作者も含めて、メシア教穏健派以外の一神教に入ってるならセーフ!という理屈をちょくちょく見るが。
あれ?そういえばメシア教以外の一神教ってあんまり描写されてなくね?という理由で書いた短編。
時系列はエンジェルチルドレン編の少し後ぐらい。
相も変わらず設定・キャラはご自由にお使いください。
【S県・K県の県境某所 土曜日 午前8時24分】
「支部長としての仕事とはいえ、色々急すぎない……?」
そんなことをぼやきながらも、田舎のあぜ道という言葉がぴったりな畑ばかりの風景を歩くのは、もはやお馴染み『ギルス』こと鷹村ハルカである。
霊山同盟支部の支部長として、K県とS県の県境を中心に『取り込み』のための訪問中だ。
霊山同盟支部発足後、元々霊山同盟と付き合いのあった霊能組織は可能な限り取り込む事にした霊山同盟支部。
S県中部~西部は霊山同盟と犬猿の仲であったニノウエ家・ヒノシタ家という家を中心にまとまっているようなので、まずは組織力で負けないよう足場固めを優先することになったのだ。
巫女長とイワナガヒメ曰く『戦後のメシア教によるオカルト狩りで真っ先に逃げだすかメシア教に媚び売った連中の末裔』とのことで、正直霊山同盟組からの印象はよくない。
ガイア連合の支部ができた以上『負け』はないが、かといって勝つまでにどれだけの時間がかかるのかはこういった仕込みの段階でだいぶ変わってしまう。
とはいえ霊山同盟とつながりがあるということはガイア連合の噂もある程度届いているわけで……。
「まさかあの異界を単身で制覇してしまうとは……」
「うわさに聞く黒札とはこれほどの、え、黒札じゃない?」
「……つまり黒札の霊能力者はこの少年よりも強い?」
「「「これはもうガイア連合に全振りしかない!!」」」
だいたいこんなノリで東部は急速に纏まりつつあった。
同時に見合いやら縁談やら許嫁やらおねショタワンナイトラブやら、行く先々でハルカにアレやコレやが勧められまくるのだが……とりあえず全て断ってダッシュで次の予定地に向かう。
そもそも小学生に勧めるなよ……というまっとうな論理感を持った人間はオカルト界隈にはいない。
いや、いなくもないかもしれないが、少なくとも地方霊能組織はそこらへん基本ガバガバである。
なにはともあれ、支部長としての仕事で回る予定の場所は次で最後。一神教系である【調和派】の教会だ。
(たしか巫女長の紫陽花さんが言うには、オカルトとの関わりは薄い教会らしいけど……)
薄い、であって0ではないのがキモだ。
戦後のメシア教による各地への霊的粛清の後、メシア教以外の一神教系外国人もまた、肩身の狭い時代がやってきた。
当然のように比較的大手の教会では【事故死】や【行方不明】も多発したようで、そんな時代を運よく生き延びた宗派の1つらしい。
とはいえ念には念を入れ、洗脳・毒物対策も万全にして向かうことになった。
【一神教調和派】、郷に入れば郷に従えという日本の言葉を体現したかのような宗派である。
戒律は緩く、あくまで一神教的な文化を継承する程度にとどめ、メシア教の弾圧から逃げ隠れしながら存続してきた宗派だ。
おおよそのスタンスはこの教会の大シスターの言葉を借りるなら。
『聖書なんてーのは守ってりゃある程度健やかに過ごせます、って健康マニュアルみたいなモンなんだから、無駄に崇め奉って絶対視するんじゃないよ!書いたのが神やら神の子やらその弟子だからって!聖書は人間のためのモンで聖書のために人間がいるんじゃないんだよ!!』
……である。おかげでいまだにメシア教穏健派との仲がよろしくない。
「ここか……あんまり言いたくないけど、メシア教の教会に比べると……」
教会の入り口まで到達し、ノッカーをたたく前に建物を見上げてぽつり。
その先の「地味だな……」という感想が口を突いて出ることはなかった。
気遣いからここでストップをかけたのもあるが、バターン!と音を立てて勢いよく教会の入り口が開いたからである。
「アイリ!アンタまた礼拝サボって二度寝……ん、なんだいアンタは?」
「うぇい?!あ、えー、えーっと……が、ガイア連合霊山同盟支部の支部長、デス」
出てきたのは恰幅の良い老婆……この教会の大シスター【シスター・グリムデル】であった。
