初投稿です
数多のビルに囲まれる都心のスクランブル交差点。
通常なら多くの人が行き交うこの場においては不思議なことに、少女がただ一人駆けているのみであった。
月光に浮かぶ影が交差点に踊る。
周囲を警戒しているのか油断なく周りをキョロキョロと見渡す様は眼光鋭く歴戦の猛者のそれである。
頭を振るのに合わせて少女の美しい金髪がゆれた。
少女が鋭く息を吐き、手に持つ得物、状況となんらマッチしていない分厚いナイフを握り直したその刹那──
夜闇を切り裂く幾ばくもの光の筋が少女の元へと殺到し、少女はバラバラになって死んだ。
「あれやっぱりおかしいって!! 絶対無理じゃんあんなの!!」
「それはそかもやけどもさぁ、ほんならあんさんも使えばよくねって話じゃないん?」
「は──ー、ほんっと馬鹿だね。そんな激ツヨ武器使うのは浪漫がないじゃんか、射程正義の今にこそ、この刃渡り40cmの出番なんじゃないの」
スクランブル交差点のど真ん中、ついさっき惨殺がなされた場所で小柄な少女と奇天烈な格好をした女性が談笑していた。
不貞腐れて地べたに寝っ転がっていた少女がおもむろにドンと立ちあがり得意げに反った大きなナイフを女性に見せつける。自慢げな少女と対比的な暴力的なナイフ。その光景は間違いなく異常で、あまりない胸を誇らしげに張るその少女こそ、先程怪光線によってバラバラ死体になっていた者だった。
『Urban Custom Fight』巷ではUCFと呼ばれたり、呼ばれなかったりするこのゲームは都会的なバトルフィールドで自分の武装、スキルを好きなように改造して戦うフルダイブ型格闘ゲームである。
VR技術が進み、フルダイブという完全没入型のゲームジャンルが主流となった現代において、格闘ゲームかつ、やけにリアルなゴア描写によって自由度の高さという魅力を打ち消しきった過疎ゲーであった。
フルダイブ型の格ゲーはとにかく操作が難しい。格ゲーのコンボを自らの体でやらねばならないといえば分かるだろうか。当然必殺技などある程度オートでやってくれる部分はあるが、必殺技だけでは格ゲーは厳しい。さらにこのUCFは必殺技が脳をしぼるようにせねば出ない謎仕様がある。この仕様のせいで難易度は他の格ゲーとは一線を画すのだ。
そして先の少女は何を隠そうこのゲームのプレイヤー、「クルルゥ」であった。
モスグリーンのスモックパーカーに大ぶりのナイフを二丁。金髪の翠眼少女で、こぶりな口の隙間からちらりと覗くギザ歯がチャーミーな現代のロマン主義者。UCF内ランキング最高14位という過疎ゲーゆえあまり栄誉のない記録を持つ正真正銘のランカーであった。
対する女性もまたこのゲームでは名のしれた人物だ。プレイヤーネームは「ごるふぃ」黒髪ロングの綺麗系お姉さんで着物を魔改造したかのようなドレスを身にまとっているのがまず目につく。金魚柄の着物ドレスのからは艶めかしい白磁のような足がスラッとのびている。彼女もクルルゥと同じくこのゲームのランカー。最高順位9位の強者である。
クルルゥがログインしたときにオンラインだったごるふぃへクルルゥが宣戦布告のメッセージを送り付けたことが先の惨殺の発端であった。
「浪漫なんやったらええやないの。本望やないか」
「それとこれとは話が違うぅ!!」
自慢げだった姿とは一転クルルゥはうがぁー、と唸る。
ごるふぃのメインウエポンは自分の背後に召喚される5体の金魚からのレーザー光線だ。無骨な発射ユニットだったものを金魚型に改造したごるふぃのお気に入り。クルルゥをメタメタにした正体であり、ごるふぃの十八番である。
光線は圧倒的射程と攻撃力を兼ね備えた理論値最強兵装である。しかしこのゲームにおいて屈指の操作性の悪さも兼ね備えている困ったちゃんだ。ただ、上位帯になると基本皆そこそこ使えたりもする。
また、光線の特徴として、しぼった脳みそをさらに一ひねりすることでひねった方へ曲げることができる、というものがある。常人では到底不可能だが、ごるふぃは拙いながらも同時に5本動かすことができた。イカれているのであろう。
クルルゥも試したことはあるが、2本が限界であった。ごるふぃのことをイカレポンチだと思っているが自分も大概であることには未だ気づいていない。
浪漫こそが至高と考えるクルルゥにとって、ごるふぃはネッ友であること以前に越えなくてはならない壁でもあるのだ。リア友との約束もある。最強厨である友を常にこのナイフで八つ裂きにと考えているものの、ほとんど毎度自分が八つ裂きにされている。目指せ勝率80%をかかげ、ことあるごとに喧嘩を売っているのだが結果は芳しくない。最近は1勝もできてないのだ。
しかしもう随分夜遅くになってしまっていた。これ以上は明日の学校生活に響く、クルルゥはつよつよナイフ使いである前にjkなのである。負けたままは腹立たしいが致し方ない。
「次こそはボクが勝つからなっ!」
「ハイハイ、頑張ってみーな」
自身の熱い宣戦布告に対しいつものこととはいえ、適当に流してヒラヒラと手を振る友の姿にはイラッとするがぐっと抑えてUCFからログアウトした。
視界が暗転する。頭に装着していたゴツいVRゴーグルを外した。部屋は怖いほど静かでひどい耳鳴りがした。
電脳世界から現実世界へ
クルルゥは