ギザ歯小柄jkのVR記   作:タイクーン火災

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試験が辛い


雨降りの月曜日

 

「おはよ、くー」

「おー、おはよー、凛」

 

 机に突っ伏している久羽、今日はどんよりとした雨模様。机の横に備え付けられた窓にはねずみ色の空と、パラパラと降る雨が見える。

 だが今の久羽にとっては豪雨でも快晴でも単に眠気を呼ぶ要因にしか過ぎなかった。

 

「で? どーしてそんな眠そーなの?」

 昨日、あんまりゲームしてないよね。とは凛の言。

 

「もしかして、くー、あの後一人でゲームしてた?」

「いや、してないよー……。課題がさ、もう終わんなくて、終わんなくて」

「あ。ごめん。終わってなかったんだ……。それって私と、話してたから?」

「んーん、別にそれは関係ないよ。お恥ずかしながらモチベとINTが足りなくてさ」

 

 久羽と凛は昨日ともにあるゲームを始めた。

 そのゲームの名は『ドラゴンズナイト』

 昨日、雨降りの中、凛を家まで送ってから暫く学校からの課題をこなしていた久羽だったが、どうにもやる気が起きず、気分転換だと雑誌片手にベッドに寝っ転がてしまっていた。適当な雑誌も読み終わりそろそろやるかなぁ、と机に向かおうとしたその時だった。

 久羽のスマホが振動する。凛からの通話のお誘いである。

 凛と久羽がお別れしてからかなりの時間が経っていた。凛はそろそろ久羽の課題が終わっている頃だろう、と通話してきたのだ。

 久羽は起き上がった腰をゆっくりとベッドに戻した。布団の上にごろりと寝転がる。

 久羽は課題より凛と話すことのほうが大切だった。

 

 ゲームのことや学校のことを話したりしているうちに夜も更けていく。

 凛との通話を終えたとき、久羽に残っていたのは危機感と、その危機感の元凶であるブツ。

 視界の端で禍々しい気配を放つ課題に、取り敢えずやらなければ、としぶしぶ机に向かう。

 

 なんで昔のボクはやらなかったんだよー。と半泣きになりながら課題に取り掛かるも、相対するはよりによって先生珠玉の屈指の難問集であった。

 

 国語の問題かと見紛うほど長大な数学の問題に軽くめまいがする。

 想定を超えた難度に全てを放り出して寝てしまいたい気持ちでいっぱいになっていた久羽だったが、根は真面目。

 頑張ろう、ボク。と自分を鼓舞してエナドリをグビッと流し込んだ。

 

 結局すべてが終わったのはエナドリの魔法も切れた頃。泥のように眠った久羽は、起きるやいなやエナドリの魔法を掛け直すことで、死にそうになりながらも学校までやっとこさやってきた、というわけである。

 正直朝イチでカフェインをキメていなかったら久羽はここにはいなかっただろう。

 久羽の背中には翼が授けられていた。

 

 

 

「課題めちゃくちゃ難しかったんだけど、どうしたの? あれ。いやホントに」

「うん、難しかった。でも別にそこまででもない」

 

 久羽の嘆きに対して凛は淡白であった。久羽はこの友人の特筆すべき特徴を思い出した。

 

 そーいえば頭いいんだった……。それも、すっごく。

 

 久羽は凛のことをジト目で見た。普段の凛のような目である。

 高校最初のテストで大差をつけられ屈伏させられたことを思い出した。

 この自分の目前の女の子は自分より小柄でありながら、自分よりも大きな知恵を持つ者であったと。

 

 凛は、急に自分のことを自分そっくりの目つきで見られて、顔を赤らめた。

 なんで私を見てくるの? それも私みたいな目つきで……。

 凛は天然物のジト目を泳がせる。

 ジト目の女の子、凛を、ジト目で見るギザ歯少女、久羽。

 ジットリとした空間。

 

 凛は才女であった。成績優秀で現代文も得意。だが、いまいちリアルでの人の機微には、疎かった。

 

 

 

