「もうちょっとやり方あったんじゃない。」
夏樹君達と別れた後冬月は、やれやれと言うふうに話しかけて来た。
「そうだね。もっと賢いやり方は幾らでもあったと思う。でもこれが俺が出来る最良の方法だと思ったんだ。」
確かにこんな事をしなくても、委員会の仕事だけで考えればもっと簡単に済ませることもできただろう。
でもそれじゃあ嫌だった。だから今回のような方法を取らせてもらった。
「委員長には集会前にスタジアムまで夏樹君にバレないように全員連れて来てもらうように頼まなくっちゃな。」
「えっそこまでするの?流石に可哀想じゃない?」
「違うよ。そうしなければ意味がないんだよ。」
今回の勝負は委員会のみんなが見てるから意味がある事なんだ。俺たちだけでも完結するはするけどそれじゃあ意味は半分以下になる。
「何を考えてるのかはわかるけど、あまりやりすぎないようにね。」
俺がやろうとしていることが無茶苦茶だと分かった上で、こうやって止めないでいてくれる冬月は本当に良い友人だと思う。そんな冬月のためにも、こんな気に食わない状況は早く壊さなければ行けない。
「おや、風間君と冬月君だったね。二人とも今帰りかい?」
二人して廊下を歩いていると米倉先生とばったりとでくわした。
「はい、委員会が終わったので今から帰るところです。先生はどうしたんですか?」
「委員会活動か、偉いね。私も先生としての用事は終わったので、これから研究室に行くところだよ。」
「そうだちょうど良かった。聞きたいことがあったんだけど少し時間あるかい?」
「聞きたいことですか?」
思い当たることがなく頭を捻っていると米倉先生は笑いながら手を振った。
「いやいや、そんな深刻な質問じゃないよ。ちょっとしたアンケートのようなものさ。」
「そうなんですね。時間なら大丈夫です。冬月も大丈夫だよね?」
「ええ、大丈夫。それで先生質問ってなんでしょうか?」
「ありがとう。じゃあ質問させてもらうとしよう。」
「今日の私の授業を聞いて君はどう思ったかな?さっきも言ったように軽いアンケートのようなものだから深く考える必要はない。パッと思った事を教えてくれればいいんだ。」
「今日の授業で思った事ですか。丁度授業が終わった後、春人君も加えて話したんですよね。」
「話し合ってくれたのか。嬉しいね。授業をした甲斐があるってものだよ。それでどんな感想だったかな。峰君の分も一緒に教えてくれると嬉しいな」
「春人的には、自分達の世界はもうこっちの世界が現実のようなもので、現実世界の話をされてもピンとこないみたいでした。俺も同じで、あんまり現実に現実味がないというか...」
「なるほど。君たちはそう考えたわけだね。冬月さんはどうかな?」
「私は、先生達先人の努力によってできたこの世界を、この学校でさまざまな事を学び、今度は私たちがこの世界を育てて行かなければならないと思いました。
「...そうか。いい考えだね。この学校の先生は自分で言うのは恥ずかしいが、私も含めて一流の先生が多い。学ぶには最適な場所だろう。将来のためにしっかり学ぶといい。」
米倉先生の求める答えが出来たのかはわからないが、先生は満足をしたようだ。
「風間君達の言うように、君たちくらいの年代からは、現実世界よりもこちらの仮想世界を現実だと思う人が増えているみたいだね。知っているかもしれないが、毎年私の最初の授業はこの話をするんだが、年々質問をすると風間君と同じような答えをする人が増えているんだ」
「冬月さんの意見も本質的には、この世界を現実として捉えているよね。」
「全ての人間が仮想世界を現実と捉える未来も遠くはないのかもしれないね。」
米倉先生は腕を組みながら、一度頷くと、
「ありがとう。とても参考になったよ。次の授業の初めに、今聞いた内容を紙に書いてもらうことになるからその時は同じことを書いてくれれば問題ないからね。」
「時間をとらせてもらってすまないね。話は終わりだ。気をつけて帰るんだよ。」
そう言うと米倉先生は自分の研究室の方に歩いていった。
「こっちの世界を現実と捉える人が殆どか」
「まあ、そうよね。現実世界ってもう栄養を補給することと寝ること以外でいることって殆どないですしね」
「そうだね。俺たちはまだ発展して行くこっちの世界を見て来たから、まだ仮想世界のイメージがあるけど、発展しきっちゃったら本当に誰も現実世界を現実と捉える人はいなくなるかもね。」
「別にいいんじゃないの?仮想世界で生きる方が現実で生きるのより充実した生活を送れるんだから。」
「そうだね。俺もそう思うよ。」
近い未来に全員が仮想世界を現実だと思うようになるか。実はもうその近い未来は明日にも迫っているのかもしれないな。