に……。

 

 

「こっちよ!早く!!」

 

 

疲労と酸欠でふらつき倒れそうになった体を、横から伸びてきた手に支えられ、二人は【ガイアコーポレーションの避難所】へと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(肉、食いたいなぁ……)

 

ガイアコーポレーション(【ガイア連合】という名前も聞こえてきた)の避難所は、良くも悪くも避難所以上でも以下でもない。

 

現在地である防災センターの避難所は元々収容人数50人ぐらいだったそうだが、ガイアコーポレーションの出資で200人まで拡張されたと同じ避難民から聞いた。

 

小学校~中学校の避難所は500~1000人ぐらいは収容できるのに、なぜこんな小さな避難所まで拡張するのかさっぱりわからなかったが、今なら彼女にも理由が分かる。

 

教会の壁を簡単にブチ破った怪物が、なぜかこの避難所には近寄ってこない。

 

悪魔が湧き出たあの日、手を引いて避難させてくれた女性から少しだけ事情を聞くことができた。

 

彼女はその【ガイア連合】の一員であり、いちおう悪魔と戦うデビルバスターでもあるらしい(あまり強そうには見えないが)。

 

 

(まさか、あの怪物……『悪魔』の対策してる企業だったとはなぁ……)

 

 

各所の避難所にも、あの悪魔が近寄れない『結界』とやらが設置してあるらしい。

 

もっと開発が進んでたりガイアコーポレーションの進出が進んでる地域なら、街ごと結界で覆ってるところもあるそうだ。

 

が、残念ながらこの街はギリギリでガイアコーポレーションの守備範囲外。

 

となりのS県を中心に活動している支部が急ピッチで避難所に結界を張って対策をしていたらしいが、逆に言えばそれが限界だったようだ。

 

オマケに今はどれだけ強いのかもわからない【大悪魔】とやらがうろついているため、避難所から安全な支部に移動することも難しいらしい。

 

そのため、支部への道が開通するまでは避難所生活なのだが……。

 

 

(カロリーブロックじゃ食った気しねぇよなぁ……)

 

 

食事は一日3回、朝と昼にカロリーブロックとゼリー飲料が出て、夜は軽食とミネラルウォーター。これにときどきコンペイトウや飴玉のような甘味がつく。

 

ガイア連合製カロリーブロックは味は悪くないし腹も膨れるが、どうしてもこうなるまえの食事を思い出してしまう。

 

少ないお小遣いをやりくりして買い食いした肉まんの味がちらついて、もうすぐ夕食の時間なのもあって腹が鳴る。

 

隣にいる妹も、両親が死んだあの日からふさぎ込んでいる。

 

なんとかしないと、と思うばかりで対策など思いつかず、余計に鬱屈とした気分が溜まってきたところで声をかけられた。

 

 

「二人とも、大丈夫?はい、御夕飯もってきたわよ」

 

「あ……友恵さん」

 

彼女こそが、その恩人である【友恵 マナミ】。金髪縦ロールという少女漫画でしか見ない髪型だが、これで天然パーマらしい。

 

 

夕食が乗っているらしいトレーを受け取り、今日はなんだろなと視線を下す。

 

げっ、という声と表情を出さなかったのは奇跡に近い。

 

 

(かけ蕎麦……いや、一応かまぼこ二枚乗ってる……)

 

 

嗅ぎなれた市販のめんつゆの匂い、保存用らしき乾麺をゆでたモノとあわせ、その上に薄く切ったかまぼこと乾燥ネギを添えた普通の蕎麦だ。

 

避難所で出された蕎麦のほうが家でたべていた蕎麦より具沢山なことに思うところはあるが、腹は自分以上に正直だった。

 

ぐぅ、と小さく鳴った胃袋に盛大にいら立つが、文字通り背に腹は代えられない。

 

妹にもトレーごと蕎麦を渡し、自分の分の箸を手に取って「いただきます」と一言。

 

 

ずるるっ、とひと啜りしたら、もう止まらなかった。

 

暖かい食事というだけでもごちそうなのに、ひと啜りごとに何かがこみあげてくる。

 

杏にとっては負け犬の象徴のような料理だったはずの蕎麦が、今では失った日常の象徴になっていた。

 

父親はお人よしに過ぎるがよい人だった、母親はちょっと口うるさいけど優しい人だった。

 

あんな死に方をしていい人間じゃなかった、ここにいていいはずの人だった。

 

 

「ふ、ぐっ、うっ……!」

 

 

うめき声か泣き声か分からないソレは、果たして自分のものなのか、隣にいる妹のものなのか。

 