「まあ……? 凛が勉強得意なのは知ってるし。昨日のは、っていうか今日か。今日のはボクにはちょっと難しかったってだけさ。……ホントにチョビっとだけだよ」

「うん、そうだね。くー、変に真面目だし、勉強してるし。前のテストも別に悪くはなかったんでしょ?」

「まぁまぁ、だね。でも悪くはなかったよ」

「ふーん、なら、良い」

「そうかなぁ? いや、それもそうだね、うん! そうだ! ボクは頭がいい…………とまではいかなくても、うん、悪くはないはずさ!」

 

 久羽はワハハと笑う。模試の全国偏差値は50をギリギリながらも越えていることを思い出した。久羽の2つのまんまるの瞳は、黒く妖しく輝いていた。チャームポイントのギザ歯もちらりと覗く。

 凛も笑う。口に手を当ててクスクスと小さく。

 

 窓にはザーザーと雨がふる。

 梅雨だった。

 

 

 

 

 

 

 放課後、久羽と凛は、マックにいた。

 ポテトを啄みながらのお喋りを得意とするjk二人組だった。

 凛はポテトを食む。久羽はジュッとコーラを飲み干した。

 凛と話してない時、よく久羽は片手でスマホを操作している。指の動きからメッセージを打ち込んでいるようだった。

 

 手に持ったポテトを久羽に突きつけて凛は聞いた。

 

「久羽、最近誰かとよく連絡してる、誰?」

「へ? あれ? 言ってなかったっけ。ごるふぃー、あーえっと、ボクとバチバチな金魚レーザー使いの子。覚えてる?」

「ん。覚えてる、でも意外。久羽ってあんまりネットの人とそういうのしないと思ってた」

「ボクもさ、何が起きるか分かんないよね、人生。まあ、ごるふぃは良い人だし、なんというか馬が合うっていうか、話してて楽しいし」

「むう」

「あとやっぱり数少ないUCFプレイヤーだしね、イベントとかあったら教えてくれることになってるのさ。うぃんうぃんってやつだねっと」

 

 返答しながら自分に突きつけられた銃口(ポテト)を口で奪い取った。

 得意げにポテトを咥えながら見せびらかす。

 凛はムッとした様子。Win-Winの使い所を思いっきり間違えているが、久羽は御満悦である。

 

 悦に入る久羽は気づかない、凛の目がキラリと獣のように光ったことに。

 

 凛は久羽が口に咥えるポテトを、これまた咥えて奪い返した。一瞬の早業である。

 凛はポーカーフェイスながらも久羽をどこか得意気に、挑発的に見た。

 

 きっと悔しそうな顔をしているはずだ、呆気にとられているかもしれない。

 

 凛の予想は当たってた。ただ、少し情報が足りなかった。

 たしかに久羽は呆気にとられていた。

 が、久羽の顔はリンゴのように真っ赤だった。ポカンと口を開けた久羽。

 一歩遅れて凛も状況を理解する。凛の陶器のような白い頬が薄く赤くなった。

 久羽の手がゆっくりと己の唇を優しく撫でる。

 凛はその様子に目が離せなくなった。

 久羽の姿はその小柄な体格と反して艶やかだった。

 

「今、当たっ──ー」

「当たってない」

「え? いやでもボク、し」

「何もない」

「ええ……」

 

 久羽もよくよく考えると自分の最初の行動、凛の手に持つポテトを口で奪ったのは過激だ……と内省する。

 凛もポテトを無心で食べ始めた。

 久羽はこのことについて考えるのをやめた。

 ポテトはすぐ無くなる。

 

「……帰ろっか」

「……うん」

 

 外はまだ雨が降ってる。

 二人で並んで帰る。いつもよりも凛との距離が近いような気がした。

 今日はゲームをしなかった。

 

 

 

 翌日、凛はいつもと変わらず久羽に話しかけて、いつもと変わらず過ごした。

 唯一、いつもと違うのは凛は初めて授業中に夢の世界へと旅立ったこと。

 幸か不幸か、それを久羽は知らない。久羽もまた眠りこけていたからである。

 

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