ギザ歯小柄jkのVR記   作:タイクーン火災

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都会的な自由度の高い格ゲー①

 いつもより長く感じる授業が終わり、久羽待望の放課後がやって来た。チャイムの音が響くと同時にリュックサックをひったくるようにして掴み、久羽は走りだした。

 バイバイと小さく手をふる凛に手をふり返す。今日こそ勝つ。絶対勝つ。勝つぞー、と心の中で大きく叫んだ。走るままの勢いで学校を飛び出す。胸がドキドキと異常に早くうつのがわかった。暴れるような心臓の鼓動を確かめるように心拍と同じBPMでアスファルトを強く踏みしめた。

 

 

 

 

 

 家に帰った久羽は高校からの課題を放り出してVRゴーグルを取り出した。頭にガチャコンと装着し、慣れた動作でUCFを起動する。

 いつもは凛と放課後駄弁ったり、マックへ行ったりしているのでこんなに早くログインすることは滅多になかった。だがしかし、今日の久羽は本気も本気であった。ごるふぃを倒すため、事前にたくさんの対戦を積んで、温まった状態で戦おうと考えたのだ。フルダイブ型のゲーム、特に格ゲーにおいてはVRに慣れておくことがパフォーマンスに大きく関わる。今日は念入りにこなさなくては。

 また、UCFは久羽にとっては人生で一番時間を費やしたゲームでもある。ログインしない日は無いくらいだ。久羽にとってクルルゥは本当に自分の半身のような大切な存在であるのだ。一区切りとなる今日、少しでも長くクルルゥとして遊びたい気持ちもあった。勿論、凛との新しいゲームはとても楽しみだが、毎日のように遊んだゲームとのしばしといえども別れには、一抹の寂しさもあった。それは長らく戦ってきた、戦友であるごるふぃの存在も要因の1つであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 UCFにはフレンドと対戦ができるプライベートマッチと、現在ログインしている人とランダムで戦うランダムマッチの2種類がある。フレンドリストからごるふぃのログイン状況を見てみると、どうやら今日はまだログインしてないようだ。この隙に準備を万全にしてやろう。クルルゥは、ランダムマッチへと進む。クルルゥは主武装であるナイフに目を向けた。自分の相棒ともいえる二振りのナイフはいつもよりも心なしか輝いて見えた。

 

 

 

 

 久羽が入れ込むこのゲームには、いくつもの他のゲームより優れた点がある。このゲーム、UCFの代表的な魅力の一つには圧倒的な自由度が挙げられる。豊富な武器種に無数のスキルや必殺技、これらを組み合わせて作られるキャラクターはそのプレイヤーの色が出る。久羽にはこれが非常に愉快であった。他者のスキル構成を見るだけでその者のプレースタイルや戦い方に思いを馳せられる。

 

 そんなスキルマニアな久羽の渾身の出来であるクルルゥのスキル構成は機動力を重視したものであった。

 

 スキルを使用することで宙に浮くことができる浮遊。

 同じく使用することで任意の方向に自身の体を飛ばす推進。

 そして空間を固めて足場や盾に出来る空間固定。

 

 他にもナイフの攻撃力を上げる切れ味というスキルや、移動の速度を上げたりジャンプ力を上げる、身軽というスキルなど身体強化系統のスキルも所持しているが、特徴的なのは先述した3つのスキルであった。

 大ぶりとはいえナイフという射程の短い得物を好んで使っているため、いかに相手の攻撃をくぐり抜けて懐に潜り込むかが命題となる。更に武器の中には銃や光線なんてものもある、機動力の有無はクルルゥにとってはまさしく死活問題なのだ。

 いやでも、もっといい組み合わせがあるんじゃないかな……? 

