どっちかというとマイペース投稿だ。
「いや、マジすんませんした……」
同居初日に土下座する親父の姿。
リビングのソファーには米倉母娘が座り、呆れた表情でその様子を見下ろしていた。
それもそのはず、米倉母娘との関係は半年以上前から続いており、当然相手方の息子である俺も二人の存在を知っているものと翠さん達は思っていたのである。
それが何故か、今日まで存在を知らず。その上、顔合わせ当日十分前に『再婚するから取り敢えず同居するな』との告知。
親父の怠慢がバレて、今に至る。
–––初日にして、家庭崩壊の危機。
翠さんは呆れていたし、渚はショックを受けているようであった。母の再婚相手として受け入れていた上、それなりに上手くやっていけると思っていた矢先のことだ。
「……陽太郎さん。私言いましたよね?再婚は予め子供達から同意を得てからだって」
事前に話しておくことは二人で決めたことらしく、翠さんはそう言って親父を責め立てる。当然、俺は擁護する気がなかった。
「いや、な?ちゃんと了承は得たよ。得たともさ。なぁ、息子よ」
「そうだな。今日、付き合っていた女性がいたことも、相手に連れ子がいることも、結婚することも、同居を始めることもな。了承はしたぞ親父殿」
どうやら翠さんたちは“同居するのはまだ息子には秘密”だとか伝えていたらしく、当日のサプライズにすると言い張っていたらしい。俺があまりにも驚かないものだから、事前に知っていたと思ってしまったようだ。本当は全く知らなかったのだが。
「さて、どうしましょうか……」
ちらり、と俺を見る。あまりにも普通の人間の反応として参考にならない俺に、視線を娘へと移した。
「渚。あなたが当日に、再婚することと、同居すること、親に付き合っていた人がいたことを知ったら、どう思う?」
「……そんなこと言われてもわからないよ」
「そうよねぇ」
不安そうな顔。これからどうなってしまうのかわからず、渚は不安そうに母の顔色を見ていた。
「あ、あのね、お母さん。あたしは再婚には賛成なんだけど……」
「前から兄弟が増えることは楽しみにしていたものね。でも、やっぱり瑛太君の意思を聞かないと」
いくら娘が再婚して欲しいと願っても、無視するべきではない意思というものがあるのか俺の方を見る。翠さんの視線を追うように、懇願するような渚の顔が向けられた。そんな顔しなくても拒否しないってのに。
「うちの親父がバカですみません。よくこんなのと再婚しようって気になりましたね。今からでもクーリングオフしてもいいんですよ?」
「まったくね」
呆れ顔で頰に手を当てて困った顔をする。その姿が、あまりにも様になっていた。
「ただ一言言わせてもらうなら、好きにすればいいかと。再婚するのは二人の自由ですし。止める理由があるとすれば、親父がクズなら殴っても止めるんですが、悪い人間ではないので」
もし親父が二人を不幸にする人間なら、全力で反対していた。意図まではしていなかったが、結局親父を擁護する形になって俺は苦い顔をしていた。
「ありがとう瑛太君。こんな状況で、私達を受け入れてくれて」
まだ完全に受け入れたわけではないが、そう簡単に家族になれるとは思ってもいなかったのだろう。ぽん、と手を打ち合わせた。
「さぁ、この話は終わり。渚、お風呂に入ってきなさい」
「はーい。あ、瑛太覗いちゃダメだからね?」
悪戯っぽい笑みを浮かべて、渚はそう言ってリビングを出て行く。
俺も部屋に戻ろうと立ち上がる。
「おまえまさか覗きに行く気か!?」
「ちげぇよ!部屋に戻るんだよ!」
誤解を招きかねない親父の馬鹿な発言に、思わず叫んでしまった。
さすがにそんな度胸はない。一歩間違えば、さっきの親父のように家庭崩壊の危機を招きかねないのだから。