出身はスイス。前にこの教会を担当していた大シスターが【事故死】した後、メシア教の粛清を恐れて誰一人赴任したがらない状況で唯一手を挙げた女傑だ。
戦後の混乱期を硬軟織り交ぜた交渉と隠遁で生き延び、その後もメシア教以外の一神教にとっての駆け込み寺として現代までこの教会を維持し続けた。
異能者としてはメシア教のテンプルナイトには及ばない程度の『LV4』。霊山同盟との関係がなければ教会を守る結界の維持も難しいレベルである。
「ほー、アンタが新しいここらのトップかい。子供と聞いてたが、本当らしいね」
「……子供でも、一応支部長の仕事はやれてますが……」
その物言いに少しだけムっとしたハルカ。
霊能組織の対応にはピンキリあったが、小学生ということでナメられる事も少なくなかったのだ。
普段はレムナントに同行してもらうことで『大人』担当を任せているが、今回は式神ボディの調整が必要とのことで山梨支部でシノに預けてきている。
エンジェルチルドレン事件の後から彼の式神となった元メシア教の天使『レムナント』であるが、この時点では信頼よりも困惑と見定めという感情が強かった。
なにはともあれ、明らかに自分が支部長ということに不満があるようなのだが……。
「やれるやれないの問題じゃないんだよ!アタシが不満なのはアンタに『子供』をやらせてやれない周りのバカ共さ!」
「えっ」
「逆に聞くけどアンタ、天才的な政治家の才能があるからって小学生を総理大臣にする政治家をマトモだと思うのかい?ンなわきゃないだろう!」
「いや、まあ、そうですけど」
「最悪責任とれる人間がトップに立って次代を育成ならまだわかるがね、その次代を育成前にトップに据えるんじゃないよ!バカどもが!
ホモ野郎の阿部か若作りの紫陽花あたりがトップに立ってアンタを育てるのが常識ってもんだ!」
「アッハイ」
もう10割正論過ぎてあっという間にハルカはやり込められた。
一応反論や論争も可能ではある、あるが。
これらの言葉に込められた感情がただ文句つけるだけじゃなく『こんな子供に重い荷物背負わせるな』という思いやりだったことを感じ取ってしまったのだ。
一神教だからと警戒して読心スキル等も強化してきたのだが、心の内を探ってもすべて本音である。
「まあいい、決まっちまったモンは仕方ない。今日は視察だったね!」
「え、ええ。まあ、最近メシア教穏健派がさらにきな臭いですから、一応一神教系の組織には一度監査が入ることになって……」
「ああ、阿部のヤツから聞いてるとも。それじゃこれだ」
はい?と首を傾げたハルカに手渡されたのは、ホウキとチリトリ。
なにこれ?と言葉を返す前にひょいっと持ち上げられて、そのまま教会の中へと連行。
「阿部のヤツには視察ついでにコキ使っていいって言われてるからね。
新米修道士としてココで暮らしながら視察してもらうことになったのさ」
「…………あのクソホモ野郎オオオオオォォォォォッ!!!!!」
いつか殴る、何度目かになるその決意を固めたが、毎回模擬戦では手も足も出ないハルカなのであった。
(……で、3日間だけ過ごすことになったけど……なんというか、普通だ)
6時に起きて、7時までは朝の祈りとミサ。
それから朝食を取り、30分ほどの祈りの時間。
その後の午前中は教会の掃除やボランティア、内職や畑の管理などを昼までこなす。
12時に昼食を取った後、午後は再びそれらの作業に戻り、6時頃には切り上げてその日の労働は終わる。
夕食を取り、晩の祈りを終えた後は自由時間。ただし基本的には夜更かしせずに早めに寝る。
祈りの文句なんかは下調べしてきたので問題なく唱えられたし、早朝に起きて鍛錬しているハルカからすれば馴染むのは簡単だった。
寧ろ、厳しい所だと【朝三時起き】だったり、日に5回の祈りがあったりするので、この教会はだいぶ緩い方と言える。
言えるのだが……。
(修道士と修道女の比率で圧倒的に前者が少ないのが微妙にやりづらい……)
修道院、というとやはりシスターのいる場所というイメージが日本では根強いようで、修道女はともかく修道士はあまりココに来ないらしい。
養護施設としての側面もあるため子供の比率も多く、普段なら幼い修道士/修道女が同じぐらいの数いるのだが……。
