義妹の愛が重すぎる   作:黒樹

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短め


壊したい関係

 

 

 

四月も残り一週間を切った頃、放課後の下駄箱でそれを見つけた。

ハートのシールで封がされたそれを外見だけでラブレターと判断するのは早計だろうか。

思わずドキッとしたものの、少しだけ冷静になってみよう。果たして俺にラブレターを送るような女性がいるのだろうかと。

下駄箱を開けて、靴に伸ばしかけた手を彷徨わせていれば、隣にいた渚が訝しげに俺を見る。

 

「どうしたの?」

 

そう言われて、俺はようやく我に返った。

 

「あぁ、なんでもない」

 

いや、なんでもなくはないが。

下駄箱に投函されていた手紙を手に取り、確認してみたが差出人の名前は書かれておらず、裏返してみても誰から送られたものか目に見えてわかるものはなかった。

意を決して封を開けると中には一枚の便箋が。手紙から一枚の便箋を取り出すと中身にはたった一言『放課後、屋上に来てください』と、とても綺麗な文字で書かれていた。

 

「……なにそれ?」

「さぁ、手紙としか言えないなぁ」

 

“ラブレター”のような都市伝説あるいは御伽話もかくやという物が、俺宛に届いていいものだろうか。

疑心暗鬼になっている俺には、やはりラブレターと断ずるには早計な気がして、曖昧な返事をしてしまう。

隣から覗き込んだ渚は面白くなさそうに眉を顰めて、腕に腕を絡めてきた。

 

「瑛太、帰ろ」

「いや、無視するわけにはいかないだろ」

 

見てしまった以上、それ相応の対処が必要だろう。

必死に帰らせたがる渚から腕を抜き取り、下駄箱を閉じる。

 

「先に帰っとくか?」

「……待ってる」

「そうか。わかった」

 

少しだけ寂しそうな顔をした渚の頭を撫でてから、俺は来た道を戻った。

教室棟の三階を素通りして、屋上への階段を上がりドアノブを回すと既に開いていた。

妙な緊張感を味わいながら、ドアを開ける。

よく晴れた空の下に、春の花が咲き誇る庭園。

花壇から少し離れたベンチに、女子生徒の姿を見つけて俺は少しだけ安堵した。

 

「こんなところで何やってるんだ?」

「……人を待ってるんです」

 

隣に座って、同じく花壇を見る。

咲いた花たちが春風に揺れていた。

 

「私の一番大切な人。……愛しい人」

「そいつはどんな人なんだ?」

「幼馴染です」

 

花を見ていた智香が、こちらに視線を移した。

 

「ほら、今私の隣にいる人ですよ」

「俺にはそいつが見えないんだが」

「すっとぼけるのはいけませんよ瑛太君。さすがに私も拗ねてしまいます」

「それは悪かった」

 

両手を上げて降参する。

智香は距離を詰めて、ぴったりとくっつく。

 

「瑛太君」

「……その、なんだ?」

「この際ですからはっきり言っておきます。瑛太君は何かと理由をつけてそういう話題を避けていそうなので」

 

改まって、智香は俺を見上げる。

まっすぐな瞳に吸い寄せられるように見つめ合い、彼女は小さく唇を動かした。

 

「好きです。瑛太君が、好きです」

 

こういう時、男は何と言えばいいのか。

嬉しいやら、恥ずかしいやら、どうしていいやらで硬直する。

情けないことに俺は初めて女性に告白されて、緊張のあまり言葉さえ発せないでいる。

 

「私とお付き合いしていただけませんか?」

 

真剣な表情で告白する智香に俺は迷う。

こんな美少女に告白されて、普通なら即答なのだろうが俺の恋愛観が邪魔をする。

第一の理由としては、恋人関係とは“両想い”で発生すると思っているから。

彼女が俺のことを好きでも、俺みたいな中途半端な感情で恋人関係になっていいものかと思ってしまったのだ。

第二の理由としては、渚の顔がちらつく。何故かわからないけど。

 

「……瑛太君には、今は好きな人も、彼女もいませんよね?」

「それは、まぁ……」

 

その“好きな人”には自らのことも含んでいるのであろう。智香はそう言って確認を取った。

 

「今後予定もありませんよね?」

「割と辛辣だな」

 

その彼女のできない理由には、智香と渚が付き纏っているからというのもあるのだが、世の男子が反論して咽び泣くようなセリフを適当に受け流した。

 

「瑛太君がまだ私を好きじゃないのはわかっています。ですから、お付き合いしてお互いにより深く知っていくことが重要だと思うんです」

 

正論とは言い難いが、間違っているとも言えない。

智香の主張に納得してしまう自分がいる。

傾きかけた俺の心にトドメを刺すように、智香が決定的な言葉を放った。

 

「なのでお試しでもいいです。瑛太君、騙されたと思って私とお付き合いしてくれませんか?」

「……そんなに俺のどこがいいんだよ」

「全部です。ありきたりですけど、強いて言うなら優しいところです。だって瑛太君、お試しとはいえ付き合ったら大切にしてくれるでしょう?」

 

まるで全て理解していると言わんばかりに断言する智香に、俺の心は揺らぐ。

 

「……まぁ、お試しでいいのなら」

「ふふ、末長くよろしくお願いしますね。存分に好きにさせてあげますので覚悟しておいてください」

 

自信満々に胸を張る智香に、陥落するのも近い気がしながら俺は彼女と恋人関係を結んだのだった。

 

 

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