義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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前回のあらすじ。豪華お弁当食べ比べ。


バイト参観

 

 

 

バイトを始めて三回目の勤務日。水曜日の放課後。

土曜日のうちにみっちりと桃先輩に指導された俺は、なんとか一通りの業務をこなせるようになっていた。

俺が担当するのはホールスタッフの仕事。案内、注文受付、配膳、会計、片付け等の役割である。

注文の受付も専用の端末があるので、機械音痴でなければ然程難しい業務ではないだろう。慣れれば割と簡単な仕事だった。

難点は制服が女性ならメイド服、男性なら執事服であることだろうか。

 

「いらっしゃいま…せ…」

 

来客を報せるドアベルの音に振り返り、接客用語その一をできるだけ笑顔で声に出す。しかし、今回ばかりは浮かべた笑顔も引き攣るように止まってしまった。

 

店員の異変に気づいた他の客達も、新たな来店客に視線を向けて、食事をする手を止めてしまう。

さっきまで談笑していたグループも、一様に現れた美少女に視線を奪われていた。

 

「「来ちゃった」」

 

渚と智香が示し合わせたような言葉を口にする。

アルバイト中なのも忘れて、俺はとんでもない台詞を口にした。

 

「お帰りやがりくださいませお客様」

「えぇ〜、せっかく来てあげたのに」

「お客様への言葉遣いがなっていませんよ瑛太君」

 

二人は悪戯が成功したかのような表情で、悪態も気にせずツンと頰を突いてきた。

 

「お触り厳禁ですお客様」

「ふふ、それは残念ですね」

 

場合によっては出禁であるが、身内に対する非礼なのであまり大っぴらに処分もできない。というか、そうでなければ彼女達もこんな行動をしていないであろう。注意するだけ無駄であった。

 

「二名様でよろしいでしょうか」

「うん」

「では、こちらへどうぞ。–––お嬢様」

 

もちろん当店にそんな待遇はない。

メイド喫茶でもなければ、執事喫茶でもない、至って普通のファミリーレストランだ。カフェとして利用する客が多いが、制服は店長兼オーナーの趣味である。

だからこそ、色々と対応が緩かった。

 

取り敢えず、二人を空いている席へと案内して、お手拭きと水を用意しようと厨房の方へ顔を出した時だった。

 

「退け新人。あの二人の接客は俺がする」

 

初見からチャラそうだなと思っていた先輩バイトが、何やら目の色を変えてやる気を出しているではないか。桃先輩に視線を送ると肩を竦めて見せているので、俺は敢えて何も言わず接客を任せた。

 

先輩バイトはテキパキとお冷とおしぼりを用意して、盆に乗せて運んでいく。片手でトレイを持った様はカッコつけているつもりなのだろうがバランスは悪くガタガタだった。

 

「ごゆっくりお寛ぎください」

 

業務にしては長々と話し込み、二人の下へ給仕を終えると、ニッと歯が見えるような笑みを見せて戻ってくる。

 

「フッ」

 

俺様にやらせればこの通り、とでも言わんばかりのドヤ顔。

正直、うざいと思ったけど口に出すのはやめておいた。

ただこの先輩、可哀想なことにあの二人が不機嫌になったことも気づいていない様子だ。

理由はわからないがお気に召さなかったようである。

 

「あ、注文だ」

「おまえが行って来い新人。俺はあの二人の対応で忙しい」

「へーい」

「生意気だぞ新人」

 

あまり身内のところに接客しに行きたくないからその対応はありがたいが、明け透けな下心を示されると敬う気持ちもなくなる。尊敬するバイトの先輩は桃先輩で十分だ。

 

俺が他の客の注文を取り終えると同時に、渚達の卓から呼び出しが掛かる。

あからさまに狙い撃ちしたベルに逸早く反応したのは、対応を買って出たあの下心先輩。意気揚々と二人の下へ歩いて行き、出てきた店員に二人はあからさまに落ち込んだ。

 

「御注文は?」

「「チェンジで」」

 

–––ブフォッ!!

 

パスタを食べていた客が鼻からパスタを噴き出す。

その言葉の意味を、下心先輩は理解していないようだった。

 

「チェ、チェンジ……?」

 

もちろん、当店はそんな対応していない。マニュアルにもないし、桃先輩の指導にもそんなものはなかった。あったとすれば問題があって対応を交代する場合に限る。

 

桃先輩の方に視線を向ければ、あの人も笑いを堪えてプルプルしていた。

 

「お、お客様。当店そのような対応はしておりません」

 

なんとか間に割って入った桃先輩だが、営業スマイルではなく失笑を湛えている。

 

「何か店員の対応にご不満がありましたでしょうか?」

 

さすがはバイトリーダーか。

焦らず、適切な対応を心掛けている。

ただの厄介客に見えるが、普通の対応だ。

 

当然、あいつらが理由もなしにそんなことをするとは思えないが。

 

「視線が不快でしたのと、口説こうとしてきたので」

 