「ねえねえ、アンタがリカの言ってた『ヒーロー』でしょ!」
「アネさん追ってきた天使をぶっ殺したってマジ!?」
「わー、予想よりかわいい顔してるじゃん!修道士じゃなくて修道女でも通るんじゃない?」
「これ!だよ!もう!」
『エンジェルチルドレン事件』の後、黒羽市にて保護された少女達。その行先は様々だった。
最も多かったのは、リーダー格であったリカと共にガイア連合に所属した者。
アウトローなのはもう勘弁、と足を洗って学校に通いなおしたり、親元に戻った者。
役所の監視付きとはいえ、ガイアコーポレーションの下請けとしてアルバイト中の者。
その中には『親の方に問題がある』少女たちも当然いたわけで、そんな少女たちの引き取り先の1つがこの教会だったのだ。
ちなみにメシア教穏健派からも『罪滅ぼしとしてウチで面倒を!』という声が上がったが、マジギレ5秒前なガイア連合の面々が一切シャットアウトした。
というわけで、保護された少女たちが多数シスターになっていたため、教会の男女比率が大幅に女性に偏っていた。
オマケにハルカの事をリカから聞いていたようで、もみくちゃの扱いは3日程度では収まりそうもなかったのである。
「アンタらいつまで騒いでるんだい!!もうすぐ消灯時間だよ、とっとと寮に戻りな!!」
「げっ、オニババが出た!」
「聞こえたよアイリ、あんただけ明日の朝飯を塩スープにしてやろうか!」
「虐待だー!あれただのあっためた塩水じゃん!!」
(最低でも一回はソレを飲まされてるのに懲りないのか……)
わーっ!と声を上げて散っていった少女達。中学生~高校生ぐらいの年齢であり、平日は近所の学校に通っている。
既に『覚醒』してしまっている少女もいるので、そういった子供はガイア連合の援助を受けながら、霊山同盟でレベリングに励む予定らしい。
覚醒してしまった以上、悪魔に負けない程度には力をつけなければ、いつか目をつけられてエサになるだけ……この世の摂理とはいえ、ハルカにとっては複雑である。
(親元に戻った子とか、足を洗って一般人に戻った子とかも、アルバイト代わりにハンター協会に登録してる状態だからなぁ)
本物の悪魔や天使、魔法や超能力が存在すると知ってしまった以上、見て見ぬふりはできない。
親元に戻った少女は家族を守るために、一般人に戻った少女はもう一度こちら側に踏み込む前の最後のモラトリアムのために。
リカを慕ってついてきた少女達だけあって、ド根性はそこらの大人よりよっぽど鍛えられていた。
なにはともあれ少女達から解放されたが、はっきりいって今回の視察は『問題なし』以外の判定が下せそうにない。
式神・ギルスには様々な探査機能がついているが、それらのセンサーでも隠し部屋や危険なオカルトアイテムの類はなし。
洗脳アイテムである『天使の羽』の使用跡もないし、賛美歌による簡易洗脳の形跡もなし。
というかそもそも天使に該当する悪魔の出現痕跡無し……シロもシロ、真っ白だ。
結果として土日丸々教会で生活するハメになったが、明日の朝にはレムナントが迎えに来てトラポートで帰る予定になっている。
(修道服ともこれでオサラバだな……多分今後一生着ることは無さそうだし)
一神教への隔意はないが、メシア教に中途半端に近いせいで複雑な感情がぬぐえない。
鷹村家があそこまでクズだらけになった原因の一端は戦後のメシア教だし、エンジェルチルドレン事件はメシア教の内紛だし。
はっきり言ってハルカ個人としてのメシア教穏健派への認識は『遠くにいる分にはぎりぎり許容範囲だけど近寄ってきて欲しくない』相手だ。
過激派?仮面ライダーにとってのショッカー以外の何物でもない。
あとは修道士の少年たちがいる寮に戻って眠るだけ……と思っていたのだが。
(……? 人の気配?)
磨き抜かれた五感が、ほんのわずかに人の気配を捉えた。
寮に向かおうとしていた道を引き返し、気配がした方向……祈りをささげる教会堂の方へと歩みを進める。
気配を消し、足音を消し、呼吸も最小限にしながら音もなくドアを開けていく。
念のためにいつでも変身できる準備だけは整えてから、教会堂へと踏み込んだ。
(気配は……一人か。アナライズ結果は……シスター・グリムデル?)
