改造人間短編集   作:ボンコッツ

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『救えぬ者/救われぬ者』編の前後ぐらいのお話。


自衛隊S地方協力本部のお話

【S県某所 自衛隊協力本部 本部長室】

 

 

 

 

 

(これは……どうしたものか)

 

 

 

 

 

自衛隊S地方協力本部長、木筆(きふで)一等陸佐。 

 

地味に長い肩書だが、ざっくりいえばS県の陸上自衛隊で一番偉い人である。

 

S県における陸・海・空の自衛隊の総合窓口である自衛隊協力本部のトップであり、父親は元防衛大臣。

 

タレ目が特徴的な男性で、小太りに見える体だが陸自の訓練は病欠もなく皆勤賞の真面目な自衛官。

 

特筆すべき才能は見当たらないが、人が良く慕われる。それが木筆一等陸佐という男であった。

 

そんな彼を悩ませているのは、以前から『とある同期』より上がってきていた『悪魔』に関する報告書。

 

最初は半信半疑だった彼も、ゴトウ部隊や各地方の協力本部、さらに警察までが運用し始めた『デモニカ』を身に着けたことで存在を確信した、してしまった。

 

さらに五島陸将より渡されたレポートに記された、現在の日本の絶望的な状況も。

 

そこに付け込んで浸食しつつあるメシア教穏健派と、唯一の希望であるガイアコーポレーション……『ガイア連合』の存在も。

 

このままいけば霊的な防護が穴だらけである日本は悪魔や古き神々、そして天使を名乗る悪魔の手によって蹂躙されてしまうということも。

 

 

(だが、私にできることはなんだ……?)

 

 

木筆一等陸佐の長所は『人のよさ』と『真面目さ』だけだ。はっきりいって、その2つ以外に彼に取柄はない。

 

彼自身今の地位は不相応だと思っており、こんな地位につくハメになったのは元防衛大臣だった父の影響だと彼も考えていた。

 

彼を出世させれば、かつて父が現役時代に作った派閥に取り入ることができる……そんな魂胆が丸見えだったのである。

 

逆に言えば、彼の地位とはそんな『父親の作った派閥に取り入りたい人間』が作り上げた砂上の楼閣。

 

そんな『えこひいき』を受けていると気づいたのも、一等陸佐への昇進が明らかにほとんどの同期より早いと気づいたときなのだから。

 

別にその地位自体を失うのはどうでもいい、彼はいつだって任された職務を真面目にこなしてきただけだ。

 

海外派遣に行けと言われれば行き、震災の救助に行けと言われれば行き、自衛隊反対のデモの警備をしろと言われればやった。

 

任された地位と仕事を一生懸命にこなす……それだけが彼の取柄だった。

 

だからこそ、こんな『英雄のような器と判断力』が求められそうな場面において、彼は明らかに力不足だったのである。

 

だったのである、が。

 

 

「……それでも、私は本部長だ……本部長としての仕事は、せんとな」

 

 

本部長室にある電話を手に取り、県内の駐屯地へと電話を掛けた。

 

協力本部長としての『責任』を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数日後 自衛隊協力本部 本部長室】

 

 

 

本部長室に集まっているのは、県内の駐屯地から集められた駐屯地司令だ。中には自衛隊学校の学校長を兼任している者もいる。

 

文字通り、県内の自衛隊において一定の地位を持つ者を可能な限り秘密裏に集めたのだ。

 

ゴトウ部隊や『協力者』から受け取った『デモニカG3』、および『デモニカG3MILD』を装備させた自衛官に周囲を警戒させる。

 

警備担当者や駐屯地司令には念には念を入れてガイアカレー*1まで食べさせた。

 

少なくとも、今の木筆本部長ができる対策を最大限行ったこの『密会』。これこそ木筆にとって一世一代の賭けであり、S県における対オカルト戦線の転換期であった。

 

 

「今、なんと?木筆本部長」

 

「……わ、我々自衛隊S地方協力本部は、ガイア連合霊山同盟支部と協調路線を取る!

