死んだお目々のステフちゃん 作:イクリール
――深夜。エルキア王城
「あ、あれぇ!? な、なんでボク、帰れないんですかぁ!?」
ライラとの秘密会談が終わり、ステフちゃんの帰還要求に従って、プラムがエルキア王城までステフちゃんを送った後のこと。
そんな彼の様子を、ステフちゃんが呆れた様子で見ながら、プラムの疑問に対して回答します。
「それは、そうですわよ。『プラムは常にステファニー・ドーラの声を聞ける状態を維持しつつ、ステファニーが帰還の意思を示した場合、いかなる状況であろうと速やかに全力でエルキア王城まで安全にステファニーを帰す』……“常にわたくしの声が聴ける状態”をプラムさんは維持しなくてはなりませんもの……
「……ス、ステファニー様……ま、まさかとは思うんですけどぉ……?」
ステフちゃんはニッコリとプラムに微笑みます。
「これからも、わたくしの送り迎え、よろしくお願いいたしますわ♡」
「ええええぇええええええぇえええッ!!?」
プラムはビックリ仰天。ステフちゃんに抗議します。
「酷いですよぉ、ステファニー様ぁッ! ボクがいったい、何をしたっていうんですかぁッ!」
そんなプラムの慌てる様子を見て、クスクスと笑ったステフちゃんがスカートのポケットからコインを、そして玉座の隣に用意した台からプラムが書いた契約書を手に取りつつ謝ります。
「ごめんなさい、冗談ですわ。それでは、今から私の言うことに盟約に誓って同意してくださいな」
盟約に誓った内容は、誓わせた本人であれば、再度盟約に誓わせることで解除できます。
原作でも主人公の兄である“空”に『ステフが“空”になる』と誓わされて、“空”になったつもりで調子に乗ったステフちゃんが、『今すぐステフが元に戻る』と誓わされることによって元に戻っていましたね。
「一つ、プラム様が盟約に誓った、この契約書に書かれた内容を破棄すること。……
「へ?」
……とあっけにとられた様子を見せつつ、プラムは内心で警戒します。
契約書に書かれた内容を破棄するだけなら、一つ目の内容で充分な筈です。ならば、二つ目以降はそれとは別件。契約を解く代償に、新たに別の契約を持ち掛けるつもりです。
(…………?)
しかし、それにしてはステフちゃんの表情も雰囲気も柔らかく、とてもこれからプラムを罠にかけようとしているようには見えません。
演技をしている可能性もありますが、とりあえずは最後までステフちゃんの話す内容を聞いてから判断しようとプラムは考えます。
「――プラム様が、わたくしの友達になること」
(…………???)
プラムは内心で混乱します。
“友達”と自分に認識させることで
“友達”と一口に言っても、その関係は千差万別。“ただの知り合い”レベルでも『友達』という人もいれば、“親友”と認識していても目的のために平気でその人を殺せる人もいます。盟約による拘束力など全くありません。
「三つ、…………………………………………」
そして、ステフちゃんが三つ目を口にするとき、なぜか寂しそうに眉をひそめて黙り込みました。プラムもまた、黙ってステフちゃんの回答を待ちます。
ややあって、ステフちゃんが再び口を開きます。
「……あと、5分だけでいいので、わたくしとお話しませんか?」
(……これぇ、もしかして本当にボク、気に入られちゃいましたかねぇ……?)
プラムには、自分が気に入られるような振る舞いをした記憶はありません。
ですが、“もしかして気に入られたかな?”とプラムが思った記憶はありました。
ステフちゃんは“行き”、そしてどういう理由か、一度エルキア王城に戻って宰相から“ステフちゃんの全て”を受け取って帰ってきた“往復”は、ジブリールの空間転移を使って移動していました。
ところが、なぜか全てが終わった“帰り”だけは『ぜひプラム様に送っていただきたい』とプラムに帰してもらうことをねだったのです。
盟約で『ステファニーを返す』と誓っている以上、そのおねだりに逆らうことはできず、“『空間転移』なんて便利なものがあるのに何でわざわざ……”とうんざりしつつ疑問に思っていたのですが、“仕事が終わってゆっくりできるようになったから、できる限りプラムと長くいたかったのだ”と考えれば納得はいきます。
『これからも自分の送り迎えを頼みたい』という先のステフちゃんの発言も、実は本音なのかもしれません。
(……これは、逆に使えるかもしれませぇん。もし本当に気に入られているのなら……
プラムは無邪気な笑顔で同意します。
「その程度のことでしたら、お安い御用ですぅ! 意外とステファニー様は寂しがりやさんなんですねぇ!」
ステフちゃんは嬉しそうに微笑むと、コインを目の前に掲げて言います。
「それでは、盟約に誓ってくださいな。このコインを弾いて、表が出ても、裏が出ても、それ以外の結果でも全てプラム様の負け。プラム様は負けたら、先ほどわたくしが言った内容すべてを遵守する、と」
「はいぃ! 【
プラムの誓いの言葉が広間に響いた瞬間、キィン――と涼やかな音を立ててコインが舞います。