じわり、と目の奥から溢れてくる雫を堪えながら、妹と一緒に蕎麦を啜る。

 

ぽふ、と友恵の手が二人の頭を撫でる。恥ずかしいからと払いのけてもおかしくないソレが、何故だか無性に暖かかった。

 

生きていく気力もとっくに失せて、ここ数日はただ息をして、ただ食事をする肉の塊になりつつあった二人。

 

つゆの一滴まで飲み干して、目元の涙を拭った後に杏は誓った。

 

 

(……これが負け犬の味でもいい。かまぼこ二枚分だけ負け犬じゃなくなったんだ。

 もうちょっとだけ、生きてみよう。モモと二人で、いけるところまで……)

 

 

小さな誓いを胸に、線香花火より儚い光とはいえ【生きる気力】にもう一度火をつける。

 

頭を撫でるどころか、無言で二人纏めてハグしてくる友恵を振り払う気にもならず、抱きしめられながら【生きる】事を誓いなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それなのに……こんなのって、アリかよ……!?)

 

かまぼこ入りの蕎麦を食べてから一週間後、避難所の管理者から通達があった。

 

ガイア連合の部隊によって比較的安全な避難経路が確立されたため、これからここにいる避難民はそちらに移動する、と。

 

ニュースで見たこともあるパワードスーツ『G3』が何体も訪れ、2台の輸送用トラックで避難民を輸送するらしい。

 

子供から先に、という声に推されて、アンズとモモは最初のトラックにのりこむ事が出来た……まではよかった。

 

ガイア連合の職員である友恵も一緒に乗り込んで、不安そうなモモへの

 

「大丈夫、いざとなったら私が悪魔なんてやっつけてあげる!こう見えて結構強いんだから!」

 

……という苦笑しかできない励ましを聞き流しながら、輸送トラックは出発した。

 

周囲をG3の駆るバイクに囲まれ、護衛されながら走り続ける。これでようやく避難所生活とおさらばと思った矢先になにかが起きた。

 

 

「もうすぐ避難所よ」と友恵が言った直後、トラックが止まる。

 

あわただしい気配がトラックの中にも伝わってきて、自分たちと同じように先んじてトラックに乗せてもらった少年少女の間にざわめきが起きた。

 

嫌な予感が全身を包む、友恵の「大人しくここにいるのよ、いいわね!?」という言葉が耳に届いたが、精神的にはそれどころじゃなかった。

 

装飾の施されたマスケット銃をかついでトラックの外に飛び出していった友恵を見送ってから、自分も妹に「いいか、ここにいろよ?」と言ってこっそりと外を覗く。

 

どうしてもダメそうな状況なら、他の全員を囮にしてでも自分と妹は逃げ切る。そんな覚悟を杏は決めつつあった。

 

護衛のG3たちと、なぜかその中心にいる友恵が対峙している悪魔はたった一匹。

 

しかし、その威圧感は教会で見た両親の仇を大幅に上回っていた。

 

 

「『邪龍 ワイアーム LV37』……霊道を守る結界の弱所でも抜けてきたのかしら?」

 

『その通りだ、これだけ広大な霊道……探せば結界のムラの1つや2つはあると思っていたが。

 フハハ!どうやらお前たちの必死の努力も無駄だったようだな、ニンゲン!』

 

「なるほど、結界の薄いところをこのレベルの悪魔が全力で攻撃すれば抜けられなくはない、と。

 いい教訓になったわ、次からは結界の弱所を補強するのを優先するように手配しておきましょ」

 

『次?次だと? ……これから喰い殺される貴様らに『次』などないわ、阿呆共が!

 とっととそこをどけ、前菜としてやわらかい子供の肉を踊り食いしてくれる!

 恐怖に染まった子供のMAGは芳醇な味と香りを放つのでなぁ……』

 

 

悪魔の嘲笑がやけに大きく響き渡る。

 

トラックの中からおびえた声が聞こえ、周囲を包囲していたG3たちがたじろいだ。

 

やはりというかなんというか、彼ら/彼女らよりも目の前の悪魔は格上らしい。

 

咆哮や威圧どころか、常時はなっているプレッシャーだけでG3たちの足がすくんでいる。

 

聞いた噂だと警察の対オカルト対策班らしいが、あまりにも相手が悪すぎた。

 

おまけに明らかに避難民の子供狙いな発言……トラックを抜け出して逃げてもおってくるかもしれない。

 

「いっそほかの子供を囮にして自分とモモだけでも」、そんな人でなしの発送すら浮かび始めたとき、こちらに背中を向けて悪魔と対峙している友恵が一歩前に出た。

 

