書こうと思って。
ボクは、誰なんだろう。
気がついたら、何もない荒野を歩いていた。
どうしてここにいるのか、どうやってここまできたのか、何で憶えていないのか、今のボクには何もわからない。
誰か、守りたい、守らなきゃいけない人が居た気がする。だけど、それすら思い出すことは叶わない。
ああ、おなか、すいたなぁ。
◆
「…隊長、あんなところに誰か倒れてやすぜ」
「…あぁん?」
部下の声に耳を貸してみるが、誰も見つからねぇ。双眼鏡を取り出してやっとわかったが、たしかに誰か倒れてやがる。よく見つけるもんだ。
「おめぇ、この距離で裸眼だっつーのに、よくわかったな」
「…
…ああ、こいつも、このクソッタレな世界の被害者。俺と同じ穴の狢、か。
「まぁいい、取り敢えず保護してやるか」
「…非感染者だった場合、どうすんですかい?」
「ばっかおめー、行き倒れに感染者もクソもねぇだろうが。取り敢えず救ってそっからだ」
まぁったく、非感染者にひでぇことされたっつーのはわかるがよ、俺らでその連鎖を広めちゃいけねぇってのに、コイツラわかってねぇなぁ。
「…こいつ、だな」
「んー。耳と尻尾からしてループスっすかね?こんな辺鄙な土地で見つけるなんて珍しいもんですが。シラクーザからも遠いし」
「車に載せろ。なるべくそーっとな」
「へいへいっと………。……軽い」
ガリガリに痩せ細ったそいつは、もう死んでるんじゃないかと見間違うほどだったが、胸が上下してるあたり、まだ生きてはいるだろう。
「基地に戻るぞ。早くしねぇとメフィストのガキから癇癪を受けちまうからな」
「俺あいつ嫌いなんすよねぇー」
「俺もだ、可愛げのねぇガキの相手なんざ真っ平ゴメンだがな、タルラさんの命令がある以上、俺らはあいつの使いっ走りよ。あんな生きてんだか死んでんだかわかんねぇ状況にされるよりかは、まだマシなんだろうがな」
「へへっ、ちげえねぇ」
☆☆☆☆☆
目が覚めたとき、ボクは布団の中にいた。
知らない天井だった。
起き上がろうとするけど、うまく力が入らない。
その直後に、ガチャリとドアが開いた。
「んお、起きたか。おーい、隊長ー。起きましたぜー」
その声とともに、なんだか仮面を被った人が部屋に入ってきた。
ボクはおもわずびくっとしてしまった。
「おっと、脅かしちまったか?そいつぁすまねぇな。ほれ、こいつでも食いな」
ゴトッ、と目の前に置かれたのは、粥だった。
「おめぇさん、随分と痩せ細ってるからな。あんまり一気に食うなよ、じゃねぇと詰まっちまうぜ」
きっと、親切な人なのだろう。食べようとするけど、思うように力が出せない。
「…もしかして、動けねぇんか?」
その言葉に、僅かに首を縦に振ると、深いため息を付かれてしまった。
「……ハァー……。思ったよりも衰弱してんな。しゃーねぇ、俺が食わしてやらぁ。ほれ、口開けな」
匙で掬った粥をボクの口元まで運んでくれる。なんとか気力を振り絞って、顎を開けようとする。僅かに唇が開いたところで、ちょっとだけ強引に匙を突っ込んできた。
…温かい、柔らかい粥が、流れ込んでくる。それをそのままゆっくりと噛み、少しずつ嚥下する。
「強引だろうが悪く思わんでくれな。こうでもしねぇと多分食えそうにねぇと思っちまってな」
きっと、この人の言うことは正しい。ボクの口から匙を引き抜くと、また新しい粥を掬う。
「急がなくていい。おめぇさんはだいぶ弱ってそうだからな」
何回も、何回も。甲斐甲斐しくボクに粥を食べさせてくれた。
そのうちに、段々と、瞼を上げるのが辛くなってくる。
「…あ?眠いんか、おめぇさん」
その言葉に、肯定の意を示そうと首を縦に振る。
「そうかい、ゆっくり休みな。また起こしてやるからさ」
…それが、意識があるときに聞いた最後の言葉だった。
◆
「…起きたと聞いたんだが?」
「粥食わせてる間にまた寝ちまいましたよ。相当衰弱してたみたいでさぁ」
「…そうか」
寝息も立てずに目を閉じているこいつは、一体どんな経験をしたんだろうな。本当に死んでるみたいに寝てやがる。
「…死んでねぇよな?」
「死んでませんって。さっきまで少ないですけど粥食えてましたし。今のうちに感染検査でもしときますかい?」
「その方が良いだろうな。感染者であればそのままうちで保護したいところだが…」
非感染者だった場合、か。ま、なんとかなるだろ。
どう書いていこうか悩みどころ。