……やがてコインはステフちゃんの右手の甲に落ち、ステフちゃんは静かにコインをスカートのポケットへと仕舞いました。
「……ありがとうございます、プラム様」
「いいえぇ♪ ……それで、何を話すんですぅ? あと5分だけですよぉ?」
ステフちゃんはニッコリ笑って言いました。
「――
――ドサリ、と音を立ててプラムが崩れ落ちました。
ジブリールの口がパクパクと音もなく開閉します。
何が起こっているのか、彼女には全くわかりません。
倒れたプラムの様子をジッと見て、完全に彼が眠ったことを確認すると、ステフちゃんは言いました。
「
すると、ステフちゃんの玉座の前――プラムよりも後方に、まるで霧が晴れていくかのようにスゥー……と20前後の影が現れます。
影の一つが言いました。
「こちらこそありがとうございます、ステファニー様。おかげで吸血種を滅ぼす必要は無くなりましたし、優秀なスパイを
存在の偽装を解かれ、何もないように見えた空間から現れたのは、ライラをはじめとする海棲種たちと……
ライラ達は、それぞれが自分の身体を包めるほど大きい透明な器の中にいました。中には海水が詰まっており、全員が水面から頭を出しています。彼女たちの傍の吸血種が疲れている様子から、おそらくこの吸血種たちが一生懸命彼女たち海棲種をここまで運んできたのでしょう。
「ほんのわずかな時間で“死を伴う性行為”にすら同意させる海棲種の魅了能力……
海棲種に付き従う吸血種たちを見ながらしみじみと
「はい♪ とはいえ、さすがに女王クラスの魅了能力でなければ、“自分の全てを差し出す”なんて同意は取れませんよ? 一般的な海棲種の魅了は、基本的に繁殖特化ですから。それに、女王でなければ海中の精霊を支配下に置けませんので偽装対策もできませんし」
さも当然のように交わされるえげつない言葉のやりとりに、ジブリールは戦慄を覚えつつも説明を求めます。
「ス、ステファニー様……? 今、いったい何が起こっているので……?」
「……また、オーシェンドの時と同じことを盟約に誓っていただけますの?」
何が何でも事情を知りたいジブリールはブンブンと首を縦に振ります。
ジブリールが盟約に誓い、断絶空間を創ったことを確認すると、ステフちゃんは再びスカートのポケットからコインを取り出して親指で弾き、右手の甲に落としました。
しかし、ステフちゃんは直ぐにはジブリールの問いに答えず、とある質問をします。
「ジブリール様。計画とは失敗した時を想定して、2重3重に用意しておくものですわ。では、もし何らかの理由で吸血種を滅ぼせなくなったら、海棲種はどうしたらいいですの?」
その質問であれば、答えは簡単です。
なにしろ、目の前の状況こそがその答えなのですから。
「吸血種を滅ぼせずとも、支配してしまえば問題ございませんね」
「そうです。では、どのように吸血種を支配すればいいですの?」
ジブリールの眉がグッと中央に寄り、その頭脳が高速回転します。
(……このお2人の考える策ですから、おそらく普通に考えては答えに辿り着くことは難しいでしょう。であれば、先ほどのお2人の会話をヒントとするべきでございましょうね)
――『とはいえ、さすがに女王クラスの魅了能力でなければ、“自分の全てを差し出す”なんて同意は取れませんよ?』
(……女王から吸血種に『自分の全てを差し出せ』と言う? そんなことをしてしまえば、いたずらに吸血種を警戒させてしまうだけ。愚か者のふりをしている意味も無くなってしまうはず……いえ、そうではございませんね。
ジブリールの思考がピタリと止まってしまったのが分かったのか、ライラがヒントを言います。
「ジブリール様。吸血種には繁殖の義務があるのです。そして、女王は相手の魂を吸いつくさずに繁殖できるし、海中でさえあれば水の精霊だけでなく
「すべ……ての……――ッ!?」
スゥー……ッと、ジブリールの顔から血の気が引いていきます。
海棲種のあまりのあくどさに、肉体的・魔法的には強者であるはずのジブリールが“怖れ”を抱いた瞬間でした。
「吸血種の男性は、
「「正解です(わ)」」
理解した答えを口にするジブリールの声は、わずかに震えていました。
“海にあってライラは絶対”です。
それが如何に凄まじいものであるかは、以下の原作の記述からもうかがえます。
――彼女が有する“水精”の量を前にしては、水中の万物が女王に跪く
――それはただの
――
つまり、ジブリールがきちんと注意すれば吸血種の偽装を見破れるように、海棲種の女王もまた“自身の周囲にある全ての精霊を支配する”ことを意識すれば、吸血種は偽装魔法で姿を隠して女王を監視することができないのです。
“生物”の範疇では最も優れた魔法使いである森精種すら、女王の前では魔法を使うことができないのですから。
ちなみに“十の盟約下で、他者の術式に外部から干渉できるか”については、
『恥ずかしいから繁殖行為は2人きりでやりたい』という発言は、ごく自然なものです。
