スマホからポコンポコンと通知がなる。
窓の外からは朝日が差し込み、部屋をほのかに照らしていた。外では小鳥がさえずっている。
久羽は布団の中から手だけ出して枕横のスマホを取ってスタンプを押してまた枕横に置いた。
時刻はAM7:00。土曜日のこの時間に久羽が起きてるのは大変珍しいことであった。
またスマホがポコポコとなる。差出人は
昨夜は激しい夜だった。
久羽は意識が落ちかける僅かな間に昨日のことを思い出していた。
「今日は楽しかったで、クルルゥ」
「そうだね、ボクも楽しかったよ、ごるふぃ。でももうヘトヘトだよ……」
これで計14戦。クルルゥのもう一戦しようぜ、という提案から始まったフレンドマッチ。何戦する? という二人の疑問は、テンションとアドレナリンが最高に高まった結果、二人は10本先取というイカれた対戦形式を嬉々として採用することで、この問いの回答とした。
クルルゥ4勝、ごるふぃ10勝。いつもよりも勝てたことには誇らしいが、目標の勝率8割には届かなかった。悔しい気持ちはあるものの、ごるふぃとの戦いはやっぱり楽しい。だがそれ以前に疲労が強かった。後半、クルルゥはヘトヘトだったが、ごるふぃは以前変わらず笑顔でレーザーをばら撒いていた。太陽のように輝く笑顔とそこから放たれる破壊光線は、今思い出すだけでも腰が引ける。複雑な記憶である。
交差点にぐてーと寝転ぶクルルゥを微笑ましそうに見るごるふぃは急にハッと思い出したように時計を見た。時刻は午前4時。夜更かしも夜更かし、クルルゥの疲労困憊も納得の時間帯だ。
「うわっ、もう4時やん。ごめんなクルルゥ、付き合わせてもうたわ」
「いいよ、もうしばらくは遊べないもん。っていうかそうじゃなくても楽しかったし、明日土曜日だしで大丈夫、大丈夫。モーマンタイだよ」
ごるふぃは「しばらく遊べない」の部分で見るからに眉を落とす。その姿を見てクルルゥも心が痛くなった。だが凛との約束を違うつもりはない。でも、ごるふぃとも遊びたい。ムムムと頭を捻っていると、ごるふぃがちょいちょいとスモックパーカーの袖を引っ張ってくる。
何々どうした? とクルルゥがそちらの方を振り向くと、ごるふぃが顔を赤くして何かを言いたげにしている。
へ? とごるふぃを見るクルルゥ。
どしたん? とクルルゥが聞く前に、ごるふぃが勢いよく頭を下げた。
「ライン交換しません?」
クルルゥは思わず渋い顔になった。本名でやってるんだよなぁ、ライン。ごるふぃのことは信頼してるし、お話もしたい、もっと繋がっていたい思いもあるが、顔も知らない相手に個人情報を渡すのは忌避感があった。
でもなぁ〜
ごるふぃは上目遣いでこちらをチラチラと見てくる。断りづらい。それに眠い。ごるふぃならばいいかもしれない。
「まあ、いっか! 交換しよ」
とクルルゥは承諾した。
ごるふぃはやったあ、と喜ぶ。いっぱいお話しよーな。とクルルゥのほっぺたをツンツンしてきた。クルルゥもオッケー、お話しよーね。とギザ歯をむき出して笑った。
深夜テンションだった。
無事にライン交換したあとはごるふぃからメッセージが送られ続けた。ごるふぃも本名でやっており、水橋 雅というらしい。飼っているのか、きれいな金魚がアイコンだった。
ラインで会話する。時刻は午前5時。久羽は限界だった。最初のうちこそ真面目に返信していたが一向に終わりそうにないラインに、うつらうつらとなる。考えるのも億劫になりスタンプだけを返すようになってからもさらに時間が経ち、気づけば朝日が昇っていた。
久羽が起きたのは結局、昼も越えて午後5時だった。土曜日という貴重な休みが、こんなにも呆気なく浪費された事実に久羽は耐えられなかった。
夢かな、夢だろ。ともう一度夢の世界へ旅立とうとしていた久羽の目の先にスマートフォンがあった。
そういえばごるふぃ……じゃなかった雅とのラインはどうなったんだろ。とラインを見てみると、メッセージは午前7時が最後に途絶えている。雅からのラインの中身も見返してみるとぐちゃぐちゃな文字列で意味をなしていないものばかりであった。
謎の文字列とそれに答える猫のスタンプ。元気いっぱいで超人に思えたごるふぃも、眠気でいっぱいいっぱいだったのだろう。そこには奇妙なラインのトーク履歴があった。
…………もしかしたらボク達はすごく無意味なことをしてたのかもしれない。
悔やんでも悔やみきれなかった。
雅にはおはようとラインを返信する。きっと向こうも同じ状況であろう、不思議な感覚にくすりと笑った。
ホーム画面を見てみると凛からもラインが来ている。
勝負、どうだった?
楽しかった!!!
返信した久羽はふたたび毛布にくるまった。
本当に楽しかった。手が震える。興奮がぶり返してきた。これじゃ今日は寝つけないな、と薄く笑う。
その数分後、久羽はよだれを垂らしながら爆睡していた。