「待って。瑛太君」
部屋に戻ろうとした俺を呼び止める翠さんの声。
ピタリと止まって、振り返った。
「なんですか?」
「瑛太君に話があるの」
さっきまで親父を叱責していた表情とは違う、母親としての表情に俺は動けなくなる。なんとなく、そういう顔が苦手だったから。
「話って?」
「渚のことなの」
俺はソファーに戻って、腰をかけなおした。
「正直、君に頼むのもどうかとは思うんだけどね。渚をよろしくね」
「……仲良くしろって意味ですか?」
それは無理だ。陰と陽。男と女。人付き合いの苦手な俺に、渚を気にかけるほどの余裕などない。人に話しかけるのも苦手なのに女性に話しかけられるかっていう話である。全力でお断りしたかった。
多分、俺の顔はちょっと引き攣っていたのであろう。
翠さんはそれも気にせず話を続けた。
「あの子はずっと一人だった。仕事で忙しくて帰りが遅いことも多くて、きっと寂しい思いをしていたでしょうね。その気持ちは私より、君の方がわかってあげられると思うの」
同じ境遇だから、と言外に訴える。
「多分、これからもそう。私と陽太郎さんの帰りは遅いわ。そばにいられるのは君だけ。だから、渚のことをお願いしたいの」
翠さんの自分勝手な願いに、俺は苦笑した。
「俺も似たような立場なんですが」
「君、相当神経図太いでしょう。それに比べて渚は弱いのよ。だって女の子だもの」
どう見たってあの元気娘が弱そうには見えないが、母親には思うところがあるのだろう。俺はあまりにもな物言いに面白くなってしまう。
「本当にどうかしてますね」
「本当にね。酷い母親だって罵ってくれてもいいのよ?」
「いえ、母親が娘を心配するのは当然ですから」
「君も既に私の息子よ?」
「……あぁ、正式に婚姻届を出したらそうなるんですね」
「まぁ、それはまだ先の話だけどね。でも、私にとってはもう息子だから」
優しい顔をして、翠さんは俺を見つめる。
背中がむず痒くなるからその顔はやめて欲しい。
「……まぁ、可能な限りは気にかけます」
これ以上はその表情をやめろ、とばかりに視線を逸らして了承すると翠さんに笑みが溢れる。少しだけ憑き物が落ちたかのような、そんな自然な微笑みだ。
「そう。ありがとう瑛太君」
心から感謝の言葉を口にする翠さんに、俺はまたむず痒くなる。居た堪れなくなった俺は、重要な話は終わったとばかりにソファーから立ち上がった。今度こそリビングから出ようとして、その背中に声が掛けられた。
「大丈夫だとは思うけど、気をつけてね瑛太君。あの子、中学生時代に付き合った男の子から一週間経たずフられちゃう子だから……」
……え、あんな美少女を一週間以内にふる?そんな馬鹿な。
「翠さん、それってどういう–––」
「瑛太、何の話をしてるの?」
気がつけば、目の前には風呂上がりの渚がいた。風呂上がりで無防備なのかブラもつけず、キャミソールにハーフパンツを身につけただけの格好で。髪から香る香りはどうにもいい匂いで、上気した肌は魅力的で、思わず大きな谷間に視線が吸い寄せられた。
–––やはり、綺麗なものには棘があるのか。こんな美少女をフッた理由は俺にはまったく理解できなかった。
釘宮瑛太。
身長175cm。黒髪翡翠目の色々と普通な高校生。人と話すことが苦手なタイプで俗に陰キャと呼ばれる存在。特技は気配を消すこと。運動は並以上にはできる。
米倉渚。
身長158cm 体重は秘密。B87/W54/H84
亜麻色の髪。翡翠の瞳。髪型は普段はポニーテールにしている。
可愛くみんなに好かれる人気者タイプの陽キャ。愛情に飢えているところがあり、必要以上に主人公の世話を焼きたがる。極度の寂しがり屋。
次回予告『義妹のいる日常(仮)』