吸血種の男性と2人きりになった女王は、周囲の精霊を支配して、あるいはかき乱して、偽装魔法で吸血種が監視・盗聴などを行っていないことを確認した後、魅了能力を全開にします。
原作で“拒否不能のコマンド”と言わしめたほど……そして原作のライラが『這いつくばれ』と主人公達に発言したことからも分かる通り、繁殖以外の命令を聞かせることもできるほど凶悪な魅了能力を、です。
そして耳元で、小声で、唇を読まれないよう手を添えて、こう命じます。
――『あなたの全てを差し出しなさい』
――『あなたの子供が生まれたら、その子がまだ物事を判断できないほど幼いうちに“その子の全て”をあなたが奪いなさい』
――『あなたの子供の全てを奪ったら、その子に“自分の子供が生まれたら、その子の全てを奪う”よう命じなさい』
――『これらは、くれぐれも誰にも気づかれないように行いなさい。子供にも“誰にも気づかれないように行うこと”を必ず命じなさい』
全てを奪われた男が、新たに所有する“自分の子の全て”もまた、女王のものです。
それは原作のジブリールが
あとは不要な義務や権利は返却しつつ、全てを奪った時の記憶を忘れさせ、親が子の全てを奪ったのを確認したら、その子の権利を女王が別の海棲種に譲渡することで“支配した吸血種の管理者”を増やし、管理しやすいようにしていきます。
他にも“全てを奪われたときの記憶を失う”、“現在の海棲種の管理者に忠誠を誓う”、“海棲種の管理者に従うことを疑問に思わない”、“権利が奪われていることがバレないよう、可能な限り盟約に誓った行動は取らない”など細かい調整は必要なので、そちらも子々孫々に引き継がせていくようにしていきます。
この策に1人でも引っかかってしまえば、その吸血種の子孫が増えれば増えるほど、男女を問わず、海棲種に隷属する吸血種が増えていきます。
こうして隷属した吸血種をスパイとして運用することにより、今や吸血種の内部は海棲種のスパイだらけになってしまったわけです。
数が増えれば、あるいは重要な役職にスパイが入り込めば、ある程度の世論操作も行えますので、吸血種が海棲種にとって不都合な方向に動こうとしたら、動きをある程度修正することだってできます。吸血種の間に“海棲種は愚か者”という認識が広まるのも、さぞ早かったことでしょう。
吸血種の男性がプラム1人になるまで追い詰められてしまったのは、この影響も大きかったのかもしれません。
吸血種の協力が得られるのであれば、偽装魔法を恐れることもありません。同じ吸血種が偽装魔法を見抜いてくれるからです。
海棲種から直接吸血種に指示を出す場合も、周囲に他の吸血種が隠れていないか確認してもらうことができます。
1点、注意しなければいけないのは、
原作主人公たちはライラに魅了されることがありませんでした。その原因について主人公たちは『自分達に精霊が無いからでは?』と推測しますが、直後ジブリールに『魂があるなら必ず精霊はある。単に自分の知らない、あるいは検出できない精霊というだけだ』と否定されます。
そして吸血種&海棲種編の最後、プラムが“恋愛定義魔法”を主人公の兄にかけ、その状態で妹を見ても何の感情の変化も感じませんでした。
プラムはこの様子を見て「なるほど、だから女王の魅了が効かないのか」と納得し、最後に、
――この世界にいる以上、精霊の影響は受けるはずなのに女王に魅了されない
――恋愛感情の定義を“感じたものに設定する”、プラムの魔法で“認識が変わらない”
という、“兄から妹に対して恋愛感情が既にある”、“恋愛感情が既にあれば、例え女王といえども海棲種には魅了されない”内容を暗示させる記述がされています。
これに引っかかってしまってはたまりません。女王が魅了を仕掛けた相手が“魅了にかかったふり”をしようものならば、海棲種の計画が根こそぎバレてしまいます。
そのため、最初にこの罠にかける相手は慎重に選んだことでしょう。もしかしたらリスクを避けて、最初の1人以外はこの罠にかけていないかもしれません。メインの計画はあくまでも“女王の凍眠による吸血種滅亡”なのですから。
ステフちゃんは盟約で“自身の精神制御”を誓ってはおりますが、特定の誰かに恋をしているわけではありません。
もしライラの夢に入った時、ライラが本気で魅了しにきていたら、完全に抵抗できていたかは怪しいところです。……とはいえ、もしそうなったら“今から1時間、自分は自分自身に恋をする”と再度盟約で自分を縛って回避していたでしょうが。
こうして、ライラの凍眠による吸血種滅亡計画と並行して、吸血種の隷属化計画が水面下で進められていた、というわけです。
余談ですが、この世界では同意が成立すれば、モノの所有権だけでなく“
原作主人公は、ライラや“変態仮面と化した原作ステフちゃん”に対して、盟約に誓ったゲームで“相手の全て”を奪った後、『返す』と宣言するだけで権利や義務の全て、あるいはほとんどを返還しております。