見れば、教会堂の中でシスター・グリムデルが一人佇んでいる。
女神像に向き合い、手を組んで、目を閉じて、祈りの構えを取ったまま。
あくまで一神教の知識は学問程度にしか学んでいないハルカでもわかるほどに、見事な『祈り』であった。
「……シスター・グリムデル。もう消灯時間ですよ」
「ん?ああ、支部長かい」
(動揺はナシ、周囲のMAGの流れを『感じ取った』けど、ホントにただ祈ってるだけか)
仮面ライダーにはこの手の『超感覚』が割とデフォで備わっている、という理由で、阿部の手によりギルスには様々なセンサーが内蔵されている。
MAGの流れや気配を感じ取るのもその機能の1つだ。なので『メシア教っぽい気配のMAG』を少しでも感知したら鎮圧するつもりだったのである。
「悪いね、いつも消灯時間の後に祈りをささげるのが日課なのさ」
「……? 待ってください、なぜ他の修道士や修道女を眠らせた後に?」
「そんなもん決まってるだろう。
あの子たちの無事を、あの子たちに祈らせるわけにゃいかない。
私利私欲のために祈ったところで、天の父がそれを鑑みてくれるわけがないからね」
(……ああ、なるほど。この人はこの上なく『本物』だ)
豪胆な女傑であるシスター・グリムデル。しかし、その本質は純粋すぎるほどに『修道女』だ。
誰もが行きたがらないメシア教の影響下にあった戦後の日本に赴任し、他の一神教の信徒にとっての駆け込み寺で居続けた。
駆け込んできた彼ら/彼女らが元の宗派に復帰するのも一切止めず、来るもの拒まず、去る者追わず、ただし悪ガキは尻叩き。そのスタンスで何十年もやってきた『本物の宗教家』である。
この祈りも、ハルカが読心スキルやMAGの読み取りで探ったうえで断言できるが……裏表無しに、ここにいる修道女・修道士たちの無事を祈ったモノ。
その信念に感じ入ったからこそ、ハルカはシスター・グリムデルの隣に立ち、同じように祈りの構えを取った。
「……付き合う必要はないよ?言われて祈るのはワルガキだけで十分さね」
「なら、自分から祈りたくなったから祈るのはいいんですよね?シスター・グリムデル」
「……好きにしな、ひねくれモン」
フン、とハルカを鼻で笑いながらも、その表情はなぜか柔らかく。
隣でハルカが祈ることを一切止めず、シスター・グリムデルとハルカは一時間弱ほどそこで祈り続けた。
救いを求めて訪れた、子羊だちの健やかな明日を。
……ただ一点だけ違うとすれば。
「ちょいといいかい、支部長」
「? なんですか?」
「アンタは見る限り、『生きなきゃいけない』理由だけで生きてる。あるいは『死んじゃいけない』理由のために……もしくはその両方だ」
図星を突かれた、とハルカの目がわずかに見開かれた。
誰かのために生きなければいけない、仮面ライダーであるために生きなければいけない。
そんな思考だけでハルカは生きている。あるいは、そんな未練のために『生かされている』。
「何年も拗らせたガキみてりゃピンとくるさ……説教できるほど立派な女じゃないがね、良くお聞き。
1つでいい、アンタが『このために生きたい』って思えるモノを見つけな。
好きな女でも将来の夢でもなんでもいい。生きなければいけないって思いは麻酔にしかならない。
……『生きたい』って思いがいつか、アンタの背を推す力になる」
「……肝に銘じます、シスター・グリムデル」
鷹村ハルカが、メシア教以外の一神教への苦手意識を真に克服したのはこの時であった。
視察任務を終えて帰ってきたハルカを見た巫女長は、一言だけ感想を語ったという。
「まるで胸のつかえがまとめて取れたようだった」と。
登場人物資料 『シスター・グリムデル』
本名 ジェニファー・グリムデル
年齢 64歳
LV 4→17
ディア
メディア
ペンパトラ
ザン
マハザン
テトラジャ
etc.
一神教調和派の大シスター。
外見は『BLACK LAGOON』のヨランダ。ただし両目ともに無事。
性格は見ての通りの女傑オブ女傑。肝っ玉かあちゃん型シスター。
よいこには手作りのビスケット、悪い子には尻叩きと説教。
ただし慈しみの心はガチであり、信仰心もひじょーに健全かつマトモ。
天使どころか神ですら絶対視はしておらず、なんなら四文字が真2みたいな事しようとしたら。
「いい加減子離れしな!!」
って言いながらあのハゲ頭ひっぱたくタイプ。
この話の後にガイア連合霊山同盟支部からG3MILDが届き、それを使ってレベリングを開始。
修道士/修道女たちも希望者だけはレベリングに参加させ、それ以外はシェルターへの避難訓練で終末対策をしている。
ちなみにシスター・グリムデルは布教にそれほど熱心ではなく、あくまで来るもの拒まず去る者追わず、のスタンス。
が、彼女の教えを受けた修道士/修道女は大なり小なり似たようなスタンスの神父やシスターに育つので、
ガイア連合の一部黒札からは
『地元にメシア教穏健派の教会作られるぐらいならシスター・グリムデルの弟子を誘致して教会立てようぜ!』
という理由で大人の修道士/修道女へスカウトが飛んできている。
シスター・グリムデルも裏があることは承知でソレを受けているが、それはそれとしてメシア教穏健派との諍いに弟子が巻き込まれたりしたら本人が殴りこんでくる模様。
そこそこの確率でハルカもギルス状態で乗り込んでくるので、何気にメシア教穏健派による布教という名の侵食への牽制にはなる。
欠点は一神教の教会を誘致ってだけで地元霊能組織との兼ね合いが必要なことと、教会を建てる土地と金であるが、黒札ならガイア連合パワーでごり押しが利くのであった。