 

 デモニカG3シリーズの供給や、『対悪魔』戦闘用の装備の補充は今後、霊山同盟支部を中心にガイア連合から行う。

 

 さしあたっては、霊山同盟支部が進めている『東海道霊道化計画』への全面的な協力をお願いしたい」

 

 

正気ですか本部長、という感情が集めた駐屯地司令全員に共有される。

 

そりゃあそうだ、悪魔云々は彼らの所にも情報として流れてきているが、それに対する信用度は全員バラバラ。

 

はっきりいってゴトウ部隊を『防衛費の金の流れを少しでも増やして中抜きしたいヤツらの思惑の結果』なんて言いきる人間もいるのだ。

 

悪魔という存在そのものについての確度もそうだが、それ以上に防衛省が大きく動いていないというのが大きい、大きすぎる。

 

いわば、この『悪魔対策』は完全な独断専行。どこの協力本部も駐屯地も、防衛省の意向ガン無視で動くしかないのだ。

 

 

「う、うむ、皆の言いたいことは良くわかる。私自身悩んだ、本当にこれでいいのか、と」

 

 

「悪魔の存在については我々の中でも意見が分かれます。実在するのかしないのか、すら。

 仮に実在するとしても、それに対抗している霊能組織・霊能者一族の噂もつかんでおります。

 それでもなお、我々自衛隊にも悪魔対策が必要だと?防衛省の意向を確認もせず?」

 

 

 

「……防衛省はだめだ、それどころか政府も含めてメシア教のイエスマンでしかない。

 霊能組織もピンキリだが、最大手である根願寺ですら近年のオカルト災害には対抗できない。

 唯一対抗できているのが、ガイアコーポレーションが組織した対オカルト部隊……」

 

 

『ガイア連合』だけだ、と語る木筆の真剣な顔色に、駐屯地司令達は複雑な表情を浮かべる。

 

実際はガイア連合が先でガイアコーポレーションが後なのだが、彼が知っているわけもないしそこはどうでもいい。

 

各駐屯地司令も近年の行方不明者や不可解な事件について多少なりとも調査しており、半信半疑とはいえオカルトチックな『何か』の存在を感じ取っていたのである。

 

それでも現実逃避して「悪魔なんて存在しない!」とここで怒鳴り散らすような目先の利かない人間は、駐屯地司令などになれはしない。

 

いざというとき、彼らの一挙一動が部下の命や市民の生死に直結するのだから。

 

 

「……では、そのガイア連合と協調路線を取るに至った理由は何ですか?

 我々は市民の平和と安全を守る自衛官です。市民を守るために悪魔と戦うのは問題ない。

 しかし、こう言っては何ですが……本部長は『人が良すぎる』所がある」

 

 

ガイア連合はガイアコーポレーション……不可解な吸収合併や資産運用を繰り返し巨大化した巨大企業の手先、という情報を基にするのならば。

 

真面目さと人の好さを持っている、いや持ちすぎているこの本部長を、口先三寸でだまくらかして取り込む程度は簡単なはず。

 

人間的な好悪はともかく、狡猾な陰謀や裏取引などにもっとも向かない人種だと知っているからこその懸念である。

 

そして、木筆自身も「君の言うことはもっともだ」と返答した上で……。

 

 

「それでも、ガイア連合……いや、S県最大の拠点である霊山同盟支部に協力する理由がある。

 

 霊山同盟支部の支部長、つまりS県の悪魔対策の責任者は……中学生の少年だ」

 

 

「……は? ど、どういうことですか本部長!?」

 

「S県の人口は約360万人ですよ!?その安全対策を行っているのが……子供!?」

 

「霊能組織に大人は、いや、マトモな大人はいないのですか?!」 

 

 

驚愕を隠し切れない駐屯地司令達に、「う、うむ。そうなんだ」と本人もいまだに納得がいっていない顔色で言葉を紡ぐ。

 

彼らを呼ぶまでの数日間の間に、木筆本部長は霊山同盟支部と一度接触していた。

 

警護にあたっているG3シリーズはその際秘密裏に貸し出されたモノであり、実は本部長室には盗聴・盗撮対策の結界まで張られている。

 

 

「霊能組織は、管理能力と同時に霊能力者としての能力も高く評価される……らしい。

 トップである少年も単なる傀儡ではなく、稀代の霊能力者の一人……だ、そうだ。

 

 だが、諸君。 それでいいのか?」

 

 

驚愕と困惑にみちていた駐屯地司令達をぐるりと見まわし、木筆本部長は人生で一度あるかないかの勇気を絞り出す。

 

テーブルの上に置いてあった水を一口飲んで、自分がガイア連合霊山同盟支部に協力すると決めた理由を話し始める。

 

 

「霊能力者としての才能があるというだけで、中学生の少年を鉄火場に立たせ続けるのか?

