ギザ歯小柄jkのVR記   作:タイクーン火災

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久羽と凛

「ふわぁーあ」

 

 春も終わり、夏の風を感じる5月。桜の花びらが散り落ち、まばらに桃色となった通学路をあくびをしながら通る者がいた。

 雲ひとつない快晴の下、特大のあくびを一つ。大きく開いた口から見えるギザギザの歯。久羽である。

 

 昨夜遅くまでゲームをしていたせいで目はしょぼしょぼ、隈も少しできてしまった華の女子高生は重い足取りで学校へ向かっていた。

 眠いぃ眠いぃとむにゃむにゃ唸りながら歩く姿はさながらゾンビのようである。通行人が露骨に避けだし、登校中の小学生がそっと防犯ブザーに手をかけたところで、寝不足ゾンビに話しかける小さな影があった。

 

「くー、大丈夫?」

 

 久羽は身長149cm、同年代と比べるとかなり小柄な部類なのだが話しかけてきた女の子は更に小さい。久羽にむける視線はジトリとしている。黒髪の細いツインテールがチャーミーな彼女は久羽のクラスメイトであり、久羽の高校生活初めての友達だった。

 

 久羽が彼女「矢神(やがみ) (りん)」と仲良くなったのは今から一年前の、高校一年生の春であった。入学して最初の身体測定にて、去年からミリも身長が伸びていない恐るべき事実に打ちひしがれていた久羽を、同じく身長が変動していない凛が慰めたのが始まりだ。そこから集会で並ぶときも前後であったりと、たびたび話すようになって今ではすっかり仲良しである。マイペースな久羽と面倒見がいい凛とで相性も良かったのかもしれない。

 2年連続同じクラスになったときには久羽は嬉しくて思わず抱きついてしまった。とっさのことに顔を赤くした凛の姿は非常に可愛らしく、久羽の脳内フォルダに大切に収められている。

 

 それはともかくとして寝不足ゾンビ改め久羽は友からの問いに答えようと、今できる全身全霊の笑顔でサムズアップをした。無論、自分は大丈夫です、健康です、という意味だ。

 

 

 笑顔を見た凛の顔がひきつっている。

 凛の後方で登校中の小学生が防犯ブザーを鳴らした。

 解せぬ。ギザ歯か、ギザ歯が悪いのか。

 そんな考えが頭に浮かんだがすぐに消し、一刻でも早く防犯ブザーを止めさせようと小学生をなだめにかかった──ー。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁ、ひどい目にあったよ……遅刻であんなに怒らなくてもさぁ、別にいいと思うんだけど!」

「こってり絞られちゃったね…………遅刻したのはくーのせいだけど」

「そ、それはごめんって、でもちょっとショックだなぁ。そんな酷い顔してたかなぁ?」

「してたよ」

 

 食い気味だなぁーと呟く。たしかにあのときは寝不足ではあったものの自分はそこまで酷い顔はしていないと思っているのだ。もしかしたら小さい子から見たら自分の顔は怖いのかもしれない。それが確かならかなり心にくる。

 

 次の授業の準備をしていた凛に話しかける。

「ボクの顔って怖い?」

 

 凛はキョトンとしたあとくすりと笑う。顔が少し熱くなった。言葉をかさねる。

「もー、笑わないでよー。結構気にしてんだからさ」

 ごめんね、と凛は未だ少し笑ったまま

「別に怖くないよ。くーは可愛いと思う」

 と返してきた。

 さっきとは違う理由で顔が熱くなる。頬がどんどん赤くなっていくのがわかる。なんというか、フツーに照れる。そんな様子を凛に見られたくなくて久羽は少し俯いた。

 凛はそんな久羽の様子に気づくことなく続けた。

「でも朝のときの顔はちょっと、怖かった? かも。なんていうかちょっとニヤけが混じってて」

 その言葉に久羽はスッと真顔になった。

 ニヤけの原因には心当たりがあった。久羽は顔を赤らめた凛の記憶のフォルダを脳の奥の方へと置き直した。

 

 休み時間が終わる。ツカツカと教室に入ってきた英語教師を見て、高校2年生の授業は難しいぞと、気合を入れ直して自分の席へと戻った。

 

 

 

 

 

 

「それでさ、くー、なんでそんなに眠そうなの?」

 昼休み、中庭のベンチで並んで座っていた凛がサンドイッチ片手に尋ねてきた。

「ゲームだねぇ」と返す久羽の手には購買で買ってきた揚げパンがある。

「ゲームって、またあの格ゲー?」

「そそ、あの憎っくき金魚レーザーに勝てなくてさ、リベンジしてやろうかなってね」

「ふーん、で、結果は?」

「負けました……」

 

 消沈して揚げパンをもそもそと食べる久羽。だがその内には次は絶対に勝つ、と闘志の炎が燃えていた。

 そんな久羽に凛はそれで私とのゲームはいつになるの? と聞く。これには、久羽も言葉が詰まってしまう。

 

 

 

 数週間前、久羽は凛と凛イチオシゲームである大作ファンタジーVRMMO『ドラゴンズナイト』を一緒に遊ぶことを約束した。もちろん今流行りのフルダイブ型VRゲームであり、久羽も凛とのゲームを楽しみにソフトを購入済みである。

 ただ、久羽は未だ凛と遊ぶことがなかった。理由は単純なもので、金魚レーザーごるふぃに勝てていないからである。

 フルダイブ型のVRゴーグルはソフトの切り替えの際にかなりの手間がかかる。最近のものになるとこの手間がかなり改善されるのだが、久羽が使っているのは旧型も旧型。幼少期からのものを大切に使っているのだ。

 よって新しいゲームを始めることは今までやっていたゲームからそれなりの期間離れることを意味する。それで、久羽は気持ちよく新しいゲームを開始するためにごるふぃに勝ったらともに始めることを凛と約束した。まあ、一回ぐらいならすぐに勝てるだろうと思っていたのである。

 しかし、これが悲しみの始まりであった。久羽が数週間負け続けたのだ。ごるふぃ相手には基本負ける久羽だがここまで負け続けるのは始めてのことであった。凛のために、自分のためにとここ数日は毎日戦っているがどうにもなぜか勝てないのだ。

 久羽はなんだかんだで待ってくれてる凛に甘えていたが、流石に待たせ過ぎたと反省した。

 久羽は今日ごるふぃと戦って、勝っても負けてもこれで最後にすることを凛と約束した。

 正直な話ファンタジーの大作ゲームに興味もあった。

 

 今日こそ白黒つけよう、久羽は真っ青な空を見ながら手に持っていた揚げパンを勢いよくかじった。

 久羽とともにゲームができることが決まった凛はその姿をサンドイッチを食べながらじっと見ていた。

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