「と、このようにして現在君達がいる仮想世界は出来上がり、発展していったという訳だ。」
「む、いい時間だな。今日はここまでとしよう。」
教壇にいる、見た目30代前半の男性が声を掛けたところで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「起立、気を付け、ありがとうございました。」
委員長の挨拶と共にクラス全員が礼をし、その後は各々仲の良い奴らと話をしたり、トイレに行ったりと好き勝手に休みを満喫し出した。
見た目30代前半の男性が言ったように、ここは仮想世界である。
仮想世界に生活基盤の全般が移った際に、学校も仮想世界に作ろうという話になり12年前に作られたのがこの仮想第一学園だ。第一学園は初等部、中等部、高等部、大学と全てが詰まった、仮想世界初のモデル校として誕生した。
現実世界では、戦争末期以降学校教育を十分に受けられる人間は数少なくなってしまったが、仮想世界では昔のように全員が一定以上の教育を受けることが出来ることを目指そうと、知識人が力を合わせて作ったのがこの学園である。
先程まで授業をしてくれていた先生も詳しくは知らないが、若くしてナノマシンを利用した植物の育成、再生を行う研究のエース的な存在らしい。
そんな、一流の先生たちが未来のためにと教育を行なってくれるのがこの学園なのだ。
「いやー、高校初授業終わったな。なんつーか、なんで今更こんな授業って感じだわ」
ぼーっと、さっきの授業で改めて聞かされた現状を思っていると、小学生時代からの腐れ縁で、スポーツ漫画から出てきました。というような少年の晴人がこっちの机まで来て話しかけてきた。
「米倉先生の高校1年生に対する初授業は毎回この授業らしい。皆んなが知っている内容でも、高校生になった今だからこそ、もう一度改めて聞くことで、何か感じとって欲しいとのことだそうだ」
「あー、まあ確かに小学生の時に聞いたのに比べると、まあ違って聞こえるかも?」
「でもなー、正直俺達が子供の頃はもうこの世界が俺たちの生きる世界!って感じで、遊ぶのもここだったしなあ。確かに発展したなとは思うけど、現実世界で生きるってあんまピンとこないんだよな」
「俺も正直よくわからない。先生が子供の頃はそれこそ、現実から仮想への移住期だったんだろ。だからこそ思うこともあるんだと思う。だけど俺たちみたいな最初から仮想にしか住んでいない世代には、現実世界の話をされても、まさしく別の世界の話だ」
「何言ってんのよ、先生が言いたかったのは、先人の努力があったからこそ、この世界は生み出されてここまで成長できたって事でしょ。だからこそ、私たちは先人から学びこの世界をさらに発展させていかなきゃいけないのよ!」
先程授業の終わりの挨拶をした、ザ委員長とでも言うべき存在ががこちらに来ていきなり御高説を垂れ流し始めた。
「それに私達は選ばれた代表なんだから、他の人たちの分も頑張らないとでしょ」
「冬月は高校に入っても真面目だねえ。選ばれたとか言ってもただ運が良かっただけだろ。まあありがたいとは思ってるけどさあ」
子供達の数は昔に比べて少なくなったとは言え、仮想世界には未だに学校は一つしか無い。その状況で子供達全員に学校に来てもらうと言うのは物理的に不可能だ。
そのため、学校に通いたいと願う子供たちは、毎年1月に入学希望書を学校に提出する。
そして運がいいと入学許可証が学校から自分宛のメールで届くと言う寸歩だ。
入学許可証が届いたら、後は4月に晴れて新入生という訳だ。
1学年3クラスで、クラス替えは無し。学力も相当に低くなければ、大学の卒業までエスカレーターで進むことができる。
入学するための基準も特に年齢以外にはなく、学校の創立理念からか特に試験も面接も行われない。
噂によると、完全に運で決めてるのでは無いかと言われている。
だが、勿論入学出来なかった子供は教育を受けられないのかと言うとそう言うわけではなく、俺たちのような学校に通っている子供達以外には、授業の様子を誰でも見れるように配信する事で、対応を行なっている。
誰でも見れるようにしているため、受けているのは実は子供より大人の方が多いらしいという噂もある。
授業に対する質問なども、授業を受けている人数が多すぎるせいで、基本的には俺たち学校に通っている生徒のみが質問をする形となっている。
何は学校の数も増やして全員が学校に通えるようにするのが目標らしいが、それはかなり先の話になるだろう。
「選ばれたって言いかたはあんまり好きじゃ無いけど、俺達が恵まれているの確かだし、高校生になったからには、もう少し真剣に考えなきゃ行けないのかもな」
「お前らほんと真面目だな。もう少し楽に考えられないのかね。別に学校に通えてるだけで頭が良くなるわけでもあるまいに」
「だけど、学校に通えたからこそ、晴人や冬月達に会えたんだ。その学校が俺たちの成長を願っているのであれば、恩返しとして少しでも頑張ろうかなって思ってもいいじゃないか。」
「かー、ほんとお前は青臭いセリフを恥ずかしげもなく言うな。まあ確かに学校がなけりゃ、修斗達に会うこともなかったんだもんな。なら高校の授業くらい真面目に頑張ってみるか!」
「本当に晴人は、部活以外も真面目に頑張りなさいよね。高校もテニス部入るんでしょ?」
「おう。もう、中学の頃からの先輩に挨拶してきたわ。修斗は冬月に無理やり副委員長にさせられてたし、高校も委員会で部活無しか。勿体ねえよなあ。適正滅茶苦茶高いのに」
「一応委員会に参加してても、入部は出来るけどね。あんまりいないらしいけど。それに冬月との学級委員会活動は好きだから、冬月に誘ってもらえて俺は嬉しかったよ。」
「だそうですよ。良かったですね冬月さん」
「中学時代からずっと2人で委員長と副委員長をやってるんだもの。今更他の誰かが副委員長なんてあんまり考えられないわ。まあ、でも嫌だって言われたら、素直に引き下がるつもりではいたわよ。」
「嘘つけ。誘ってた時、絶対に一緒にやるって顔に書いてあったぞ。嫌だって言われても絶対諦めなかっただろうよ。」
「確かに、誘われた時俺も絶対に断れないなとは思ったかな。勿論断る気は最初から無かったけどね」
「修斗まで!確かに、修斗との委員会活動は私の楽しみでもあったから、今年も一緒にやりたいとは思ってたけど...」
昔の再現という事で、この学校には委員会や部活が存在する。よくあるサッカーやテニスなどの運動部をはじめ、日本の文化であった囲碁将棋部など文芸部など割と幅広い部活動が認められている。
学校は一つしか無いが、人を集めて大会なども行われている。生きていくだけならば、何もする必要が無くなったこの世の中では、娯楽に人生を費やして生きている人も多く、割と競技によっては、人が集まるらしい。とは言っても中学生と高校生が同じ大会に出ていたり話する訳だが。
「そろそろ、次の授業が始まるわね。しっかり先生が来るまでに準備を整えておきなさいよ」
「わかってるよ。じゃあ修斗、次の休み時間でな」