 防衛省の許可が出ないから、政府がメシア教の傀儡だから、市民団体の連中が煩いから。

 我々自衛官は、常に無駄飯食らいなのが最善なのは否定しない、

 税金の無駄遣いだといわれ続け、銃など訓練以外で撃たないのが最高だ。

 

 だ、だが……少なくとも私は。 職務の中でも、教官からも、防衛大学でも……」

 

 

『子供に殺し合いをさせている間、尻でイスを磨けとは教わってこなかった』

 

 

たったそれだけだ。彼が『ガイア連合』ではなく『霊山同盟支部』に協力すると決めた理由は。

 

職務にまじめで、自分の役職と仕事を一生懸命にこなす。

 

それが彼の唯一の取柄ならば、こんな現状になんの感情も抱かないはずがないのだ。

 

子供の頃から、だれかを守れる大人になれと父親に言われて育った。

 

防衛大学では、自衛官としての心得を徹底的に叩き込まれた。

 

自衛官になった後も、綺麗ごとと根性論混じりの『責務』を学び続けた。

 

 

「わ、私はなんの取柄もない人間だ。依怙贔屓で本部長になってしまった男だ。

 

 与えられた職務を、できるかぎりこなす……それしかできない人間だ。

 

 同期の【五島陸将】のような英雄では、ない。超人でも、ない。

 

 だがしかし、一人の自衛官として……大人として……男として……。

 

 せめて、子供の味方ぐらいはしたいと、思うのだが……だから……」

 

 

ぽつり、ぽつりとこぼれる本音は、段々と尻すぼみに小さくなっていく。

 

だがしかし、そこには【自衛官】としての1つの模範があった。

 

冷や汗脂汗だらけで、顔色も悪く、自信なさげで威厳などかけらもない。

 

しかし、彼の姿と【この言葉】だけで、ここにいる人間は腹をくくった。

 

 

「……私は、【吉田茂 元首相】の言葉に、殉じようと思う」

 

 

 

『君たちは自衛隊在職中 決して国民から感謝されたり、

 歓迎されたりすることなく 自衛隊を終わるかも知れない。

 非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う』

 

 

 

『しかし、自衛隊が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、

 外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、

 国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ』

 

『言葉を換えれば、君たちが日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ』

 

『どうか、耐えてもらいたい。

 自衛隊の将来は君たちの双肩にかかっている。しっかり頼むよ』

 

【防衛大学一期生に向けた言葉。 吉田茂 著 『回想十年』より引用】

 

 

彼らからすれば耳にタコができるほど聞いた、あるいは読んだ言葉である。

 

日陰者でいいではないか、誰にも知られず悪魔と戦い市民を守る、結構な事ではないか。

 

 

「誰かが、ここにいて、戦わねばならない。

 

 誰かが、市民を日向に置くために日陰にいなければならない。

 

 わ、私は……日陰(ここ)にいようとおもう。役に立つとは、思えないが。

 

 ソレが、私の仕事で、役目なのだから」

 

 

ザッ、と。ソレを聞いた駐屯地司令達が一斉に立ち上がる。

 

びくっと木筆本部長の肩が跳ねるが、そんな彼に見えるように駐屯地司令達が『返答』を返す。

 

そこに言葉はなかった、申請書の一枚もなかった、あったのはただ1つ。

 

この場にいる全員が叩き込まれた仕草……『敬礼』のみであった。

 

それを見た木筆本部長もまた、一瞬驚いた後にゆっくりと立ち上がる。

 

ああ、そういえば、と。彼は防衛大学にいた頃を少しだけ思い出した。

 

 

真面目さと、思いやりの心と、もう1つ。 

 

『敬礼の綺麗さ』だけは教官に褒められたな、と、敬礼に敬礼で返しながら。

 

 

この日この時から、S県の自衛隊による『対オカルト戦線』が開戦した。

 

 

 




登場人物資料 『木筆一等陸佐』

本名 木筆 正良(きふで まさよし)

肩書 自衛隊S地方協力本部長(ゴールドカード)

LV 0→1


五島一等陸佐と防衛大学で同期だった自衛官。

外見は『HELLSING』の『シェルビー・M・ペンウッド』。

ただし日本人なので髪色や瞳はアジア系の色合いになっている。

名前も ペン→筆 ウッド→木 と 筆木=不出来のダブルミーニングである。


真面目で実直、優しいけれど優柔不断で自己肯定感低め。

ただしここぞという時は自分のケツにケリを入れて決断できるタイプ。

実は霊山同盟支部に連絡を取った時点ではまだうじうじしていたが、使者として来たハルカが支部長と知った時点でいろいろとスイッチが入った。

この後は霊山同盟支部と協力し合いつつ、G3シリーズと各種対悪魔兵装やオカルトアイテムを実装しつつレベリングを進めていく。

なお、彼個人は霊的な才能も戦闘センスも無いため、今も『自分にできる仕事』を一生懸命に頑張っている。

具体的には、他県の協力本部への働きかけや、警察の対オカルト対策班との協調等。


ちなみに、同期だった煉獄ゴトウ曰く『覇気は一切感じないが器は大きく気の優しい漢!』。

意外と向こうからは評価されていたらしい。
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