これは、相手の拒否権すらも奪っているからこそできる“同意なし”の返還ですが、わざわざ盟約に誓ってゲームをしなくとも、宣言あるいは同意するだけで権利・義務の移転が可能であることを示す事例でもあります。
そもそも“同意による所有『
そして、一度移転してしまった権利はその人のものなので、十の盟約によって略奪が不可能になってしまいます。
そのため、女王に魅了された吸血種の男性が『貴女に全てを差し出します』と宣言・同意してしまった瞬間、例え盟約に誓っていなくとも、その男性の全ては女王へと移転し、取り返すこと(=略奪)は不可能となってしまう、というわけです。
拒否権すら奪われているので、記憶をいじられることも、“海棲種にスパイとして忠誠を誓っていることを疑問に思わないようにさせる”ことも、“その吸血種の全て”を奪っている管理者の海棲種に一言命令されるだけで行われてしまいます。
これもまた原作の“変態仮面ステフちゃん”に勝利した主人公が『今日の出来事を、寝不足や壊れじゃなく理解して開き直れるまで忘れろ』と命令した時の事例と同じやり方ですね。
「……ということは、ステファニー様が『眠れ』と言った瞬間、プラムが倒れてしまったのは……」
ジブリールが半ば確信しながらそう言うと、ライラとステフちゃんがその確信を肯定します。
「はい、プラムが聞いたステファニー様の発言や唇の動きなどを、わたし達が率いる吸血種によって認識改変したのです。吸血種の魔法は、相手の認識を自在に操作できるもの。それは、
「今度は偽装なしで、先ほどの内容を言ってみますわね」
――一つ、プラム様が盟約に誓った、この契約書に書かれた内容を破棄すること
――二つ、プラム様が、わたくしの友達になること
――三つ、
――
そう、ステフちゃんが寂しそうに黙り込んだように見えたあのシーン、黙り込んだように見えたのは海棲種配下の吸血種が見せた認識偽装でした。
本当のステフちゃんはあの時もしゃべり続けており、『四つ、』の直後に吸血種は偽装を解除。『あと、5分だけ〜』のお願いは、
ジブリールは“やはり”と頷きます。
断絶空間の中で同盟を結んだ際、ステフちゃんとライラはこのようなやり取りをしていました。
――『プラムさんに対しての同意は列挙する方式で良いですの?』
――『はい、何番目を偽装しますか?』
――『“一つ、二つ”と数えますので、3番目の内容と4番目の頭でお願いしますわ』
ステフちゃんに『策を為すまでは誰にも言えない』と言われていたため、その場で答えを得ることができませんでしたが、“海棲種に隷属している吸血種”を見れば答えはすぐに分かります。
あれは、配下の吸血種に偽装させる箇所を確認していたのです。
「……しかし、吸血種であるプラムが、こうも簡単に認識偽装に引っかかるものでございましょうか?」
「ここまでステファニー様を魔法で飛翔して送り届けて魂を大きく消費した吸血種1人と、今このエルキア王城でわたしたち海棲種の血を吸って魂を全回復した吸血種十数名……気づかれないよう認識偽装することは、そう難しくありません」
ステフちゃんは、海棲種と盟約に誓って同盟を結ぶため、“ステフちゃんの全て”を返してもらいに一度エルキアに帰ってから、再びオーシェンドに戻ってきております。
その時もジブリールに空間転移をお願いしておりました。
なのに、なぜか最後にエルキアに戻るときは、ジブリールではなくプラムに送迎をお願いしておりました。
当然プラムは文句を言いましたし、ジブリールもまた不思議に思っていたのですが、その理由を今さらながらに理解しました。
プラムの魂を消費させ、ライラ達に従う吸血種の認識偽装に気づきにくくさせるためだったのです。
ライラの説明に、ステフちゃんが補足を加えます。
「それにプラムさんは“まさか吸血種の中に裏切り者がいて、人類種の味方をしている”なんて思いもよらず、油断しきっていたと思いますわ。もしかしたら、まだプラムさんは幼いので偽装魔法の経験も年長者の方々には劣っていたかもしれませんし……というか、ライラ様はプラムさんより腕の立つ方をそろえていらっしゃったのでは?」
「ええ、そこは抜かりないです。ちゃんとプラムを超える腕前を持つ者たちで揃えました」
つまりプラムは、年齢も経験も魂も足りていないのに、“人類種に協力する吸血種などいない”と油断しきっていたところに、自分よりも腕の立つ魔法使い十数人がかりで認識偽装魔法をかけられてしまった訳です。これは酷いですね。
「……だとしても、プラムは、ステファニー様の発言の内容すべてを認識できてはいなかったのでございましょう? 正確に内容を認識できていない状態での同意では、盟約が成立しないのでは?」
「それがそうでもないんですわよね~……」
ステフちゃんは“頭が痛い”と言わんばかりに、こめかみに指を当てます。
「ジブリール様。もし、ジブリール様が自分の所有する書庫に居て、そこで別の方から『この書庫にあるもの