 

 クルルゥは相手とマッチングするまでの待ち時間に自身のスキル欄を見てウンウンと考え込んでいた。そうこうしているうちに、クルルゥはランダムマッチで適当な相手とマッチングする。

 

 クルルゥは目指せ全戦全勝と意気込む。ランカーとして野良の人相手には負けるつもりなどなかった。

 ボクは強い、大丈夫。と自分を鼓舞する。

 

 

 

 今回の戦闘マップは都心にある中央公園だった。広い上に射線が通る場所も多い。相手が銃器系の武装の場合、真正面から何も考えずに向かっても蜂の巣にされて終わりである。クルルゥのような短射程は不利なマップであった。

 

 

 

 試合開始の合図と同時にクルルゥは脳に力を込め自分の目の前の空間を固め、壁を作る。一見無意味なように見えるが、次の瞬間、空間の壁が呆気なく粉々に壊れた。

 目と鼻の先に壁によって静止させられてた弾丸が支えを無くしチャリンと音を立てて地面に落ちる。対戦相手がスナイパーライフルでスポーン地点からクルルゥのスポーン地点まで撃ってきたのだ。

 このゲームではスポーンはランダムスポーンとされてるもののスポーン場所にはパターンがある。スポーン場所の組み合わせを全て覚えているのは上級者。このゲームをしっかりやり込んでいる証である。クルルゥは相手への警戒度を1段階上げた。

 

 しかし、相手は長物。近づきさえすればあとは好きに料理するだけだ。クルルゥは頭の右の方をぐっと絞る。そして同時に左の脳も絞った。浮遊と推進が同時に発動したことで、クルルゥは変態的な速さで相手のスポーン地点へ飛んでいった。地面と平行にうつ伏せの体制で寝転びながら超速で飛んでくるクルルゥの姿に面食らった様子であったものの、相手はすぐさまに落ち着いてスナイパーライフルを構え直した。

 相手と自分の視線がかち合う。ぐんぐんと迫るクルルゥを前に引き金を未だ引かない……

 近づくクルルゥはいつ撃つのかを見極めようと、相手から視線を外さずにいた。すべてを見透かすようなクルルゥの翡翠の瞳が、相手の全身に突き刺さる。被我の距離がどんどん縮まっていく、300m、200m、100m……

 相手の目が揺れたような気がした。全身がこわばったような気もする。気の所為かもしれない、けどクルルゥにはそれで十分だった。

 知覚するのとほぼ同時に、半ば無意識でクルルゥは推進の力を思いっきり横に変化させた。急に向きを変えられた体が、宙へと投げ出される感覚と、浮遊感となってクルルゥを襲うが、奥歯を強く噛みしめ、更に脳を絞る。自分の背中側に空間を固定して壁を作り、体が投げ出されないようにしたあと、推進の力を四方八方に使って体を回転させることで勢いを完璧に殺してみせた。

 

 相手からの弾丸はどうやらうまく避けれたようだ、相手との距離はもう20mもない。すぐに推進を再使用し相手の方へ一目散に飛んでいった。相手ももうスナイパーライフルを撃つ暇はないと考えたのか、無手で構えを取っている。武術経験者なのかやけに様になっていた。

 

 先に仕掛けたのは相手の方であった。

 

 飛んできたクルルゥの顔目掛けてキレイな構えから拳が放たれた。フルスピードでかっ飛ばしているクルルゥが当たってしまえば大ダメージ間違いなしだ。

 そんなスナイパーライフル使いの起死回生の一撃をクルルゥは首を少しかしげるという最小の動作で完璧に躱し切って見せた。殴るだけの単純な動作になら当たる気はない。手に持ったナイフで相手の手首に軽く切り傷も負わせている。まさに神業であった。

 しかし、相手も並のものではない。拳が不発と分かるやいなや、胸にナイフを突き刺そうとしているクルルゥのお腹めがけての蹴り上げを叩き込んでくる。

 上からの攻撃のあとの下からのすくい上げるような打撃は不意をつく一撃であったが、クルルゥはこれも半身を開くことで間一髪避ける。相手の足は伸び切っており無防備であった。当然これを逃すクルルゥではない。体を回転させるようにして、相手の足を根本から切断する。

 足を失ってなお左手をクルルゥの方へと伸ばしてきたが、クルルゥは避けることなく無造作に首を斬ることで応えた。

 

 

 

 クルルゥの勝利である。初戦の相手としては破格の強敵であったが、相手の攻撃に直撃せずに勝利することができた。今日は調子がいいかもしれない。ふんふーんふーんと機嫌良く鼻歌を歌う。

この調子で次も勝つ! 

 

 この流れを絶やさないためにも、クルルゥはすぐさま次の対戦へと向かった。

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