 

「……つまり、貴方は子供たちの匂いにつられて結界を突き破ってきたのね?」

 

『そうだ。若々しく新鮮なMAGの気配、この俺様からごまかしきれると思ったか!弱肉強食、弱い人間は俺様の食事になって踊り食いされるのが関の山よ!』

 

「そう……なら、手加減も遠慮もいらないわね」

 

 

杏と悪魔の見ている先で、友恵が右のポケットから【携帯電話】を取り出した。

 

黄色い縁取りに黄色と紫の『X』のマークがついた、全体的にメタリックでゴツいリボルバー式の携帯電話だ。

 

いつのまにやら左手に持っていた【バックルのないベルト】を腰に巻き付け。携帯電話を開く。

 

『助けでも呼ぶ気か?悠長な……』と余裕綽々に友恵を見下す悪魔の前で、友恵が『コード』を打ち込んだ。

 

 

「私、それほど厳格な性格じゃないけど」

 

【 9 】

 

「それでも、堪忍袋の緒はあるつもりなの」

 

【 1 】

 

「貴方の言う弱肉強食、それが自然の摂理なら……」

 

【 3 】

 

「望み通りにしてあげる!」

 

【ENTER】

 

 

コードを打ち込み、通常の携帯電話にはついていない【ENTER】のボタンを押し込めば『Standing by』という電子音性が響き渡る。

 

胸の前に携帯電話……【カイザフォン】を構え、腰に巻いた【カイザドライバー】に斜めにして叩き込んだ。

 

 

「変身ッ!!」『complete』

 

MAGによって具現化した光り輝く黄色いラインが描かれ、彼女の周囲を囲んでいく。

 

そのラインにそってスーツが、装甲が、武装が出現。友恵の全身を包み込んで装着……いや、変身した。

 

X、あるいはギリシャ文字の【χ(カイ)】を模した仮面、対悪魔用防護壁『ハーモナイザー』が全身を覆う。

 

その名は【913(カイザ)】、兎山シノの開発した【展開型デモニカスーツ】の試作機3体の1つである。

 

G4タイプと同じく高レベル向けの調整が施され、既にLV30を超えている友恵でも邪魔にならないだけの性能が保証されていた。

 

悪魔のたじろぐ気配、周囲のG3たちが援護に回り、マスケット銃の外見をした【高性能対悪魔銃】を構えた友恵を中心とした戦闘が開始される。

 

 

そこから先の結果など、言うまでもないだろう。

 

 

子供たちを守るために戦う【正義の味方】が、このシチュエーションで負ける事などありえないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな激動の撤退戦から、いくばくかの時が流れ。

 

ガイア連合霊山同盟支部が管理しているとある結界内の居住区に【彼女】はいた。

 

あれから少しだけ背も伸びて、成長期なのもあってか体つきも精悍さを増している。

 

どこか無理をしていた少女の面影はすっかり失せて、一人前の【デビルバスター】らしい顔つきになった【吉野 杏】がそこにいた。

 

 

「おばちゃん、いつものやつね!」

 

「はいよー。 かけ蕎麦にかまぼこね。杏ちゃんはホントにお蕎麦好きねぇ」

 

「あー……好きってわけじゃないけど、手軽だし、ゲン担ぎもあるからさ」

 

 

この施設……ガイア連合傘下のハンター協会支部の中にある食堂にて、仕事に行く前の食事を手早く済ませる。

 

妹は隣の結界内にある学校に通っており、移動の手間もあるので会えるのは週末だけだが元気に暮らしている。

 

両親のことはいまだに二人とも引きずっているが、ちいさなお墓を立ててできる限りの供養はした。これから時間をかけて割り切っていくだろう。

 

届いた蕎麦を勢いよくすすりこみ、かまぼこをよく噛んで飲み込んでから水を一気飲み。

 

ごっそさん、と食器を指定の場所に置いて、午後からの仕事のために待機所へと走っていった。

 

 

待機所にはすでに同じ仕事……結界内の見回りと、低レベルの悪魔の間引きを受けた同僚が数名待機している。

 

男女別の更衣室へと移動し、私服を脱いで対悪魔用のスーツを着込んだ。

 

ぴっちりとしたスーツは最初こそ恥ずかしかったが、彼女の使うデモニカが破損したら命を繋ぐのはこのスーツなので慣れるしかない。

 

 

「それにしても、杏はいつまで【旧型】使ってるのよ。新型のほうが楽じゃない?」

 