「それは当然、書庫に収められた書物すべてと備品……あとは――ッ!!?」
ジブリールは気づきました。
「私、自身……」
『きちんと相互認識ができていないと同意が成立しないはず』というジブリールの意見は至極もっともなのですが、この世界は詐欺師に優しいようにできています。
原作で主人公がステフちゃんに対し、盟約に誓ったゲームで『お願いを聞いて♪』と要求した際、ステフちゃんが『“宿を提供しろ”ということか』と認識確認して、主人公が笑顔で誤魔化したシーン……結果はなんと、“お願いの内容を明言していないから、あとからお願いの内容を自由に設定できる”というものでした。
このように、相手の認識がどうであろうと、盟約は発言した内容そのものを優先して守らせるようにできているのです。
先程ステフちゃんが挙げた書庫の例の場合、ジブリールが自分の所有する書庫の中に居る前提なので、“書庫にあるもの
認識が偽装されたステフちゃんの発言も、ステフちゃんの発言そのものの内容が優先されます。認識偽装魔法によって
『先ほどステフちゃんが言った内容
そもそも“騙す”という行為そのものが“相手の認識を誤らせる”行為です。盟約を誓う際に“相手の認識を誤らせること”が問題無いのでしたら、その手段が言葉から魔法に変わろうとも問題は無いのです。
こうした理由から、プラムの全ては、彼が盟約に誓ってコインゲームに敗北した瞬間にステフちゃんのものとなりました。
拒否権すら奪われたプラムは、『眠れ』というステフちゃんの命令に逆らうことができず、眠らされることになってしまった、というわけです。
先ほどの“変態仮面ステフちゃん”で説明した事例と同じやり方ですね。
「……もしや、例の契約書を使わなかったのは……」
「ええ、例え海棲種配下の吸血種が要求を書く欄の文字を見えなくしても、口頭で読み上げて認識確認する文言があるので、そこでバレてしまうからですわ。だからこそ契約書にわざわざ書く必要も無い“大して拘束力が無い盟約”を用意したのです」
“ステフちゃんをエルキアまで無事に帰す”契約をする際、逆にプラムに“認識できない文字”を使われてしまうと困りますので、“お互いに口頭で認識確認する”という文言を外した契約書をステフちゃんは使うことができませんでした。
そのため、プラムは既に“契約書には口頭で認識確認する文言がある”ことを知っています。もし新たに用意した契約書にその文言が無ければ、プラムに警戒されて策が失敗してしまうかもしれません。だから、ステフちゃんはわざと“わざわざ契約書を使うまでもないな”と認識させるような盟約を用意したのです。
加えて、原作知識を持つステフちゃんは、“吸血種が人類種を罠にかけようとしていたこと”を知っています。
だからこそ“大して拘束力が無い”だけでなく“プラムが喜んで飛びつきそうな内容の盟約”を用意したのです。再度人類種へ罠を仕掛けるために“人類種の全権代理者に近づく口実”は喉から手が出るほど欲しかったでしょうから
余談ですが、実は
ですが、ステフちゃんからジブリールやプラムに手渡した契約書には、こうした文言が入っておりません。
ジブリールは“ステフちゃんとゲームをするだけ”、プラムは“ステフちゃんを帰すことを誓うだけ”が目的なので、ステフちゃんが賭けるものがありません。
ステフちゃん側から見れば“契約を破棄するメリット”が全く無いので、こうして後で何らかのチャンスを作れるよう、破棄の文言が無いタイプの契約書を渡していたのです。
「十の盟約は、あの文言そのままを鵜吞みにすると痛い目に遭いますわ。“如何に盟約のルールを正確に把握するか”が重要であり、ルールを正確に把握すればするほど“できること”が増えていきますの。例えば盟約を使えば、“自分自身に対する精神操作”なんて芸当もできてしまいますわ」
「精神操作、でございますか……?」
“それはいったいどのようなものか?”と興味をそそられるジブリールの耳に、
「あっは♪ それは~、こういうことでぇ~~す!!♡」
突如として響く、この場に似つかわしくない、底抜けに明るい声。
ジブリールが視線を向けると、そこには明らかに“愚か者”と分かる表情と態度を取ったライラの姿がありました。
「『バカのふりをする』って簡単に言いますけどぉ~、いつどこで吸血種たちに見られているかもしれないのに、四六時中バカの演技をするなんて、普通ムリに決まってるじゃないですかぁ~♡ 個人によって演技力にも差があるわけですし、絶対どこかでボロが出て、計画が破綻するに決まってます♪ だからこうして、1人ゲームをして盟約で自分を縛って、絶対にボロが出ないようにするわけでぇ~す!」
その様子を見て、ステフちゃんもまた驚きました。
「……驚きましたわ。てっきり“自分自身を愚か者にする”とか“常に愚か者の演技をする”といった内容で縛っていたのかと思っておりましたが、どう見ても愚か者にしか見えないのに、発言は聡明そのもの……何かタネがありますわね」
「簡単で~す!