智香がきっちりと答える。

確かに、あの透けた下心は女性にとって不快だろう。

ここ数日でわかったことだが、下心先輩は下心に直球すぎる。

あの二人に嫌われるのも、無理はなかった。それも舐め回すような視線を向けていれば、女性が気づかないはずがない。

見ているこっちも、少し悪寒がしたくらいである。

 

「“今回”は大目に見ていただけないでしょうか。次回からは、彼か私が接客しますので」

 

まだ問題は起きていない。だから、理由もなしに“チェンジ”は受け付けないと言う。道理なので二人も文句を言えなかった。

 

「キミ、とんでもないのに好かれてるね」

「そうですか?」

 

戻ってきた桃先輩は、疲れたような顔で言う。

俺は申し訳なくなって軽く頭を下げた。

 

「うちのバカ二人がすみません」

「いいよ。実際、彼にも問題はあるわけだし。キミの仕事を途中で奪ったわけだからね。仕事は選り好みしないのが基本だし、ああもあからさまに視線を向けられると、私だって嫌悪感を抱くよ」

「まぁ、今回ばかりは耐えてくれるといいんですけど」

「フォローが必要だよねぇ。あ、他のテーブル片付けるふりして話して来たら?さすがに知人と会話してるのを、邪魔する権利は彼にはないわけだし。仕事を取られた、なんて喚かないでしょ」

 

店内が落ち着いてきたので、そういう会話に興じていられる。当然、下心先輩は二人の美貌に目を奪われており、使い物にならないとは桃先輩の判断。

 

「あぁ、行きたくねぇなぁ」

「ふふ、あの子達に話し掛けたい他の客が聞いたら、とんでもなく贅沢な悩みだね」

「授業参観に親が来た気分です」

「あはは、確かにそれは嫌だね。恥ずかしいっていうか、むず痒いっていうか」

「取り敢えず行ってきますよ」

 

諦めて他のテーブルを片付けに行く。その際、二人のテーブルの前を通るのも忘れない。

 

「あ、瑛太」

「なんだ?水か?」

「瑛太君、あと二時間で終わりですよね?」

「まぁ、そうだな」

 

二人に呼び止められる。

それを込みで近づいたので、計算通りではあった。

 

「じゃあ、待っていますね」

「二時間も!?」

「はい」

「八時だぞ。真っ暗じゃないか」

「瑛太君は私を一人で帰さないですよね?」

「渚はともかく、おまえを送ると時間がな……」

「あれ、瑛太君は私を夜道に一人で帰して平気なんですか?」

「ダメに決まってるだろ」

 

問題なのは、智香を送ると時間が遅くなることだ。

 

「まったく。送ってやるに決まってるだろ」

「ふふ、瑛太君のそういうところが私は好きですよ」

「……揶揄うなよ」

「揶揄ってません。事実です」

 

智香と話していると、横から不貞腐れた声が割って入る。

 

「瑛太、あたしは?」

「おまえもどうせ帰れって言っても帰らないだろ」

「だって瑛太と帰りたいもん」

「それなら、二人に連絡しておけよ。二人で外食でもして来いって」

「うん。その方が良さそうだね」

 

渚はスマホを取り出して、親父と翠さんに連絡を取る。

今日は夕飯を用意できないから、デートでもしてこいと。

そうすれば、二人の夕飯の心配をする理由はなかった。

 

「じゃあ、あとでな」

 

仕事に戻るため、軽く手を振りながら奥に戻っていった。

 

 

 

「後輩君、お疲れ様」

「桃先輩、お疲れ様です。お先に失礼します」

「まぁ、私ももうすぐあがるんだけどね」

「帰り大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。家近いから」

 

午後八時にバイトが終わる。

更衣室で学校の制服に着替えて、桃先輩に挨拶をして退勤。

裏口を通らず、店内で寛いでいる二人の下へ直行した。

 

「終わったから帰るぞ」

 

勉強道具を広げていた二人に声を掛けると、二人はいそいそと帰宅準備を始めた。ものの数秒で片付けると二人とも席を立つ。伝票が残っていたのでそれを引っ掴み、レジへと先に向かった。

 

「あれ、後輩君?」

「会計お願いします」

「ふふ〜ん。わかったよ」

 

伝票を受け取った桃先輩は、受け取った途端に何かに気づいた。

 

「あれ、これ伝票じゃなくない?」

「本当だ」

 

伝票に重なってもう一枚、紙が張り付いている。

ずらして見てみると、Rainのアドレスが書いてあった。

桃先輩は冷たい表情でそれを見つめている。

そして、くしゃりと握り潰すと一言。

 

「ふ〜ん。さすがにこれはライン越えだよね〜」

 

あの下心先輩、ちゃっかり二人に連絡先を教えようとしていたようだ。客によっては不快となるため、それをやった下心先輩に桃先輩はキレている様子。店の信用を落とす行為にもなるので、看過出来ないラインを越えちゃったらしい。

 

「どうするんですか?」

「もちろん、制裁だよ」

 

スマホを取り出して、証拠を撮影して、操作すること数秒すっきりした顔で彼女は業務に戻る。

 

「1920円です。お支払いは現金で?」

「はい」

 

俺は何も聞かず、会計をすると二人を伴って店を後にした。

 

 

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