「いいんだよ、それにいつも言ってるけど旧型じゃなくて【試作型】な?」

 

 

同じでしょ、とあきれ顔の同僚に何を言われても、彼女はその【試作型】を手放す気はなかった。

 

G3デモニカのデータを収集した後、ガイア連合技術部の【兎山 シノ】が開発した【展開型デモニカ】シリーズ。

 

ほとんどゴツいベルト一本にデモニカ関連の機能が詰め込まれており、ロックを解除することで内部に格納された装甲服が全身に装着&オートフィッティングされるという便利機能つきだ。

 

デモニカの欠点の1つだった『非装着時の持ち運びが大変』『装着に手間がかかるので緊急出動に弱い』等を改善した次世代デモニカである。

 

さらにG3タイプに搭載されている疑似的なムドへの身代わりシステムを拡張。

 

即死レベルのダメージを受けた際に防御壁『ハーモナイザー』の出力を一気に引き上げ、デモニカスーツがダメージを全吸収&装着者をはじき出す。

 

これにより、緊急時にはデモニカが故障して強制的に変身が解除される代わりに装着者を保護する『絶対防御』システムが搭載されたのだ。

 

杏たちがデモニカの下に対悪魔用スーツを着ているのは、この絶対防御システムが作動したときの保険である。

 

……半面、性能はG3タイプと同等だがコストは1.3倍。自動修復機能があるので放置してれば最長数日で修理できるが、細かい部品も増えたのでオーバーホール級の整備の手間は増えるという欠点もある。

 

そのため、量産が容易なG3タイプと併用されているのが現状であった。

 

 

「じゃ、アタシは先行ってるからね?」「あいよ」

 

 

同僚の少女は腰に巻いた【ガイアバックル】のバックル型レバーを横に倒し、量産モデルの展開型デモニカ【ガイアトルーパー】に変身。一足先に結界の外周部へと向かっていく。

 

見た目は完全に仮面ライダー555の【ライオトルーパー】だが、兎山シノの「ガイア連合のトルーパーだからガイアトルーパーで!」の一言でこの名前に決定した。

 

杏のほうも一足遅れて準備を終え、腰に【バックルのついていないベルト】を巻き付け、【赤い縁取りがされた折り畳み式携帯電話】を取り出す。

 

慣れた手つきでソレを開き、コードを打ち込んだ。

 

 

(そうさ、形から入るのはあんまり好きじゃないが……アタシはいつか、この姿にふさわしいデビルバスターになってやるんだ)

 

【 5 5 5 ENTER】『standing by』

 

 

ガイアバックルの試作機、【ファイズギア】……これを使い続けているのは、あの日みた正義の味方へのあこがれからだ。

 

今は雑魚悪魔の掃討や結界周辺の見回りぐらいが関の山だが、現在の彼女はレギュレーション3で【DLV27】。

 

DLV30を超えれば、二線級を担当する【支援班】から最前線の【戦闘班】に志願できる。

 

そうすれば、孫請け支部ではなくガイア連合直轄の支部がある結界に行ける。

 

妹をもっと安全な所に住ませてあげられるし、あの日以来会えなくなった【憧れの彼女】に会えるかもしれない。

 

ガイア連合の悪魔図鑑で調べたが、ワイアームの強さは【DLV測定不能】、それを倒した彼女もまた、ガイア連合の黒札かそれに並ぶ実力者のはず。

 

ならば、戦闘班として出世することこそが最短ルートだと杏は思っていた。

 

 

(正義の味方なんて、ガラじゃないけどさ……目指すぐらいなら、いいよな)

 

「変身ッ!!」『complete』

 

 

腰に巻いた【ファイズドライバー】に携帯電話型変身デバイス【ファイズフォン】を装填。

 

赤いMAGのラインが体を覆い、装甲が各所に展開、装着。

 

試作展開型デモニカ【555(ファイズ)】……デビルバスターになったその日に、ふらっと現れた女性技術者から「む、ティンときた!」と押し付けられたソレだ。

 

友恵のカイザによく似た形式で、性能も新型であるガイアトルーパーと大差ないことから今も使っている。

 

 

手首を一度スナップさせて、同僚たちの後に続くように駆け出した。

 

彼女にとってかまぼこ二枚分の人生は、どうやらまだまだ味わい足りないらしい。

 

あこがれに追いつく、その日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、しばらく後に霊山同盟支部直轄の結界に移籍して友恵と再会はしたものの。

 

彼女の「ごめんなさい、私戦闘班じゃなくて受付・事務担当で……」という言葉に宇宙猫になるのであった。

 

 

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