多重人格――別名、解離性同一性障害。
これは、“つらい現実や環境から逃げ出そうとする方法として、自分ではない別の人格を作り上げること”によって発生します。
つまり、もともと多重人格の人物でなくとも、ヒトは自分の精神に、意図的に別人格を創ることができるのです。
本人に可能なことであれば、盟約で自分を縛ることで実現させることができます。これを利用し、“主人格に操作可能な、主人格を認識できない交代人格”を創造したのでしょう。
この方法であれば、いつでも交代人格を呼び出して“愚か者”を演じることが可能です。
通常の解離性同一性障害では、主人格の方が交代人格を認識できず、交代人格は主人格を認識できるはずなのですが、ライラ達の場合はこれが逆転しているようです。
もしかしたら、交代人格に主人格を認識させない手段としても盟約を利用したのかもしれません。
多重人格といえど、どちらもライラであることに変わりはありませんので、“創造したライラの交代人格は主人格を認識できず、主人格に操作される”、“主人格は交代人格を認識でき、交代人格に操作されることは無い”とでも誓って、1人ゲームをすれば、おそらく実現可能でしょう。
「なるほど。わたくしが“海棲種が吸血種にゲームで勝利した本当の理由”で脅そうとした時、ライラ様が頭を抱えていたのは――」
「はい♡ 800年ず~~~~~っっっっっと交代人格が表に出ていたので、突然わたしに人格の操作権限が奪われて、軽いショック状態になってしまったためですね♪」
もう、何を信じてよいのか分かりません。
ジブリールは呆然と、ライラとステフちゃんのやり取りを見つめます。
「では、吸血種の繁殖の件ですが、生まれた子供が男性であれば人類種が、女性であれば海棲種が所有権を得る形でよいでしょうか」
「承知しました。海棲種による血液供給や人類種からの毛髪提供など、同盟の細かい内容については、また後日相談させて「ストップ! ストップでございます!!」……?」
またもわけのわからないやり取りが行われ、ジブリールは慌ててストップをかけました。
「な、なぜそのような取り決めを……?」
ステフちゃんと、おバカのふりをやめたライラはお互いの顔を見つめた後、不思議そうにジブリールに向き直ります。
「なぜって……形式上とはいえ、お互いの立場を対等にしておかないと、同盟にならないじゃないですか」
「男性と女性で吸血種の管理を分けておけば、どちらかが裏切った場合、吸血種の繁殖ができなくなりますわ。それは、お互いにとって困るので、同盟を守らざるを得ない……いわば人質ですわね」
「……だったら、それこそステファニー様を、先ほどの認識偽装を使って盟約に誓わせて操れば……ッ!? あの時の契約はそういう――!!」
立て続けに驚かされ続けた意趣返しと言わんばかりに、ジト目でジブリールが案を口にしようとした瞬間、ジブリールはそれができない理由に気が付きました。
ステフちゃんはライラと同盟を結ぶ際、ライラに“本当の海棲種の全権代理者”を呼んでもらい、再びジブリールの創った断絶空間の中で盟約に誓った同盟関係を結んでいます。
もちろん、ステフちゃんはジブリールに頼んで一度プラムと共にエルキア王城に帰り、宰相に“自分の全て”を返してもらってから同盟を結びました。そうでなければ人類種のコマを持っていないステフちゃんは、人類種の代表として契約を結べないからです。
その際、互いに盟約に誓って『今から5分間ウソは言わない』と宣言してから、『自分が全権代理者である』と名乗り、種のコマを目の前に出現させたうえで以下の契約を交わしています。
・人類種は、“海棲種が自力で繁殖できること”をはじめとする“海棲種側が指定した内容”を誰にも伝えない。記録にも残さない
・海棲種は、人類種に対し“人類種に隷属化した吸血種”を提供する
・人類種もしくは海棲種のどちらかが吸血種のコマを手に入れた場合、コマの所有権は人類種と海棲種共有のものとする
・人類種は海棲種に、海棲種は人類種に、吸血種を使って干渉してはならない
この最後の文言について、ジブリールは“一つ上と二つ上の文言にかかっているもの”と認識していましたが、実際にはそれだけでなく、ステフちゃんに隷属化した吸血種を提供する前に、既に海棲種が隷属させている吸血種からの干渉を防ぐための文言でもあったのです。
ちなみに、同盟を結ぶ前後のタイミングでステフちゃんに認識偽装をすることはできません。
ライラのゲームを行うため、ライラの夢に干渉する魔法を使う都合上、隷属下にない吸血種がウヨウヨしている海底でそんなことをしたら、隷属させた彼らの存在が吸血種に露見してしまいますし、断絶空間では吸血種が中に入らないようジブリールが見張ってくれていたからです。
言葉を詰まらせるジブリールに、ステフちゃんは苦笑いして言います。
「いえ、確かにそれもあるのですが、あの契約は、あの“吸血種を使って互いに干渉しない”という文言まで含めて、
海棲種から見れば“人類種の内、『誰が』『どれほどの人数』海棲種の秘密を知っているか”は分かりませんし、配下の吸血種にスパイをさせたとしても100%の保証は取れません。
また、ライラのゲームに参加している以上、同盟締結前の時点では、ステフちゃんが人類種のコマを持っている確証もありませんし、おまけに隣にいるジブリールとの関係も分かりません。
もしジブリールと何らかの協力関係にあるのなら、吸血種の認識偽装でステフちゃんから人類種のコマを奪うことはできないかもしれません。
“今現在コマを持っているかどうか”はさておき、『全権代理者を罠にかける』と企んだ吸血種が連れてきたステフちゃんは、人類種の全権代理者である可能性が非常に高い存在です。
もし彼女に“人類種に海棲種の秘密をしゃべらせない”と盟約に誓ってもらえるのなら、100%人類種から海棲種の秘密を漏らさなくすることができるチャンスです。
ステフちゃんの海棲種に協力的な姿勢から、相応のメリットがあれば引き受けてもらえる可能性は高いと踏み、ライラは同盟を提案したという訳です。
一方、ステフちゃんから見れば、ライラたち海棲種は、吸血種のスパイを使って国家機密を盗んだり、あるいは先ほどプラムに使った方法で“ステフちゃんの全て”を奪うことができる存在です。
いくら“海棲種の弱み”として“彼女たちの秘密”を握っていようとも、これらの手段を使われてはたまりません。“人類種の弱み”を握られるならまだイーブンで済むかもしれませんが、人類種のコマを取られてしまったら、人類種はおしまいです。
ステフちゃんにとっても、海棲種との同盟は望むところだったのです。もしライラが提案しなければ、きっとステフちゃんの方から同盟を提案していたでしょう。
「“吸血種”という海棲種の切り札をわたくしたち人類種と共有してくださったのは、人類種が“海棲種の秘密”という切り札を手放す対価であり同盟の証。だからこそ、ライラ様はわたくしにプラムさんを支配させてくださったのですわ。本来なら、プラムさんが成人してからライラ様と繁殖する際に魅了して支配してしまえばいいだけなのですから」
ステフちゃんはこう言っていますし、言っていることは間違ってはいませんが、実は“プラムにもし既に恋人がいたら、あるいは成人するまでに恋人ができたら、女王の魅了が効かなくなってしまうからステフちゃんに罠にハメてもらった”という理由もあります。
しかし、“既に好きな人がいる相手には効果がない”というライラの魅了の致命的な弱点までジブリールに説明する必要は無いだろうと判断し、ステフちゃんはそのことについては黙っておきました。
「“本来わたしたち女王がする役割をステファニー様が行う”ということですね。ステファニー様からプラムさんに『あなたの子供が生まれたら、その子が幼いうちに“その子の全て”をあなたが奪いなさい』と命じるだけで、以降の彼の子孫は全てステファニー様の支配下に入ります。彼が最後に残された唯一の男性ですから、世代が変わってゆけば全吸血種がわたしたちの支配下に入るでしょう。あとは、生まれた子供が女性であれば海棲種に、男性であれば人類種に“その子の全て”を渡すよう、海棲種・人類種それぞれの隷属下にある吸血種に命じれば対等な関係を結ぶことができるわけです」
――などとライラは言っておりますが、これはジブリールに対する方便であり、実際は吸血種にとって、もっと酷い状況になっております。
ステフちゃんがスカートのポケットにコインを仕舞った場面が1回、ライラがその豊かな髪を両手で包むように弄った場面が1回ありましたよね。
実はあの時、彼女たちは“
――そう、あの時すでに吸血種のコマは、ステフちゃんとライラに奪われてしまっていたのです
ステフちゃんは原作知識からプラムが全権代理者であることを知っています。
凍眠から目覚めたばかりのライラは知りませんでしたし、だからこそ“吸血種最後の1人の男性を支配してしまおう”としか考えていなかったのですが、配下の吸血種を伴ってエルキア王城へ移動する際、吸血種のスパイから“誰が現在の吸血種の全権代理者であるか”を確認しています。
ステフちゃんはポケットの中に、ライラは髪で隠した両掌の中に、自分の意思で吸血種のコマを出現させられることが分かり、吸血種の全権を自分達が手に入れたことを理解しました。
つまり、先の取り決めなんて関係なく、既に全吸血種を意のままにできる権利を彼女たちは手に入れてしまったのです。
ジブリールの前で語った取り決めは、“自分達が種のコマを手に入れていない”と見せかけるためのカモフラージュにすぎません。
“互いを人質で縛るような関係である”と誤解させておけば、あとでその誤解を利用して何らかの手が打てるかもしれない……ジブリールは決して味方ではないのですから、いざという時のために、これくらいの仕込みは必要でしょう。
こうして吸血種のコマは、人類種と海棲種の共有財産になってしまったのです。
次々と教授される“弱者の戦略”……その凄まじさ、えげつなさを知ったジブリールは、ふと疑問を覚えます。
「……私が言うのもなんですが、強者である私にここまで自分達の戦い方を教えても良いのでございましょうか?」
ジブリールがそう言うと、ステフちゃんとライラは互いに視線を合わせた後、再びジブリールへと向き直り、同時にニッコリと微笑みます。
「
「
「は、はぁ……そう言われるのでしたら、遠慮なく……?」
ジブリールは釈然としない思いを抱えて“何かがおかしい”と思いつつも、こんな機会でもなければ学べることのない知識なので、遠慮なく受け取ることにしました。
――本当に残念です。もし彼女が本当の意味で“弱者の戦い”を理解できていたら、
ステフちゃんは海底で、そしてこのエルキア王城で、このようにジブリールに誓わせました。
――中で行われる会話の内容を絶対に誰にも伝えない
――他者に会話内容を推測させる言動を取らない
――一切記録に残さない
――得た情報を絶対に利用しない
この最後の誓約……これこそがステフちゃんの仕掛けた罠でした。
――“情報を利用しない”とは……
答えは、“
例えば、海棲種の事情。
ジブリールは海棲種が為してきた戦略を利用することができません。彼女たちの戦略をマネることも、応用して自分なりの戦略を立てることも、逆にそれらの戦略に対し事前に対策を立てることだって、全て“情報の利用”に当たります。
女王の魅了能力が如何に桁外れであるかを知っているのに、その情報を利用して警戒態勢を取ることすらできなくなってしまいます。
例えば、吸血種の事情。
ジブリールは、吸血種が非常に優秀なスパイであり、認識偽装を用いて盟約を誤魔化すことだってできる種族であることを知っているのに、その情報を利用することができません。
“プラムの全てがステフちゃんに奪われる仕組み”の情報も利用することができないため、その仕組みに対する対策を立てることも実行することもできません。
もしジブリールがステフちゃんに何らかの盟約を誓う機会がもう一度きてしまったら、ジブリールの全てをステフちゃんに奪われてしまう可能性だってあります。
そして、弱者の戦い方。
せっかく弱者の戦い方を知ることができても、それを使うことができないのであれば何の意味もありません。それどころか逆にマイナスです。
戦略の“利用”とは、そのまま弱者の戦略を使うことだけでなく、相手の戦略を逆手に取ったり、弱点を突いたりすることも指すからです。それを封じられてしまえば、本来であれば知識がなくとも思いついていた行動すら取ることができません。
ましてや、ジブリールにとっては、初めて得た弱者の戦略の取っ掛かりとなる知識です。
その取っ掛かりの上に築かれるであろう“弱者の戦略”は、全て“関連するもの”と扱われてしまい、利用できなくなってしまいます。
ジブリールの主観で“情報の利用にあたるかどうか”など、全く関係ありません。
盟約は、個人の認識がどうであろうと、“発言した内容そのもの”を優先して守らせるようにできているのですから。
ステフちゃんはこの世界の唯一神を倒すつもりはありませんし、そもそも自分が倒せるとは思っていません。それができるのは原作主人公くらいでしょう。
そして『唯一神を倒す』と宣言するつもりがない以上、ジブリールがステフちゃんの味方になることはありません。そして、先の図書館の件からも分かる通り、彼女は平気でエルキアに牙をむきます。そんな彼女に“弱者の戦い方”を学ばれてしまうのは危険なので、ステフちゃんは事前に手を打った、という訳です。
首をひねって思案するジブリールに気づかれないよう、ステフちゃんは深くため息をつきます。
――海棲種との同盟
――吸血種という手駒の入手
――ジブリールがステフちゃんから“弱者の戦い方”を学ぶことの阻止
今回のゲームでこれだけの国益を手に入れたステフちゃんですが、そのお目々は死んでいました。
別に、吸血種に対する罪悪感があるわけではありません。
原作と同様、彼女たちは自分達に代わる繁殖材料として海棲種に人類種を提供しようと企み、それに失敗したら、“ライラの全て”を奪わせて人類種に血液の提供義務を移動させ、血液を提供する家畜として人類種を飼おうとした種族です。
そんな彼女たちを返り討ちにしたところで、ステフちゃんの胸が痛んだりなんてしません。
ステフちゃんのお目々が死んだ理由は、もっと別――
(あ~……国を護るためとはいえ、
――原作ファンなのに原作イベントを次々に潰していくという、“わたくし、何のために転生したんでしょう?”と思わざるを得ないような状況に陥ってしまったことでした。
特に今回の場合、のちの
原作主人公達は、人類種のコマ・
原作イベントを潰してまで国を護ろうとするステフちゃんが、人類種のコマを賭ける訳がありません。
同じ理由で、海棲種という種族を護るために世界全体に対し情報操作を仕掛けるほど、自分達の種族を大切に思うライラ達が海棲種のコマを賭ける理由がありません。
原作でライラが海棲種のコマを賭けていたのは、原作主人公達が一貫してライラ達に騙されているふりをしていることが大きな理由です。
原作主人公は、ライラのゲームに勝利しつつ、その背景を黙秘することで、“ライラは自分達に従うよう盟約で縛られている”と周囲に思わせているので、ライラがもし言うことを聞かなかったら、そこに矛盾が生じ、海棲種の知性や吸血種滅亡計画が、周囲……特に吸血種たちにバレてしまいます。
そうした隠したい秘密がバレることと、海棲種のコマが奪われるリスクを天秤にかけ……最終的に海棲種のコマを賭けることを選んだのでしょう。
種のコマを賭けないとほぼ確実に秘密がバレますが、種のコマを賭けたとしても、あのバケモノ的な知性を誇る原作主人公が神霊種のゲームに勝てば、問題ないのですから。
敢えて騙されたふりをすることで、海棲種を手玉に取るその手際……さすがは主人公と言わざるを得ません。
吸血種は
なので、今のところ賭けられるコマの候補は天翼種と獣人種の2つのみです。
原作ではコマ1つにつき参加者1人の形式でゲームを行っていたので、これではたった2人しか参加できません。
それでも原作主人公なら何とかしてくれるとは思いますが、原作イベントの再現は絶望的でしょう。
(……空~、白~、早く来てくださいな~……)
ステフちゃんは、光の無いお目々で窓の外の夜空へと視線を向けて祈ります。
その窓の外を、まるでステフちゃんを慰めるかのように、一筋の輝く星が流れ落ちたのでした。